風邪の予防を目的としない「伊達マスク」が20歳以下の世代で流行しているようです。最近では、白だけではなく黒やピンクなどのカラフルなものや、チェックなどの柄入り、キャラクターなどが印刷されたもの、さらには自分でカスタマイズが可能なものなどもあり、ファッションの一部になっていることも要因のひとつになっています。
もうひとつの要因は日本の特殊性です。予防的にマスクをする文化は、海外では見られません。知り合いがマスクをしていたら、「どうしたの?」「何でマスクをしているの?」と質問攻めにされます。マスクが当たり前になってしまい、声をかけないことが「伊達マスク」の増加に繋がっているのではないかと考えられています。
しかし、マスクをしないと「外出できない」「落ち着かない」「不安になる」などの依存症状がでている場合には注意が必要です。今、若い世代で問題になりつつある「マスク依存症」について、あなたはどこまでご存じですか?
マスク依存症とは?
- マスクをしていないと不安になる
- 寝るとき、食事中、入浴中以外はずっとマスクを着用している
- マスクを外そうと思っても、外すのが怖くて外せない
- 人と話すことが苦痛である
- 鏡をよく見る
- 自分の顔にコンプレックスがある
- 口臭が異常に気になる
上記7項目の4項目以上に当てはまったら、あなたは「マスク依存症」の疑いが濃厚です。この症状は、社会不安障害がマスク依存症として表出したものと考えられています。自分ひとりでは治せないと感じた場合には、社会不安障害専門医などのいる心療内科で診察してもらうことをお勧めします。
社会不安障害とは?
社交不安障害と呼ぶこともあります。以前は「対人恐怖症・対人不安症」などと呼ばれていた病気です。
正常な内気と社会不安障害の異なる点は、身体症状が継続して現れるかどうかです。人前でしゃべる場合、通常であれば経験を重ねることによって慣れていき、次第に「あがったり」することは減っていきます。それに対して、社会不安障害の場合は、同じ経験をしても慣れることがありません。毎回同じ状況で、発汗・赤面・吐き気・震え・動悸などの症状が現れ、時にはパニック発作を起こすこともあります。
こうした強い不安や、症状を他人に知られたくないという気持ちから周囲の人々との接触を避けるようになり、日常生活に支障を来たすようになります。症状が重症化してくるとうつ状態やパニック障害の症状を合併することもあり、さらに日常生活が困難になります。
それでは、マスク依存症の原因は?
社会不安障害の原因は、現在のところよく分かっていないというのが現実です。不安や恐怖感が増幅されやすい脳内を問題とする生物学的要因、育ち方や経験などによる環境的要因、少ないと言われていますが、遺伝的要因などが考えられます。
このように発症は単一の原因ではなく、複数の要因が関与することで複雑な経緯を経て発症すると考えられています。発症への影響は、遺伝的な要因よりも、育ち方や社会的な場面での経験などの環境的要因のほうが強く影響します。
特に、子ども時代の環境で、過保護な育てられ方をした人、逆に厳しく育てられて励まされたり褒められたりした経験がない人が多く発症すると言われています。これは、強いストレスがかかった状態を体験する機会が少なかったことや、何か同一の条件下において、「うまくいった」という成功体験を得る機会が少なかったことが関係しているものと考えられています。
でも、なぜマスク依存症が問題なのでしょう?
マスク依存症の背景には、他人とコミュニケーションを取りたくないという社会不安障害があるとされています。ゆえに、マスク依存症のことを「顔面引きこもり」と呼ぶことがあります。
人間の感情は、主に目元と口元に表れます。マスクをしていると表情が読み取りにくくなり、コミュニケーションに障害をきたします。他人と上手くコミュニケーションが取れなくなると、社会から孤立してしまいます。はじめは「顔面」だけかもしれませんが、いずれ本当の引きこもりに移行してしまう危険性もあるのです。
個別の問題点は以下のとおりです。
表情に乏しくなる
マスクをして顔を隠していると、次第に表情を顔に出さなくなり無表情になっていきます。喜びや怒りなどの表情がなくなると、相手に余計な誤解をさせることもあります。そのストレスでマスクを手放せなくなるという悪循環に陥りやすくなります。
声がこもる、小さくなる
マスクで声がこもってしまい、相手に聞こえ難くなります。そうすると、それが不安になり余計に声が小さくなります。そうして、自然とコミュニケーションが減っていき孤立する原因となります。
肌が荒れる
マスクで蒸れることによって、肌が荒れ吹き出物が増えます。そうすると、それを隠そうとしてマスクをする悪循環に陥ります。
メイクや髪型を気にしなくなる
社会的に必要最低限の化粧や、髭剃り、髪型を整えるといった行為が面倒になります。面倒になるのでマスクで隠そうとするのです。身だしなみに気を使えなくなるのは、うつの症状でも見られます。
気付かれない
マスクで顔が隠れているので、知り合いに気付かれなくなります。自然と無視される形になり、孤立していきます。
自分の顔へのコンプレックスが強くなる
マスクで顔を隠していると、マスクをしていない自分の顔を見る機会が減ります。そうすると、マスクをしていない顔を見た際に、違和感を感じたり、嫌悪感を感じたりするようになります。そうしてマスクが外せなくなっていきます。
社会性が弱くなる
精神的に引きこもっている状態のため、その場の雰囲気を読むことをしなくなり、自分勝手な言動や行動をしやすくなります。そうすることで、さらに孤立していきます。
治す方法は?
