お腹の中の赤ちゃんの異常として、赤ちゃんが生まれる前に告げられることがある病気の一つに臍帯ヘルニアがあります。臍帯ヘルニアは、胎児の腹壁(お腹の壁)が正しく作られず、腹壁の穴から臍帯(へその緒)の中に、胃や腸、肝臓が出たまま生まれてきてしまう病気です。
この記事では、お腹の赤ちゃんに臍帯ヘルニアがあると分かった時に、知っておきたいことについて詳しくまとめます。
この記事の目次
臍帯ヘルニアってどんな病気?
臍帯ヘルニアは、胎児の腹壁に穴を通じて臍帯の中に臓器が入ったまま生まれてきてしまう赤ちゃんの病気です。臍帯は赤ちゃんの体の外にありますので、臍帯ヘルニアでは、腸管などの臓器が赤ちゃんの腹腔外(お腹の外)に出ていることになります。
臍帯ヘルニアの頻度はあまり多くはなく、その頻度は、1万人の新生児に対して1〜2人と言われています。殆どの例で胎内にいる間に、胎児超音波検査などで診断され、妊娠中のお母さんに診断が告げられます。
胎児の腹壁は、お母さんの子宮の中で胎生5週以前(妊娠7週以前)に作られます。胎生初期のころは、腹壁は赤ちゃんのおへそところで臍帯と交通しており、腸管は臍帯の中で大きく長く育った後、胎児の腹腔内(お腹の中)に入り込んできちんと還納されます。臓器の還納が終わると、腹壁は閉じて、臍帯との交通がなくなります。このため、通常は、出生時の赤ちゃんの臓器が腹腔外にでていることはありません。
ところが、腹壁ができる時期になんらかの障害が起こると、腹壁と臍帯の交通部分の穴がきちんと閉じず、腸管が胎児の腹腔内に還納できなくなったり、還納できても、また臍帯の中に出て行ったりしてしまいます。このように、腹壁が完全に閉じないで臍帯のところに穴が残り、臍帯の中に胃や腸、肝臓などが入った状態で生まれてくる病気が臍帯ヘルニアです。
臍帯ヘルニアの場合、臍帯の中の臓器は羊膜(ヘルニア膜)や腹膜により被覆されていることが普通で、臓器がむき出しのことは少ないですが、臍帯が破裂して羊膜にも腹膜にも被覆されず、脱出していることもあります。臓器がむき出しですと、出生後、臓器が乾燥したり、感染症に懸かったりしやすくなるので、この場合は、より迅速な対応が求められます。
臍帯ヘルニアでは10〜40%に染色体異常を伴い、染色体異常と泌尿生殖器、中枢神経系などの重症奇形の合併も合わせると、50~80%に何らかの先天性の異常があります。
臍帯ヘルニアは、臍帯のどの部分に穴があるかによって、臍上部型、臍部型、臍下部型の3種類に分類されます。最も頻度が高いのは臍部型で、臍部型では泌尿生殖器や中枢神経系の重大な奇形は少なめです。ただ、臍部型では、穴が大きい(5cm以上)ことが多く、腸管だけでなく肝臓も出ていることがあり臍帯ヘルニア自体は重症である例が多いです。臍部型で穴が小さめの場合は重大な奇形は少ないものの腸の奇形を伴うことがあり、治療の時の確認がより重要になってきます。
臍上部型、臍下部型は臍帯ヘルニア全体での頻度はあまり高くありませんが、重大な奇形を伴うことが臍部型よりも多いです。
臍帯ヘルニアと似た病気、似た名前の病気
症状が似ている病気を紹介します。
腹壁破裂
臍帯ヘルニアと似た病気に、腹壁破裂があります。腹壁破裂は胎生5週以降(大部分は胎生8週以降)に腹壁右側の不全形成部分(形成の段階で不完全に作られてしまい、弱くなっている部分)が破れて小腸や大腸が脱出したものです。腹壁不全形成自体は胎生5週以前におこりますが、不完全ながらも一旦腹壁ができてから破れ、臓器がとび出すのが腹壁破裂です。
