最近、テレビ番組などで有名人の”聞き慣れない病気”を、耳にしたことはありませんか?海外の超一流俳優の「失顔症」や「失読症」などは、その病名からなんとなく症状を予測できることと思います。
「ゲルストマン症候群」という言葉を知っていますか?おそらく”聞き慣れない病気”の部類に入るのではないでしょうか?
人名のついた病気?精神疾患?聞きなれないので、「ゲルストマン症候群」とインターネットで検索するとあの有名な俳優さんの名前が出てきます。ご本人がテレビ番組に出演した際に、「ゲルストマン症候群」に現れる症状を経験したことがあると発言したことで、話題になりました。
では、「ゲルストマン症候群」とはどのような原因があり、症状、治療法などに関して詳しく述べていきます。
頭頂葉のダメージ?ゲルストマン症候群の原因とは!
ゲルストマン症候群の発症原因としては、いまだ研究中、議論中でありいろいろな説があるようです。様々な研究により、頭頂葉の障害とゲルストマン症候群の関わりが明らかになってきました。
ここでは、頭頂葉の機能や、ダメージを受けた場合の症状について解説します。
頭頂葉の機能とは
まず、頭頂葉とは頭のどの部分のことでしょうか?頭頂葉とは、頭のてっぺんから少し後ろ側の脳の部分です。脳は体の中で最も重要な役割を担っており、脳のいろいろな部分によって担当する機能が決まっています。
頭頂葉に関しては、物の形や重さ、質感などを認識する機能があります。また、空間認識に関してもこの頭頂葉で認識されており、対象物との間の距離を計って認識します。
このように頭頂葉は、実に複雑な役割をもっているといえます。したがってこの部分がダメージを受けると、さまざまな障害を伴うこととなります。
頭頂葉へのダメージにより、発症する障害
大脳は部位によってつかさどる機能が決まっています。もしダメージを受けると、その部分の機能が重大な影響を受けることを意味しています。
頭頂葉がダメージを受けるとどのような障害があらわれるのでしょうか?
立体感覚消失
左右の目で見て、その対象までの距離を測定するなどして、頭の中で立体像を作り出しているのに重要な役割をしているのが頭頂葉の前の部分といわれています。
この部分がダメージをうけると、立体感がつかめず、手触りで物を認識するようなことが困難になります。認知症の人、特にアルツハイマー病の人において、物にぶつかる、服を着ることができないなどの症状がよく見られます。
初期においては、側頭葉が委縮して記憶障害を起こしますが、その後、頭頂葉において空間認識ができなくなるからと言われています。
言語機能の障害
特に頭頂葉の外側領域がダメージを受けると、物の名前やその他の言語機能に障害が発生する可能性があります。
病体失認
頭頂葉が、急なダメージをうけると、対側半身無視(右利きの人は左側)が生じます。
つまり、右側の頭頂葉が大きなダメージを受けると、体の左側を認識することができず、麻痺していたとしても無視してしまうことがあります。
空間動作障害(先行症)
空間動作障害(先行症)はまれにしか見られない障害です。頭頂葉のほか、前頭葉の損傷によって発症します。
この障害がおこると、日常の単純な動作において、その順序を記憶することが必要な作業や、複雑な作業ができません。手足には動作を行う能力があるにも関わらず、ボタンを留める、服を脱いだり着たりするといった一連の動作において、順序が分からなくなるということがみられるようになります。
また、言語失行症の人は、話すときの筋肉の動作において順序良く協調できないために、言葉の基本的な音のまとまりがありません。さらに、空間動作障害(先行症)の人の中には、電話の受話器を取る、ボタンを留める、絵を描くといった能力を失ってしまうことがあります。
ゲルストマン症候群
脳の頭頂葉部分の外側へのダメージ、もっと詳しく言えば、優位半球側の角回、縁上回と呼ばれる部分のダメージが、ゲルトマン症候群と密接な関係にあることが分かっています。
・優位半球とは?
右利き、左利きと一般的に言われますが、利き手と脳は密接な関係にあります。大脳は左右に分かれていますが、言語をつかさどっている方の大脳を優位半球と呼びます。
右利きの人の優位半球は、左大脳ということになります。逆に左利きの人の優位半球は、右大脳です。
・角回、縁上回とは
頭頂葉の側頭葉境界に近い部分を、角回、縁上回といいます。
優位半球側の角回、縁上回部分が何らかの疾患が生じるとことにより、ゲルストマン症候群の原因のなります。逆に劣位半球側に疾患が生じれば、空間認識ができなくなる空間失認や、服の着方がわからなくなってしまう、着衣失行という症状があらわれます。
症状としては、手指失認、左右失認、失算、失書があらわれます。以下でゲルストマン症候群の症状について詳しく述べていきます。
ゲルストマン症候群の4つの症状とは?
