先天性の心疾患であるファロー四徴症という疾患をご存知ですか?
多くが生まれてすぐの検診などで発見され、乳幼児期に手術を受けることが多いのですが、成長に伴い合併症などの不安要素もある疾患のため経過観察が大切な疾患です。そんなファロー四徴症についてまとめてみました。
この記事の目次
ファロー四徴症とは?
ファロー四徴症とは、今から128年前、1888年にフランスの医師ファローによって始めて報告された、四徴という、下記のような4つの特徴的な症状を持ち、チアノーゼという症状を伴う先天性心疾患です。
①心室中隔欠損
左右の心室を分けている心室中隔という仕切りに大きな穴が開いている症状
②肺動脈狭窄
肺に血液を送るための肺動脈の出口である漏斗部が肺動脈弁と共に狭くなる症状
③右室肥大
左右の心室の圧が等しくなり、右の心室の壁が厚くなる症状
④大動脈騎乗
本来は左心室から出ている、全身に血液を送る働きの大動脈が、右心室と左心室の両方にまたがるように出ている症状
またファロー四徴症で、肺動脈の閉鎖を伴うことがあると、ファロー四徴症極型と呼ばれます。
心臓のつくりと役割
ファロー四徴症を知るためには、まず心臓のつくりと働きについて知っておかなければいけません。
心臓のつくり
心臓の大きさは人間の握りこぶし1つ分より少し大きめで、ほとんどが筋肉で作られています。
心臓は、4つの部屋のようなところとそれをつなぐ弁で出来ていて、上のほうにある2つの部屋は心房とよばれ、血液が入ってくる場所になっています。一方下のほうの2つの部屋は心室とよばれ、血液を送り出す場所になっています。
- 上のほうの部屋・・・右心房・左心房
- 下のほうの部屋・・・右心室・左心室
それぞれの部屋には上下の部屋を分ける心室中隔と呼ばれる壁のようなものと、弁があり、それぞれの部屋にくる血液が混ざらないようなつくりになっています。
心臓のはたらき
心臓の主な働きは、酸素を豊富に含んだ血液をポンプのような働きで体中の血管に送り出すことです。おおよそ毎分60回から90回程度収縮しているといわれています。
人間の身体の血液循環では、身体のすみずみまで通り酸素が少なくなった血液が、静脈を通り右心房に入り、次に右心室を通り肺に送り出されます。肺に入った血液は、ここで酸素を受け取ります。そして豊富に酸素を含んだ血液はまた心臓に戻って、今度は左心房から入ります。そして左心室へ流れて、ここからまたポンプのような働きで動脈へ送り出され、全身の血管へと血液が送られるのです。心臓はこのように血液を循環させているのです。
心臓の各部屋にある弁や仕切りの壁のようなものは、このような心臓の働きの中で血液の流れを一方通行にして、心臓内の血液が逆流しないようにする大切な働きをしています。
ファロー四徴症の症状とは?
では、ファロー四徴症の症状とは、どのようなものなのか、見てみましょう。
ファロー四徴症の特徴的な症状は、肺動脈の出口や肺動脈弁が狭くなること(肺動脈狭窄)、心室の仕切りの壁に穴があいていること(心室中隔欠損)で、右心室から左心室へ、そこから大動脈へと血液が流れ込むことで動脈血中の酸素の量が足りなくなり、チアノーゼという低酸素血症を起こすことです。
チアノーゼとは、酸素が不足した血液が流れることで、皮膚や唇などの色味が青紫に変色する症状で、運動した時や泣いたときなどによく見られます。症状が悪化してくると、何もしていなくてもチアノーゼを起こしたりします。
また運動しているときにしゃがみこんでしまうことや、太鼓バチ指などの特徴的な症状で発見されることもあります。チアノーゼの症状が進んでくると、酸素をよく取り込もうとして、血液中の赤血球の数が増えることがあります。すると血液の粘度が増すために血栓症などの二次障害が出ることがあります。
このファロー四徴症では、肺動脈狭窄の程度によって、チアノーゼの頻度や程度が変わります。また先天性のため、成長に伴って症状も変化しますので、経過観察が重要です。多くが、生後1ヶ月程度から出始め、最初は泣いたときや身体を動かしたときに現れます。次に歩き始めるようになると、歩いたり、走ったりすると、息が切れしゃがみこむようになります。この頃になると頻繁にチアノーゼの症状が見られるようになります。ひどいと呼吸困難や意識の低下などの症状がでるので、注意が必要です。
ファロー四徴症の原因と遺伝
ファロー四徴症の原因は何なのでしょう?
