「おならは腸にたまったガス」ということは、誰もが知っていることだと思います。でも「病気の予兆」とまでは、考えないのではありませんか。腹痛をともなったり、「多過ぎるかも」と感じたりする場合、恥ずかしがらずに消化器内科にかかりましょう。ガスの病気は、案外怖いですよ。
ガスとは
なぜ腸の中にガスが発生するのでしょうか? それは、食事をするからです。加熱していない食べ物を、部屋の中の机の上に置きそのまま放置しておくと、食材によっては数時間で腐ることがあります。食べ物は、腐るとガスを発生します。
腐敗物の排出である
お腹の中でも同じです。口の中から入った食べ物は、胃の中ですら2~5時間ぐらいとどまります。お腹の中の「温度」は「体温」ですから、36度前後です。食べ物が腐るには絶好の温度といえます。食べ物はその後、腸に入り、最終的に便となって肛門から出てくるのは、数日かかることもあります。その間、食べ物はお腹の中で腐ります。
お腹の中でできたガスの出口は、何カ所あるでしょうか。口から出るのが「げっぷ」です。肛門から出るのが「おなら」です。実はもう1カ所「出口」があるのです。
「恥ずかしいガス」は1割
ガスは、「口→咽→胃→小腸→大腸→肛門」の空間の中にどれくらいあると思いますか。健康な人は、実は200mlしかありません。コップ1杯分です。しかもその9割は、血液に吸収され、肺まで届けられ、呼吸として外に出されてしまうのです。
げっぷやおならといった、いわゆる「ちょっと恥ずかしいガス」は、健康な人では20mlしかない、ということです。これくらいなら、外に出てきたとしても、ほとんど意識できないしょう。それが、恥ずかしく感じるほど出てしまうということは、「ガスが多く作られている」か「血液に吸収されない」かのどちらかと考えられます。
原因①ガスの過剰生産
さきほど「食べるからガスが発生する」と説明しました。でも、食べた量は左程変わらないのに、「やけにおならが出るなあ」という日があると思います。ガスの原料(食べ物)の量が変わらないのに、なぜガスが大量に作られる日と、ガスが少量の日があるのでしょうか。それは体調によって「ガスの生産能力」が違ってくるからです。
悪玉菌
腸内には無数の菌が存在することは、ご存じだと思います。また、その菌には善玉と悪玉があることも、いまではかなり知られています。悪玉菌は、食べ物を異常に発酵させ、腐敗ガスを多く作ることが分かっています。そして悪玉菌は、体調が悪かったり、生活が乱れたりすると多くなります。
つまり、「おならが多いなあ」と感じたり、ガスによる腹痛が生じたりしたら、それは体調や生活がよくない証拠でもあるのです。
生活環境
肉やケーキといった、高タンパクで高脂肪の食事は、悪玉菌を増やすとされています。摂り過ぎには注意しましょう。
また、ストレスも悪玉菌を増やします。それは、ストレスが自律神経の働きを乱し、腸の機能が低下するからです。腸の機能が正常だと善玉菌が増え、逆に腸が低調だと悪玉菌が活発化してしまうのです。
便秘も悪玉菌の「巣」になるので、NGです。便秘の解消には「食物繊維」が良いとされています。ただ気を付けなければならないのは、「便秘予防」を意識し過ぎて、「食物繊維」を過剰に摂り過ぎることは禁物です。繰り返しになりますが、「食物繊維は摂らなければならないが、摂り過ぎはダメ」なのです。
食物繊維は、「自分以外の食材」を掃除する効果があるのですが、「食物繊維自体」は消化されにくいのです。なのであまり多く摂り過ぎると、食物繊維が腸内にたまってしまい、悪玉菌のエサになり、そしてガスを多く発生させてしまうのです。
原因②心の病気かも
お腹が張ったり腹痛がしたりする状態を、膨満感(ぼうまんかん)がある、といいます。この症状を起こす原因は、いくつかあるのですが、「心」が原因のこともあります。これを「心因性の膨満感」といいます。
過敏性腸症候群
心因性の膨満感を起こす症状のひとつが、過敏性腸症候群です。脳と腸は、神経を介してつながっています。「脳と腸は一体」といってもいいぐらい、密接な関係にあるのです。心のストレスは、まずは脳が察知します。ストレスを知った脳は緊張し、その緊張は神経を経由して、腸に伝えられます。つまり「腸が緊張」してしまうのです。それで腸が、動き過ぎてしまいます。
腸が動き過ぎてしまうと、食べ物を通常よりも早く肛門に向かって運ばれてしまいます。つまり、食べ物の中の栄養や水分が、腸によって消化・吸収される前に、肛門から排泄されてしまうのです。そうです、下痢です。「腸」が、脳の緊張に対して「過敏に」反応し過ぎてしまうことから、この名称が付けられました。
過敏性腸症候群では、膨満感を起こすことがあります。腹痛も起こします。また逆に、下痢の症状は、神経を通って脳に伝わり、脳を緊張させます。脳が腸を緊張させ、その腸の緊張が脳をさらに緊張させ――こうして過敏性腸症候群は悪循環に陥り、悪化することが分かっています。
ちなみに、脳の緊張は、腸をほとんど動かなくすることもあります。その結果が便秘です。
原因③別の病気
ガスが作られる量が多くなくても、膨満感や腹痛が起きることがあります。それは胃や小腸、大腸などの「消化管」の機能が低下して、ガスや便がなかなか「先に進まない」ときです。
