身長は遺伝で決まるのでしょうか。確かに、背が高い両親の子供は背が高いように感じます。その「感じ」は統計学的にも証明されています。つまり、身長は遺伝によって決まる、といえます。
しかし、その統計学的に算出された計算式に当てはまらない人もいます。背が低い両親の子供が長身であることも珍しいとは感じないでしょう。その「感じ」も間違っていないのです。つまり、身長は遺伝以外の要素によって決まる、ともいえるのです。
身長と遺伝の関係
公式
身長と遺伝を語るときに、必ず出てくる公式があります。
- 男性=(父親の身長+母親の身長+13)÷2
- 女性=(父親の身長+母親の身長-13)÷2
これはかなりの確率であてはまります。この公式が正しいとすれば、身長は遺伝で決まることになります。
80%説と25%説
それでは学説はどうなっているでしょうか。身長は80%の確率で遺伝するというのが定説のようです。「ようです」というのは、別の医師は「身長が遺伝する確率は25%程度」とも述べているからです。
80%と25%では大きな違いです。医療や遺伝子といえば、人類の英知が集まっている学問分野です。それにも関わらずこれだけの誤差が生じるのは、生命に関する事実は、分からないことの方が多いからです。
遺伝とは
遺伝とは、親の性質が子供に引き継がれる、という意味です。しかし遺伝は、コピーやクローンとは異なります。遺伝がコピーやクローンと決定的に異なるのは、似たものができるが、まったく同じものができるわけではない、ということです。
親に似ているものの、子供には子供の個性があります。その個性があまりに強すぎて、親とまったく似ていない、ということも起きます。では、親から子供に引き継がれるモノと、引き継がれないモノは、どのように決まるのでしょうか。
USBとエクセル
遺伝が成立するのは、親から子供に細胞が引き継がれるからです。細胞の中にはDNAという物質が入っていて、ここに親の情報が入っているのです。細胞を「USBメモリー」、DNAを「エクセルのデータ」と考えると分かりやすいでしょう。あるパソコンで作ったエクセルデータをUSBメモリーに保存して、そのUSBメモリーを別のパソコンに差し込むと、同じエクセルデータを見ることができます。
例えば親は「胃」や「爪」を持っています。その子供も「胃」や「爪」を持つことになります。それは親から子供に引き継がれた細胞の中のDNAに「胃」や「爪」の情報が入っているからです。受精卵が細胞分裂を繰り返す中で、「胃」と「爪」ができてくるのはそのためです。
スーパーコンピューター
しかしDNAには、30億個もの情報が入っています。30億個の情報のうち、どれが身長に関する情報で、どれが胃の情報で、どれが爪の情報なのかを突き止めなければなりません。この突き止め作業は、世界中の科学者を巻き込み、国家の威信をかけたプロジェクトになっています。
遺伝の複雑さはまだあります。親から引き継がれる情報と引き継がれない情報が、なぜ両方とも存在するのか、という問題です。遺伝子には「変異」という動きがあることが分かっています。しかし、30億個の情報のうち、どれに変異が起きて、どれに起きないかは分かりません。分からないというより、人知では予測できないのです。
話しを身長と遺伝に戻します。身長が遺伝する確率が80%なのか25%なのか確定しないのは、遺伝の仕組みが複雑すぎるためです。人の知恵どころか、スーパーコンピューターを駆使しても計測できないのです。
身長と食べ物
「子どもの身長を伸ばすためにできること」などの著書で知られる額田成(ぬかた・おさむ)医師は、「身長は遺伝だけでは決まらない。生活環境によっても左右される」と断言しています。以下、額田医師の説を元に、「身長環境説」を解説していきます。
ただ環境といっても様々な要因がありますので、まずは食べ物に関することからみていきます。
カルシウムとタンパク質
