歌舞伎症候群の症状を知ろう!原因、治療法、診断方法は?似ている病気も紹介!

歌舞伎症候群という病気を聞いたことがあるでしょうか?

歌舞伎症候群は、歌舞伎役者の隈取のような切れ長の目を伴う顔貌が特徴的な先天性奇形症候群の1つです。歌舞伎症候群は英語でもKabuki Syndrome と呼ばれ、そのネーミングからもわかるように、日本人によって最初の症例報告がなされました。

ここでは、歌舞伎症候群と、その特徴、原因、治療法、診断基準、予後などについて一緒に見ていきましょう。

歌舞伎症候群(新川ー黒木症候群)とは?

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歌舞伎症候群は1981年10月に黒木らと新川らが、The Journal of pediatricsという学術雑誌に別々に報告した先天性奇形症候群です。

この雑誌の10月号の565–569ページでは、新川らがこの病気を「歌舞伎メイクアップ症候群」として、570–573ページでは、黒木らが「切れ長の目や大きなをもつ新しい奇形症候群」として、それぞれ論文を掲載し、そのため歌舞伎症候群は新川-黒木症候群とも呼ばれます。

歌舞伎症候群の症状

歌舞伎症候群は、頻度が32,000に1人と非常に少なく、さらに、1981にその病気の存在が発表されてからまだ35年ほどしか経っていないため、現在までにこの病気の人は、国内外で400人程度しか報告されていませんが、どのような症状があるのか、だんだんわかってきています。

特徴的な顔貌

特徴的顔貌である「下眼瞼外側1/3の外反による切れ長の眼瞼裂、弓状で幅広い眉毛、押しつぶされた鼻尖を伴う短い鼻柱、大きく突出した耳(またはカップ耳)」は、歌舞伎症候群の診断名で医療費助成受ける際の診断基準の一部でもあり、歌舞伎症候群の殆ど全ての人にみられます。

眼科的所見

特徴的な切れ長の眼瞼裂を呈す他、多彩な眼科的所見を認めることができます。例として、青色強膜(薄い強膜を通してぶどう膜が透けて、強膜が青く見える)、斜視、眼瞼下垂、ぶどう膜欠損、虹彩と角膜の癒着、視神経形成不全、白内障、網膜色素変性症などがありますが、重症な視覚障害はあまりありません。

耳鼻咽喉科的所見

大きく突出した耳(またはカップ耳)の他、耳瘻孔、内耳奇形が見られます。また、歌舞伎症候群の40%に伝音性難聴が認められます。難聴の主な原因に慢性中耳炎がありますが、慢性中耳炎が、口唇裂や口蓋裂のためなのか、易感染性のためなのかは明らかではありません。

歌舞伎症候群の1/3に口唇裂や口蓋裂がみられます。また、口蓋の異常を持つほとんどすべての歌舞伎症候群の人に慢性中耳炎がみられます。

歯科学的所見

歌舞伎症候群をもつ人に、多種多様な歯の奇形も知られてます。最もよく見られるのは、小臼歯や側切歯、中切歯の欠損を伴う歯牙低形成です。歯列不正や不正咬合、歯の形態異常(栓状歯、矮小歯)、構造異常(エナメル質減形成)も報告されています。

先天性心疾患

歌舞伎症候群の約50%は、大動脈縮窄症、心室中隔欠損、心房中隔欠損などの先天性心疾患を合併します。先天性心疾患は一般の新生児には約1%にしか認められません。

消化器系の所見

鎖肛、肛門前庭瘻の消化器系の奇形は女児に多く見られます。先天性横隔膜ヘルニアと横隔膜弛緩症、横隔膜挙上など横隔膜の異常も見られ、また、新生児胆汁うっ滞も増加するとの報告があります。

