人の身体は、とても複雑でいくつもの骨や筋肉、さまざまな組織や器官で形成されています。
それらがバランスよく、規則正しく機能し健康な身体を保つことができているのですが、ある部分が異変や不調をきたすと、不快症状として表に現れ、健康な身体が損なわれていることに気がつきます。
身体の異変を感じる症状はいろいろありますが、今回は首の骨と骨との間のクッションである椎間板の異常により、しびれや凝り、痛みを伴う「頚椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニア」について、症状や原因、対処法。類似するその他の病気との違いについてご紹介します。
頚椎のメカニズムについて
首の骨、「頚椎(けいつい)」は重たい頭を支える、とても重要な骨です。
皆さんもご存知の通り、大きな骨一つで形成されているのではなく、小さな骨が積み重なって形成されています。
首を形成する骨の数は7つで、人間をはじめとするほとんどの哺乳類がその数は同じだということがわかっています。余談ですが、長い首のキリンでも頚椎の数は7つです。
頚椎は数ある骨、関節の中でも前後左右、いろいろな角度、方向に自在に動かすことができることが知られています。
小さな骨が積み重なっているのですが、骨と骨との間には痛みや、違和感なく骨を動かすためのクッション的な役割をする「椎間板(ついかんばん)」があり、骨と骨とが直接ぶつかり、擦りあうことや、神経を圧迫、刺激することを防いでくれています。
頚椎椎間板ヘルニアとはどのような病気?
ヘルニアという言葉は、首や腰の痛みがある椎間板ヘルニアに限らず、鼠径(そけい)ヘルニア=脱腸、臍帯(さいたい)ヘルニア=でべそ、などその他の病気でも耳にします。
ヘルニアとは、収まっているべき場所からはみ出す、飛び出すという状態です。
ここで言う、頚椎椎間板ヘルニアとは首の骨と骨の間にある椎間板がつぶれて、椎間板の中身が飛び出し、しびれや痛みを伴う病気です。
わかりやすくイメージするならば、外からの圧迫により、お饅頭の皮からあんこが飛び出しいる状態です。
頚椎椎間板ヘルニアは比較的若い方にも多く、骨に対し右か左かに偏って椎間板が飛び出すことが多く、飛び出した椎間板が刺激、圧迫している神経によりしびれや痛みが出てくる部位が違ってきます。
しびれや痛みの部位によって、頚椎のどの部分の椎間板がヘルニアを起こしているか予測がつきます。
頚椎椎間板ヘルニアの原因
原因はさまざま考えられますが、加齢に伴う老化現象や、首に負担や不可のかかる仕事や動作による運動負荷によるもの、なんらかの事故やケガによる外傷性のものもあります。
また少なからず遺伝要素もあるようです。
頚椎椎間板ヘルニアの主な症状
首の痛み、肩こり、背中の痛み、胸の痛み、腕の痛みやだるさ、手のしびれやむくみ、握力低下、頭痛、眼精疲労、耳鳴り、めまい、歩行困難、排尿困難、尿失禁など
病気が進行していくと、首、肩、腕などの上半身だけに限らず、全身にわたり症状が出ます。
頚椎椎間板ヘルニアの初期症状
首に限らず首からお尻にかけての背骨にみられる椎間板ヘルニアの初期症状としては、肩こりや首や後頭部の痛みやだるさ、凝りがあります。
首の椎間板が飛び出していることから、首を回すと痛みや違和感があることが頚椎椎間板ヘルニアの初期症状の特徴です。
首周辺以外に現れる症状としては、腕や手、指の痺れや痛み、筋力低下により力が入れにくい、手先の冷感や熱感、感覚鈍麻、頭痛、めまい、耳鳴りなどがあります。
頚椎椎間板ヘルニアが悪化するとどうなるの?