身長が伸びるとは、言葉を変えると、骨が伸びるということです。骨というと、すぐに思い浮かぶのはカルシウムだと思いますが、違います。カルシウムは骨を伸ばしません。カルシウムは骨を丈夫にするだけなのです。では何が骨を伸ばすのかというと、タンパク質です。
砂の城を例に考えてみましょう。大きな砂の城を作るには、大量の砂が必要です。しかし砂を集めただけでは、すぐに崩れてしまいます。それで水を吹きかけると、砂の城が固まります。砂がタンパク質、水がカルシウムという関係になります。
牛乳
多くの日本人は、身長を伸ばすには牛乳を大量に飲めばよいと考えています。昔からそのように信じられてきました。しかしこれは、カルシウムが身長を伸ばす、という間違った考えから生まれた説です。
しかし身長にはカルシウムよりタンパク質の方が重要です。牛乳に含まれるタンパク質の量は、実はそれほど多くはありません。食品100gに含まれているタンパク質の量は、チーズ22g、牛肉20g、マグロ28gに対し、牛乳は3gしかありません。
だからといって、牛乳が身長に影響しないというわけではありません。カルシウムが持つ骨を硬くする効果は、成長に不可欠です。いうなれば、牛乳の身長への寄与度は「△」というわけです。
身長を伸ばしたいと考えている子供の理想の食生活は、牛乳を毎日500ml飲み、後は大量のタンパク質を摂ることです。
亜鉛
一方で、身長に大きく関与しているのに、日本人があまり接種していない成分があります。それは亜鉛です。
骨の原料はタンパク質ですが、摂取したタンパク質を効率よく骨の成長に活かすには、成長ホルモンの働きが欠かせません。再び砂の城で説明すると、砂を集めたり、必要な場所に砂を配置したり、砂に水をかけて固くしたりする働きを担うのが、成長ホルモンです。
そして亜鉛は、成長ホルモンの働きに欠かせない成分なのです。WHOによると、亜鉛の理想の摂取量は1日15mgですが、日本人の平均摂取量は10mgです。日本人は慢性的な亜鉛不足状態にあるのです。亜鉛が多く含まれているのは、ナッツ類、牡蠣、レバー、ウナギなどです。
つまり、タンパク質、カルシウム、亜鉛を効率的に摂ることで、身長を伸ばす「準備」ができるのです。
身長と運動
身長を伸ばすためには食べ物に気を付ける必要がありますが、理想の食材を食べても、それだけで思ったほどの効果は上がりません。理想の食材を食べることは「準備」にすぎません。
全身運動
バスケットやバレーボールの選手は、背が高い人が多いです。いずれもジャンプを多用するスポーツです。それでジャンプをし続けると背が高くなると考えている人は多いです。
しかしその考えは、半分正しく、半分間違っています。正解は、ジャンプに関わらず全身を動かす運動をすると身長が伸びやすい、です。ジャンプに特化した運動より、体をそらしたり延ばしたりする運動の方が、骨には良い影響を与えます。
身長と睡眠
寝る子は育つ、といいますが、これは科学的に立証されています。骨の成長を促す成長ホルモンは、夜寝ているときに働くのです。そして夜間の睡眠時に成長ホルモンをたくさん出すには、日中の全身運動が必要なのです。
「昼間活発に動き、夜がっつり眠る」こうした昔ながらの子供の生活が、身長の伸びに大きく貢献するのです。
まとめ
「遺伝」という言葉には、良い響きも悪い意味もあります。子供が良い結果を出すと、親から良い遺伝をもらったと喜べます。一方で、遺伝によって癌が引き継がれることもあります。これは遺伝の残酷な側面です。
しかし人の意思や行動力は、遺伝の力より大きくなることがあります。遺伝は人生に大きな光と影を落としますが、人生の光と影の量はその人次第でもあります。
身長も同じことがいえます。もしかしたら、食事に気を付けてしっかり運動してしっかり寝ても、希望の慎重に届かないかもしれません。しかししっかりした生活を送ることで、身長よりももっと素敵なものが得られるかもしれないのです。