強迫性障害をご存知ですか?「家のガスの元栓を占めたか心配」「家の鍵をかけたっけ?」などと心配になるのは誰にでもあります。
しかし心配のあまり、家に戻って何度も確認しないと気が済まない、不安感でいっぱいになる、こうなると「強迫性障害」かもしれません。
強迫性障害は、何度も確認するものの他にもいくつか症状があります。どのようなものがあるか一緒に見ていきましょう。そして克服法もご紹介するので参考にしてください。
強迫性障害とは何?
まずは強迫性障害がどのようなものなのか、どういった症状があるのかみてみましょう。
強迫観念と強迫行為
自分では不合理だ、無意味でばかばかしい考えだとわかっているのに考えをやめることができない、イメージが何度も浮かんできて頭から離れない、または何度も確認してしまう状態のことを言います。
不合理な考え、つまり「強迫観念」が何度も繰り返し浮かぶので、それを打ち消すために何度も繰り返す行為を「強迫行為」と言います。
生活していくなかで、あらゆることが強迫観念の対象となる可能性があります。
確かめずにはいられない「安全確認」
ドアの戸締りやガスの元栓、電気など、ちゃんとできているにも関わらず何度も確認してしまいます。ちゃんと家の鍵を閉めたか心配で、出かけたのにまた家に戻ってしまうことがあります。こうやって確認をするということを一度では安心できず、何度も繰り返すという確認行為がやめられない状況です。
家に戻って確認しなくても大丈夫、ガスの元栓はしめたと自分ではわかっているのに、不安感が消えないのです。これは犯罪や火災に巻き込まれたくない、という極度の不安や恐怖感からきています。
何度も確認するので時間がかかってしまい日常生活や仕事、学業にも影響が出てしまいます。
そのほか自分がやったことが完全にできていたか、ミスがあるのではないかと不安が生じてしまい、何度もやった内容を確認しないと気が済まないという確認行為の症状もあります。
汚れ・不潔恐怖
自分の手が汚れている、細菌汚染されているのではないかと思い込む「不潔恐怖」が伴った強迫観念です。何回も、何分も手を洗い続けたり、トイレにいくたびに服を洗濯してしたり、人に近づくことができなかったりします。
ずっと手を洗い続けることで、手荒れがひどくなることもあります。またシャワーを1日に何度も浴びるという人もいます。
潔癖症の人は、ある程度のところでやめることができますが、強迫性障害の人の場合は自分でもばかばかしいと思ってもやめることができません。
人への加害恐怖
現実にはやっていないのにも関わらず、「すれ違った人を傷つけることをしてしまったのでは」という不安が浮かんで消えないという症状です。車の運転をしていて誰か知らない人を轢いたのではないかという不安が浮かぶと、車を停めて確認をしたり、家族に確認を頼んだり、ニュースになっていないか探したりします。
自分でもそんなことはしていないとわかっているのに、不安が消えないのです。不安を消したくて何度も確認するので、外出したり仕事に行ったりすることが困難になってきます。
数字にこだわる
例えば自分にとって縁起の良い数字、色にこだわることがあります。自分のなかで縁起のよい幸運な数字、不運で不吉な数字が決まっていて幸運な数字を街中などで探してしまいます。
また、幸運な数字の回数だけ拍手をする、心の中で唱えることもあります。たまたま不吉な数字に出会うと不吉な不幸なことが起こるのではと不安になります。
また、数や回数が気になって数えないと気がすまず、通勤途中の道で電柱を数えてまた引き返して数え直すなどの症状がみられることがあります。
順序にこだわる
なにかの行為を自分で決めた順序通りにやらないと気が済まず、順序を間違えると最初からやり直すなどして、次のことができなくなります。左足から歩かないと気が済まない、なども当てはまります。こういったことは、健康な人でもありますが強迫性障害の人の場合は、何度もやり直してしまい、時間がかかりすぎて日常生活に支障がでます。またそのことについても「異常行動である」と悩んでしまうのですが、やめることができません。
その他
ほかにも「物を対象に並べないと気が済まない」「寸法に極度にこだわる」「物の位置が気になってしかたがない」という症状がでることもあります。
巻き込み型
1人で不安を抱え込んで強迫行為を繰り返す場合と、自分以外の人に不安解消の手伝いを求める場合もあります。これを「巻き込み型」といいます。例えば、手がきれいかどうかを母親に何度も確認させる、家族全員に手を何度も洗うことを強要するなどの行為です。
不安を解消したいがあまりに場合によっては家族に八つ当たりをしたり、暴言を吐いたりします。巻き込まれて対応する周りの人は大変なのですが、様子がおかしいといち早く気づくということもあります
強迫性障害の原因とは?
