聞き慣れない病名かも知れませんが、スポーツ選手が発症しやすい病気です。
特にサッカー選手を苦しめている病気、それがこのグロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)なのです。この病気は選手だけでなく、サッカーをする人がかかりやすい病気であり、かかると治癒が難しい病気です。お子様がサッカーをなさるママさんたちも、知っておいたほうがよさそうです。
グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)とは
グロインペイン症候群の日本名は鼠径部(ソケイブ)痛症候群と言い、いくつかの障害や痛みの総称なのです。一般的にはスポーツヘルニアとも呼ばれます。鼠径部とは、足のつけねの股の部分、少し古いですがビートたけしさんが「コマネチ!」とやっていたあの手で示していた部分を指します。
この症候群はサッカー選手の職業病とまでいわれるほど、患者の7割はサッカーをしている人が占めるのですが、サッカーだけでなく、ラグビーやアメリカンフットボール、野球、駅伝などの長距離をやる人も気をつけたほうがよい病気です。年齢にも関係なく、男女の差もあまりありません。
また、休むと痛みがなくなることもあるので、痛みを覚えても気付かずにまた傷めてしまうこともあり、こうなると知らずに症状が悪化し、慢性化してしまい治癒がかなり難しくなりますので、早めに気づき、適切な処置ができるといいですね。
主な症状
症状は、股関節や鼠径部周辺に圧力がかかったとき(腹筋運動をする、キックをするなど)に痛んだり、運動すると痛んだりと比較的わかりやすいものです。サッカーをするお子様が、足や足の付け根、股のところが痛いと言っていたら、気をつけたほうがいいでしょう。
また、患部の周辺にあたる下腹部や、太ももの前面や内側の筋張ったところが痛んだり、まれには坐骨部分や子宮に痛みを感じる人もいるようです。ごくまれですが、男性では睾丸に痛みを覚える人もいるようです。痛みの起きる場所や原因らしきものを合わせて、細かく見てゆきましょう。
内転筋や腱の障害からきている場合
内転筋とは、太ももの前面の内側にあるいくつかの筋肉群を言います。骨盤と足をつなぐ、重要な役目を果たしています。骨盤は姿勢が悪い場合や無理な動きをした時など、歪みやすいのですが、それを微調整するのも、この筋の大きな役割です。また、サッカーでキックをする時や、野球、ゴルフなどでスイングするときにも、足のバランスをとり、支える役目をしています。
この筋肉群の使いすぎや、不意に関節のもつ柔軟性を超える外からの力が働いたりした場合にも、この筋肉群は痛んでしまいます。そうなると、足のバランスをとったり、骨盤を整えたりする力が弱まってしまい、その状態で運動をしたときには他の筋肉や筋を傷めてしまうこともあります。そうして、鼠径部、腹部の痛みを覚えるようになります。
腸腰筋(大腰筋や腸骨筋)の機能障害である場合
腸腰筋とは、大腰筋と腸骨筋を合わせた呼び名です。股関節の曲げ伸ばしに使われる大きな筋肉のかたまりです。ここはとても重要な役割をしています。この筋肉群に障害がある、あるいは弱ってしまっている場合には、スポーツだけでなく、日常の動作も制限されることになりかねないのです。腰のまわりや足に痛みが出ることがあります。
大腰筋の役割
大腰筋は、腰椎から大腿骨にかけて大きく繋がっている筋肉と筋で、腹部の表面ではなく、深いところにあります。とても大きな筋肉で、股関節の曲げ伸ばしや、腰椎を安定させることに作用すると考えられています。
この筋力が低下すると、股関節の曲げ伸ばしが難しくなるため、バスタブをまたぐといった動作や階段など段差を昇降する動作が難しくなります。そうなると、転んでしまうリスクも高まります。平地を歩くなどの動作のときには、この筋肉はあまり使われません。
