マルファン症候群とは?症状や種類、原因を知ろう! 診断基準や治療方法って?

私たちは、それぞれの容姿を持って生きていますが、背が高く、手足の長い人は、男性にとっても女性にとっても、憧れの的です。しかし、それらが、症状の一つとして現れる病気があることをご存知でしょうか?

高身長で、異常な手足の長さ──遺伝子の異常によって、このような骨格が形成される「マルファン症候群」と呼ばれる病気があります。これは、難病指定されている、非常に困難な遺伝子疾患の一つで、5000人に1人という確率で発症すると言われています。

これらが難病であることを知らず、その容姿についてのみを耳にすると、羨ましく思う人もいるかもしれませんが、問題は、容姿に関することのみではないのです。その異常に発達した骨格によって、身体組織のあらゆるところに問題が現れ、場合によっては命に関わることもある、深刻な病気です。

そこで、ここでは、マルファン症候群の原因や症状、そして、この病気との付き合い方などについて、ご紹介いたします。

マルファン症候群の原因は?

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マルファン症候群という病気は、1896年にフランス人のBernard Marfanという医師によって名付けられた遺伝子疾患です。「症候群」という言葉が示すとおり、遺伝子の結合組織疾患によって、様々な身体症状が現れるのが特徴の一つです。

75%のマルファン症候群患者は、両親からの遺伝によって生じ、残る25%の患者は、途中で起こった遺伝子異常によって、結合組織に疾患が起こっていると考えられています。

後者の場合、マルファン症候群の発見が遅れやすく、命に関わるリスクが高くなるケースも多々あるようです。

また、この病気は、それぞれの特徴によって、1型・2型の2つに分類されています。まずは、それぞれの特徴と原因について見ていきましょう。

マルファン症候群1型

マルファン症候群は、遺伝子の異常・変異によって生じることは前途のとおりです。1型はマルファン症候群の典型でもあり、この場合、「第15番染色体」上にあると言われている「FBN1(フィブリリン-1)遺伝子」が大きく影響しています。先天的にFBN1遺伝子に異常があることによって、様々な症状が現れるのです。

この「FBN1遺伝子」は、皮膚や血管、角膜、腱など、体内の様々な箇所に存在する「エラスチン」や「フィブリリン」といった、タンパク質、あるいは細胞外微小繊維の構造を決定する働きを持っています。

すなわち、FBN1遺伝子の異常が現れるということは、身体の支持組織である骨格や、心肺機能、眼、血管など、いろいろな箇所で症状が発生するということです。

また、両親がこのFBN1遺伝子を持っていると、50%の確率で、その子供がマルファン症候群になると考えられているようです。

マルファン症候群2型

マルファン症候群2型は、細胞の増殖や分化を制御している、分泌性蛋白(サイトカイン)である「TGF-β」と結合する2型受容体(TGFBR2)を変換している、第3染色体の構造異常によって生じると考えられています。

また、マルファン症候群と同じような症状が現れる病気に、「ロイス・ディーツ症候群」という病気があります。しかし、ロイス・ディーツ症候群の場合は、原因となる遺伝子がTGFBR1とTGFBR2のみであることが分かっており、詳細な症状を見れば、これら2つの疾患が異なることがわかります。

マルファン症候群2型では、1型で見られるような眼の症状が現れにくいという特徴があります。

マルファン症候群の症状

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例えば、家を建てるとき、その家に長く住むためには、あらゆる骨組みや、それらを支える壁や床といった設備が整っていることが、大前提です。もし、壁や床、そして骨組みに異常があることを放置しておくと、住んでいくうちに、いろいろな欠陥が生じてしまうことは、容易にイメージがつくことでしょう。

マルファン症候群で生じる症状も、まさに、これと同じような仕組みで起こり、その症状は多様です。重症度こそ異なるものの、その後の経過観察や、定期的な検診が重要になることに変わりはありません。