泌尿生殖器の所見

歌舞伎症候群の約30%に馬蹄腎、融合腎、重複尿管などの腎尿路奇形がみられます。また、男児では尿道下裂、小陰茎が、女児には陰唇低形成が認められることがあります。

筋骨格系の所見

歌舞伎症候群の約50〜75%に関節の過度可動性がみられ、関節の脱臼が起こりやすくなります。また、椎骨奇形(半椎、蝶形椎、矢状裂)もみられ、脊柱側弯や脊柱後弯も多く認められます。

胎児期遺残である指尖の膨らみは、歌舞伎症候群の病名で医療費助成を受ける際の診断基準にの症状1つで、この病気のほとんどにみられます。

免疫系の所見

歌舞伎症候群の約80%に、何らかの低ガンマグロブリン血症があると報告されており、易感染性があります。

脳神経系の所見

歌舞伎症候群の子どもの約50%の筋緊張低下を認めますが、成長と共に改善します。また、約20%にてんかんやけいれんがみられ、薬物療法で良好にコントロールすることが可能と言われていますが、実際には難治性のものも多くあります。

歌舞伎症候群では、重大な脳の構造異常や奇形は稀ですが、キアリ奇形 I 型(小脳扁桃の頸椎管内への嵌入)は比較的多く見られます。

成長と発達

新生児は正常分娩で生まれることが多く、新生児期は正常時と同じように成長しますが、出生後まもなく、約半数に成長障害がみられ、歌舞伎症候群の多くで低身長が認められます。また小頭症を持つ人が多いのも知られています。

知的障害の有無や程度についての報告は様々で、この病気が見つかったばかりの頃は90%近くに軽度から中等度の知的障害や精神発育遅滞があると言われていましたが、最近は20%近くが正常な知能を持つとしている報告もあります。

歌舞伎症候群の治療

歌舞伎症候群は、遺伝子の変化が原因なので、病気自体を根本的に治療することはできません。例えば、先天性心疾患があればそれに対する手術を、てんかんがあれば薬物療法を、易感染性があれば感染症対策を、それぞれの症状に合わせて、一つ一つ対処していくことになります。

歌舞伎症候群の原因

歌舞伎症候群は新しく認識された病気で、その原因が全て分かっているわけではありません。現在わかっている原因遺伝子は2つあり、1つはKMT2D遺伝子(以前はMLL2と呼ばれていました) で、もう1つは KDM6A遺伝子です。KMT2D遺伝子またはKDM6A遺伝子に変異があれば、歌舞伎症候群の診断はほぼ決定します。現在、歌舞伎症候群の約70%はKMT2Dを持ち、約20%はKDM6Aを持つことが知られています。しかし、歌舞伎症候群の人の中には、これらの遺伝子が2つとも正常な人が10~15%いて、その患者さんについての原因は不明です。

なお、KMT2Dはリジン(K)特異的メチルトランスフェラーゼ2Dで、ヒストンのメチル化に関与する遺伝子、KDM6Aはリジン(K)特異的デメチラーゼ6Aで、ヒストンの脱メチル化に関与する遺伝子です。ヒストンは染色体を構成する主要タンパクで、DNAに結合してDNA分子を折り畳み、核内に格納する役割をもっており、メチル化(アセチル化、リン酸化、ユビキチン化)されたり、脱メチル化(脱アセチル化、脱リン酸化、脱ユビキチン化)されたりすることで、遺伝子発現など、染色体機能を調節します。

歌舞伎症候群の診断

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診断基準

歌舞伎症候群の共通した診断基準は確立されていませんが、医療費助成対象疾病(指定難病)であるため、厚生労働省が定める助成金給付支給認定のための診断基準は存在しますので、以下に示します。

助成金給付支給認定のための診断基準


主要臨床症状 1 より歌舞伎症候群が疑われ、原因遺伝子(KMT2D 遺伝子(別名:MLL2 遺伝子)・KDM6A 遺伝子等)に変異を認めれば歌舞伎症候群と診断が確定する。変異を認めない場合もあり、乳・幼児期から下記の症状を全て満たせば臨床診断される。

