秋の食材の代名詞ともいえる柿。「柿が赤くなると医者が青くなる」「二日酔いには柿」など、柿にまつわることわざや言い伝えがあるほど、日本人にはおなじみの果物です。
柿には栄養がたっぷり含まれており、中でもビタミンCは果物の中でもトップクラスの含有量があります。そのほかにもポリフェノールの一種であるタンニンも豊富です。柿にはどのような栄養があるのかをご紹介します。
柿に含まれる栄養素
柿は、カキノキ科カキノキ属に属する日本古来の果物で、昔から日本各地で親しまれてきました。原産は中国または日本と考えられています。
「古事記」や「日本書紀」などの古い書物にも柿という記述があることから、当時から食べられていたと考えられています。「さる合戦」などの童話にも登場するので、広くなじみのある果物だったことが推測できます。
柿はビタミンCがとても豊富で、食物繊維やカリウム、ポリフェノールの一種であるタンニンを含んでいます。
生で食べる一般的な甘柿のほかにも、干し柿として利用される渋柿があり、干すことで含まれる栄養成分も変化します。ビタミンCは干し柿になると減少しますが、食物繊維やカロテンの量は干し柿のほうが高くなります。
また、カロリーは中くらいの大きさの柿1個(約150g)で87kcalと他の果物と比べてあまり高いほうではありませんが、干し柿1個(約30g)でも88kcalとなります。干し柿は小さくて食べやすい分、食べすぎには注意が必要です。
ビタミンC
柿の成分で特筆すべきなのは、何といってもビタミンCです。中くらいの大きさの甘柿(約150g)に含まれるビタミンCは約100mg。成人が1日に必要なビタミンC量は85mgなので、甘柿を1個食べると1日に必要なビタミンCはすべて摂取することができます。
果物の中で比べてみると、柿100gに含まれるビタミンCは、ゆず、レモンに次いで3番めに多く、食べやすさの点から考えて、優秀なビタミンC摂取源といえます。
ビタミンCは美容のビタミンとしても知られています。シミやそばかすが作られるのを防ぐ美白効果はもちろん、免疫力を高めて病気を予防する働きもあります。
ビタミンCは、咽喉や鼻の粘膜を強くし風邪をひきにくくするほかにも、白血球の働きを高めて細菌やウイルスを攻撃したり、ウイルスに対抗する免疫物質の生成にも欠かせません。
また、紫外線に当たることで肌の深層部では、シミやそばかすの元となるメラニンという色素細胞が生成されます。このメラニン色素が皮膚に沈着するとシミやそばかすになりますが、ビタミンCは、メラニンを生成する酵素の働きを抑制することで、メラニン色素が生成されるのを防ぎ、シミやそばかすを予防します。
ビタミンCは人間の体で合成することのできないので、食事から摂取する必要のある必須ビタミンで、水溶性で体内に貯めておくことがきません。食生活が乱れたり、風邪やストレス、激しい運動や喫煙、アルコールの摂取によっても体内のビタミンCはどんどん消費されます。
ビタミンCは水に溶けやすく加熱で破壊されやすいため、野菜などに含まれるビタミンCを摂るためには調理法に注意する必要がありますが、柿は皮をむいたらそのまま食べられるので、ビタミンCの損失が少なくビタミンCの摂取源として非常に効果的です。
ただし、干すことでビタミンCの量が減少するので、ビタミンCの摂取を心がけたい場合は、干し柿よりも生の甘柿を利用しましょう。
また、柿のビタミンCは実よりも葉の含有量のほうが多く、柿の葉寿司や柿の葉茶などとして利用されています。
タンニン
タンニンはポリフェノールの一種であり、渋味成分のことです。ポリフェノールは、植物の苦味、渋味、アク、色素となる成分の総称で、ブルーベリーのアントシアニン、緑茶のカテキンなどが有名です。ポリフェノールには強力な抗酸化作用があり、体内の活性酸素を取り除くことで、老化や病気を防ぐ効果があります。
柿に含まれる渋みは、タンニンによるものです。生の甘柿にもタンニンが含まれますが、状態が変化しているため、渋みを感じることはありません。
タンニンには、肌を引き締め、シミなどの原因となるメラニンという色素の生成を抑制する効果があります。また、血液中のLDLコレステロール、いわゆる悪玉コレステロールを減少させるので、高血圧や動脈硬化の予防につながります。血流がスムーズになることで、新陳代謝が促進され全身が活性化されるので、肩こりや冷え性など、さまざまな体の不調の改善にもつながります。
ただし、タンニンには鉄と結びついて鉄の吸収を阻害する働きもあるので、鉄分が不足しがちな若い女性や貧血気味の人、妊娠中の人は、食べすぎないように注意しましょう。
ちなみに、ビタミンCとタンニンを同時に摂取することで、血液中のアルコール分を排出したり、アルコールによる副腎機能の低下を防止する働きがあります。また、柿に含まれるアルコールデヒドロゲナーゼと呼ばれる酵素は、肝臓で働いてアルコールの分解を助けます。「二日酔いには柿」といわれる所以です。
β-カロテン
β-カロテンは、プロビタミンAとも呼ばれる物質で、強い抗酸化作用を持ち、ビタミンCと同時に摂取すると相乗作用で抗酸化力が高くなります。鼻や咽喉などの粘膜を強化し、ウイルスや細菌が侵入した際の抵抗力を強めるので、風邪予防に効果的です。
特に干し柿は、生柿と比較すると約2倍のβ-カロテンを含んでおり、効率よく摂取することができます。
食物繊維
食物繊維は、水溶性という水に溶けやすい繊維と不溶性という水に溶けにくい2種類に分類できます。
柿に含まれる食物繊維はそのほとんどが水溶性で、胃の内部で水分を吸い込むので満腹感を感じやすく、糖質の吸収を抑制して血糖値が急激に上がるを防ぐことができます。
また、コレステロールの吸収を抑制する働きがあるため、ダイエットをしたい方にとっては欠かせない栄養素です。
生の甘柿よりも、干し柿にしたほうが食物繊維の量が増えます。
カリウム
カリウムはミネラルの一部であり、様々な食品に含まれている成分です。
人間の体液は、ナトリウムとカリウムが拮抗することで、常に一定の水分バランスに保たれています。塩分の過剰摂取で体内のナトリウム量が多くなると、カリウムがそれを排出します。
この働きによって、血圧は正常に保たれ、高血圧や動脈硬化を予防しています。水分を排出する働きにより、むくみの予防や改善にも効果があります。
甘柿と渋柿とは?
