突如としてお腹にキリキリとした痛みが襲ってきたという経験をされた人は、少なくないのではないでしょうか?しかも、その突然のおなかの痛みは、無慈悲にも時と場所を選んではくれず、朝の通勤・通学中や重要な会議・試験などの途中にやってきたりします。
この点、トイレに駆け込んで排便することで、お腹の痛みが引いて回復するならば、それほど心配することもないかもしれません。しかしながら、何度も同じようなキリキリとした痛みに襲われたり、トイレでの排便後も痛みが続くようならば、何らかの病気の可能性があるかもしれません。
一口にお腹の痛みと言っても、お腹の痛み方や上腹部・下腹部・わき腹など痛みの現れる場所によって、痛みの原因として考えられる病気も異なります。そこで今回は、お腹の痛みが現れた際に考えられる病気について、それぞれ簡潔にご紹介したいと思います。
腹痛の痛みの種類
そもそも一口にお腹の痛みと言っても、キリキリと形容される腹部が重くなるように感じられる鈍痛や、腹部が刺されるような激しい痛みなど、お腹の痛み方は様々です。
そこで、まずは腹痛の痛みの種類について、ご紹介したいと思います。
内臓性腹痛(内臓痛)
内臓性腹痛とは、胃や腸などの消化器系の臓器が収縮・伸展・拡張あるいは痙攣することが原因となって、内臓の自律神経が刺激されて生じる痛みのことです。
内臓性腹痛の痛みの特徴は、痛みの場所が具体的でなく、腹部全体にキリキリと差し込むような鈍痛です。また、内臓性腹痛の痛みは、痛みが大きくなったり小康状態になったりと周期性があります。さらに、内臓性腹痛の場合は、一般的に吐き気・嘔吐・冷や汗などの症状を伴うことが多いとされています。例えば、下痢や便秘などで生じる痛みの多くは、内臓性腹痛とされています。
心因性腹痛
心因性腹痛とは、腹部に炎症などの病変が生じていないのに、ストレスなどが影響することによって生じる痛みのことで、神経性やストレス性の腹痛です。
心因性腹痛の特徴は、緊張・不安・恐怖などの精神的ストレスがかかる場面において痛みが現れ、逆にリラックスしている場面においては痛みの症状が一切現れません。
心因性腹痛は、ストレスによって内臓の働きをコントロールする自律神経に変調が起こることが原因と考えられています。
体性腹痛(体性痛)
体性腹痛とは、腹腔内に存在する臓器が炎症を起こすことが原因となって、腹部(腹膜・腸間膜・横隔膜など)に存在する知覚神経が刺激されて生じる痛みのことです。
体性腹痛の痛みの特徴は、痛みの場所が具体的かつ明確で、比較的ピンポイントのような形で鋭く刺すような激しい痛みです。また、体性腹痛の痛みは、内臓性腹痛と違って持続的に痛みが続きます。さらに、体性腹痛の場合は、吐き気・嘔吐・冷や汗などの症状は伴わないとされ、一般的に内臓性腹痛の場合より重い病気であることが多いとされます。
関連痛
体性腹痛を招くような臓器の炎症が特に重い場合には、炎症部に隣接する別の神経を刺激してしまい、その神経を通じて離れた場所に痛みを生じることがあります。このような原因となる疾患とは別の場所に発生する痛みのことを、関連痛と言います。
急性的な上腹部の痛み
それでは、みぞおちなどの上腹部に突如として痛みが現れた場合には、どのような病気が考えられるのでしょうか?
