機能性ディスペプシアという病気を、耳にしたことはあるでしょうか?機能性ディスペプシアとは、胃もたれや胃の痛みがあるにもかかわらず、検査を実施しても身体的な異常や病変が存在しない病気のことで、いわば原因不明の胃もたれや胃の痛みのことを言います。
かなり以前は、病院で検査をしても身体的な異常や病変が見つからないために、気のせいだとして病気と認めてもらえなかったりしたこともあったようです。しかしながら現在は、ストレスや過労などの関与が疑われ、現代病の一つとして急速に認知されてきています。
そして、近年のある調査では日本人の25%程度が機能性ディスペプシアの有病者の可能性があると報告されてもいます。つまり、機能性ディスペプシアは耳慣れない病気ではありますが、実は多くの人に発症する可能性がある病気と言えるでしょう。
そこで今回は、機能性ディスペプシアについて、その症状・原因・治療方法などをご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
機能性ディスペプシアとは?
そもそも機能性ディスペプシアとは、どのような病気なのでしょうか?機能性ディスペプシアという病気は、実は近年において確立した病気概念ですので、耳にしたことの無い人が多い病気です。
そこで、まずは機能性ディスペプシアについての基礎知識について、ご紹介したいと思います。
機能性ディスペプシアとは?
機能性ディスペプシアとは、慢性的な胃もたれや胃の痛みなどの症状があるにもかかわらず、検査を実施しても身体的・器質的な異常や病変が存在しない病気のことで、いわば原因不明の胃腸の不快感・不快症状のことを言います。
機能性ディスペプシアは、直接的に命にかかわる疾患ではないものの、慢性的に胃腸に不快感を感じることにより、集中力の低下など日常生活にも大きな影響を及ぼします。
機能性疾患とは?
この機能性ディスペプシアのような、検査を実施しても身体的・器質的な異常や病変が存在しないにもかかわらず、内臓などの機能が低下して痛みなどの症状が現れる病気・疾患のことを、機能性疾患と言います。
機能性ディスペプシア以外にも、消化器系の臓器には機能性疾患が現れることがあります。例えば、非びらん性胃食道逆流症は、胸焼けのような灼熱感を胸・食道に感じますが、検査をしても食道には潰瘍・びらんといった炎症症状は見つかりません。
また、過敏性腸症候群は、慢性的に腹痛や便通異常(下痢または便秘)といった症状が現れますが、検査をしても大腸などに病変は見つかりません。
ちなみに、機能性ディスペプシア・非びらん性胃食道逆流症・過敏性腸症候群を、総称して機能性消化管疾患(機能性消化管障害)と言います。
機能性ディスペプシアという概念の登場
機能性ディスペプシアという病気・概念は、近年に登場したばかりで、多くの人が耳にしたことがないのも当然です。
かなり以前には、病院で検査をしても身体的・器質的な異常や病変が見つからないために、気のせいだとして病気と認めてもらえなかったりしたこともあったようです。その後は、原因不明の胃腸の不快感・不快症状について、慢性胃炎・神経性胃炎・神経性胃腸炎・ストレス性胃腸炎などといった診断名が付されていました。
しかしながら、実際には胃腸に炎症症状が存在しない状態にもかかわらず、慢性胃炎・神経性胃炎などと呼ぶことは適当でないと判断され、機能性ディスペプシアあるいは機能性胃腸症(機能性胃腸障害)という名称を用いるようになりました。
2013年には、保険診療名としても機能性胃腸症・機能性ディスペプシア(英語略称FD:functional- dyspepsia)が承認され、2014年には日本消化器病学会において「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014 機能性ディスペプシア(FD)」が策定されています。
機能性ディスペプシアの症状
このように機能性ディスペプシアという病気は、近年になって確立された病気概念なのです。それでは、機能性ディスペプシアになると、どのような症状が現れるのでしょうか?