初期の状態で感じていた痛みやしびれ、凝り、違和感が、徐々に強い痛みに変わってきます。ときには激痛に変わることも。
腕や手の痛みやしびれもだんだん強くなり、鎮痛剤を飲まないと我慢できなくなることもあります。その痛みはやがて、背中にまで拡がります。
腕や手の痛みやしびれが強くなることで、握力が低下し、ものをつかんだり、蓋を開けたりすることも困難になってきます。
首だけでなく、後頭部、背中、腕、手にまで痛みやしびれが出るため、筋肉の緊張状態が続き頭痛や目の奥の痛みや、吐き気やふらつきなどの気分不良も引き起こします。
更に悪化すると、ヘルニアにより脊髄がずっと圧迫されている状態が続き、上半身だけでなく、下半身にまで不快症状が出てきます。それは、痛みや違和感だけでなく、歩行困難や排尿困難など日常生活に支障をきたすような症状が出てきてしまいます。
小さな部位の異常でありますが、そのままにしておくと大きな障害を引き起こすことにつながりかねません。
頚椎椎間板ヘルニアに類似した症状が出る病気
頚椎椎間板ヘルニアによく似た症状が出る病気の一つに頚椎症があります。
頚椎症は、頚椎椎間板ヘルニアと同じように首の痛みや違和感、肩や、腕、手、指のしびれや感覚障害が症状として現れる病気です。
頚椎椎間板ヘルニアは、首の骨と骨の間の椎間板が飛び出し、神経や脊髄を圧迫しダメージを起こすことで症状が現れますが、頚椎症の場合、骨や椎間板そのものの変形により、頚椎椎間板ヘルニアと類似した症状が起きる病気です。
そのほかにも、長時間のスマホ操作やPC作業などで起こるストレートネックや、交通事故や転倒などで引き起こす、一般的に言うむち打ち症=頚椎捻挫、胸の骨格の異常により起こる胸郭(きょうかく)出口症候群、脊髄の通り道の異常により起こる後縦靭帯(こうじゅうじんたい)骨化症などさまざま病気があります。
より効果的な治療を行うためには、医師の正しい診断が必要になります。
頚椎椎間板ヘルニアの診断方法
上記のような不快症状が出てきた場合には、早めにお医者さんに相談することが大切です。
問診やレントゲン診断などの後、頚椎椎間板ヘルニアを疑われる場合の第一の診断方法はMRIです。
MRIとは写真のような釜に入り、時間をかけて身体を輪切りにした状態の画像診断ができる機械です。診断自体はまっすぐ寝ているだけですので、痛みや不快なことはなにもありません。しかし、狭い場所に一定の時間横になっているので、不安になる方もいらっしゃいます。
釜のなかの様子は、モニターで検査室に映し出されているので、異変や異常があった場合には、即座に対応できるようになっています。また、不安解消・リラックス効果のため診断をうける方の好きな音楽やラジオなどが聴けるようになっています。
閉所恐怖症などで不安なことがある場合は事前に相談にのってもらえます。
MRIはレントゲンでは診断できない、脳や脊椎、内蔵、筋肉、血管、関節などの病変を発見することに役立っています。
頚椎椎間板ヘルニアの治療方法
頚椎椎間板ヘルニアの進行状態によりますが、各診断後に、どのように症状が出ていて、圧迫している神経や脊髄の状態、症状が進行しているかどうかを見極め、しびれや痛みが進行していたり、圧迫されている部位のダメージが見られる場合には速やかに手術となります。
我慢できる程度の軽い痛みやしびれが、進行する様子がない場合は、すぐに手術とせず、保存療法をとる場合もあります。頚椎椎間板ヘルニアでは3週間から3ヶ月を目処に保存療法をすることにより、不快症状が軽快・消失するとされています。
保存療法の方法としましては、症状が出始めの急性期はヘルニアを起こしている部位になるべく負担や負荷をかけないように安静にすることが第一です。痛みなどがある場合は、鎮痛剤などのお薬を服用し痛みや不快な症状を取り除く対症療法を取り入れ、頚椎の安静をはかります。また、なるべく首を動かさないように頚椎を保護するカラーなどの装具を付けて首を固定し、より安静が保てるようにします。
急性期がすぎると、牽引療法や温熱療法、ストレッチや筋トレなどのリハビリをしながら、痛みやしびれの軽快・消失を目指します。
痛みや不快症状を緩和するセルフケア
症状を緩和する方法を知っておきましょう。
普段からできる予防策
身体の中でも、重い部位である頭を支えている首は、常に負荷がかかった状態です。
普段から、姿勢をよくすることを心掛けるだけでも、首への負担を軽くすることができます。頭の先から、上に向かって糸でつり上げるようなイメージで首から背筋を伸ばし、正しい姿勢をキープしましょう。
また、血行をよくすることは症状の予防や改善にも有効的です。なるべくシャワーではなく、湯船にゆっくり浸かり血行促進をはかりましょう。
状態が安定している時にできるセルフケア
保存療法で経過をみているときに痛みやしびれが出ているときは、安静第一で無理に動かしたりしてはいけません。
既に頚椎椎間板ヘルニアの症状が出ている場合は、枕の高さを調節することで、痛みや違和感が軽減する場合があります。ご自分に合った枕の高さを見つけるといいでしょう。
状態が安定しているとき、比較的症状が軽い時、または頚椎椎間板ヘルニアの予防として、首のストレッチをすることで頚椎の血行が良くなり、温めることで凝りがほぐれたり、違和感が軽減したりします。
首のストレッチとして、よく知られている方法は、指を交差して手を組み、おでこに手のひらをつけぐーっと押します。その力に反するように頭を前に倒します。
また、おでこでなく、後頭部に手のひらをあて前方に押し出すように力をいれ、、頭は力に反するように後方に倒します。
これらをゆっくり10回程度ずつ繰り返しましょう。頸部のストレッチ、筋トレにつながります。
不快な症状がない場合は、適度な首のストレッチや筋トレは有効的ですが、素人判断で行うべきではありません。必ず、医師の判断を仰ぎましょう。
まとめ
人の身体はさまざなさまざまな骨や筋肉、神経、器官、臓器が複雑に組み合わさり、生命と健康を維持しています。
不快症状が現れている時には、身体のどこかの部位に異常が起きていることが予測できます。身体に異変を感じたときは、早めにお医者さんに相談しましょう。
また、健康維持ために、普段の生活から適度な運動や十分な睡眠、バランスのとれた栄養を摂り規則正しく過ごすことはさまざまな病気を予防することにもつながります。
頚椎椎間板ヘルニアは、小さな骨と骨の間の部位の小さなダメージが、徐々に進行、悪化することにより、治療をきちんとしないでおくと、日常生活でさえも脅かす障害を起こしてしまう病気です。
早めの診断と状態に適した治療をすることが大切です。
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