中心性脊髄損傷とは、頚椎の中心部のみが損傷を受け、中心部以外は損傷を受けない病態です。手の痺れ、何にも触れられないほどの激痛、自発痛が現れます。
多くの場合は人と人とが触れ合うコンタクトスポーツや、日常での転倒、そして交通事故などが原因となります。交通事故に遭って中心性脊髄損傷となってしまったときの後遺障害の立証、相手への賠償請求などについて、本記事でご説明します。
中心性脊髄損傷とは何か
中心性脊髄損傷は人と接触するスポーツをすることによる頚椎の過度な屈曲・過度な伸展で起きます。
特徴は、手の痺れ、何にも触れられないほどの激痛、自発痛があることです。追突事故などの交通事故に遭った際の、むち打ち損傷の初期にも中心性脊髄損傷は起こります。
中心性脊髄損傷の症状
人と接触するスポーツや交通事故などで頚椎に外傷が付いた後に、手の痺れ、何にも触れられないほどの激痛、自発痛が現れます。何度も外傷を受けることや日常的な肩こりを放置することによって起こる手の痺れや神経痛をもたらす頚椎椎間板ヘルニアでは片手に痺れが出ますが、一方、中心性脊髄損傷では両手に痺れや痛みが出やすいです。
脊髄損傷は脊髄に大きな外力が加えられ、脱臼や骨折を伴うことが多いです。しかし、中心性脊髄損傷は脱臼や骨折を伴わなくても腕や手に痺れや痛みが出ます。原因は頚部が急に後方へ反り返る過度な伸展で、このような症状は変形性脊髄症や脊柱管狭窄症を持っている中年以降の方は、比較的軽い傷を受けて発症してしまいます。
中心部が傷付いたとき、上肢の方が重い症状が出ます。上肢を支配する神経線維は頚髄の中心寄りに、下肢では外側寄りにあるためです。頚髄の辺縁部はその周囲を流れる血管から栄養分を受け取っていますが、中心部は中心動脈から分岐した毛細血管より栄養分を受け取っています。したがって、頚髄中心部は損傷しやすく回復しにくいのです。
中心性脊髄損傷は上肢の症状が重く、運動麻痺、しびれるような痛み、両手や指の麻痺、シャツのボタンをかけ外しできないなど、手先の巧緻運動障害を招きます。痺れは、テーブルの過度に肘を強打したときに感じられるようなジーンとくるものが、両上肢に出ます。
両上肢は筋萎縮によって痩せ細ります。すると、お箸を使って食事をすることが困難になるなど、手先の巧緻運動障害が起こります。
中心性脊髄損傷の原因
脊髄は脳からの様々な電気信号を末梢組織へと伝達する役割を担っています。脊髄の横断面を見てみると、中心へ行くほど上肢に繋がる神経の線維が多く通っています。
そのため、中心部が衝撃により損傷される中心性頚髄損傷においては、上肢に重い症状が出ます。
中心性脊髄損傷の診断と治療方法
中心性頚髄損傷を診断するにあたり、診断基準となるのは外傷後の手の痺れ、何にも触れられないほどの痛み、そして自発痛です。
傷を受けてから48-72時間以内にステロイドを大量に使用することで、浮腫を防ぎ、二次損傷を予防するといった効果が得られます。1977年より厚生労働省の認可のもと、臨床このようなステロイドの使用が開始されています。頚部の安静を保つためにカラーを使用することもあります。
しかし、この治療法には確実性に問題があります。また、副作用の検証も行われていません。ある報告では、若くて自己治癒力の強い患者以外はステロイドの大量使用による効果が覿面ではないと述べられています。
重症の例ではこの療法を実施しても快方に向かわないため、超早期の診断と治療の開始が重要です。外傷によらない手の痺れには、MRI診断を行うことは必須です。
後遺障害
人と接触するスポーツや日常における転倒だけではなく、交通事故による衝撃によっても中心性脊髄損傷となる場合が多く、後遺障害として認定される対象です。しかし、病院で中心性脊髄損傷との診断を受けたとしても、中心性脊髄損傷として後遺障害認定されるとは限りません、つまり、後遺障害として損害賠償を求められるとは限りません。
中心性脊髄損傷を後遺障害として認定されるためには、医師からの診断名が中心性脊髄損傷であることに加えて、他覚的な所見により立証されなければなりません。しかし、交通事故における中心性脊髄損傷は他覚的な所見による立証が困難です。治療を開始したときから検査を実施し続け、立証資料を収集することが必要です。したがって、早期に交通事故専門の弁護士を訪ねて助力を願うことが推奨されます。
中心性脊髄損傷が後遺障害認定されると、認定された等級に応じて賠償金の支払いを求めることができます。
1級1号
神経系統の機能または精神に重大な障害を残し、常に介護が必要なもの
・高度の四肢麻痺
・高度の対麻痺
・中等度の四肢麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等において常時介護が必要
・中等度の対麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等において常時介護が必要2級1号
神経系統の機能または精神に重大な障害を残し、随時介護が必要なもの
・中等度の四肢麻痺
・軽度の四肢麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等において随時介護が必要なもの
・中等度の対麻痺で、食事・入浴・用便・更衣等において随時介護が必要なもの3級3号
神経系統の機能または精神に重大な障害を残し、終身労務に服することができないもの