臍帯ヘルニアでとび出した臓器がむき出しのことが少ないのとは対照的に、腹壁破裂では羊膜が欠損しているの特徴です。腹壁破裂では臓器が羊膜などで覆われずにむき出しになっているだけでなく、脱出している臓器が多いのも特徴的で、特に小腸と大腸は全部分が脱出していることが多いです。腹壁破裂の場合、臓器が膜で覆われていないので、臓器の乾燥や感染対策など、通常の臍帯ヘルニア以上に迅速な対応が必要ですが、合併する重大な奇形や染色体異常は少ないです。そのため、腹壁破裂の症例全体での予後は臍帯ヘルニア症例全体の予後よりも良いようです。
腹壁破裂も臍帯ヘルニアと同じように、生まれる前に見つかるものが殆どですので、赤ちゃんがこの病気を持っていると診断された場合、お母さんは、治療が速やかに開始できる病院に入院して、準備を整えた状態で出産に臨む必要があります。
臍ヘルニア(でべそ)
名前が似ている病気に臍ヘルニア(でべそ)があります。臍ヘルニアは、生まれた時は何もないように見えていたのが、臍帯(へその緒)が取れた後、泣いたりいきんだりした時に、おへそがとび出してくることで見つかります。
腹壁と臍帯との交通がなくなり、腹壁が閉じた後も、臍帯真下(おへその真下)の筋肉には隙間があり、開いた状態です。出生までには、通常、これらの筋肉の靭帯が閉じ臍輪になりますが、臍輪が出生までに閉じきれなかった場合、泣いたりして腹部に圧力が加わると、臍輪から腸管がとび出して、「でべそ」の状態となるわけです。このでべそを、臍ヘルニアと呼びます。臍ヘルニアは90%が1歳になるまでに特に何もしなくても自然に治りますが、1〜2歳を過ぎても自然に治らないときは手術をすることもあります。また、とび出した腸管が腹腔内に戻らず、嵌頓してしまった場合には、年齢にかかわらず手術で修復します。
臍帯ヘルニアの原因
臍帯ヘルニアの原因について紹介します。
腹壁形成不全説
胎生3週目(妊娠5週目)になると、外胚葉、中胚葉、内胚葉の3枚の胚葉が形成されます。胚葉が形成されるこの胎生3週以降から、胎生8週(妊娠10週)までは、器官形成期といわれ、薬剤、放射線、ウイルス感染などの催奇形因子の影響を受けやすく、形態異常を引き起こしやすいことが知られています。
腹壁の皮膚は外胚葉から、腹壁の筋肉と腹膜は中胚葉からできます。外胚葉と中胚葉が腹壁へと分化するのは胎生3~4週頃(妊娠5〜6週頃)で、この時期になんらかの理由によってその形成が障害されると、腹壁が閉じる頃になっても閉鎖できなくなります。
腹壁形成不全説は、腹壁がうまく形成されず、形成不全の起こった部分が穴として残る場合に臍帯ヘルニアが引き起こされるという説です。肝臓などの臓器が大きく飛び出ているような臍帯ヘルニアや、臍部型のヘルニアはこちらが原因だと考えられています。
腸管腹腔内還納不全説
先にも触れましたように、腸管の一部は、もともと臍帯の中で成長します。内胚葉でできた袋(卵黄嚢)から前腸と後腸の突起が一対現れ、お互い近づいて接合した部分が中腸になるのですが、発生中の中腸からは、小さい卵黄嚢が臍帯内へ膨れ出しており、中腸ループは臍帯内で長く大きく成長します。
中腸ループの成長は突然かつ急激で、胎児の腹腔内では育ちきれないため、一旦体外で育つ必要があるのです。胎児の体が充分大きくなり、中腸と卵黄嚢との連絡がなくなる胎生8~10週頃になると、臍帯にあった腸管は腹腔内に還納され、この後、腹壁が閉じます。
腸管腹腔内還納不全説は、臍帯にあった腸管の腹腔内帰納が不全なまま胎児の成長が進み、臍帯ヘルニアが引き起こされるという説です。こちらは小さめの臍帯ヘルニアの原因だとされています。
なお、臍帯にあった腸管が腹腔内に戻る時に、中腸ループの2つの脚部が反時計回りに回転して、盲腸になる中腸ループの位置が腹腔の右下方へと移動するのですが、分類や大きさに関係なく、ほぼ全ての臍帯ヘルニアで腸の回転異常を伴うのはこのためだと言われています。
臍帯ヘルニアの治療は?予後は?予防方法は?