腸骨筋の役割
腸骨筋とは、大腰筋に寄り添うようにして腸骨と大腿骨を結ぶ筋肉と筋です。
股関節の曲げ伸ばしの手伝いや腰椎を支えるのが大腰筋だとすると、この腸骨筋は脊椎にはつながっていないため、純粋に股関節の曲げ伸ばしをする役割を果たします。立ち上がるときに骨盤を前に押し出すのも、この筋肉の役目です。
腸腰筋(大腰筋や腸骨筋)に障害があると
この筋力が弱まると、腰が曲がったり、階段の昇り降りがしづらくなったりします。
さらに障害があると、股関節の屈曲が難しくなり、足、腿を前に振りだす動作や高く引き上げる動作ができなくなってしまいます。つまり、走る、蹴るなどの動作を伴うスポーツが出来なくなってしまうのです。また、運動をしたときに腰が痛んだり、足に痛みを覚えたりするようになります。
黒人は白人より大腰筋がとても太いそうですが、高齢者でも転んだりしにくい人はやはり、この筋肉が太いそうです。逆にこの筋肉が細い人は、肩こりや冷え、肥満などの傾向がみられるそうです。姿勢が悪くなってしまうことで、全身の活動能力が低下してしまうためだと思われます。
スポーツヘルニアの場合
グロインペイン症候群のことをスポーツヘルニアと呼ぶこともあるのですが、ここでいうスポーツヘルニアとは、ヘルニアの中でスポーツが原因の鼠径ヘルニアのことを指します。
本来の鼠径ヘルニアは、鼠径部に腸などの臓器の一部がはみ出てしまった場外(脱腸など)をいいます。鼠径部だけでなく、腹部下や太ももに痛みが出る場合もあります。
鼠径ヘルニアとは
本来の鼠径ヘルニアとは、鼠径部にある管(鼠径管という)の入り口が緩んでしまうことで、そこから腹膜が飛び出してヘルニア嚢(のう)と呼ばれる袋をつくります。
この袋は一度出来ると消えることはなく、お腹に力を入れたときに腸やその他の臓器が飛びだしてしまう状態です。ヘルニア嚢の出来る原因は管のゆるみだけではなく、腹壁の筋力の弱い場所があるとそこを腹膜がおしあげて袋をつくることもあります。
また、鼠径部の下の太ももの筋力や筋膜が弱っている場合などにもつくられます。
スポーツヘルニアとは
上記のように、ヘルニア嚢をつくる原因がスポーツに起因するものを、スポーツヘルニアと呼んでいます。鼠径管の後の壁になる部分が弱っている状態で腹圧がかかると、管やその周りの組織が圧迫されて痛みを生じます。特にサッカー選手に多いのです。
サッカー選手に多い理由として、急なステップを繰り返し行うことで、ボールを蹴るときの股関節の屈曲や、捻りなどが腹部に圧力を掛けることが原因とみられています。
その他の症状
初期症状でグロインペイン症候群をチェック!
グロインペイン症候群は、痛みがあるので自覚症状ははっきりしています。ところが、休息すると痛みがおさまりやすいものですから、それとは気付かずに痛みの原因となる動作やスポーツを繰り返してしまうという悪循環が生まれます。初期の段階でわかれば、充分な休息、適切な処置をすることができますよね。チェックポイントをあげてみましょう。
- 運動をすると、鼠径部が痛む
- 鼠径部に圧力がかかると痛む
- 太ももの内側から足の付け根(特に前面)あたりが痛む
- 下腹部が痛む
- 睾丸の後ろが痛い(男性)
- 子宮あたりが痛い(女性)
- 腰の痛みがなかなか消えない
- 段差につまずくようになった
- 片足立ちで靴下や靴を履こうと足をあげると股関節に痛みを感じる
- しゃがんだ時に股関節が痛い
- くしゃみや咳などお腹に力のかかることをした時に下腹や股関節に痛みを感じた
- かけっこをしたとき股関節のまわりが痛いように感じた
- お尻や肛門の周りが痛む
これらの症状がある場合で、サッカー、野球、ゴルフ、ラグビー、フットボール、長距離ランニングをはじめとするスポーツ、またこれらに類似した動きをするスポーツをしている人は、要注意です。