長い間、強迫性障害は心理的な原因や環境的・社会的な原因で生じると考えられました。そして几帳面な人、まじめな人、完ぺき主義の人がなりやすいとも指摘されていました。しかし今は否定的になっています。
今は強迫性障害は「脳内の障害」「脳内神経伝達物質の機能異常」を原因とする説が有力と考えられています。
セロトニンという神経伝達物質のバランスが崩れることによって生じるといわれています。セロトニンは脳内の情報を神経細胞から神経細胞に伝える役割をしていますが、なんらかの異常が生じると情報がうまく伝わらなくなると考えられています。このため安全の確認や、不潔や汚れの認識がちゃんと伝わらなくなるのではと考えられています。
ただし他に脳の病気や疾患(脳炎やてんかんなど)で強迫性障害を発症することがあるので、こういった病気の疑いがあるときは病院や医療機関で早めに治療を受ける必要があります。
強迫性障害が起きるきっかけ
性格は関係がない説が有力なので、誰しもがなる可能性があります。発症するきっかけはあるのでしょうか。
特に起こりやすいのが人生における大きな出来事があったときです。例えば進学や受験、就職、または結婚、出産などがきっかけで生じやすいといわれています。他に疲労、怪我や病気などもきっかけとなりやすいでしょう。
ストレスがたまったことで発症してしまうことがあります。オキシトシンという別名愛情ホルモンとも呼ばれるホルモンです。オキシトシンが少なかったりバランスが乱れたりするとストレスを感じやすくなり、強迫性障害を発症しやすくなるといわれています。
強迫性障害の克服方法や治療方法
では強迫性障害に克服方法や治療方法はどのようなものがあるのでしょうか。一緒に見ていきましょう!
薬物療法
まずは薬物による療法があります。強迫性障害の原因として考えられる「セロトニン異常」を調整する働きを持つ薬が用いられます。第一選択薬として「選択的セロトニン再取込阻害薬」SSRIが処方されることが多いでしょう。これは「抗うつ薬」の一種です。
この薬は脳内伝達物質のセロトニンだけに作用します。SSRIの効果はだいたい12週間程度といわれています。12週間服用したのにも関わらず症状が変わらない、効果が出ないというときは異なる薬が処方されます。
その場合は三環系抗うつ剤の「塩酸クロミプラミン」というお薬を使うことがあります。この薬は、脳内の神経伝達物質ノルアドレナリンやセロトニンを増やす作用があります。
注意点としては薬の効果が出るまで、多少時間がかかるということです。また服用量も他のうつ病などに比べて多くなるといわれています。
そのほかにサポートする補助薬として抗不安薬が使われる場合があります。この薬の特徴は即効性があり、頓服として不安や緊張を和らげてくれます。また、少量の抗精神病薬などを追加で処方されることもあります。
薬物治療は医師の指導をしっかり守って行うことが大切です。
漢方薬
薬としては漢方薬が処方されることもあります。漢方薬を飲んだからすぐに強迫性障害が改善されるということではなく、徐々に体質を改善していく効果が期待できます。このため人によっては効果が出る可能性があります。
また副作用が少なめなのもメリットといえます。
処方される例としては
・抑肝散(よくかんさん)
神経の興奮、イライラ、怒りを静める効果、更年期障害や不眠症、子供の夜泣きなど。
・釣藤散(ちょうとうさん)
ストレスで血圧の上がる人、のぼせたり抑うつのある人
・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
神経が高ぶっている人、不安感、不眠の人。また苛立ちのある人。
・半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
喉が詰まった感じがしてすっきりしない人。
・甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)
不安の強い人。体力があまりなく不眠や不安のある人。子どもの夜泣き。
自己判断で漢方薬を買って飲まず、まずは医療機関で相談してから服用するようにしましょう。
認知行動療法
認知行動療法は、心理学を用いた治療方法で薬物療法にならんで効果的であるといわれています。もともとは「認知療法」「行動療法」という治療があり、今は「認知行動療法」呼ばれるようになっています。
「認知」は思い込みや考え、言葉などで「行動」がその名の通り身体を動かすことです。つまり、「強迫性障害」では汚いとか鍵を閉めていないかもしれない、という強迫観念は「認知」で、手を何度も洗う、鍵を何度も確認するのは「行動」ということです。
これらに伴って、強迫性障害の患者さんの身体は疲労感があります。また感情としては不安を覚えています。そしてさらには患者さんの置かれている状況や環境も強迫性障害に関連しています。
認知行動療法はこのなかの「認知」「行動」の2つに働きかける療法です。この2つがうまくいくようになると、他の感情や身体も改善されていくということなのです。
暴露反応妨害法(ばくろはんのうぼうがいほう)が効果的
この治療では「暴露反応妨害法(ばくろはんのうぼうがいほう)」が効果的です。
