アルコールの飲み過ぎは肝臓に良くないとよく言います。日常的にお酒を嗜む方は週に一度は休肝日を作りましょうともよく聞きますね。
しかし、肝臓はどのような臓器で、私たちの身体にどのように必要で、どのような働きをしているのか、あまり知られていません。
健康診断などを受けると、肝機能の数値がよくなかったり、肝硬変のおそれを指摘されたりします。
ここでは、肝臓はどのような臓器かを知り、肝機能の数値の異常の見方、肝硬変の症状、治療方法、予後などをご紹介します。
肝臓はどんな臓器?
肝臓は腹部の右上に位置し、数ある臓器の中でも最大でたくさんの細胞からできています。
たくさんの細胞からできていることもあり、肝臓の一部がダメージを受けても、ほかの部分が働いてくれるおかげで、痛みやダメージを受けても、自覚症状として表に現れにくいことでも知られています。そのため、検診や検査で肝臓の病気が発見されたときは、既にかなり進行していることもあります。
肝臓の働き
肝臓の働きは大きく分けて3つです。どのような働きをするのか機能別にご紹介します。
代謝機能
身体に取り入れた、栄養素を分解したり合成するなどして、その栄養素を身体に取り入れ利用できるようにします。
分解の中でも、最も重要なのがアルコールの分解です。身体に取り込んだほとんどのアルコールが肝臓で分解されます。過剰なアルコール摂取は、肝臓に大きな負担をかけることになります。分解されたものが肝臓に蓄積すると、二日酔いや肝障害などを引き起こす原因になります。
解毒作用
食べ物や飲み物には身体に必要な栄養素だけでなく、体には有害となる物質が含まれることもあります。
近年は様々ことが便利になっていて、ファーストフードや冷凍食品、安価で味のしっかり付いたお弁当などを利用する機会も多く、肝臓での分解が必要な成分を身体に取り入れることも多くなりがちです。
身体に有害な物質は腸で吸収され、肝臓に集まり解毒されます。肝臓はこれらの物質を無毒化し体外に排出するのです。
消化作用
肝臓は胆汁を分泌します。その量は一日に500~800mlと言われています。
肝臓で分泌された胆汁は胆嚢に蓄積され、濃度を濃くしながら十二指腸に移動し、膵液とミックスされ消化酵素を活発にし、たんぱく質や脂肪を分解・吸収しやすくします。
また、脂肪が分解される際にできる脂肪酸を吸収しやすかたちに変化させる役割も担っています。
血液検査からみる肝機能の異常
血液検査をすると、肝機能の異常をみるさまざまな項目があります。各項目の意味も難しく、数値だけ見ても身体にどのような影響を及ぼしているのか、なかなかわかりませんね。
それぞれの項目の意味や数値の見方を知っておくことが大切です。
ALT(GPT) 基準値30lU/L以下
主に肝細胞に存在する酵素です。アミノ酸代謝やエネルギー代謝の過程に大きく関与しています。
ALTは肝細胞が破壊されることにより、血液中に漏れ出します。ALT数値が高いということは、それだけ肝細胞が破壊されているという目安になります。
AST(GOT) 基準値30lU/L以下
肝細胞や心臓、腎臓に多く存在する酵素です。ALT同様、アミノ酸代謝やエネルギー代謝の過程に大きく関わっています。
ALT同様、肝細胞の破壊により、血液中に漏れ出します。ASTの数値が基準値より高いということは、肝障害が疑われますが、ASTは肝臓以外の臓器にも存在するのでASTが基準値より上回っているときは、ほかの臓器の疾患も疑わなければなりません。
肝臓の異常を見るためには、ASTとともにALTの数値も一緒にみます。
Y-GTP 基準値50lU/L以下
肝臓や腎臓で作られる酵素で、肝細胞や胆管細胞、胆汁中に存在する、タンパク質を分解・合成する役割を担っています。
自らの分泌だけでなく、過剰な飲酒や肥満や薬の副作用でもY-GTPが生成され、過剰に分泌された分が血液中に漏れ出します。
また、肝機能の低下により胆汁の流れが悪くなることでも血液中に漏れ出します。
ALP(アルカリフォスターゼ) 基準値100~325lU/L
肝臓や腎臓で作られる酵素で乳製品やリン酸化合物を分解する働きを担っています。
肝機能の低下により、胆汁の流れが悪くなると血液中に漏れ出します。
総ビリルビン 基準値0.2~1.2mg/dL
総ビリルビンの上昇は肝機能の著しい低下により数値の異常を示します。
慢性肝炎や初期の肝硬変では数値に異常が現れにくく、数値が上昇している時には既に肝障害が進行していることがほとんどです。
その他 基準値
- 総たんぱく 6.7~8.3g/dL
- 血小板 140000~340000/μL
- アルブミン 3.8~5.3g/dL
- LD(LDH) 120~240lU/L
- コリンエステラーゼ 男性234~493lU/L 女性200~452lU/L
- HBs抗体・抗体 HBe抗原・抗体 C型肝炎ウィルス抗体 陰性
肝臓の検査・診断
肝臓の異常を見つける検査はさまざまありますが、定期的な健康診断による血液検査で数値の異常を見つけることがほとんどです。