原因は筋力、それもバランスが重要
症状のところで挙げたようにグロインペイン症候群になるケースというのは
- 内転筋・腱の障害
- 腸腰筋(大腰筋や腸骨筋)
- スポーツヘルニア
などが考えられますが、事故などで外部的な衝撃によりこれらの障害がある場合を除き、実はこれら3つを引き起こす共通した原因というのがあるのです。
筋力が低下してしまう
主な原因の1,2,3のどれにも共通するのが、筋力の低下です。筋力の低下は、外的障害により筋肉が傷つけられた場合をのぞき、普段の生活でも起こりうるのです。
筋力の低下はどうして起こるのか
筋力の低下と聞くと、真っ先に運動不足を思い浮かべる人が多いことでしょう。
けれども、それだけではないのです。たとえば、久しぶりに運動したら、あとから筋肉痛になった、ということは誰しも経験のあることでしょう。運動でなくても、重い物をもっただけでも筋肉痛になる人もいますよね。何らかの運動で筋肉を使った場合で、その筋肉が傷ついたときにそれを修復するときに起こる痛みが筋肉痛なのです。
ここで重要なのは、筋肉痛ではなく、筋肉は傷つく、という事実です。筋力の低下は、筋肉が激しく傷ついて損傷した場合にも起こるのです。
つまり、筋肉そのものを使わずにいて鍛えられずに筋力が衰えてしまった場合(運動不足)と、その逆の無理な運動をした場合(筋肉の過労)と2つの原因が考えられるのです。
筋力が衰えている場合
筋力が衰えている場合には、筋肉に負荷がかかりやすく、筋肉は傷つきやすくなります。
たとえば、よく使う筋肉の力を10として、普段使わない筋肉の力を1だとします。1の力しか持っていない筋肉に3の力が必要な運動をさせたらどうなるでしょうか。酷い筋肉痛に襲われることでしょう。でも、10の力をもつ筋肉に3の力の必要な作業をさせたらどうでしょうか。筋肉痛は起こりません。つまり、筋肉は傷つかないのです。
筋肉を傷めやすい日常の動き
重い物を持ち上げる時や、階段を上る時には、筋肉は縮むことで力を発揮します。こういうときに筋肉が痛むと思っていませんか?
むしろ、縮むときより、筋肉は伸びて力を発揮すると気に傷つきやすいのです。階段や坂道を降りるときや、重い物を下ろす時などに、筋肉は伸びた状態で力を発揮します。このような動作をするときには、急な動きをせず、ゆっくりと動くことが大切です。
筋力はあるのに無理をしてしまう場合
サッカーをはじめとするスポーツでの筋力の低下がおこると言いましたが、スポーツをしている人は筋力があるのに、なぜ筋力の低下が起きるのでしょうか。
筋肉を傷つける不自然な動作
人はまっすぐ立ったとき、鼠径部周りの筋肉を使ってバランスをとっています。このバランスが崩れた状態で、無理やり足を動かす動作をするのは筋肉に大変な負荷がかかります。試しに、片足で立って、もう片方の足をゆっくり(蹴りあげてはいけません)膝からあげてみてください。
お尻の下や、鼠径部、太ももの付け根や太ももの内側の筋肉を使っているのがわかると思います。このとき、バランスをとっている鼠径部まわりの筋肉は、大変な働きをしています。しかし、サッカーをはじめとするスポーツでは、筋肉に無理をさせる動作が多いのです。
- 傾いたアンバランスな姿勢で肢を蹴りあげるキック
- ダッシュしてとまり急な方向転換で体をひねる
などです。プロの選手はこういったことで筋肉を傷つけないよう、普段からトレーニングやストレッチなどに充分気を使っていますが、それでもサッカー選手に多いのは、繰り返し同じ動作をすることで初期の軽い症状が慢性化してしまうといったこともあげられます。また、職業選手は思うように休養をとることができないこともあるでしょう。
スポーツをしてなければ大丈夫?