オーストラリア出身のアメリカの神経学者ヨーゼフ・ゲルストマンが提唱したので、学者の名前にちなんで、特有な症状を「ゲルストマン症候群」と呼ばれています。
失認といわれる、感覚器そのものには障害がなく、対象物を認識しない疾患があり、それらが、複合的に合わさって現れる疾患のことをいいます。
一般的には以下の4つの症状を併せ持つのが、ゲルストマン症候群と呼ばれていますが、なかには4つの症状のどれかが欠けている不完全型もみられます。それでは、そのゲルストマン症候群の、一般的な4つの症状について述べてみます。
手指失認
自分や他人の手指の名前を答えたり、認識したり、また、指示をしたりまねたりすることが困難な状態のことをいいます。
左右失認
文字通りに、左と右の区別が困難なことをいいます。例えば、左手で右足を触るといった左右の感覚の理解ができません。
失算
数字を読むこと書くこと、暗算や筆算などの計算ができないといった状態のことです。
失書
文字を書くことができない状態のことです。そのほかに、目的の文字とは違う文字を書く錯書も見られることがあります。文字を写し取ったりする写字は、できる場合があるようです。
しかし重症の場合は、字を書いたり書き取ったりが困難な場合もあります。
子どもにも発症する?
ゲルストマン症候群の4つの症状のすべてか、その中のいくつかの症状が、子どもに対して現れることを、発達性ゲルストマン症候群といいます。
発達性ゲルストマン症候群
習字や、漢字の綴りなどがうまくできない、四則計算ができないなどと言った症状があらわれることがあり、手指失認、左右失認などの症状がハッキリとあらわれることもあります。
ゲルストマン症候群の4つの症状のほか、図工の時間での簡単な線画の模写ができないといった構成失行、癇癪を起こしたりADHDのような行動面における問題も症状として合わせて発症することがあります。
算数のつまずき?
算数は、高学年になるほど抽象的な思考が必要になり、難しくなって、嫌いな子どもが増える教科です。
その中で、ゲルストマン症候群の子どもは、知的発達の障害はないけれども、基礎的な計算問題を解くことが著しく困難であることが多いようです。
二次的障害
発達性ゲルストマン症候群の子どもは、算数のつまずきなどの学習の遅れにより、友人からいじめをうけたりすることもあります。腹痛や頭痛と言った二次的な障害を発症する場合があります。それが登校拒否などのきっかけとなる可能性もあるようです。
治療法がない?ゲルストマン症候群!
ゲルストマン症候群に関しては、原因がわかっているものもありますが、まだまだ未知の部分があり、原因がはっきりしないものもい多いのです。
ましてや、子どもの発達性ゲルストマン症候群に関しては、前にも述べたように他の発達障害との判断がつかないということもかなりあります。学習障害としてみなされたり見過ごされたりということが、あるかもしれません。
したがって、大人にみられるゲルストマン症候群、子どもにみられる発達性ゲルストマン症候群の関しても、根本的な治療法があるとはいえない状況なのです。しかし、一般的に行われている治療法を4つほどありますので紹介します。
対処療法
根本的な治療というよりも、現在起きている症状を改善するため行う療法です。
例えば、単語や短い文章をまねさせたり、足し算引き算の簡単な練習、電卓を使って買い物に行くなどと言った訓練があります。
支持療法
疾患そのものの解決ではなく、人のケアをする治療法です。
例えば、計算するときに電卓を使用したり、パソコンを使って文字を書いたりといった、道具を使ったり工夫をすることで、日常生活に支障がない状態に近づくための手段です。
作業療法
視覚的なイメージをつかむことが困難なので、実際に物を見たり触ってみたりして、体験を通して訓練をすることを言います。
言語療法
読み書きの言語機能の障害を改善するために、ひらがなや漢字を書いたり、算数の文章題を解いたり、物語などのあらすじを書いたりと言った訓練が有効とされています。
まとめ
このようにゲルストマン症候群とは、大人も子どもにも起きる可能性があります。しかし時間が経つと、改善される場合もあります。
知的能力の高い子どもにもゲルストマン症候群があらわれることがあるという報告もあり、特効的な治療法はないにしても、日常生活に支障をきたすものにかんして、工夫やトレーニングにより、対処が可能であるといえます。
ゲルストマン症候群は病気としてとらえるよりも、一つの”個性”としてみなすことが大切なのではないでしょうか?
そして、何より重要なのはその個性を、周りにいる家族や友人が認めることです。そうすることで、芸術や文化において大きな功績を残す人も、生まれてくるかもしれません。