低酸素脳症はどんな病気?症状や予後、原因は?治療方法も知っておこう!

脳は、身体全体の司令塔です。思考・判断・記憶などの知的作用、感情コントロール、視覚・聴覚などの感覚、運動、生命維持の働きと、あらゆる司令を発する神経中枢です。この脳を支えているのは、多量の酸素です。

脳は、身体全体で使う酸素量の1/4を消費しています。脳が生き続け、活動するためには、多量の酸素を必要とするのです。何かの原因で脳への酸素供給が途絶えてしまうと、脳の活動に支障が出るばかりか、脳細胞が死んでしまいます。脳への酸素供給が十分に行われないために、脳に障害が出た状態を「低酸素脳症」といいます。

心肺停止の状態から回復しても、脳に損傷を受けて深刻な後遺症が出ることがあります。そのため、「低酸素脳症」を「蘇生後脳症」とも言います。

低酸素脳症の原因・症状・後遺症・治療法について、お伝えします。

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低酸素脳症とは?

oxygen-930398_960_720酸素

低酸素脳症とは、循環器系や呼吸器系が不全となり、脳への酸素供給が一定期間十分に行われないで、脳全体に障害が生じる症状です。

脳組織への血流が急激に低下する「虚血」と、血液が脳へ運ぶ酸素量が激減する「低酸素血症」が入り混じっているため、「低酸素性虚血性脳症」と呼ぶこともあります。

[低酸素脳症の原因]

低酸素脳症は、酸素が供給不足になる原因によって、いくつかに分類されます。

脳に酸素を送る働きに障害が起きた

心筋梗塞・重症の不整脈などで心臓が停止すると、脳に血液を送ることができません。また、気道閉塞・喘息発作・窒息・溺れるなど、呼吸器系に障害が起きて、酸素を十分吸入できないと、脳に送られる血液中の酸素量が著しく低下します。頭をぶつけたりして脳に損傷を受けた時も、血流が途絶えて酸素不足になります。

虚血性低酸素脳症・乏血性低酸素脳症・低酸素性低酸素脳症・蘇生後脳症を発症します。

重度の貧血または一酸化炭素中毒

呼吸により取り入れた酸素は肺から血液中に入ります。酸素は赤血球のヘモグロビン(血色素)と結びついて脳に送られます。酸素の供給量は、赤血球中のヘモグロビンの量に比例します。

重度の貧血状態では、ヘモグロビン量が正常値よりもはるかに少なくなっていますから、脳に運ばれる酸素量も低下します。脳が必要とする酸素が不足して、脳全体に障害が起きます。

一酸化炭素は酸素の200倍の速さでヘモグロビンと結合します。一酸化炭素中毒になると、酸素がヘモグロビンと結びつくことができず、脳に運ばれなくなります。脳への酸素供給が著しく低下して、最悪の場合、死に至ります。

貧血性低酸素脳症が発症します。

シアン化物など毒物による呼吸障害

シアン化物(青酸カリなど)には激しい毒性があります。血液中に入るとヘモグロビンと結びつき、シアン化ヘモグロビンとなって、酸素の運搬を阻止します。呼吸中枢を侵して呼吸麻痺を起こさせるので、酸素を脳に供給できなくなります。

組織毒性低酸素脳症といいます。

染色体異常・妊娠中の風疹感染・出産時の事故

低酸素脳症は胎児や新生児にも発症します。「胎児低酸素脳症」です。

染色体異常により、胎児が酸素不足になると「胎児低酸素脳症」となります。出産後も後遺症が出ます。染色体異常は、高齢出産になるほど起こりやすくなります。

妊娠中に風疹にかかると、「胎児低酸素脳症」が発症します。また、妊娠中に母親が服用した薬物やタバコなどの毒物が作用して、「胎児低酸素脳症」が起きることがあります。

分娩時の管理に不備があり、何か事故が起きて、胎児への酸素供給不足になると、新生児に低酸素脳症が発症します。後遺症があります。

その他

低血糖症により低酸素脳症が起きる場合もあります。「低血糖症性低酸素脳症」です。

また、原因不明の急激な酸素不足により、低酸素脳症が起きることがあります。

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低酸素脳症の症状と後遺症

brain-962589_960_720意識障害

低酸素脳症を起こした場合、数秒間で意識がなくなります。脳への酸素供給量が不足しても、成人ならば3~5分以内に酸素供給を再開できれば、軽い障害が出るだけで回復します。軽い障害も改善できます。