なぜなら、肝臓は臓器そのものに再生能力があり、ダメージや障害に強い臓器だからです。ダメージや障害に強いとはいっても、臓器そのものが傷まないというわけではなく、ダメージをカバーし再生する能力があるため、自覚症状が現れにくいのです。
このようなことから、肝臓は沈黙の臓器とも言われています。症状がで始めた時には既に、病気がかなり進行していたということも珍しくありません。
血液検査で異常がみられたときは、速やかに専門医を受診し検査をしましょう。
腹部エコー
腹部に超音波をあてて画像診断します。
この検査では、臓器にできた腫瘍の有無、大きさ、深さなどが分かり、胆石や早期の肝臓がんの発見に有効です。
検査そのものに痛みや苦痛は少なく、10~20分程度で検査ができます。
腹部CT
腹部を輪切りにした状態の画像診断をします。
肝臓や胆嚢、膵臓などの病変を見つけるのに有効です。腫瘍の有無、大きさ、深さに併せ、リンパ節への転移はないかも調べることができます。
検査に痛みは伴いませんが、専用の診断の釜に寝たまま入るので、狭いところが苦手な方には苦痛が伴うこともあります。
検査には20~40分程度と少し時間を要します。
狭いところが苦手な方や、不安のある方は検査前に事前に相談しておくとよいでしょう。
肝硬変の自覚症状
これまでにも述べてきました通り、肝臓は沈黙の臓器と言われ、症状が非常に出にくい臓器です。そのため、自覚症状が出てきた時には、既に病気が進行した状態にあります。
特に、慢性的な障害は気付きにくいことも多いので、普段から、自分の身体に向き合い、少しの異常も見逃したりしないようにしたいものです。
他の臓器に比べ、自覚症状は現れにくいのですが、肝障害には以下のような自覚症状があります。
だるい・疲れやすい
肝臓の異常で最も、感じやすい体調の変化は、だるさ・疲れやすさです。
急性肝炎の場合はそのような症状も1週間ほどで軽減することが多く、見逃してしまいがちですが、沈黙の臓器の肝臓が発信するわかりやすい唯一のサインと言えます。
食欲不振・吐き気
肝臓の代謝が低下すると、胆汁の流れが悪くなり、胃のむかつきを感じます。
熱が出る
微熱が続くことがあり、夏風邪と勘違いされることがあります。
腹部の右側の違和感
肝臓は痛みを感じる神経がないため、臓器そのものが痛いと感じるはありません。
そのため、肝臓そのものがダメージを受けたり、肝細胞が破壊されても、痛みを感じることはありません。しかし、肝機能の低下により、血流や胆汁の流れが悪くなると肝臓が腫れて大きくなり、圧迫され重苦しい違和感を感じます。
お酒を美味しく感じなくなる
肝臓の機能が低下するとアルコールを分解する力も衰えるので、お酒を美味しく感じなくなることもあります。
生理に異常がある
日常的な過剰な飲酒はアルコール性肝障害を引き起こし、女性であれば、生理不順や無月経を起こします。
皮膚の異常
血液中のビリルビンの数値が上がると、肌や白目が黄色くなる黄疸を発症します。
肝臓に障害が起こると、ビリルビンが血中に漏れ出し黄疸や皮膚の痒みを発症します。
排泄物の異常
肝障害が起こると、尿の色が濃くなったり、便が白っぽくなります。普段から自分の尿や便の色や匂いを観察しておくことも大切です。
肝硬変の予後
これまでは肝硬変は治療のしようのない病気でしたが、近年ではさまざまな治療法も見つかり多くの肝硬変の患者さんが治療に取り組んでいます。
肝硬変で最も気をつけなければならないのは、合併症の予防です。中でも、「肝臓がん」「消化性出血」「肝不全」は患者さんの予後に大きな影響を与えます。
継続的な通院・治療で合併症を引き起こさないよう注意が必要です。
肝臓に優しい過ごし方
肝臓は沈黙の臓器であるため、普段から肝臓に負担をかけないライフスタイルを送りたいものです。あなたの生活習慣は肝臓に優しいですか?
朝食をしっかり食べましょう
肝臓では身体に取り入れた栄養素を分解・合成します。
忙しい毎日だと思いますが、3度の食事をしっかり摂ることは大切なことになります。忙しい朝でも、しっかり食事を摂り、前夜の夕食から、昼食までの間に栄養が取り込めず、肝臓に負担のかからないようにしましょう。
就寝3時間前までに食事を済ませましょう
取り込んだ栄養分はしっかり消化・吸収したいものです。
夕食や夜食は就寝の3時間前までに済ませるようにしましょう。
太りすぎに注意しましょう
自己のBMIを知り、適度な運動とバランスのよい食事を心がけましょう。
ストレスコントロールをしっかりしましょう
さまざまことで忙しく、ストレスフリーな生活を送ることは難しくなってきました。
しかし、過度なストレスは、免疫力を低下させ病気になりやすい身体を作ってしまいます。忙しい中にも、好きなことをする時間や、何かに集中できる時間を作り、ストレスコントロールをしましょう。
まとめ
肝臓は沈黙を守り、せっせと働く臓器です。
定期的に健康診断の際の血液検査の数値をしっかり理解し、数値に異常がある場合は自覚症状がなくても、一度しっかりと検査を受けに専門医を受診しましょう。
気づいた時には手遅れということがないように、普段から自分の身体の調子をよく知ることは大切です。