バイクを運転していて転倒、膝を強打して骨が折れた・・・という話は、ごくごく一般的にある話ですね。
また、スポーツで膝を骨折することも珍しくありません。ただ、膝の皿の部分の骨を亀裂骨折あるいは砕いてしまうほどの骨折は、そんなに簡単に起こることではありません。
膝は、脚の屈伸運動のために、とても大切な役割を果たしています。そんな膝に苦しんでいる方のために、これから、膝蓋骨骨折についてお話ししたいと思います。
膝蓋骨とは?
膝蓋骨と聞くと、難しそうに聞こえますが、実は、膝の関節前側にある通称「膝の皿」と呼ばれる部分の丸い骨が膝蓋骨にあたります。
膝関節の動きをなめらかにする大切な役割を果たしており、膝を曲げたり、伸ばしたりする運動を良くするための中心的な骨の一つとして、脚を支えています。
膝蓋骨は、大腿四頭筋(だいたいしとうきん)と靭帯(じんたい)に包まれており、大腿四頭筋が膝を伸ばすときに、膝蓋骨が、滑車の役割を果たしています。また、膝を打撲したときなどに、膝内部を損傷から守るために、内部を保護する役目もあります。
脚の上部にある大腿骨(だいたいこつ)と膝蓋骨の下部にある脛骨(けいこつ)や腓骨(ひこつ)と呼ばれる骨が、膝の部分でつながっています。膝には、関節軟骨や膝蓋筋、前十字靭帯や後十字靭帯、半月板などの骨や筋、腱などがあり、膝という関節を形成しています。
このようなさまざまな骨や筋、腱などが、脚を曲げる運動を助ける役割を果たしているのです。
膝蓋骨を骨折すると
通常、膝蓋骨を骨折するときは、以下のような原因が考えられます。
- 転んで膝をぶつける
- 階段の角などに膝をぶつける
- 膝のうえに、物が落ちてきてあたる
そのほかにも、激しいスポーツなどをしているときに、激しくぶつかった衝撃などで膝蓋骨を骨折する場合があります。
膝蓋骨を骨折すると、2つ以上の骨の破片に割れてしまいます。
膝蓋骨は、大腿四頭筋腱と膝蓋腱という筋腱に引っ張られているので、骨折した膝蓋骨はどんどん引っ張られていきます。すると、骨折した患者さんは、膝を自らの意思では動かすことができなくなり、強度の腫れや圧迫したときの激痛もあり、ときには膝蓋骨骨折部のくぼみを触れて、診察しなければならないこともあります。
膝蓋骨骨折が疑われる場合には、病院に行って治療を受ける必要があります。
応急措置をするときは、まず、膝をまっすぐに固定して添え木を用い、そのまっすぐな膝を維持できるようにします。
骨のみ損傷しているときは、膝周辺を氷あるいは冷水で冷やして痛みを和らげることもできます。ですが、靭帯や腱などを損傷しているときもあるので、必ずしも損傷部位を冷やすことが最善の応急措置とは限らないのです。
一概に、「膝が痛いから冷やすように!」とは、言えないのが、膝蓋骨を骨折したときの応急手当の難しさでしょう。
外科手術については、その後専門医と相談して治療方針を決めていくことになります。
膝蓋骨骨折の症状
膝蓋骨が骨折すると、膝には想像を絶するほどに激しい痛みが走ります。
その痛みは、膝蓋骨骨折を経験した人ではないと、なかなか想像できないと思います。ただ、程度の差はあれ、尋常ではない痛みであることに間違いありません。怪我をした瞬間に、激痛に襲われ、視野が狭くなり、狭くなった視野が黒くなることもあります。
膝蓋骨が、左右横に割れてしまうときと、上下縦に割れるときがあります。また、損傷の程度など膝蓋骨が受けた衝撃によっては、粉砕されてしまうこともあります。
さらに、膝蓋骨部位のみの損傷であれば、患部を氷や水で冷やして、痛みを和らげることもできますが、靭帯や筋、腱などをも損傷してしまっていると、逆効果になるときもあります。
膝は、骨だけではなく、筋や腱なども複雑に絡み合った部位なので、応急措置や治療が難しいのです。
膝蓋骨骨折の治療
膝蓋骨を骨折したときの治療は、主に手術をせずに膝蓋骨の再生をはかる保存療法と、外科的手術を行って膝蓋骨を固定したうえで、膝蓋骨の再生をはかる外科療法の2通りの治療方法があります。
保存治療
膝蓋骨の位置に異常がないときは、ギプスや「膝の固定装具」などで、脚の大半を3週間から4週間かけて固定します。
脚を伸ばしても、患部に力はかからないので、松葉杖を使用してゆっくり歩くことができます。そのかわり、関節部を固定してしまうので、膝が固まってしまいます。
したがって、ギプスなどで固定して患部が治癒すると、少しずつ膝を曲げるリハビリテーションを始めなければなりません。
外科手術
外科手術にも、いくとおりかの方法があります。
膝蓋骨が縦に割れたときは、一般的に、外科手術をせずに保存治療することが多いようです。それに対して、膝蓋骨が横に割れると、膝蓋骨につながっている大腿四頭筋などから引っ張られて、膝蓋骨が、治癒する前に正常な位置から動いてしまうため、外科手術が避けられないことが多いようです。
- 鋼線締結法(Tension Band Wiring)
- 周辺締結法(Circular Wiring)
- 部分摘出術
- 全摘出術
鋼線締結法(Tension Band Wiring)
割れたり、砕けた膝蓋骨を固定するために、キルシュナー鋼線に代表されるワイヤーを使用します。キルシュナー鋼線は、骨折部を連結して固定するための固定材で、小さな骨の破片や最終的に固定する前に使われています。
骨折箇所を固定したあと、軟鋼線を脚にかけて、大腿四頭筋などから引っ張られる力を吸収して、骨折箇所にかかる張力を和らげます。