Ⅰ.主要臨床症状
1.下眼瞼外側 1/3 の外反・切れ長の眼瞼裂を含む特徴的な顔貌
2.指尖部の隆起
3.精神発達遅滞


厚生労働省 平成27年7月1日施行の指定難病(新規・更新)187 歌舞伎症候群 より抜粋

鑑別診断

歌舞伎症候群に似た病気には、以下のようなものがあります。いずれも遺伝子異常による先天性奇形症候群です。

チャージ症候群

CHD7遺伝子の突然変異が原因の先天性奇形症候群で、Coloboma(眼組織の異常欠損), Heart defects(心障害), Atresia of choanae(後鼻孔閉鎖), Retarded growth and development(成長発達遅滞), Genital abnormalities(性ホルモン異常), and Ear anomalies(耳の異常)の頭文字より名付けられた症候群です。歌舞伎症候群でみられる特徴的顔貌と指尖の膨らみはチャージ症候群にはみられません。

22q11欠失症候群

第22番染色体長腕q11.2の微細欠失を原因とする先天性奇形症候群で、独特な顔貌、口蓋裂、先天性心疾患と尿路異常が主な症状です。独特な顔貌は、小さな口、小さな顎、はれぼったい瞼、やや離れた眼、耳介の下方付着が特徴的です。

22q11欠失症候群でみられる顔貌と、歌舞伎症候群でみられる顔貌は、ほとんど共通点がなく、見分けることは難しくありません。

ディ・ジョージ症候群

上述の22q11.2欠失症候群の1つですが、副甲状腺低形成による低カルシウム血症、胸腺低形成、先天性心疾患(ファロー四徴症、心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、総動脈幹症、大動脈離断症など)を特徴としています。

胸腺の提携性など、共通する部分もありますが、先天性心疾患や顔貌に共通点がありません。

鰓耳腎症候群

常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性疾患の先天性奇形症候群で、EYA1遺伝子変異が約40%の頻度で認められます。

EYA1は生体内で鰓原性器官と腎の発生に関与し、鰓耳腎症候群では、鰓原性奇形(大きな耳やカップ耳、頚瘻孔など)、種々の難聴(伝音性、感音性、混合性いずれもありうる)、そして腎尿路奇形の3つが認められます。歌舞伎症候群と共通する奇形もありますが、特徴的な顔貌はみられません。

アペール症候群

FGFR2のSer252TrpまたはPro253Argの変異がみられるものが98%以上を占める遺伝性の先天性奇形症候群です。複数の頭蓋骨縫合早期癒合に、顔面・上顎骨、手指・足趾、四肢の先天性形成不全を合併しています。

特徴的な顔貌を伴うため、頭蓋顔面異常とよばれることもありますが、歌舞伎症候群でみられる特徴的な顔貌とは、ほとんど共通点がなく、見分けることは可能です。

詳しくは、アペール症候群とはどんな病気?症状・原因・治療法・病気との向き合い方を知ろう!を参考にしてください!

ウィリアムズ症候群

7番染色体(7q11.23)の微細欠失による先天性奇形症候群で、成長と発達の遅れ、視空間認知障害、心血管疾患(特に大動脈弁上狭窄)、高カルシウム血症、顔貌の特徴などがみられます。

ウィリアムズ症候群に特異的な顔貌は妖精(エルフ)様顔貌とも呼ばれ、小さな頭、上向きの鼻、目の下の膨らみ、尖った顎などが特徴的で、歌舞伎症候群のものとは異なります。

詳しくは、ウィリアムズ症候群の特徴を紹介!生活に必要なサポートは?を読んでおきましょう。

エーラスダンロス症候群

皮膚、関節、血管など結合組織が脆弱性が特徴の遺伝性疾患の先天性奇形症候群です。皮膚の脆弱性(易裂性、萎縮性瘢痕)、関節の脆弱性(関節の過可動性、脱臼しやすい)、血管の脆弱性(内出血しやすい)などの症状がみられます。