しかし、酸素供給不足が5分以上続くと、脳の弱い部分から損傷を受けて、修復できない障害が出ます。

[軽症]

脳への酸素供給不足が3~5分以内に回復した場合は、一時的に注意力や判断力の低下や運動障害など軽い障害が起こります。でも、時間をかければ回復できますし、後遺症も改善できますよ。

脳は回復力がありますから、あせらないでリハビリすることをオススメします。

注意力障害

低酸素脳症になると、意識を回復した後、しばらくは、注意力障害が起きます。全般に注意力散漫になるのではありません。興味や関心の薄い物事に対して、注意力散漫になるのです。仕事中でも勉強中でも、会話中でも、興味のないことには意識を集中できず、「心ここにあらず」という状態になります。

判断力・記憶力の低下

低酸素脳症では、記憶力や判断力などが低下します。最初に気づくのは記憶力の低下です。記憶があいまいになったり、なかなか思い出せなくなったりします。判断力の低下は、記憶力低下にともなって現れます。

判断力が低下すると、あいまいな抽象的な表現を理解しにくくなったり、物事の良し悪しを決めるのに迷ったりします。

協調性運動障害

低酸素脳症では、運動機能が低下します。「協調性運動障害」と言いますが、身体のそれぞれの動きをまとめることが難しくなります。

自転車に乗る・楽器を奏でる・ラジオ体操をするなどの全身運動がぎごちなくなります。うまくできないこともあります。箸を使ったり、ボタンをかけたりなど、手指の動きが不器用になります。

気長にリハビリを続けることで改善できます。

[重症]

脳への酸素供給不足が5分以上続くと、脳の弱い部分から順々に不可逆的なダメージを受けていきます。特に大脳皮質が侵されやすく、1番が大脳皮質第3層、次いで第5層と第6層が損傷を受けることが多く、「層状壊死」が起こることがあります。さらに、大脳基底核・内側側頭葉(海馬)・視床・脳幹が障害を受けます。

大脳皮質には神経細胞が層状に整然と並んでいます。知覚・記憶・推理・思考・随意運動を司ります。海馬は記憶の貯蔵庫であり、空間学習能力に関わります。視床は間脳の1部で、聴覚・視覚・体制感覚などを大脳新皮質に中継します。脳幹は生命を維持する働きを司ります。基底核は、脳幹・視床と大脳皮質を結ぶ神経核の集まりです。感情・認知・動機づけ・学習・運動調節などの働きを司ります。

このように重要な働きを担う脳の部位が障害され、壊死したりすると、深刻な症状が発現します。長く後遺症に苦しみます。

でも、脳は時間をかけて回復する力があります。昏睡状態のような深刻な症状が出ても、諦めないでください。若い人ほど高齢者よりも脳の機能回復が期待できます。

意識障害と昏睡状態

脳への酸素供給が5分以上滞ると、意識障害が起こったり、昏睡状態に陥ったりします。

意識障害には、幻覚や錯乱が起きて状況が正しく認識できない場合と、意識が混濁する場合があります。意識が混濁すると、呼びかけた時だけ目を覚ますが、直ぐ眠ってしまったり、呼びかけなど外部刺激に反応しなくなったりします。最悪、昏睡状態になります。

低酸素症で生まれた新生児は、生まれるとすぐ麻痺が起き、昏睡状態になります。

認知症

記憶障害や判断力障害が起きます。見当識障害が起きると、時間や場所、人の顔がわからなくなります。

運動障害

手足が震えるパーキンソン病のような状態になったり、痙攣が起きたりします。歩行する時によろめいたり、めまいが生じたりします。言葉がもつれて話しにくくなります。

「ミオクローヌス」という運動障害が低酸素脳症の後で起きやすくなります。筋肉や筋肉層の一部または全体が、突発的に素早い不随意運動を起こします。 顔面・上腕部・手・足などの1ヶ所で起きることもあれば、何ヵ所も同時に起きることもあります。横隔膜でミオクローヌスが起きると、シャックリが出ます。