臍帯ヘルニアは、生まれる前に胎児超音波検査よって診断される(出生前診断)ことが殆どです。出生前診断がついている場合には、あらかじめ新生児に対する手術ができる専門医と設備の整った病院でお母さんが子供を産めるよう、入院しておく必要があります。また、生まれる前には臍帯ヘルニアの存在が分からず、生まれてから分かった場合(出生時/後診断)は、速やかな新生児の搬送が必要になります。
臍帯ヘルニアの治療の基本的な考え方は、手術で腹腔外(お腹の外)に出ている臓器を腹腔内(お腹の中)に入れ、中の臓器が出てこないように、開いている腹壁を閉じることです。手術の方法や治療にかける期間は、赤ちゃんの状態、ヘルニアのタイプ、外に出ている臓器、そしてその他の合併症などを考慮して決定します。
治療開始時期
臍帯ヘルニアにおいて、腸管等の臓器は羊膜(ヘルニア膜)および腹膜に包まれて臍帯内に脱出あるいは留まっていることが多く、むき出しになっていることは少ないです。そのため、臓器が包まれている膜を清潔に保つことができれば、生後24時間くらいまでは、準備が整うまで手術を待つことができます。ただし、羊膜や腹膜が破れていて、臓器が脱出している場合には、すぐに人工膜などで覆い、直ちに治療を開始する必要があります。
臍帯ヘルニアでは、とび出した臓器を包んでいる羊膜や腹膜を、特殊な薬液によって上皮化させることが可能です。上皮化に成功した膜は普通の皮膚と大差ない役割を果たしますので、1年以上の長きに渡って、腹壁ヘルニアの手術を待機することもできるようになります。
治療に要する期間
治療に要する期間は、臍帯ヘルニアの程度や、合併している症状、赤ちゃんの状態によって変わり、その期間は1日以内から1年以上と幅があります。
例えば、腹腔外に出ている臓器が少なく、出生後24時間以内に治療が開始できれば、1回の手術で腹壁を閉じることが可能です(一期的修復術)。
しかし、出ている腸管が多い場合や、腸管の他に肝臓も出ている場合は、出ている臓器を特殊な膜や布で覆い、その膜や布を何回かに分けて絞り込んで、少しずつ臓器をおなかの中に入れます(多期的修復術)。多期的修復術の場合は、赤ちゃんの体が大きくなるのに合わせて、1~2週間かけて臓器を腹腔内に入れ、最終的に腹壁を閉じますが、臓器を入れるにつれ、腹圧や横隔膜、静脈の循環などが変化するので、そのバランスも取らなくてはならず、単純に出ているものを入ればよいというわけではありません。
臍帯ヘルニアの場合、先天性心疾患などを合併していることも多く、赤ちゃんの体の調子(全身状態)が良いとは限りません。全身状態が悪い時に手術をすると、手術そのもので赤ちゃんが命を落とすこともあるので、臍帯ヘルニアのヘルニア膜を特殊な薬液で上皮化させて腹壁の一部のようにした上で、心臓等の重要臓器の治療を優先させ、1年以上待機した後に臍帯ヘルニアの手術を行うこともあります。
なお、手術の跡は、一期的修復術では、おへその形成もきれいにできて、病気がない状態で生まれてきた子どもと見分けがつかなくなることも多いですが、治療の期間が長ければ長いほど、手術の傷跡は複雑で、おへその形成も難しくなる傾向があります。
臍帯ヘルニアの予後
一口に臍帯ヘルニアと言っても、臍帯ヘルニア自体の重症度が低いもの高いもの、染色体異常あるもの、重症奇形の合併のあるもの、染色体異常と重症奇形の両方があるもの、染色体異常も重症奇形もないものと様々で、これをひとまとめにした予後についての研究は、日本国内ではみつけることはできませんでした。
