アトピー性皮膚炎は湿疹やかゆみを伴うつらいアレルギー症状です。しかしながら、絶対的な治療法は確立されていません。
ここではアトピー性皮膚炎の原因、症状、治療法を解説します。
アトピー性皮膚炎とは
単純にアトピーと呼ばれることも多いですが、正確にはアトピー性皮膚炎といいます。アトピーという言葉の由来はギリシャ語で、「奇妙な」という意味のatopiaという言葉です。1923年に、皮膚のかゆみと湿疹の症状が良くなったり悪くなったりするこの奇妙な症状にアトピー性皮膚炎を名付けられました。
アトピー性皮膚炎は遺伝しやすいといわれており、両親ともにアトピー性皮膚炎のアレルギーを持っていた場合、こどももアレルギーを持って生まれてくる確率は50%にものぼるといわれています。ただし、アトピー性皮膚炎は遺伝だけでなく環境因子に由来する部分も大きい疾患です。
アトピー性皮膚炎の症状
アトピー性皮膚炎の主な症状はかゆみを伴う湿疹です。この湿疹はすぐにひくものではなく、長期間続きます。また、治ったかと思うとまた発生するということを繰り返します。この湿疹の特徴を下記にあげます。
かゆみがある
とてもかゆいので、一日中掻き続けてしまったり、強く掻いてしまうことによって、出血してしまったり傷ができてしまい肌がぼろぼろになってしまったりします。傷から化膿してしまうこともあります。
左右対称に出る
額や目、口の周囲、耳、首、腕や脚の関節部分に湿疹が出ることが多いです。その湿疹が左右対称に出るのが特徴です。
長く続く
乳幼児では2か月以上、大人では6か月以上もの期間症状が出続けることがあります。
皮膚がカサカサになる
症状が出た皮膚は「カサカサ」「ゴワゴワ」「ジュクジュク」といった状態になるのが特徴です。赤く盛り上がり、触れると硬い湿疹であることがわかります。
アトピー性皮膚炎の原因
こどもと大人では原因が異なります。こどもでは食べ物が原因でアレルギー反応を示すことが多く、大人ではストレスやダニ、ハウスダストなどのアレルギー反応が原因であることが多いといわれています。
こどもの場合
こどものアトピー性皮膚炎の原因になることが多い食べ物を記載します。
- 卵(とくに白身)
- 牛乳、乳製品(ヨーグルト、チーズなど)
- 大豆(大豆油、豆腐、味噌など)
- 小麦(パン、うどんなど)
- 米
- エビ・カニ
- 魚(サバ、サケ、マグロなど)
- ソバ
など
大人の場合
大人のアトピー性皮膚炎の原因は食べ物よりも環境に原因があることが多いです。
- ダニ
- ハウスダスト(家のホコリ)
- カビ・真菌(カンジダ、アスペルギウスなど)
- 細菌(ブドウ球菌など)
- 花粉(スギ、雑草など)
- ペット(犬、猫など)
- ホルムアルデヒドなどの化学物質
など
アレルギー反応でない場合の原因
もともとの体質的なアレルギーが原因でない場合にも、アトピー性皮膚炎のような症状がみられる場合があります。
- 乾燥肌
- 清潔でない衣服の着用
- 汗をかいたまま入浴せず不潔な状態
- 洗っていない不潔な手で皮膚を掻くこと
- ストレス、不規則な生活
- 睡眠不足
など
アトピー性皮膚炎の原因の検査
何が原因となっているかは病院で検査をしてもらうことができます。血液検査や皮膚テストによって自分に関連するアレルギー物質がわかります。
症状の緩和にはアレルギーの原因と取り除くことが肝要ですので、検査をして自分のアトピー症状の原因を突き止めておきましょう。
血液検査
血液検査では以下のような項目を検査します。
・好酸球の数
好酸球という名の白血球です。アトピー性皮膚炎の症状がある人はこの好酸球の数が多い傾向にあるとされています。
・IgE値
免疫に関係するタンパク質です。アトピー性皮膚炎の症状がある人はこのタンパク質の数値が大きいです。
・特異的IgE
アレルギー物質に対して陰性か陽性かを判断する指数です。
・LDH(lactate dehydrigenase)
皮膚や肝臓などに含まれている酵素です。アトピー性皮膚炎の湿疹がひどいときにはこの数値が上昇します。
・TARC(Thymus and activation-regulateed chemokine)
これもタンパク質の一種です。LDHと同じく、アトピー性皮膚炎の湿疹がひどいときに数値が上昇します。
皮膚テスト
皮膚テストでは以下のようなテストが行われます。
・スクラッチテスト
原因だと疑われるアレルゲンを皮膚にたらし、針で少しだけ皮膚を傷つけます。数分待ち、赤くなったり湿疹が出るなどのアレルギー反応が起こるかどうかによってアレルゲンとなる物質を特定します。
・皮内テスト
原因だと疑われるアレルゲンを皮膚内に針で注入します。あとはスクラッチテストと同じように、数分後に赤くなったり湿疹が出るなどのアレルギー反応が起こるかどうかによってアレルゲンを特定します。
・パッチテスト
原因だと疑われるアレルゲンを皮膚に貼り付けます。貼り付けたままの状態で、2日~3日後に反応が出るかをテストする検査です。
アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎は様々な原因が組み合わさって発症することがほとんどなので、その原因特定の難しさが治療の難しさに繋がっています。主には3つの治療方法が有効とされています。
スキンケア
皮膚の炎症を抑え、治療の効果を高めるには、皮膚を清潔に保つことと十分な保湿によって肌のうるおいを保つことが重要です。汗や汚れをためないようにこまめな入浴、シャワーをこころがけましょう。夏の暑い時期や運動で汗をかいた後には、入浴やシャワーの回数を増やして清潔を保ちます。
しかし入浴のあとの肌は乾燥しやすくなりますので、保湿液を塗って肌の水分を逃がさないようにしてうるおいを保ちます。入浴後5分以内のスキンケアが理想です。保湿液にはワセリンベースのもの、クリームタイプ、ローションタイプなどの種類があります。肌の愛称、季節や好みなどに合わせ、使用感が自分に合い効果もあるものを選びましょう。
アトピー性皮膚炎でも軽い症状の場合はスキンケアに注意するだけでも症状の改善が期待できます。
薬物治療
アトピー性皮膚炎の症状を抑える薬物治療では、ステロイドが有効です。またタクロリムスという外用薬も有効性が確認されています。
ステロイド外用薬は強い薬として有名なので使用に不安がある人も多いようです。しかしステロイドには効き目の強さによって5段階に分けられ、症状や場所によって適切に使い分けることで副作用なく処方することができます。処方してくれる医師の話をよく説明してもらい、不安なく治療をしましょう。
ステロイド外用薬を使う場合には、最初に必要量をしっかりと使い、徐々に減らしていく使い方がよいでしょう。塗る回数、量、期間、塗り方を医師と相談しながら適切に使っていくことで、アトピー性皮膚炎の症状をコントロールしていくことが可能です。
ステロイドの使用方法には2種類あり、症状が悪化したときだけ症状が治まるまで外用薬を塗る方法と、症状がなくても定期的に外用薬を塗り、再燃がないことをゆっくり確認しながら薬を塗る感覚を徐々に開けていく方法とに分けられます。前者は軽傷の方、後者は重症の方に適した治療です。
多くの外用薬は、1日2回、入浴後に塗るというのが基本となります。入浴後に塗るときは保湿剤によるスキンケアを忘れずに行いましょう。
原因物質への対策
アトピー性皮膚炎の原因となる物質(=因子)をみつけ、それを避けることで症状の改善が期待できます。原因となる物質とその検査方法は先にご紹介した通りです。医師とよく相談し、原因因子を特定できれば、生活の工夫によって因子との接触をかなり減らすことが可能です。
アトピー性皮膚炎の温泉治療
アトピー性皮膚炎の標準的な治療は前章で記載しましたが、スキンケアやステロイド治療はあくまで対症療法であり、アトピー体質そのものを改善してくれる治療ではありません。
難しいアトピー治療のひとつとして行われているものに、「温泉療法」があります。温泉の効能によって皮膚や体質そのものを変えていこうという治療です。
有効とされる温泉の成分
皮膚は弱酸性なので、つかる温泉も酸性のお湯がいいでしょう。アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる原因のひとつに、皮膚表面での黄色ブドウ球菌の増殖がありますが、酸性泉はこの細菌の殺菌にも効果を発します。
温泉の成分は11種類ほどに分類されますが、その中でもアトピー性皮膚炎に有効とされ温泉療法に使われる泉質は8種類です。単純温泉、炭酸水素泉、塩化物泉、硫酸塩泉、含鉄泉、硫黄泉、酸性泉、放射能泉(ラドン泉・ラジウム泉)です。すべての成分が誰にでも効果があるわけではなく、自分の肌に合った温泉を探す必要があります。
ステロイドのような即効性はありませんが、継続することで皮膚本来の治癒能力を取り戻し健康な皮膚に変わっていくことが期待されます。また、リラックス効果、自律神経を整える効果によって、症状の緩和されることもあるでしょう。
ただし、頻繁に温泉につかることのできる環境で治療を継続するのがなかなか難しいことが温泉治療のネックだといえます。
温泉療法で注意すること
温泉の温度があまりに高いと、アトピー性皮膚炎によって傷ついている肌には刺激が強すぎる可能性が高いので、ややぬるめの温泉を選びましょう。また、塩分濃度が高い温泉では、しみたり、極端な場合は皮膚の角質がはがれてしまう恐れもありますので、避けるようにしましょう。
また、温泉に入りすぎることによる倦怠感やのぼせなどの不快な症状が現れることもありますので、温泉治療だとしても医師に相談の上行う方がよいでしょう。
まとめ
アトピー性皮膚炎は患者数が多いにも関わらず、原因特定が難しく根本的治療もないというやっかいな疾患です。症状によって感じるストレスがさらに症状を悪化させることもありますので、信頼できる皮膚科の医師に相談し適切なアドバイスをもらいながら治療を続けることが大切です。