そこで、急性的な上腹部の痛みが現れた場合に、原因として考えられる病気を、ご紹介したいと思います。
急性胃炎
みぞおちに突然痛みが現れた場合に、最も原因である可能性が高い病気として検討されるのが、急性胃炎です。
急性胃炎では、多くの場合にキリキリとした差し込むような痛みが、みぞおちに現れます。そして、発熱をすることはほとんど無く、吐き気や嘔吐の症状を伴うことが多いとされます。
急性胃炎の原因
急性胃炎の原因は、とても多岐にわたります。具体的には、次のような原因が考えられます。
- 刺激物の過剰摂取:コーヒー・アルコール・香辛料などの飲食後に発症します。
- 食中毒:多くは細菌に汚染された食べ物の摂取後に発症します。
- 食物アレルギー:原因食物の摂取後に免疫システムの異常反応で発症します。
- 薬剤の副作用:解熱鎮痛薬や抗生物質などの服用後に発症します。
- 精神的ストレス:いわゆる心因性腹痛です。
- ウイルス感染:インフルエンザや風邪などウイルス感染が原因で、発熱を伴います。
急性胃炎の対処法
急性炎の対処法は、基本的に病院を受診して医師の診察・治療を受けるべきでしょう。
刺激物の過剰摂取と原因が明確であれば、生活習慣や食事を改めて原因を除去して市販薬の服用でも良いかもしれませんが、それ以外の原因では医師の診察と治療が必要です。
急性虫垂炎
みぞおちに突然痛みが現れた場合、急性虫垂炎、すなわち盲腸の可能性もあります。
急性虫垂炎は、みぞおち辺りに関連痛として初期症状が現れるため、最初の段階では他の腹痛との鑑別が難しいとされます。その後、痛みは右下腹部の方に移動して内臓性腹痛となり、虫垂炎に腹膜炎が併発すると体性腹痛の激しい痛みとなります。
急性虫垂炎では、痛みの他に吐き気・嘔吐や微熱を伴います。
急性虫垂炎の原因
急性虫垂炎の原因は、未だ明確にはなっていませんが、何らかの理由で虫垂に細菌が感染して炎症状態となる細菌感染性の病気です。
急性虫垂炎の対処法
急性虫垂炎の対処法は、ただちに病院を受診して医師の診察・検査・治療を受けなければなりません。というのも、重症化して腹膜炎を併発すると、生命の危機につながりかねないからです。
急性虫垂炎の治療法は、基本的に外科手術による虫垂の切除です。この外科手術には、従来の開腹手術と内視鏡を用いた腹腔鏡手術があります。軽症の場合には、抗生物質の投与によって細菌対策をしながら経過観察をすることもあります。
慢性的な上腹部の痛み
それでは、みぞおちなどの上腹部に継続して慢性的な痛みが現れた場合には、どのような病気が考えられるのでしょうか?
そこで、慢性的な上腹部の痛みが現れた場合に、原因として考えられる病気を、ご紹介したいと思います。
機能性ディスペプシア(慢性胃炎)
みぞおちに慢性的な痛みが現れる場合は、機能性ディスペプシア・慢性胃炎かもしれません。機能性ディスペプシアは、検査をしても胃に器質的な病変が存在しないのに、慢性的に胃もたれ・胃痛といった症状が現れる病気で、従来は慢性胃炎と呼ばれていました。
機能性ディスペプシアでは、多くの場合にキリキリとした鈍痛が継続的に、みぞおちに現れます。その他に、みぞおちに灼熱感が現れたり、早期の満腹感が現れたりします。
機能性ディスペプシアの原因
機能性ディスペプシアは、精神的ストレスの影響で胃の運動機能が低下したり、胃が内臓知覚過敏になることで発症するとされています。また、ハッキリとした因果関係は解明されていませんが、ピロリ菌への感染も原因の一つと考えられています。
機能性ディスペプシアの対処法
機能性ディスペプシアの対処法は、病院を受診して医師の診察・治療を受けることはもちろんですが、日常生活の見直しをすることが最大の治療方法であると考えられています。
食生活の見直し・ストレスの要因の排除・十分な睡眠などを通じて、心身を休ませることが必要とされています。また、ピロリ菌に感染している場合には、ピロリ菌の除菌なども効果があるとされています。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
食後に、みぞおちがキリキリと痛むようならば、胃潰瘍の可能性があるかもしれません。一方で、空腹時に、みぞおちがキリキリと痛むようならば、十二指腸潰瘍の可能性があるかもしれません。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、主にみぞおちにキリキリとした鈍痛が継続的に現れますが、その他にも胸焼け・食欲不振・胃部膨満感などの症状が現れます。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因は、ピロリ菌や薬剤の影響で胃や十二指腸の粘膜が損傷することで、強酸性の胃酸が胃壁や十二指腸に潰瘍を生じさせることだと考えられています。加えて、精神的ストレスも自律神経に影響を及ぼし血流を低下させることで、粘膜の回復を阻害するため、胃潰瘍・十二指腸潰瘍を促進させる要因の一つとされています。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の対処法
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の対処法は、ただちに病院を受診して医師の診察・治療を受ける必要があります。特に、潰瘍部から出血がある場合には、早期に内視鏡を用いて止血する必要があります。その他に、薬剤の投与・日常生活の改善指導などが、治療として為されます。
胃がん・肝臓がん・肝炎
みぞおちに慢性的な痛みが現れる場合、胃がん・肝臓がん・肝炎などの重篤な病気の可能性もあります。
胃がんでは、みぞおちの慢性的な痛みに加えて、食欲不振・体重減少といった症状も現れます。一方で、肝臓がんや肝炎などの肝臓疾患では、みぞおちの痛みが現れるタイミングは病気がかなり進行してからで、それ以前に全身倦怠感・食欲不振・吐き気などの症状や全身の皮膚・粘膜などが黄色くなる黄疸という症状が先行して現れます。
いずれにしろ、このような重篤な病気の場合は、ただちに病院を受診して医師の診察・治療を受ける必要があります。
下腹部の痛み
それでは、おへそから下の下腹部に痛みが現れた場合には、どのような病気が考えられるのでしょうか?