ここでは、それぞれの症状を順を追ってご紹介いたします。

骨格の異常とそれに伴う呼吸器・循環器疾患

マルファン症候群の代表的な症状として、骨格の異常があげられますが、その症状は、高身長や、長い手足のみではありません。「蜘蛛指症」と呼ばれるような、異常に長い手足の指は、湾曲を伴うこともあります。

そのほかにも、以下のような症状が挙げられます。

<胸郭の変形>

肋骨や肋軟骨が過剰に前方へ出る「鳩胸」や、胸の中央部分が凹む「漏斗胸」などの、胸郭の変形が現れることがあります。

鳩胸の場合は、問題が生じることはほとんどないと言われていますが、漏斗胸の場合は、呼吸器障害を起こしやすくなる傾向があります。さらに、凹んでいる部分が心臓を圧迫している場合には、循環器が正常に機能しなくなるといった問題も生じます。

また、このような身体的な症状に加えて、胸郭変形によって美醜を気にすることによる精神的苦痛も、患者にとって大きな問題になっているようです。

<背骨の変形>

背骨が横に曲がり、その角度が10度以上にも及ぶ「側弯」や、後ろに背骨が突き出すように変形する「後弯」、そして、背骨と背骨の間にズレが生じる「すべり症」といった、背骨の変形も、マルファン症候群患者に見られる骨格異常の一つです。これらも、胸郭の変形と同様に、呼吸器や血液循環に悪影響をもたらす可能性があります。

また、これらの胸郭および背骨などの骨格の変形は、ときに痛みを伴い、日常生活に支障をきたすこともあるようです。

<偏平足>

マルファン症候群患者の約33%が偏平足であるという報告があります。偏平足と聞くと、さほど問題が生じないように感じる人もいるかもしれませんが、偏平足もまた、深刻な問題を招くのです。

例えば、偏平足によって自分の身体を支えることができず、膝に過度な負担を与えることもあります。あるいは、マルファン症候群では、靭や関節が弛緩しやすいという傾向があるのですが、それらが合わさり、アキレス腱が曲がる、足首が変形するというケースが見られることもあるようです。

さらには、偏平足によって、骨盤や背骨など骨格が歪み、全身のバランスが崩れてしまうことも、珍しくありません。

これらの骨格の異常は、ほとんどの場合、幼少期に発症し、骨が発達する成長期に進行する傾向があります。また、

  • 長細い顔の骨格
  • 陥没したような眼球
  • 顎の骨が小さく、下顎が後退している
  • 垂れ目
  • 口蓋の変形による歯の密生

などの顔周りの骨格異常も、マルファン症候群患者によく見られる症状の一つだと言われています。

眼に現れる症状

マルファン症候群1型の典型的な症状としてあげられるのが、眼に出てくる様々な不調です。なかでも「水晶体亜脱臼」と呼ばれるものは、マルファン症候群患者の約6割の人に見られる疾患です。

水晶体亜脱臼とは、水晶体を支える「チン小帯」と呼ばれる腱のようなものが、遺伝子異常によって切れてしまい、水晶体が本来あるべき位置からズレてしまうのです。

軽度の場合は、視覚に問題が生じないこともありますが、重症度が高くなるにつれて、近視や乱視といった視覚障害も引き起こします。

この他にも白内障や緑内障、網膜剥離などの眼疾患が現れやすいというのも、マルファン症候群1型の特徴と言えるでしょう。

心血管系に現れる症状

命に関わる大きな問題が、心血管系に生じる様々な問題です。マルファン症候群の人は、通常に比べて、大動脈が太く脆いという傾向があり、血圧によって大動脈解離や大動脈拡大、あるいは破裂、といった命に関わる疾患を生じることがあるのです。

マルファン症候群患者にリスクがある疾患は以下のとおりです。

  • 大動脈瘤破裂
  • 大動脈解離
  • 動脈断裂
  • 大動脈弁、僧帽弁閉鎖不全
  • 三尖弁逸脱症
  • 近位肺動脈拡張

これらの疾患は、自覚症状がないこともあり、突然死を招く可能性もあります。

肺に見られる異常

マルファン症候群患者は、「自発性気胸」になりやすいと言われています。これは、肺胞の入口が狭くなり、本来吐き出されるはずの空気が溜まった状態になり、肺胞内圧が高くなって生じる「ブラ」という風船のような膨らみができることが原因だと考えられています。