既にマスクが手放せなくなってしまっている場合には、いきなり外して生活することは難しいです。無理に外させるのではなく、まずはマスクを着用する時間を少しづつ減らしていきましょう。
一人でいる時間にマスクの着用をやめる。次に、人の少ない場所、家族の前などで着用をやめる。急がずに、「マスクを着用していない自分」に慣れていきましょう。少しづつ、「マスクを着用しなくても大丈夫」と思える瞬間が増えてくれば大丈夫です。
1人では治せない時は?
仲の良い友人や家族に協力を頼みましょう。マスクをしていない自分を「だいじょうぶ」「怖がらないでいいよ」など励ましてもらい、マスクをしていなくても肯定されることを経験することによって、マスクを着用しないことの不安が少しづつ減っていきます。
薬で治療できないの?
社会不安障害で推奨される薬剤は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。SSRIは抗うつ剤で、セロトニンの再取り込みを阻害することでセロトニン量を増やします。セロトニンを増やすことで、うつ病や不安障害の原因とされているセロトニンの減少を防ぎます。
ただし、SSRIは18歳以下には処方が推奨されていません。マスク依存症を含む社会不安障害が発症しやすい15歳前後の子どもには使いにくいのが現状です。
対処療法的にβブロッカー(多汗や震えなど、不安や緊張の身体症状を抑える薬)を使用することもあります。使用することよりも、持っていることで安心する効果を目的として処方されるケースが多いとされています。不安による身体症状が軽減することで、精神症状にも効果があることが報告されています。
マスク依存症にならないためには?
マスク依存症には、現在の日本が抱えている多くの問題が含まれています。自分自身、家族、友人がマスク依存症にならないためには、どのような点に気を付ければよいのでしょう?
気を楽にして頑張り過ぎない
心の病気は、完璧主義の方や頑張り過ぎてしまう方に多く発症する傾向があります。完璧主義も頑張るのもいいことですが、「他人の目が気になるので完璧にしたい」「他人の目が気になるから頑張らないといけない」となってしまうと、心の病気になりやすくなります。
他人に評価されずとも、自分が頑張っていればそれでいいし、結果も付いてくることを理解してください。
正解はひとつではない事を理解する
プライベートでもビジネスでも、正解がない場面は多く存在します。自分の意志でどちらかを選択する事が重要であって、正解を選ぶ事が重要ではありません。例えば、AランチとBランチを選ぶ際に正解はありませんし、花の色だって見る人によって異なります。他人と違っても、後から間違っていたと感じても、それでいいのです。
母親は要注意!
母親に社会不安障害の傾向があると、子どもに影響が出やすいことがわかっています。父親からも影響されますが、統計上は有意差なしと報告されています。精神科医やソーシャルワーカーなどの第三者が介入した方がいいケースもありますので、悩まれている方は心療内科や保健所などに相談してみてください。
まとめ
マスク依存症は現代病のひとつです。20歳以下の若い世代が、他人との直接的なコミュニケートを避けていることが原因と考えられています。SNS上では積極的に発現したりしていても、現実世界では引きこもっているケースもあります。
他人に無関心になりがちで、マスクをすることに違和感のない「日本」ならではの病気です。今後、マスク依存症は増加していくことでしょう。子どもの頃から、しっかりと他人とコミュニケーションをとる事の重要性を理解させ、対人関係での経験を重ねていくことが重要だと思います。