そこで、下腹部の痛みが現れた場合に、原因として考えられる病気を、ご紹介したいと思います。
急性胃腸炎(急性大腸炎)
おへその辺りから下腹部にかけて痛みが現れる場合に、最も考えられる病気は急性大腸炎です。ただし、急性大腸炎となる場合は、多くの場合に胃や小腸でも何らかの病変が生じていますので、まとめて急性胃腸炎・急性腸炎と呼ばれます。
急性胃腸炎・急性大腸炎では、下腹部痛のほかにも、下痢や血便などの症状を伴うことが多いとされています。
急性胃腸炎(急性大腸炎)の原因
急性胃腸炎の原因は、急性胃炎と多くの原因が重なりますが、特に急性胃腸炎となる場合は、食中毒の場合も含めて細菌に感染すること多い傾向があります。
そのため、感染性胃腸炎と呼ばれることもあります。中には、腸管出血性大腸菌O157や赤痢菌など重篤な症状を引き起こす細菌も存在しますので、注意が必要です。
急性胃腸炎(急性大腸炎)の対処法
急性胃腸炎の対処法は、基本的に病院を受診して医師の診察・治療を受けるべきでしょう。刺激物の過剰摂取などの原因が明確であれば、生活習慣や食事を改めて原因を除去して市販の下痢止め・整腸薬の服用でも良いかもしれませんが、特に細菌感染の場合は医師の診察と治療が必要です。
また、下痢の症状が伴っている際には、体内から水分が多く失われ脱水症状の危険がありますので、経口補水液などによる水分補給が必須となります。
過敏性腸症候群
慢性的な下腹部痛に加えて、下痢などの便通異常も慢性的に生じている場合は、過敏性腸症候群(過敏性大腸症候群)の可能性があります。
過敏性腸症候群は、胃における機能性ディスペプシアと同様に、検査をしても大腸に器質的な病変が存在しないにもかかわらず、慢性的に下腹部痛や下痢などの便通異常といった症状が現れる病気です。
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群の原因は、明確に解明されているわけではありませんが、精神的ストレスや生活習慣の乱れなどの影響で大腸を中心とする消化管の運動機能が低下したり、消化管が知覚過敏になることで発症すると考えられています。
過敏性腸症候群の対処法
過敏性腸症候群の対処法は、病院を受診して医師の診察・治療を受けることはもちろん、機能性ディスペプシアと同様に生活習慣の改善をすることが最大の治療法であると考えられています。その上で、大腸の異常運動などを抑制する薬剤の投与をしたり、乳酸菌製剤を投与して腸内環境の改善を図ります。
潰瘍性大腸炎
慢性的な下腹部痛に加えて、下痢・便秘・粘血便などの便通異常も慢性的に生じている場合は、潰瘍性大腸炎の可能性があります。
潰瘍性大腸炎は、大腸に潰瘍や大腸粘膜の欠損である糜爛(びらん)が生じることで、下腹部痛・便通異常といった症状が現れる病気で、厚生労働省指定の難病です。重症化すると、発熱・貧血を伴うことがあります。放置していると、大腸がんに進行する可能性が指摘されています。
潰瘍性大腸炎の原因
潰瘍性大腸炎の原因は、未だ不明です。腸内の悪玉菌が増えすぎたり、善玉菌が減りすぎたりといった腸内細菌の異常や、精神的ストレス・自己免疫反応・遺伝など様々な原因が指摘されていますが、どれも証明されるまでには至っていません。
潰瘍性大腸炎の対処法
潰瘍性大腸炎の対処法は、ただちに病院を受診して医師の診察・検査・治療を受ける必要があります。潰瘍性大腸炎の診断にあたっては、細菌やウイルスの感染でないことを確認してから、大腸内視鏡で観察する検査を行うことが一般的になっています。
潰瘍性大腸炎は、炎症が治まっても再燃することが良くあるので、基本的に薬物療法によって炎症を抑制し、炎症が抑制された状態をキープする治療が実施されます。
