私たちの体の中では意識しなくても、脳が様々な臓器に命令を出して、生命活動を維持しています。多臓器不全という病状は言葉からも推測できるかと思いますが、生命活動に必要な多くの臓器が機能を果たさないことです。
この多臓器不全になってしまうと、生存率は0%~15%と極めて低いと言われ、治療するのがとても難しい病気です。その為、この病状になる前に予防することや早期発見がとても重要になります。この病気の原因や治療方法、また今から出来る予防対策をご紹介します。
多臓器不全について
多臓器不全という言葉を一度は耳にしたことある方もいたり、言葉から想像しやすい病気だと思います。ここでは多臓器不全の概要や発症する原因をご紹介します。
多臓器不全とは?
私たちの体の中は、様々な臓器の働きによって生命活動を維持しています。生命活動に必要な、腎臓、肺、心臓、血管系、消火器、神経系のこれらの臓器のうち2つ以上働きが停止した状態のことを多臓器不全と呼びます。
多臓器不全が起こる原因は?
多臓器不全になる原因はたくさん挙げられます。
重度の感染症、重度のやけどや外傷、大手術を行った場合、ショック、すい臓の炎症、大量出血、敗血症、播種性血管内凝固症候群(DIC)、低血圧、低酸素血症、悪性腫瘍などの多くの原因が挙げられますが、一番多い理由は敗血症などの重度の感染症や低血圧が原因だと言われています。
多臓器不全の主な5つの症状と治療方法は?
多臓器不全と診断される、主な5つの症状をご紹介します。下記のような症状が2つ以上生じた場合に、多臓器不全と診断されます。
肺の機能不全
肺の機能は、酸素を取り込み二酸化炭素を吐き出す働きをします。人は酸素が体の中からなくなってしまうと、窒息死してしまうので、肺は生命活動維持に重要な臓器の1つです。この肺の部分は多臓器不全を起こす方の中でも、一番早く症状が現われる部分だといわれています。
多くの方の場合、肺水腫を伴った低酸素状態に陥り呼吸困難になります。肺には、酸素と二酸化炭素の交換の為に、毛細血管がたくさん張り巡らされています。この毛細血管には、たくさんの穴があいていて、この穴を通じて血液の水分が血管外に染み出すことで、酸素の取り込みや栄養補給、老廃物の交換を行っています。
正常な状態では、血液が染み出す量は一定量ですが、なんらかの原因で染み出す量が多くなると、血液の水分で肺の中が水浸しの状態になります。この病状を肺水腫と呼び、この状態になると呼吸困難に陥る危険があります。
肺の機能が低下すると、以下のような症状がでます。
- 呼吸をしたときに息苦しさを感じる
- 呼吸が浅くなる
- 顔色が悪くなる
- 唇が紫色になる
- 咳や痰がたくさんでる
- 口から血を吐く
上記のような状態が出たら肺機能が低下しているサインですので、要注意です。肺機能が低下し、人工呼吸を必要な状態と判断されると、肺の機能不全と診断されます。肺が機能しなくなると、体の中が低酸素状態になり、様々な機能に影響を及ぼします。
様々な機能や組織に十分に酸素が行き渡らなくなると、それらの組織の働きも不十分になります。
■肺機能不全の治療方法
人工呼吸器を用いたり、人工肺を使い自動的に呼吸できるような処置を行います。
肝臓の機能不全
肺の次に症状が現われやすいのは、肝臓といわれています。肝臓の機能が低下した状態、また停止した状態を肝不全と呼びます。肝臓の主な働き3つあります。
1つ目は、食べ物から摂取した糖やたんぱく質、脂肪を貯蓄し、必要なときにエネルギーとする働き、2つ目はアルコールや老廃物などの体に害のある物質を分解し、無害にする解毒作用の働き、3つ目は胆汁を作り、脂肪の消化吸収を助けるは働きです。
肝不全には、慢性肝不全と急性肝不全の2つあります。急性肝不全の場合は、数日前にはとても健康だった人が、死にそうな状態になるほど症状が急変します。また、慢性肝不全の場合は、数ヶ月~数年といった年月を経て、非常にゆっくりと進行していく為、気付きにくいですが、下記のような症状が徐々に起こります。
■肝不全の主な症状
- 黄疸
- 疲労や脱力感
- 吐き気や食欲不振
- 肝性脳症
- 腹部に体液がたまる腹水が見られる
- あざや出血が発生しやすい
- 出血した場合、出血が止まらない
上記のような状態が出たら肝機能が低下しているサインですので、要注意です。
血清酵素の上昇が見られたり、総ビリルビンの増加、黄疸が見られた場合に、肝臓の機能不全と診断されます。
■肝臓機能不全の治療方法
肝不全の場合、急性のものか慢性のものかで対応は異なりますが、急性の場合は食事療法から始めます。またアルコールの摂取は肝臓に負担をかけるので、禁止されます。欧米では、肝移植が一般的な治療方法ですが、日本では肝移植がまだ普及しておらず、徐々に取り入れられています。
その他の方法では、血漿交換法と呼ばれる人工透析が一般的です。血液中の血漿成分を取り除き、健康な血漿に取替え、また不足している血液凝固因子やタンパク質などを補います。
消化器官の障害
多臓器障害を引き起こす段階で、肝臓の次に障害がでるのが消化器官と言われています。食べ物を摂取した後、消化や吸収排泄するまでの働きを行う器官、口・咽頭・食道・胃・小腸・大腸や肛門のことを消化器官と呼びます。
消化器官の障害としては、腸閉塞(イウレス)や、消化管出血が起こります。それぞれの症状や特徴をご紹介します。
■腸閉塞(イウレス)とは?