アメリカ合衆国では、1995年から2005年の11年間での出生に見られた臍帯ヘルニアに関する研究が行われています。それによると、臍帯ヘルニアを持ってきた子どものうち、生後28日以内に亡くなったのは28.7%で、観察期間中に亡くなった子供の75%を占めていたということです。逆に言えば、28日を超えて生きられた子どものうち、観察期間中ずっと生きられた子どもは85%以上いたということになります。
日本国内で、予後に関しての統計や疫学的な研究はないようですが、小児外科分野での症例報告はいくつもあります。原文が手に入る限りの症例報告を1つ1つ読んだところ、臍帯ヘルニアの場合は臍帯ヘルニアそのもので死亡する例よりも、心臓奇形や中枢神経系の奇形、染色体異常など、臍帯ヘルニア以外の疾病を原因として亡くなっている例が殆どのようです。逆に臍帯ヘルニアそのものが重症であっても、治療が成功したとの報告はいくつもあり、このことから、染色体異常もその他の奇形もない臍帯ヘルニアの予後は、臍帯ヘルニア自体がかなり重症であっても、良好であると考えていいのではないかと思われます。
小児外科分野で症例報告されている論文中でも、このように考察/結論づけされているものが多いです。ただ、症例報告では失敗した報告よりも成功した報告の方が多くなりがちなので、バイアスがかかっている可能性もあります。
臍帯ヘルニアに予防方法はあるの?
残念ながら両親や医療従事者の努力や工夫では防げません。
男の子だと1.2倍、双子や三つ子などの多胎妊娠だと2.2倍と、発生の危険性が上がることは分かってはいますが、男の子を避け、多胎妊娠を避けたとしても、臍帯ヘルニアが起こるときは起こります。臍帯ヘルニアの病気をもって生まれてくるのは、誰のせいでもありません。
お腹の赤ちゃんが臍帯ヘルニアだと診断されたら
臍帯ヘルニアになるかどうかは、胎生8週(妊娠10週)までに決まってしまうのですが、臍帯ヘルニアがあるかどうかの診断にはもう少し時間がかかり、妊娠20週くらいの胎児超音波検査で診断されることが多いようです。
この時点で、臍帯ヘルニアなのか腹壁破裂なのか、はっきりとは分からないこともありますが、臍帯ヘルニアであっても腹壁破裂であっても、赤ちゃんが生まれる前に、お母さんが新生児科と小児外科の専門医がそろった施設の整った病院に入院する必要があります。
臍帯ヘルニアは、染色体の異常や重症奇形、合併症があるかないかによって、治療や予後が大きく変わりますが、染色体の異常や重症奇形も、大抵のものは出生前にわかります。したがって、専門医のそろった病院であれば、奇形や合併症などを含めた病気のことや、生まれてから赤ちゃんの治療が始まるまでの流れ、治療期間の目安などの説明を、「赤ちゃんが生まれてくる前に」受けることが可能なのです。
つまり、お腹の赤ちゃんの臍帯ヘルニアを予防したり、奇形や合併症を防いだりはできませんが、臍帯ヘルニアを抱えた赤ちゃんをできる限り万全の体制で迎えることはできるということです。そのためには、まず、専門医から説明を受けて「知る」ことから始めるのが現実的でしょう。正しい知識を持つことが、臍帯ヘルニアを持って生まれてくる赤ちゃんを助けることにつながります。
まとめ
臍帯ヘルニアについて
・臍帯ヘルニアとは、胎児の腹壁に穴があり、臍帯の中に臓器が入ったまま生まれてきてしまう病気
・治療は、腹壁の外にある臓器を腹壁内に戻し、腹壁を閉じる
・予後は、合併症や奇形のない臍帯ヘルニアの予後は比較的よいらしい
お腹の赤ちゃんが臍帯ヘルニアだと診断されたら
・臍帯ヘルニアの診断を受けたら、 赤ちゃんが生まれてくる前に、病気のことや治療、治療期間の目安などの説明を専門医から聞いておきたい
以上が今回の記事のまとめになります。臍帯ヘルニアを持つ赤ちゃんを迎える方の準備に、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。