泌尿器系の病気
下腹部痛は、泌尿器系の病気が原因となって現れることもあります。ただし、泌尿器系の病気が原因の場合は、その多くで排尿障害の症状も伴います。
例えば、前立腺炎や膀胱炎によって下腹部痛が生じることがありますが、多くの場合で排尿時痛が生じたり、頻尿・夜間頻尿・残尿感といった排尿障害の症状を伴います。また、尿管結石によっても下腹部痛が生じることがありますが、多くの場合で排尿時痛や血尿が現れますし、痛みが現れない場合でも頻尿・残尿感・尿閉といった排尿障害の症状が現れます。
このように泌尿器系の病気が原因の下腹部痛に対処するには、それぞれ原因となる病気の治療が必要となります。
女性器の病気
下腹部痛は、女性器の病気が原因となって現れることもあります。というのも、下腹部には子宮や卵巣といった女性器が位置するからです。
例えば、子宮内膜症・卵管炎・子宮がんなどの病気が発症すると、下腹部痛や下腹部の違和感を生じることがあります。また、病気ではないものの、女性特有の生理・月経に伴って生理痛・月経痛が生じることがあり、この痛みは左よりの下腹部に現れることが多いとされます。
このように女性器の病気が原因の下腹部痛に対処するには、それぞれ原因となる病気の治療が必要となります。
わき腹の痛み
それでは、わき腹に痛みが現れた場合には、どのような病気が考えられるのでしょうか?
そこで、わき腹の痛みが現れた場合に、原因として考えられる病気を、ご紹介したいと思います。
胆のうの病気
みぞおちに近い上腹部の右側のわき腹が痛む場合、胆石症・急性胆のう炎・急性胆管炎といった胆のうの病気である可能性があります。
胆石症は、肝臓で作られ胆のうに貯留される胆汁という消化液が、胆のう・胆管で固まって結石ができる病気です。胆石症では、痛みが現れる場合もあれば、痛みが現れない場合もあります。
急性胆のう炎や急性胆管炎は、主に胆石症が原因となって胆汁の流れが停滞したところで、胆のう・胆管に細菌感染することで炎症が生じる病気です。急性胆のう炎・急性胆管炎では、上腹部の右側のわき腹に持続的な痛みの他に、発熱や黄疸が見られることがあります。
いずれにしろ、ただちに病院を受診して医師の診察・治療を受ける必要があります。
膵炎(すい炎)
みぞおちに近い上腹部の左側のわき腹が痛む場合は、膵炎の可能性があります。膵炎は、主に胆石症とアルコール過剰摂取が原因となって、膵液が十二指腸に排出されずに膵臓に溜まってしまい炎症が発症する病気です。
膵炎では、炎症の程度にもよりますが、かなり激しい痛みが生じる他に、吐き気・嘔吐・発熱を伴うことがあります。
いずれにしろ、ただちに病院を受診して医師の診察・治療を受ける必要があります。
まとめ
いかがでしたか?お腹の痛みが現れた際に考えられる病気について、それぞれ簡単にご紹介しましたが、ご理解いただけたでしょうか?
一口にお腹の痛みと言っても、お腹の痛み方や上腹部・下腹部・わき腹など痛みの現れる場所によって、痛みの原因として考えられる病気も異なります。そして、腹痛の原因となる病気は多岐にわたり、軽度の病気から重篤な病気まで様々です。
ですから、トイレに駆け込んだ後に、お腹の痛みが引いて回復するならば、それほど心配することもないかもしれません。
ただし、何度も同じようなキリキリとした痛みに襲われたり、トイレに駆け込んだ後も痛みが続くようならば、何らかの病気の可能性があるかもしれませんから、早急に病院を受診して医師の判断を仰ぐようにしましょう。
関連記事として、
これらの記事も読んでおきましょう。