ファロー四徴症の発症率は、およそ3600人に1人程度の割合だといわれています。男女比に違いはありません。またファロー四徴症は先天性の心疾患で、環境や遺伝などの要因があるといわれていて、発症者にはある一定の遺伝子の異常が分かっています。
このような遺伝子や環境の要因から、心臓発生時の段階で異常が起き、神経細胞がきちんと組まれないことが原因でファロー四徴症という先天性の心疾患が発生するといわれています。また遺伝に関しては、一親等の家族内での発症率はおおよそ3%程度といわれています。
ファロー四徴症の診断方法
多くが生後まもなくの乳幼児の心臓超音波検査の中で心雑音があることや、チアノーゼを起こすことで発見されるということです。
ファロー四徴症の治療法
治療に関しては、基本的に心臓外科手術が一般的です。手術は一時的な症状の緩和を重要視して行われる姑息手術と根治手術とがあります。
姑息手術
姑息手術では、人工血管を使い、鎖骨下の動脈と肺動脈との間をつなぎ経路をつくるブラロック・トウシック手術や大動脈と肺動脈との経路をつくるセントラルシャント手術などが代表的です。どちらも肺への血流を増やし、チアノーゼを改善させるのが目的です。
そうして肺動脈や心室の成長の具合を見ながら根治手術へと導いていきます。
根治手術
根治手術には、心臓のカテーテル検査などを慎重に行い、心室や肺動脈の発育の程度や他の疾患との合併の有無などを調べ、判断します。根治手術では、人工心肺を使って心停止して心室中隔の穴を人工布で塞ぐ手術(心室中隔欠損パッチ閉鎖)、肺動脈狭窄を改善するため、狭い右心室の出口を広げる手術(右心室流出路拡大)をします。
肺動脈弁の大きさが通常であれば、そのまま温存して右心室への血流への道を作りますが、肺動脈弁が小さい場合は人工弁を使用して行います。
最近では手術の精度があがり、乳幼児期でも根治手術を行うことが多くなっています。
チアノーゼの発作
チアノーゼの発作に関しては、治療薬の処方がされます。貧血などの要因があると発作を起こしやすくなるので、場合によっては輸血などが行われることもあります。
ファロー四徴症の経過観察
ほとんどの場合は、手術後の経過が順調に進みます。しかし、手術後に成長と共に右心室への経路が再び狭くなったり、肺動脈が狭くなったりすることもあります。
そのようなときには、ステントやバルーンカテーテルなどを使用したカテーテルで広げる手術を行うことがあります。また稀に大動脈から肺動脈に違うバイパス血管が出来る場合があります。そのときはコイルを使用して塞ぐなどの手術が行われます。また手術後に右心室が拡大して右心不全を起こすことがあり、この場合も手術によって対応します。
多くが幼児期に行われる手術のため、成長と共に、再び何らかの異常が起こるとも限りません。根治手術後も一般的な検診やレントゲン、心電図、また心臓の超音波検査などの経過観察が必要となります。
手術をしない場合の経過観察
また手術を行わない選択をした場合はどうなるのでしょうか?
多くが成長と共に肺動脈の狭窄が悪化してきます。そのため、チアノーゼなどの症状の悪化やその他の症状の悪化が進むことになります。また生存率についても、手術をしない場合は1歳までの生存率はおおよそ75%程度、3歳までの生存率はおおよそ60%程度、10歳までの生存率はおおよそ30%程度と成長と共に生存率も低下していきます。
日常生活で注意するべきこと
比較的精度の上がってきているファロー四徴症の根治手術です。肺動脈狭窄の場合でも、極端な詰まりや狭窄がない場合は、術後の生存率は98%と高いものです。
ですがやはり先天性であること、手術を幼児期に受けることが多いことから、安心して生活するためにその後の経過観察が大切になってきます。ここでは手術後の生活において注意するべきことをまとめてみました。
運動制限
手術後も肺動脈弁の狭窄や逆流などが起こることが考えられるために、心臓に負担の大きい急激な運動などは多少は制限したほうが良いでしょう。また運動をするときは、十分に休息をとって万全な体調のもと、入念な準備運動をしてから行うようにしましょう。また血栓などを防ぐために十分な水分補給をしましょう。
病気の感染
ファロー四徴症の治療では、手術に人工弁やパッチなどの人工のものを使用する場合があります。人工物を使用すると細菌などに感染しやすくなります。また感染してしまった場合は完治しにくいという特徴や感染性心内膜炎という疾患を起こしやすく、最悪死に至る場合もあるそうです。そのため、出血を伴う外科手術や抜歯などの歯科治療などを行う際は担当の医師によく相談してから治療するように心がけましょう。
合併症
稀にファロー四徴症の手術後10年程度経たときに肺動脈弁閉鎖不全という疾患を発症することがあります。これはファロー四徴症の合併症といわれているもので、肺動脈の弁の付け根を温存しなかった場合に多く起こるといわれてる合併症です。
肺動脈の弁が機能しなくなり、送り出した血液が逆流し、右心室が肥大し始めます。不整脈やむくみなどの症状で発見されることがありますが、多くが自覚症状のないといわれているので、定期的な検診や検査が重要です。
妊娠
妊娠は心臓の負担を大きくする原因になるものですが、血管の狭窄や血管の異常などがなければ、成人後の妊娠や出産をすることは可能です。ただし妊娠経過などで運動や食事などの制限がされることもあります。
まとめ
いかがでしたか?ファロー四徴症は、聞き慣れない疾患ですが、乳幼児期に発見され、きちんとした治療を施せば、生存率も高く、日常生活をあまり不自由なく過ごしていけるものです。
先天性の心疾患だからと色々なことをあきらめることなく、病気をきちんと知り、手術を受け、可能な範囲での運動も進んで行い前向きにすごしていきましょう。