心臓や呼吸の停止

低酸素脳症で生命を維持する働きを司る脳幹が重度な損傷を受けた場合、突然、心臓停止や呼吸停止が起こることがあります。

脳死

酸素供給が滞ると、大脳から脳幹まで不可逆的で回復不可能なダメージを受け、機能が限りなく低下します。脳の全機能が回復できない重度な機能低下を起こした状態を「脳死」と言います。低酸素脳症は、最悪「脳死」に至ります。脳死は「人の死」を意味します。

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低酸素脳症の治療と予防

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低酸素脳症は脳に深刻なダメージを与えるので、素早い対応と予防が大事です。

[低酸素脳症の治療]

低酸素脳症の治療は、一刻も早く酸素不足を解消することが第一です。

できるだけ早く脳に酸素を供給する

低酸素脳症の診断は、CT画像やMRIなどで行われますが、診断に時間をかけてはいられません。一刻も早く、脳に酸素を送ります。

心臓や呼吸が停止している場合は、心拍蘇生を行います。心拍が再開されれば、呼吸が回復し、脳への酸素供給もできるようになります。

低体温療法

心肺停止が起きると低酸素脳症(蘇生後脳症)が起きることがあります。蘇生後脳症では、心臓が動き出した時に、高熱を発し、高血糖になることが多いようです。高熱・高血糖は脳症を悪化させるので、一時的に体温を下げる「低体温療法」を行います。低体温にして、脳の機能を低下させ、蘇生後脳症が進行するのを防ぎます。

近年では、低酸素脳症で心拍再生後も昏睡状態が続く場合、低体温療法が効果的という報告がされています。

ブドウ糖投与

低酸素脳症で生まれた新生児は、ブドウ糖を維持する働きが未熟なので、へその緒を切断すると、ブドウ糖の供給ができなくなります。低血糖に陥り、低酸素脳症を悪化させます。そこでブドウ糖を投与して、体内のバランスを保持するようにします。

[低酸素脳症の予防]

低酸素脳症は、突然生じます。脳に重度の損傷を与えるので、後遺症も深刻です。できるだけ予防に努めることが大事です。

成人ならば、心臓や血管などの循環器系、呼吸器系に持病がある場合、持病が進行しないように健康管理に注意します。貧血の状態にも気を配ってください。一酸化炭素中毒などは、ちょっと気をつけるだけで防げます。

出産を希望する女性は、感染症に注意してください。風疹免疫があるかどうかは、妊娠前に調べることができます。風疹以外でも胎児の脳に深刻なダメージを与える感染症があります。

出産する時は、管理の行き届いた産婦人科専門病院か産婦人科の評判が良い総合病院をオススメします。分娩時に不測の事態が起きることもあります。どのような事態にでも対応できる産科医と態勢の整っている病院を選んでくださいね。

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まとめ

脳は身体にとって最も重要な器官と言えます。人が人であるのは、脳の働きによるものです。脳が正常に働かないと、生命を維持することもできません。

脳は重要な働きをしているので、消費する酸素量も大きいのです。身体全体で消費する酸素量の25%を脳は必要としています。ですから、脳に供給する酸素量が不足すると、脳は障害されてしまいます。

酸素の供給不足が3~5分以内であれば、脳の受ける損傷も軽く、回復可能です。でも、5分以上酸素供給が滞れば、「大脳皮質の層状壊死」など深刻なダメージを受けます。重度な後遺症が生じ、リハビリにも長い時間がかかります。最悪は、脳死に至ります。

低酸素脳症を起こした時は、すぐに救急車を呼んで、できるだけ早く病院へ運んでください。心肺停止している場合は、できるものなら心拍蘇生を行ったり、AEDを使用したりすることも大事です。

妊娠中のお母さんは、胎児の低酸素脳症を予防するように努めてくださいね。

脳は時間とともに回復します。決して弱いものではありません。脳の機能については、まだまだ不明なことが多いのです。つまり、脳には未知の力が潜んでいるのです。低酸素脳症で昏睡状態や身体の麻痺など深刻な状態になっても、決して諦めることはありません。脳に潜む力を信じて、回復に努めてくださいね。

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