口から摂取した食べ物は、胃、小腸、大腸を通り、これらの機能に栄養素の吸収や消化をされ、不要となったものが排便されます。これらの食べ物が、これらの消化器官に留まってしまう状態を腸閉塞と呼びます。
腸閉塞の主な症状は吐き気や嘔吐です。食べ物が留まってしまい、消化器官を圧迫する為、お腹がきりきりと強い痛みが起こりますが、内容物が排便されない為、口から吐き出します。嘔吐するものは、初期の症状では胃液のような白色で酸の強いものを嘔吐しますが、次第に胆汁のような黄色くにがいもの、更に進行すると腸で消化されていた下痢のような茶色い悪臭のするものを吐き出します。
また、時間が経過するにつれて、顔色が悪くなり、冷や汗や体が冷たくなるなどの症状も現われます。腸閉塞については、腸閉塞の症状を紹介!悪化すると死亡することも?を参考にしてください。
■消化器官の出血とは?
消化器官の出血とは、消化器官から出血が起こる障害です。これらの症状は体内で起こっているため、気付きにくいですが、症状の初めの兆候として貧血をおこしやすく、貧血になると疲れやすい、動機、耳鳴りがする、めまいが起こる、立ちくらみをします。次に吐血したり、血便が出たり、黒い色の便を排便することが特徴です。
特に、食道、胃、十二指腸などの場所は、特に大量出血しやすい箇所と言われています。
これらの腸閉塞(イウレス)、潰瘍や出血などが見られた場合に、消化器官の障害と診断されます。
■消化器官障害の場合の治療方法
原因によって治療方法は様々あり、薬物投与や外科的手術などにより対応します。
腎不全
腎臓は体の腰のあたりに左右対称に2つ位置しています。腎臓の主な働きは、血液をろ過して老廃物や毒素を尿に変えて体の外に出す役割をしています。腎臓が機能しなくなると、尿のが出なくなったり、毒素が体に蓄積され尿毒症を引き起こします。
老廃物や毒が体に蓄積すると、血液を介して体全体が疲れやすくなったり、呼吸困難や肺に水がたまるなどの影響も出てきます。主な症状は、疲れやすい、食欲が減少する、貧血気味になる、むくみがでる、息苦しい、出血しやすくなる、尿の量が減るなどが現われます。腎不全は、尿毒症や人工透析の必要性などで腎不全と診断されます。
■腎不全の治療方法
食事療法は、腎不全の方にとって重要な治療方法の1つです。腎臓の負担を減らす為の食事制限を行います。腎不全の方は食事制限の内容が人それぞれ、また時期に合わせても対応が異なるので、内容は医師や栄養管理士と相談しながら決めます。
また、利尿薬、抗生物質、制酸薬などの薬を投与し、様子を見ます。改善されない場合は、透析と呼ばれる、血液を機械に通して、血液中の老廃物や毒素をろ過し、キレイにする方法を行います。
詳しくは、腎不全とは?原因や症状、治療方法を知っておこう!を読んでおきましょう。
血液系障害
本来、血管の中で血液は固まらないような仕組みを持っています。また、出血した際には血液凝固反応がおこり、血液が固まる仕組みがあります。この凝固反応が血管内の様々な箇所で発生することを播種性血管内凝固症候群(DIC)と呼び、この病状が血液系障害として起こります。
主な症状としては、吐血や血尿、鼻血や脳出血などの重症な出血症状や血圧低下によるショック、昏睡状態などの意識障害などが見られます。これらの症状がでてしまうと、死にいたる危険性を伴うので、症状が出る前に早期発見して治療することが重要です。
■血液系障害の治療方法
播種性血管内凝固症候群(DIC)が起こった場合は、血を固まりにくくする薬物を投与します。改善されない場合は、輸血などの処置を行います。
多臓器不全の末期状態になると、これらの5つの症状の他に、神経障害により意識障害やこん睡状態などが見られたり、不整脈や心臓の収縮や弛緩能の働きが低下し、心配停止などと症状が現われ、最終的に死に至ります。
多臓器不全の治療方法とは?