エーラスダンロス症候群では、結合組織の脆弱性が中心で、歌舞伎症候群とは異なり、見てすぐわかるような形態的な奇形はほとんどないのが特徴です。

詳しくは、エーラスダンロス症候群とは?症状・原因・治療法を紹介!を読んでおきましょう。

コルネリア デ ランゲ症候群

側弯、成長障害、貧血、先天性心疾患、呼吸器感染、特徴的な顔貌が特徴の遺伝性疾患の先天性奇形症候群です。側湾や成長障害、先天性心疾患などは歌舞伎症候群と共通する部分もありますが、特徴的な顔貌は、濃い両側眉癒合、長くカールした睫毛、長い人中などで、歌舞伎症候群のものとは異なります。

歌舞伎症候群は遺伝するの?

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遺伝はするが、ほとんど孤発

歌舞伎症候群は常染色体優性遺伝しますので、歌舞伎症候群の人と歌舞伎症候群でない人の間の子どもが歌舞伎症候群の遺伝子を持つ可能性は50%です。

しかし、実際には、現在認識されている歌舞伎症候群のほとんど全例が孤発で、親から遺伝したものではなく、遺伝子の突然変異によるものです。具体的には、両親の両方にKMT2D遺伝子に異常がなく、子どものKMT2D遺伝子だけに異常があれば、それはKMT2D遺伝子の突然変異による病気と断言できますし、そういう例がほとんどであるということです。

そういう例がほとんどであるにもかかわらず、子どもが歌舞伎症候群と診断されると、「誰の遺伝子を受け継いだか」「どちらの遺伝子が突然変異したか」という、全く無意味な問題が発生することがあるため、遺伝性疾患全体に対する正しい理解が必要です。

歌舞伎症候群に限らず遺伝性疾患(遺伝子異常が原因の病気)に対して多くある誤解なのですが、「遺伝性疾患は遺伝したせいで生じる」「親の遺伝子を受け継いだせいで生じる」とい考えは誤りです。親の形質が子どもに伝わることを遺伝といいますが、遺伝性疾患というのは、「遺伝という現象を担っている物質(遺伝子や染色体)の異常によって起こる病気」ということであって、遺伝するとかしないとかそういう概念ではありません。

もちろん、親の異常遺伝子が子どもに伝わる場合もありますが、親が正常でも突然変異によって遺伝子の変化が起こったせいで病気がおこれば、それが遺伝性疾患です。

出生前診断

もしあなたか、あなたの配偶者が歌舞伎症候群患者で、KMT2DやKDM6Aに遺伝子異常があれば、あなたの子どもは50%でKMT2DやKDM6Aに遺伝子異常を持ちます。このようなケースでは、出生前に遺伝子診断を受けることは可能です。

原則として受精卵から個体が発生して以降、遺伝子構成は変化しないので,発生後のあらゆる時期に遺伝子診断は可能です。つまり、絨毛穿刺や羊水穿刺によって得られた胎児由来の細胞からDNAを検査すれば、出生前検査を行うことができます。

出生前診断は、歌舞伎症候群を持つ家族の原因遺伝子が特定されていることが前提条件となります。常染色体優性遺伝ということは、あなたやあなたの配偶者の兄弟や親に歌舞伎症候群がいたとしても、あなた自身やあなたの配偶者自身が歌舞伎症候群でなければ、KMT2D遺伝子異常やKDM6A遺伝子異常はないということになりますので、このケースは出生前検査を受けることができません。

出生前検査が受けられるのは、あくまでも、あなたか、あなたの配偶者が歌舞伎症候群で、かつ、KMT2DやKDM6Aに異常が認められた時のみです。

まとめ

歌舞伎症候群は色々な合併症を伴います。

この病気だと診断されたら、まずはどのような合併症を持っているか調べ、1つ1つに対策をとっていくことになります。同じ歌舞伎症候群でも、合併症の種類や程度は様々で、重症度も個人差がありますので、個人に合った医療を受けることが重要です。

また、精神発達遅滞や成長についても、個人差が大きいため、学校の選択や進路については個別に対応していく必要があります。

  
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