そこで、機能性ディスペプシアの症状について、ご紹介したいと思います。
機能性ディスペプシアの症状
機能性ディスペプシアの患者に見られる症状は主に四つあり、具体的には食後のもたれ感・早期飽満感・心窩部痛・心窩部灼熱感です。
これら四つの主症状の他に、吐き気・嘔吐などの症状が見られる場合もあります。
食後のもたれ感
食後のもたれ感とは、普段通りの食事をしただけなのに、食べた物が食後いつまでも胃の中にとどまっているような気持ち悪い感覚や腹部不快感のことです。
早期飽満感
早期飽満感とは、普段の食事よりも明らかに少ない量を食べただけなのに、すぐにお腹が膨れる満腹感・膨満感を感じることです。早期満腹感とも言います。
心窩部痛(しんかぶつう)
心窩部(しんかぶ)とは、上腹部中央の窪んだ部分のことで、いわゆる「みぞおち」のことです。ですから、心窩部痛とは、みぞおち・上腹部中央あたりの痛みのことを言います。
心窩部灼熱感(しんかぶしゃくねつかん)
心窩部灼熱感とは、上腹部中央の窪んだ部分、いわゆる「みぞおち」である心窩部に、内部から熱く焼けるような不快な感覚・熱感・灼熱感を生じることを言います。
機能性ディスペプシアの種類
機能性ディスペプシアは、大きく二つに分類することができます。
具体的には、食後愁訴症候群と心窩部痛症候群です。ただし、両方が同時に現れることで明確に分類できない場合もあることには留意しておく必要があります。
食後愁訴症候群(PDS)
食後愁訴症候群は、主に食後のもたれ感あるいは早期飽満感が1週間に複数回生じるタイプの機能性ディスペプシアです。
心窩部痛症候群(EPS)
心窩部痛症候群は、主に心窩部痛と心窩部灼熱感が1週間に複数回生じるタイプの機能性ディスペプシアです。
心窩部痛症候群は、食後にも生じることがありますが、空腹時に生じることもあります。
機能性ディスペプシアの原因
それでは、主に食後のもたれ感・早期飽満感・心窩部痛・心窩部灼熱感という症状が現れる機能性ディスペプシアは、どのような原因によって生じるのでしょうか?そこで、機能性ディスペプシアの原因について、ご紹介したいと思います。
胃の運動機能障害
そもそも胃という臓器には、3種類の働きがあります。すなわち、貯留機能・撹拌機能・排出機能です。・貯留機能:口から摂取した食べ物を胃の中に一時的に溜め込む働きのこと。
- 撹拌機能:摂取した食べ物と胃酸(胃液)を、胃の蠕動運動によって混ぜる働きのこと。
- 排出機能:胃酸によって粥状にされた消化物を十二指腸に向けて押し出す働きのこと。
このような3種類の胃の運動機能に何らかの障害あるいは運動機能低下が発生すると、機能性ディスペプシアの原因となる可能性があります。
適応性弛緩反応障害(胃の貯留機能の障害)
適応性弛緩反応とは、食道と胃の境界に存在する下部食道括約筋が開き、食べ物が胃の中に入ってくると、食道よりの胃の上部が広がる反応のことを言います。
つまり、食事によって摂取した食べ物を消化開始するまでの間、一時的に溜め込むために、胃の平滑筋を弛緩させて容量を拡大させるのです。そのため、胃の貯留機能と適応性弛緩反応は、セットの関係性にあると言っていいでしょう。
このような適応性弛緩反応が障害されることを、適応性弛緩反応障害と言います。適応性弛緩反応障害となると、胃の上部が広がらず、胃の容量が拡大しません。すると、食べ物の受け入れが進みませんから、すぐに満腹感がやってきて早期飽満感が現れます。また、食べ物が胃に入ってきたのに胃の拡張がされないので、胃の内圧が高まることにより心窩部痛の発生にも関連性があるとされます。
胃電気活動異常(胃の撹拌機能の障害)
胃電気活動とは、心臓が心筋を規則的に収縮させる際に微弱な活動電流を発生させるように、食べ物が胃に入ると胃の平滑筋を規則的に収縮させ蠕動運動を行う際に微弱な活動電流を発生させることを言います。
そして、このような胃電気活動が障害されリズムが乱れることを、胃電気活動異常と言います。
胃電気活動異常となると、胃の平滑筋の収縮力が低下して蠕動運動が正常に行われず、摂取した食べ物と消化液である胃酸を混ぜ合わせる撹拌がスムーズに行われません。そのため、胃酸によって食べ物を粥状にする消化が進まず、食後のもたれ感が生じることになります。