柿の木は、「桃栗3年、柿の8年」というように、気候や風土に合わないと育ちにくい植物です。このため日本各地で多くの品種ができ、現在は1000近い品種があるといわれます。
柿には、大きく分けて甘柿と渋柿の2種類があります。熟すと甘くなるのが甘柿、甘くならないのが渋柿です。
どちらも実が未成熟なうちはタンニンによる渋みがありますが、甘柿は成熟するとタンニンが水溶性から不溶性に変化し、渋みを感じなくなります。渋柿のタンニンは、熟しても水溶性のままなため、食べた時に唾液で溶けて渋みを感じます。干し柿にすることでもタンニンが不溶性に変化するので、渋みを感じなくなります。甘柿の果肉をよく見ると、黒い点が見えることがありますが、これが不溶性のタンニンです。
家庭でできる渋抜きの方法としては干し柿にするのが一般的ですが、米ぬかにつける、りんごといっしょに密閉容器に入れて1週間程度おくなどの方法でも、渋みをぬくことができます。
甘柿では、富有(ふゆう)という品種が、もっとも生産量が多く店頭でもおなじみです。富有は果肉がやわらかいのが特徴です。果肉のしっかりとしたもので人気なのが次郎という品種です。種無し柿としてよく見かけるのは平核無(ひらたねなし)という品種で、干し柿としても利用されています。
渋柿では、刀根早生(とねわせ)という品種や、昔から各地で栽培されてきた甲州百目(こうしゅうひゃくめ)などの品種があります。
柿の選び方と保存
おいしい柿の見分け方
柿を選ぶときは、ヘタが4枚そろっていて、実にはりつくようについているものが、新鮮な柿です。全体的に鮮やかなオレンジ色で、形が整っていて、手に持った時に張りがあり、ずっしりと重みあるものを選びましょう。
柿の皮の表面が、白く粉がふいたような状態になっている場合がありますが、これはブルームといって完熟した果物の糖度が増して、糖分が乾燥したものなので心配ありません。
「瓜の皮は大名にむかせろ、柿の皮はこじきにむかせろ」ということわざがあるように、甘柿は皮に近い部分ほど甘みが強く、芯やヘタに近い部分ほど甘みが少なくなって渋いことがあります。皮はできるだけ薄くむきましょう。
柿の保存方法
渋柿や不完全甘柿は、収穫後、渋抜きという処置が行われたのちに店頭に並びます。渋抜きされた柿は、すぐに柔らかくなってしまいます。柿はヘタの部分で呼吸し、果肉に含まれる水分が蒸発するので、保存する時は水に濡らしたキッチンペーパーなどの上に、ヘタの部分を乗せて、ヘタにふたをするような状態にして、ポリ袋などに入れて冷蔵庫で保存しましょう。
冷蔵庫で2週間程度保存できます。
甘柿の場合はあまり起こりませんが、渋抜きされた柿をジャムなどにするために加熱すると、渋戻りといって渋みが出てしまう場合があります。
出荷前に行われる渋抜きでは、タンニン同士が結合し粒子が大きくなるため、舌で渋みを感じにくくなりますが、加熱によってタンニンが再分解されると、再び渋みを感じるようになってしまいます。
加熱をする前は、少しだけ加熱したものの味を味見して、渋戻りしていないかを確かめてから加熱するようにしましょう。
まとめ
生の甘柿には、果物の中でもトップクラスのビタミンCが含まれています。あっさりと淡泊な甘味で子どもから高齢者まで食べやすい柿は、旬の秋のビタミンC補給源として、どんどん活用したいものです。
渋柿の渋さのもととなっているポリフェノールの一種、タンニンは生活習慣病の予防や美容効果にも大きな効果があります。カリウムや食物繊維、βカロテンなどもバランスよく含まれますが、タンニンには鉄の吸収を阻害する働きがあるので、食べすぎには注意が必要です。