「暴露」とはいままで避けていた状況や状態にあえて向き合うことです。そこで恐れがないことを学習し、受け止めるのです。「不安」を避けずに自分自身を曝すということなのです。
患者さんをあえて強迫反応の出やすい状況に対面させます。そして、「反応妨害」といってこれまで行っていた強迫行為をできるだけ行わないように指示をします。患者さんの不安が徐々に、そして自然に減っていくことを体験し実感するのです。
例えば、不潔なことに耐えられず何度も手を洗う患者さんがいたとします。
あえて、いつもはどうしても入れなかった公衆のお手洗いに入ってもらい、そのあと何分も手を洗うのを行わない、という流れです。こういったことを何度か繰り返していきます。
森田療法
「森田療法」という治療法があります。これは精神科医「森田正馬(もりたまさたけ)」によって1919年にはじめられた精神療法です。
対人恐怖症や広場恐怖症、またこの強迫神経症に対して高い治療効果を今まで上げてきています。ほかにもパニック障害や全般性不安障害、うつ病などにも有効だといわれています。
基本的な考えは「不安はあるがまま」にしておくということです。不安はあって当然ということです。不安を消そうとすればするほど、かえって不安感が強くなるのは、普通の人でも経験することですよね。意識すればするほど不安は強くなるのです。
森田療法では不安をそのままにしておき、あえて消さないのです。そして不安の裏にある自分の欲望に前向きに向き合って、エネルギーに目を向けるという考えです。失敗してもチャレンジすることで少しずつ自信がついてくるのです。
不安な気持ちはそのまま無理に消さず、とにかく目的をもって行動する、ということです。そして神経質なところがあってもそれをそのまま受け入れること、これが大切なことです。
森田療法は独学ではなく、精神科医や臨床心理士など医療者に相談して行う方が効果的でしょう。
カウンセリング
臨床心理士やカウンセラー精神科医など、専門家のもとでカウンセリングを受けるのも治療方法の一つです。
1人で悩んでいたことでも、話すことで解決への第一歩になることがあります。強迫神経症の方の場合は、「臨床心理士」という資格を持ち、精神科での臨床経験のある専門家にカウンセリングを受けるようにしましょう。
カウンセリングを受けるなかで、認知行動療法を受けることができる場合もあります。
またカウンセリングのメリットは、家族の相談にも応じてもらえることが多いことです、本人がどうしても家から出られない場合など、相談しに行けるのは心強いですね。
強迫性障害への対処方法
強迫性障害が起きてしまったときはどうしたらいいのでしょうか。まず大切なのは1人で悩まないということです。なるべく早く専門医や臨床心理士に相談するようにしましょう。
強迫観念が起きてしまったときは、無理に否定せず受け入れる練習をするほうが効果的といわれています。
不安を打ち消そうとしても、次から次への不安はわいてくるので効果がないからです。まずは不安を受け入れるて慣れることが大切です。これが強迫性障害対応の鉄則です。
また、強迫性障害が栄養不足によって脳のセロトニンが減ったことも関連すると言われています。日頃からアミノ酸やビタミン、ミネラルが豊富な食事をとるように心がけましょう。
トリプトファン、ビタミンB6、鉄分を取るように心がけます。トリプトファンは大豆製品、乳製品、玉子、バナナ、ビタミンB6は魚やバナナ、大豆やレンズ豆、玄米などです。鉄分はレバーや魚、小松菜、やパセリなどに多く含まれています。
ストレスを軽減するためにアロマでリラックスするのもおすすめです。イランイランのアロマが効果的といわれています。甘い香りが、過度に興奮して緊張した気持ちや不安感を癒してくれます。また眠れない時にも効果があるといわれているのでためしてみてください。
家族に患者さんがいる場合
家族に強迫性障害の患者さんがいる場合はどうしたらいいのでしょうか。
家族はまず強迫性障害の特徴や症状がどういうものかを知っておきます。そして強迫行為をやめるように説得したり、強迫観念について「大丈夫だよ」などと声をかけたりするのは避けます。本人が一番つらく、ますます不安を増してしまうからです。
また家族が巻き込まれるパターンの場合は、悪化していく恐れがあるので巻き込まれないようにしておきます。最初は巻き込まれていたのに途中でやめると、患者さんが感情的になったり抵抗したりする恐れもあります。
対応が難しい場合もあるので、早めに専門家に相談するようにします。
まとめ
強迫性障害に患者さんは、自分でばかばかしいことだとわかっているのに手を洗ったり確認したりすることがやめられず苦しい思いをしています。1人で悩んでいる方もかなりいます。
日常生活や社会生活にも大きな影響があるので、なんとか克服していきたいと思っています。
また家族に強迫性障害の方がいる場合は、家族全員が心配し対応法などに困ったり悩んだりしていることも多いようです。
まずは1人で悩まずに、専門のクリニックや医療機関に相談することが大切です。そこでよく相談し治療をしていきましょう。さらにご家族の対応方法なども指導してもらうと、患者さんも安心ですよね。
それにプラスして、自分でできそうなことを少しずつやっていくようにしていきましょう。無理をせず焦らずに少しずつ治療をしていくことが大切です。