胃排出遅延(胃の排出機能の障害)
胃電気活動異常は、胃から十二指腸への排出窓口となる胃の前庭部の収縮力を低下させることもあります。すると、胃から消化物を十二指腸へと送り出す能力である胃排出能も低下して、必然的に食べた物が胃の中に長く滞留することになります。
このような胃排出能の低下によって、消化物の十二指腸への送り出しが停滞することを、胃排出遅延と言います。胃排出遅延となると、食後のもたれ感・腹部の膨満感の原因となりますし、場合によっては吐き気・嘔吐などにつながる場合もあります。
内臓知覚過敏(胃の知覚過敏)
知覚過敏とは、知覚が過敏になっている状態のことで、小さな刺激に対しても痛みを感じてしまいます。冷たい水で歯に痛みが走る歯科分野の知覚過敏が有名ですが、このような知覚過敏性は胃などの内臓でも発生することがあり、これを内臓知覚過敏と言います。
食べ物が胃に入ると適応性弛緩反応によって胃が拡張されますが、胃の拡張が胃壁を伸ばすこととなって物理的刺激となったり、胃排出遅延によって食べ物・消化物・胃酸が長く胃に滞留することが胃粘膜を化学的に刺激することにもなります。
このような物理手刺激や化学的刺激に、胃を含めた消化管に分布する知覚神経が過剰反応するのが、胃の知覚過敏(内臓知覚過敏)です。そのため、このような胃の知覚過敏によって、心窩部痛や腹部の膨満感などがもたらされます。また、胃酸分泌量が通常量であっても、知覚過敏によって心窩部灼熱感を生じると考えられます。
心理的な原因
このように胃の運動機能障害と知覚過敏が相まって、機能性ディスペプシアの諸症状が現れるのですが、運動機能障害と知覚過敏が生じる原因については未だ明らかにはなっていません。
しかしながら、さまざまな研究によって、機能性ディスペプシアの患者の多くに不安・緊張・過労などからくる精神的ストレスが見られることが報告されています。
つまり、精神的ストレスが、何らかの経路を通じて消化管運動や消化機能を抑制することが、機能性ディスペプシアの諸症状の発生につながると考えられるのです。
機能性ディスペプシアの検査と診断
前述したように機能性ディスペプシアとは、慢性的な胃もたれや胃の痛みなどの症状があるにもかかわらず、検査を実施しても身体的・器質的な異常や病変が存在しない病気のことです。
そのため、機能性ディスペプシアと診断されるためには、病院・医療機関を受診して検査を経ることが必要になります。そこで、機能性ディスペプシアと診断されるために、受ける可能性のある検査方法について、ご紹介したいと思います。
医師による問診
どんな病気でもそうですが、医師は病気の診断をするにあたり、患者さんに対して自覚症状の内容・発症時期など様々な質問を行います。
慢性的な胃もたれや胃の痛みなどの症状があって病院を受診する際には、事前に発症部位・症状の内容・発症時期などについて整理しておくと良いかもしれません。
胃内視鏡検査(胃カメラ検査)
胃内視鏡検査は、鼻か口から細い管を挿入して、管の先端部に付属したカメラで胃や十二指腸の状況をモニターに映し出して、観察・確認する検査方法です。
胃や十二指腸に消化性潰瘍が見つかれば、胃の痛みなどの症状は胃潰瘍や十二指腸潰瘍が原因ということになり、機能性ディスペプシアではないということになります。
レントゲン検査
レントゲン検査は、造影剤であるバリウムを飲んでレントゲン写真を撮影する検査方法です。
レントゲン検査は、胃内視鏡検査と同様に、胃や十二指腸の炎症や潰瘍の有無を確認します。
胃排出能検査
胃排出能検査は、胃の排出機能が正常であるかを確認する検査方法です。胃排出能検査には、いくつかの測定方法がありますが、最も一般的なのは尿素呼気試験法(13c呼気試験法)です。
尿素呼気試験法は、尿素化合物の含まれた試験食を摂取して、摂取前後の呼気を採取し、呼気に含まれる成分を分析する方法です。
胃電図検査
胃電図検査は、胃の平滑筋が蠕動運動をする際に発生する微弱電流(胃電気活動)を測定する検査方法です。
心臓の心電図を測定するように、専用機器を用いて身体の体表面から測定することができますが、それほど一般化している検査方法ではありません。