周辺締結法(Circular Wiring)
膝蓋骨周辺部をワイヤーで固定します。
膝蓋骨骨折時に、亀裂骨折ではなく、骨折の衝撃で骨が粉砕したときに有効な手術方法といわれているようです。
ある程度の期間、ワイヤーで膝蓋骨を固定して保護します。ワイヤーで固定している期間のうちに、膝蓋骨を治癒させてから、リハビリテーションを開始することが多いようです。
部分摘出術
膝蓋骨が骨折したときに、小さな破片となって再生させることが難しいときには、部分的に、膝蓋骨を除去する手術方法がとられているようです。
基本的には、鋼線締結法や周辺締結法などの手術方法で治療されているようなのですが、膝蓋骨をワイヤーでくくる、あるいは、膝蓋骨の周辺部を固定する、といった治療ができない場合に行われています。
膝蓋骨が完治するか否かは、その損傷程度と治療、リハビリテーション次第のようです。
全摘出術
膝蓋骨が、相当粉砕されている場合には、膝蓋骨自体を摘出しなければならないときもあります。また、膝蓋骨に傷や損傷、その内側で化膿してしまったときなどには、膝蓋骨全摘出もやむを得ない場合があるようです。
膝のお皿をすべて取ってしまうので、術後は、当然「歩行に障害が生じる」、あるいは「脚に力が入らない」などの後遺症が残る可能性が高くなります。
手術のあと
長期間にわたって、膝の関節部をまっすぐに固定した状態を保つので、関節は自然と固まってしまい、ギプスを外しても初めのうちはうまく膝を曲げることができません。ですので、筋肉を温めてほぐしながら、少しずつ少しずつ膝を曲げていく訓練を行います。
リハビリテーションで注意しなければならないのは、いきなりの急激な屈伸運動です。ギプスを外したからといって、すぐに膝を曲げられるわけではないのです。
このリハビリテーションの過程では、「膝を曲げることが痛い!」のに、その痛みに耐えながら、徐々に膝の可動域を広げていかなければならないのです。
1ヶ月前後にわたって固定された膝の関節は、ギプスを取っても、ほぼ固定化してしまっています。関節のギプス固定経験のある方はご存知でしょうが、膝に限らず、長期間動かさずにいた関節は、固まってしまうのです。
そして、自分で自分の関節を、思いのまま、曲げることはできないのです。このやるせない思いは、この経験された方であれば、きっとご理解いただけるでしょう。
このように、もう元には戻らない、つらいリハビリテーションを乗り越えなければならない苦痛を、他人に与える権利って、いったい何なんでしょうね?
意図的に、他人を怪我をさせる権利って何でしょう?そして、このような人間の権利を正当化している世界って、本当に民主主義なのでしょうか?
「他人の権利を侵害することは、みずからの権利を否定することである」ということに、なぜ気づかないのでしょうか?
膝蓋骨であれ、他の部位であれ、リハビリテーションの過程を経験された方は、少なくとも、その「痛くてしんどい思い」を、「経験的」に知っています。
その「痛くてしんどい思いを、自分から他人にさせたくない」と思う方は、自然と「自動車やバイクの運転」に気をつけるようになります。ましてや、高校や大学、社会人、プロフェッショナルとして、スポーツに携わっている人は、「意図的に、相手に怪我をさせる」ような行為は、避けるようになります。
それなのに、最近、特に多い無責任な人間は、このような「痛い思い」を平気で他人にさせることが多いですね。そして、さも当然かのように「弱肉強食」の論理を語って、「お前が悪い!」と、その相手にその責任をなすりつけます。
「パワー・ハラスメント」に「セクシャル・ハラスメント」挙げ句の果てには、「マタニティ・ハラスメント」などなど、近頃の「人間様」の悪行は目に余るものがあります。
まさに、「人間、おそるべし」です。きわめつけに、このような人間は、自分が「弱者」の立場に置かれると、厚顔無恥にも「平等」の理念を掲げて「自己防衛」をはかります。
意図的に、相手をそのような状態に陥れる人間様の権利の意識は、所詮その程度です。つまり、「人間」という生き物は、「権利」という崇高なる概念に値しないのです。
古の賢者であれば、「あいた口がふさがらない」と、嘆くところでしょうが、残念ながら、現代は21世紀。もはや、そんなレトリックが通用する時代ではないのです。哀しいですね。
まとめ
膝のお皿が割れてしまうと、治療がどれほど困難であるか、また、患者さんのリハビリテーションがどれほどつらいのか、おわかりいただけましたでしょうか?
怪我をした患者さんは、怪我をしたときだけではなく、普通に歩くことができるようになるまでに、すさまじいほどの努力と苦痛に耐える意思が必要なのか、ご理解いただけましたでしょうか?
自動車やバイクの事故、あるいはスポーツ中の事故など、膝蓋骨骨折にいたる経緯は、それぞれあると思います。
ですが、これまで記事に書いてきたとおり、人に怪我をさせるとーつまり、膝蓋骨を骨折させるような行為をするーと、その怪我をした本人は、自分の心のうちで
「自分は、もう二度と普通に歩くことができなくなるかもしれない・・・」
という精神的不安や恐怖と闘いながら、手術やリハビリテーションに臨まなければならないのです。
他人にそのような苦痛を与える人間に、権利は必要ないでしょう。
「けだもの」なのですから。
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