上記で紹介した、これらの症状が3つ以上出てしまうと、残念ながら生存率は0%に近いといわれています。異常が2つの場合は、回復された例もあるので、どれだけ早く予防や発見できるかが、生死の分かれ目になるといえるでしょう。
多臓器不全になった場合の治療方法は主に2つあります。
原因もとの病気を治療する
臓器不全には、重度の感染症、重度のやけどや外傷、大手術を行った場合、ショック、すい臓の炎症、大量出血、敗血症、播種性血管内凝固症候群(DIC)、低血圧、低酸素血症、悪性腫瘍など様々な原因が挙げられます。
その原因となっている病気を最優先して治療することが、他の臓器への影響を最小限にとどめ、多臓器不全を回避できます。例えば癌にかかっている方は、原因もとである癌治療を優先させることが、この多臓器不全への進展しない為の治療手段です。
多臓器不全と診断された臓器の治療をする
多臓器不全の場合は、臓器によって治療方法が異なります。この記事の上部に、症状とともに各臓器に対する対処方法をご紹介しましたが、多臓器不全の場合、1つの臓器の治療に集中しすぎると、その他の臓器に悪影響を与える危険性があります。
その為、医師のそれぞれの判断によって具体的な対応方法は異なってきます。しかし、これらの治療は延命治療にすぎないので、根本的な解決は、原因もとの病気を治療することです。
多臓器不全の予防方法とは?
多臓器不全の主な原因となっているのは、低血圧や感染症です。その為、これらのことを日常から意識して対策することが重要です。
低血圧の予防
朝が弱くすぐ起き上がれない、急に立つとたちくらみがする、頭痛や肩こりに悩んでいるなどの症状が日頃からある方は低血圧の可能性があります。低血圧は、最高血圧が100mmHg以下の場合に診断されます。これらの症状が見られている方や低血圧と分かっている方は、下記の3つのポイントを抑えて、血圧異常の改善をしましょう。
1.自律神経を整える
低血圧を改善するには、自律神経のバランスを整えることがとても重要です。規則正しい生活や適度な運動は自律神経を整えるといわれています。また、ストレスは自律神経を大きく乱すので、ストレスを感じている方は、ストレス解消方法を自分で見つけましょう。
その他、効果的な方法はチラミン成分を摂取することが自律神経を整えるのに効果的です。チラミンは血液収縮作用をもたらし、血圧を上昇させます。チョコレート、ココアなどのカカオ製品や、オレンジ、グレープフルーツ、レモンなどの柑橘系の果物、ヨーグルトやチーズなどの乳製品に多く含まれています。
2.血液の量を増やす
血管の中を流れる血液の量を増やすことで、血圧を高めることができます。血液の量を増やすのに効果的な方法は、適量の塩分をとることと毎日1~2リットルの水を飲むことです。
塩分を摂取すると、血液中にあるナトリウムの濃度があがります。この濃度があがると濃度を調整しようと水分が増え血液量が増えます。この原理を利用して、1日の食事に3g程度の塩を少しプラスするのが理想的だと思います。
また、血液の成分のほどんどは水です。その為、水分を多くとることで血液量を増やすことができます。目安として1~2リットルの水の摂取を毎日心がけてみてください。
3.下半身の筋肉をつける
低血圧は男性より女性に多いといわれ、その原因の1つとして下半身の筋肉不足が挙げられています。血液が流れている際に重力により下に流れてしまう血液を押し戻す力が足りていないといわれ、下半身の筋肉をつけることで改善できると考えられています。
理想的な筋肉の量は、体重に対して筋肉量の割合が男性は約31%、女性は26%です。一度確認してみて、理想の筋肉量に近づけるための適度な運動やエクササイズをしましょう。
上記のことを日常に取り入れてみても、改善されずに症状がひどい方は、循環器科を受診して医師に相談してみてください。
免疫力をあげ、重症感染症の予防
重症感染症とは、敗血症や肺炎などの重度の感染症のことです。風邪やインフルエンザとは異なり、抗生物質を3日間以上投与しても、改善の兆しがみられない感染症のことを重症感染症と呼びます。
大きな手術後の感染症などを防ぐことは難しいかもしれませんが、これらの感染症の予防としては普段から免疫力をあげておくことが予防につながります。
規則正しい生活が一番の免疫力アップに繋がります。また、免疫力を高めるといわれている、生姜、緑茶、唐辛子、ブルーベリーやトマトなどの食材も日頃から取り入れてみましょう。
まとめ
多臓器不全とはとても恐ろしい病気で、発症すると生存率が極めて低くなります。その為、少しでも体に異常を感じたら、病院で診察し早期に発見、治療することで他の臓器への負担や病状悪化を食い止めることが出来ます。
肺炎や低血圧などの一見軽視しがちな症状から、多臓器不全になる可能性もあります。その為、どんな病気でも軽視せずに異常を感じたらすぐに改善することを心がけましょう。
健康診断を定期的に受けたり、普段から免疫力をあげておく努力をすることが重症な病気を防ぐ予防になります。