というのも、「消化管」は自らグニュグニュと動くことで、食べ物やガスや便を、肛門に方に向かって「先へ先へ」と送り出しているのです。
腸閉塞
消化管がグニュグニュと動くことを「蠕動(ぜんどう)」といいます。蠕動が弱くなる病気のひとつに、腸閉塞があります。文字通り「腸」が「閉じて」しまう病気です。
腸閉塞は重大な病気で、救急車での搬送が必要になるときがあります。また、搬送先の病院で緊急手術になることもあります。腸閉塞については、腸閉塞の症状を紹介!悪化すると死亡することも?の記事を参考にしてください。
心臓の病気
心臓や血管の「循環器」が障害されると、本来は血液に吸収されるガスが吸収されないことがあります。そのため、ガスが体内にとどまり、膨満感を起こします。「ガスと腹痛」の原因は、消化器の問題にとどまらないということです。
ホルモンバランス
女性は、生理前にガスがたまりやすいといわれています。それはホルモンバランスが崩れ、胃や腸の動きが弱まるためと考えられています。「蠕動(ぜんどう)」が弱まるので、ガスが腸の中でたまってしまうのです。
解決法①薬
お腹の中のガスを解消する薬は、市販薬として販売されています。薬の成分にどのような作用があるのかみてみましょう。
消泡剤
お腹の中のガスを減らす効果が期待できる薬には、消泡剤が含まれています。ガスは、風船のように「膜の中の気体」として存在しています。
そこで、消泡剤でこの「膜」を薄くして、ガスが血液内に吸収されやすくするのです。また、膜が薄くなると、ガスが「そこにとどまる」ことができなくなります。大量にたまる前に肛門に向かって流れていくようになるのです。
消化酵素
ガスの薬には、「セルラーゼAP3」という、消化を助ける酵素も含まれています。先ほど、「食物繊維が消化されずに、悪玉菌のエサになることがある」と説明しましたが、この消化酵素は、食物繊維を消化しやすくするのです。
エサがなくなれば悪玉菌が減るので、ガスの生産量も減るというわけです。
乳酸菌
「お腹といえば腸」、「ガスといえば腸」、そして「腸といえば乳酸菌」というぐらい、医師たちは腸の不調を訴える人に、乳酸菌の摂取をすすめます。ですので、これが含まれた薬も販売されています。
乳酸菌の中でも「ビフィズス菌」と「フェカリス菌」と「アシドフィル菌」の3つは、善玉菌を増やし、腸内の環境を整えてくれます。善玉菌と悪玉菌は「シーソー」のような関係にあり、善玉菌が増えると、悪玉菌が減るのです。
乳酸菌は薬に頼らなくても、ヨーグルトなどで摂取できますので、意識してみてください。
解決法②マッサージ
腸の動きが悪いためにガスがたまっている場合、お腹を優しくマッサージすることで、解消できることがあります。ただし、腹痛を起こしているときは、注意が必要です。痛みが悪化する恐れがあるからです。
まず、片方の手の人差し指を、おへそにのせます。最初は、指の腹で軽く押える程度です。そこから、「の」の字を書くようにお腹をさすっていきます。「の」の字が「うず」になるようにグルグル回しながら「○(まる)」を大きくしていき、人差し指がみぞおちにまで達したら1回目が終了です。再び指をおへその上に戻して、「の」の字を書いていきます。
くれぐれも圧迫しすぎないようにしてください。また、おならや便意を催すことがあるので、トイレで行うことをおすすめします。
「自分のガス」を知ろう
「異様なガス」や「腹痛をともなうガス」を感じたら、消化器内科にかかりましょう。しかしこれまでみてきたように、お腹のガスには様々な種類があります。それを医師に伝えることは、至難のわざでしょう。診察室の医師の前でおならをすることは難しいですから。そこで、次のチェックシートに印をつけて、医師に伝えてください。きっと、治療の役にたつはずです。
食事についてのチェック
- □食べるのが早いといわれる
- □乳酸菌飲料やヨーグルトは摂らない方だ
- □食べ物を噛む回数は、1口10以下
- □肉をよく食べる
- □食物繊維は摂らない方だ
- □ごはんよりパンが好き
- □週に3回以上外食している
- □食事時間が不規則
ガスについてのチェック
- □人前に出るとお腹にガスがたまる感じがする
- □おならと便の臭いが強い
- □家の外でおならを我慢することが多い
- □げっぷが多い
- □便秘がち
生活についてのチェック
- □イライラする
- □運動していない
- □寝起きする時間が不規則
- □腹囲の脂肪が増えた
- □喫煙する
- □失敗すると落ち込む
- □仕事はデスクワーク
- □体を締め付ける下着を着用することが多い
まとめ
「痛み」は「警告」といわれています。つまり、痛みがなかったら、私たちは体の不調を感知できないのです。なので、きちんと痛みと向き合いましょう。「笑い話で済むおなら」にとどまらず、ガスがたまり、お腹が張り、腹痛が生じるようなら、「笑いごとではない」と思って、医者にかかってください。
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