・軽度の四肢麻痺が認められ、食事・入浴・用便・更衣等において随時介護が必要でないもの
・中等度の対麻痺が認められ、食事・入浴・用便・更衣等において随時介護が必要でないもの5級2号
神経系統の機能又は精神に重大な障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
・軽度の対麻痺
・一下肢の高度の単麻痺7級4号
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
・一下肢の中等度の単麻痺9級10号
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
・一下肢に軽度の単麻痺12級13号
局部に頑固な神経症状を残すもの
・運動性、支持性、巧緻性および速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残す
・運動障害は認められないが、広範囲にわたる感覚障害がある
中心性脊髄損傷の賠償
逸失利益
中心性脊髄損傷では、今後社会手働くことが困難なほど甚大な後遺症が残ることがあります。
逸失利益を請求する際には、後遺症によってどれほどの労働能力が損失したかを具体的に立証しなければなりません。中心性脊髄損傷の賠償において適切な賠償金額を得るためには、中心性脊髄損傷自体の立証のみならず、中心性脊髄損傷によってどれほどの労働能力が損失したかを立証することが大切です。
逸失利益の金額は後遺障害の等級や本人の年収、そして年齢に応じて算出されます。場合によっては数千万円から数億円にのぼることもあります。よって、示談をする前に専門家に相談し、慎重に進めていきましょう。
将来の介護費
重度の中心性脊髄損傷の場合には、今後家族や親族、あるいは専門家による介護を受けることが必要になります。将来介護費用を受け取れると受け取れないとでは、今後の生活に大きな差を生みますので、将来介護費用の請求をすることは重要です。将来介護費用を獲得するためには、被害者の介護必要性と具体的な介護内容を立証しなければなりません。
このとき、保険会社からの賠償金の提示内容には将来介護費用が含まれていないことがありますので、注意が必要です。
将来の雑費
重度の中心性脊髄損傷の場合、オムツ代やカテーテルの費用など、将来の介護費用に加えた費用負担が継続的に必要となります。このような費用負担も、それらの必要性や具体的な金額を立証することで賠償請求が可能です。
中心性脊髄損傷の立証
中心性脊髄損傷は一度負傷してしまうと回復が困難です。そのため、後遺障害の認定対象となっていますが、骨には異常が見られないので、以下のようなの立証を行うことが必要です。
MRI検査による画像診断
骨の内部に脊髄負傷のため発生した出血による浮腫などが確認できるかどうかを調べます。画像で判断できます。
神経学的検査
神経学的検査によって症状が実際にどのように表れているかを調べます。神経学的検査にはいくつかの種類がありますが、代表的なものは腱反射、筋萎縮テスト、徒手筋力テストです。腱反射では、脊髄に異常がある場合、亢進を示します。中心性脊髄損傷の後遺症を認定する際に、腱反射に異常を来していることは重要な認定要素となります。筋萎縮テストでは、麻痺が生じると筋力が低下し、萎縮が確認されます。徒手筋力テストでは、麻痺により体の筋力が低下します。
整合性の判断
MRIによる画像診断結果と、神経学的検査による症状の診断結果が出そろいますと、次に、負傷した部分と症状の整合性がとれるかどうか、交通事故との関係性が確かに認められるかどうかなどを判断します。
中心性脊髄損傷ではないかと疑問に感じたらすぐに、MRIによる画像診断と神経学的検査を受けて、異常がないかどうかを確認することが大切です。中心性脊髄損傷は他の後遺障害と同様に、体に症状が見られているとしても立証が十分に出来ていなければ、後遺障害は存在しないものとして扱われてしまうため、注意してください。
まとめ
中心性脊髄損傷とは何か
- 頚椎の中心部のみが損傷を受け、中心部以外は損傷を受けない病態
中心性脊髄損傷の症状
- 手の痺れ
- 何にも触れられないほどの激痛
- 自発痛
中心性脊髄損傷の原因
- 脊髄は中心へ行くほど上肢に繋がる神経の線維が多く通っているため、上肢に重い症状が出る
中心性脊髄損傷の診断と治療方法
- 診断基準は手の痺れ、何にも触れられないほどの痛み、自発痛
- 治療はステロイドを大量に使用すること
後遺障害
- 中心性脊髄損傷が後遺障害認定されると、認定された等級に応じて賠償金の支払いを求めることができる
中心性脊髄損傷の賠償
- 逸失利益の金額は後遺障害の等級や本人の年収、そして年齢に応じて算出される
- 将来介護費用を受け取れると受け取れないとでは、今後の生活に大きな差を生むため、将来介護費用の請求をすることは重要
- 必要性や具体的な金額を立証することで賠償請求が可能
中心性脊髄損傷の立証
- MRI検査による画像結果と、診断神経学的検結果の整合性から判断し、立証する
以上が本記事のまとめです。スポーツや交通事故などで手の痺れや痛みを感じたら、すぐに病院へ行って検査を受け、医師からの治療を受けましょう。特に、交通事故で相手が存在する場合には慎重に対処して賠償金の請求をしっかりと行いましょう。