ピロリ菌検査
ピロリ菌検査は、ピロリ菌感染の有無を調べる検査方法です。ピロリ菌検査が実施される理由は、ピロリ菌感染と機能性ディスペプシアとの間に明確な因果関係は証明されていないものの、機能性ディスペプシアの患者にピロリ菌を除菌する除菌療法を実施すると症状の改善が見られるという研究報告が多く発表されているからです。
ピロリ菌検査にも、いくつかの検査方法がありますが、現在主流となっているのは、胃排出能検査でも用いられる尿素呼気試験法(13c呼気試験法)です。
ピロリ菌検査における尿素呼気試験法では、尿素化合物の含まれた試験薬を服用して、服用前後の呼気を採取し、呼気に含まれる成分を分析してピロリ菌感染の有無を判定します。
機能性ディスペプシアの治療方法
それでは、このような検査を実施しても胃腸に身体的・器質的な異常や病変が存在せず、慢性的な胃もたれや胃の痛みなどから機能性ディスペプシアと診断・判断される場合、どのような治療がなされるのでしょうか?
そこで、機能性ディスペプシアと診断された場合の治療法について、ご紹介したいと思います。
生活習慣の見直し
機能性ディスペプシアの治療法は主に二本柱で構成されており、その一つは生活習慣の見直し・改善です。具体的には、食生活の改善・ストレスなどの要因の排除が中心になります。
食生活の改善では、刺激物(辛い食べ物・アルコール・カフェインなど)や脂質の多い食べ物は機能性ディスペプシアの症状を悪化させる可能性があるので、控える必要があります。また、暴飲暴食のように1度の食事量が多くなると、食べ物が胃に長く滞留して負担がかかり症状を悪化させる可能性があるので、規則正しく1日3回の食事をするように心掛ける必要があります。
ストレス・不安・緊張の要因となる事柄については、可能な限り排除することが望ましいのですが、社会生活(会社・仕事)などがストレスの要因だとすると、排除が困難な場合もあります。そのため、自分なりのストレス解消策を用意したり、十分な睡眠時間を確保して心身を休息させることが、ストレス・不安・緊張などの緩和のために重要となります。
薬物療法
機能性ディスペプシアの治療法は主に二本柱で構成されており、もう一つは薬剤の使用による薬物療法です。具体的には、消化管運動機能改善薬(消化管運動改善薬)・胃酸分泌抑制薬・抗うつ薬などが処方されます。
機能性ディスペプシアの種類が食後愁訴症候群の場合は、消化管運動機能改善薬が主に使用されます。一方で、心窩部痛症候群の場合には、胃酸分泌抑制薬が主に使用されます。消化管運動機能改善薬と胃酸分泌抑制薬のいずれも効果をあまり示さない場合に、抗うつ薬を用いると症状が少し改善することがあるとされています。
ピロリ菌の除菌療法
前述したように、ピロリ菌感染と機能性ディスペプシアとの間に明確な因果関係は証明されていないものの、機能性ディスペプシアの患者にピロリ菌を除菌する除菌療法を実施すると症状の改善が見られるという研究報告が多く発表されています。
この除菌療法は、新3剤併用療法とも呼ばれ、胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬)と2種類の抗生剤を併せて、3種類の薬剤を7日間服用します。
まとめ
いかがでしたか?機能性ディスペプシアの症状・原因・治療方法などについて、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、機能性ディスペプシアという病気は、近年において確立した病気概念ですから、聞いたことが無いという人がいても不思議ではありません。
しかしながら、機能性ディスペプシアは耳慣れない病気ではありますが、実は多くの人に発症する可能性がある病気と言えます。というのも、明確な原因については明らかになっていないものの、機能性ディスペプシアの発症には不安・緊張・過労などからくる精神的ストレスが関与していると指摘されているからです。
ですから、本記事を契機として生活習慣の見直しを考えてみてはいかがでしょうか。
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