スポーツをしていなくても、筋力の衰えや、他の筋肉とのバランスの悪さなどから、グロインペイン症候群になる場合もあります。
グロインペイン症候群かどうか調べるには
主に自覚症状で判断されるものなのですが、整形外科などで股関節周囲の筋力を調べてもらうことが出来るところもあります。しかし、痛みを感じたら、慢性化しないよう手立てをうつことのほうが重要となります。 また、スポーツヘルニアの場合には、外科などで診断してもらうことができます。CTスキャンによる検査では、鼠径部ヘルニアの種類までわかります。
症状が似ている別の病気、あるいは関節炎や関節痛の場合もありますので、痛みがつづく場合には一度は外科での検診をしてみることをおすすめします。
予防するには
先に述べたように、さまざまな場合によって、原因もまちまちです。ですから、何が原因でグロインペイン症候群になるのかは、断定できないものです。原因が特定できなければ、予防のしようがない、と思われがちです。しかし、症状の項にあげたような場合、発症を防ぐために共通するキーワードは「筋力」です。ここでは、予防のために何が必要かポイントをあげておきますね。おおまかに3つのポイントがあります。
- 筋力をつける
- 痛みを放置しない
- 筋肉に無理をさせない
筋力をつける
鼠径部まわりの筋力の低下が原因であるのなら、そこの筋肉を鍛えればいいのではと思いがちですが、鼠径部まわりの筋肉は、バランスと深いかかわりがあります。上半身と下半身のつなぎめであり、体を2本の足で支える骨盤を支えている鼠径部の筋肉は、そこだけ鍛えるのではなく、上半身とのつながりや筋力のバランスが必要となってきます。
全身の筋肉をバランスよく使い鍛えるよう、スポーツをしている人はまんべんなく筋トレをして、上半身だけ、下半身だけとバランスが悪くならないようにしましょう。体幹を鍛えることは重要で、アンバランスな動作にも耐える体をめざしましょう。
筋トレをしないまでも、日常では大股で歩くとか、骨盤と太ももの両方を動かすことを意識しながら、ゆっくり腿上げをするのもよいでしょう。くれぐれも、やりすぎに注意してください。はじめはストレッチをして、筋肉をやわらかくしてあげることを忘れないでくださいね。
痛みを放置しない
実はこれが一番重要です。症状にあげたような痛みを覚えたら、誰しも休養すると思います。しかしグロインペイン症候群の初期は、休むと痛みがなくなることが多いため、また無理をして痛くなってしまうのです。これを繰り返すと慢性化して、治療が大変になってしまいます。
痛みがなくなったからといって、筋肉が傷ついたものが治ったとはかぎらないのです。ひどくなるまえに、整形外科などに相談しましょう。痛みを覚えて、休養して大丈夫だとおもって運動をしたらまた痛んだ、という場合はすぐに医者にみてもらいましょう。ただの筋肉痛ではないかもしれませんし、他の関節炎の場合もあるのです。
筋肉に無理をさせない
子供たちも大好きなサッカーや野球ですが、きちんとした指導を受けていないと、知らずに筋肉に無理をさせて傷めてしまう場合があります。
たとえば、ボールを蹴る動作でも、かっこいいからとプロ選手の真似をしてみたりもするでしょう。走ってきて体を傾斜させ、足を蹴り上げる・・・ちょっと待って下さい。アンバランスな状態で足だけで蹴ろうとしたら、鼠径部周りの筋肉を傷めてしまうかもしれません。
ボールを蹴るときには、足だけでなく、骨盤、腰の周りの筋肉も使い、体を無理にねじったりすることなく足を動かすことで、鼠径部の筋肉を傷めるのを回避することができます。子供のうちは筋肉も筋も柔軟性が高いのですが、何度も無理を繰り返しては、傷めてしまってしばらく運動が出来ないなどということになるかも知れません。
また、足首のねん挫や怪我でバランスを保てない状態の時には、他の部分は大丈夫だからと運動してはいけません。バランスを欠いた状態で大きな動きをしようとすると、バランスを保つための骨盤や鼠径部周りの筋肉に負荷がかかってしまうからです。
グロインペイン症候群になってしまったら
治療には、状態と原因によって、1か月で治る場合も、1年以上かかる場合もあります。どんな場合でも、運動をやめることを前提とします。スポーツ選手等の場合はストレッチや筋トレでだましだまし、痛みを緩和しながらつきあってゆくこともあるでしょうが、そうでない場合は、完治をめざしたいものです。
原因によっては手術という方法をとるケースもありますが、たいていはリハビリをつづけることとなります。整形外科医やスポーツトレーナーの指導のもと、焦らずじっくり、低下した筋力を強くするための筋力の訓練や、股関節だけに負荷がかからないような全身の筋肉の使い方の訓練などがメインとなります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。グロインペイン症候群はまだまだ、原因が未知の部分がありますが、股関節の筋肉に無理をさせない、これにつきます。
- 運動のまえには充分なストレッチを
- 股関節だけに負担がかからないよう、上半身と下半身を連動させて筋肉をつかう正しい方法を学ぶ
- 痛みがあったら決してむりせず、充分安静にする
- 日常での動作でも気をつける必要がある
痛みがあったら、疑ってみましょう。筋肉痛だろう、筋を痛めただけだろうと安直に自己判断せず、専門の整形外科やスポーツトレーナーのいる外科、外科医に相談することをおすすめします。カイロプラクティックなどでも、リハビリを行っているところもありますのでそういったところでもかまいませんが、同じ症状で違う病気もありますので、まずは専門医をたずねてみてください。