マルファン症候群になると、ブラが発達する傾向があるため、しばしば自発的気胸を起こし、呼吸困難などの症状が現れることがあるようです。

腰仙椎部分の硬膜の異常

腰仙椎の部分には、神経の束が通っている脊髄を覆う硬膜と呼ばれる膜があります。マルファン症候群では、この硬膜が拡張することがあり、それによって、神経障害を生じるケースもあります。その場合、

  • 腰痛
  • 下肢近位部痛
  • 生殖器や肛門の痛み
  • 足の筋力低下

といった症状が見られます。さらに、硬膜から脳脊髄液が漏れてしまうと、

  • 頭痛
  • 起立性低血圧
  • ヘルニア
  • 皮膚萎縮線条
  • 筋量低下
  • 脂肪蓄積

といった症状が見られます。

マルファン症候群の診断基準について

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マルファン症候群かどうかを判断するためには、様々な検査が行われます。ここでは、その検査方法の種類や、診断基準について、ご紹介いたします。

マルファン症候群の診断で行われる検査について

行われる検査には、以下のようなものがあげられます。

  • レントゲンによる肺および骨格の検査
  • 心エコー検査
  • CT、MRIによる心血管および硬膜の検査
  • 眼科検査
  • マルファン症候群の遺伝歴や家族歴の検査
  • 皮膚萎縮線条などの皮膚の検査、および診察

これらの検査(とくに最下部項目を除く5項目)を注意深く行い、次項目に上げる、診断基準と照らし合わせながら、最終判断を行います。

診断基準

診断には世界的な基準が定められており、「メジャー基準」と「マイナー基準」に分かれています。このうちのメジャー基準には以下のようなものがあります。

<骨格>

  • 鳩胸
  • 手術を要する極度の漏斗胸
  • 上腕と前腕の長さの差が少ない
  • 手首を握ると、親指が小指の第一関節まで届く
  • 20度以上の側弯
  • 170度以下の肘関節伸展制限
  • 偏平足とそれに伴う内踵の変異
  • 股臼底の突出

<眼>

  • 水晶体亜脱臼

<心血管系>

  • 上行大動脈膨張(バルサバ洞を含む)
  • 上行大動脈解離

<硬膜>

  • 脊柱硬膜の拡張

<家族・遺伝>

  • 家族内で、これらの診断基準を満たす人がいる
  • FBN1遺伝子変異の確認
  • FBN1遺伝子周囲の半数体遺伝子型の存在

以上のような項目が、メジャー基準として定められています。

マルファン症候群との付き合い方

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マルファン症候群を根本的に治療するのは、現代の医療では困難であるというのが、現状です。遺伝子の変異によって生じる、様々な問題と、どのようにして付き合うべきかを、冷静かつ慎重に考える必要があります。

命の危険を少しでも低減させるには、定期的な検診や、その都度、最適な治療を受けるのが何よりも大切です。ここでは、それぞれのリスクを低減させるための対処法や日常生活での注意点などをご紹介いたします。

循環器系について

循環器系では、生命に大きく影響する心臓や大動脈への負荷を、少しでも少なくすることです。そのために行われる対処法としては、薬の服用が一般的だと言われています。

服用する薬には、

  • βブロッカー
  • Ca拮抗剤
  • ACE阻害剤
  • ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤)

などがあり、なかでもARBは大動脈瘤と肺疾患を予防する新しい薬として期待を集めているようです。また、

  • 大動脈の最大径が5cm以上ある場合
  • 年に1cm以上の速さで大動脈が拡張している場合
  • 大動脈弁の逆流に進行性が見られる場合

には、人工血管置換術という出術を行うこともあります。そのほかにも、人工弁置換手術によって心不全を予防することもできますが、これらの心臓手術の後には、抗凝固剤を長期に渡って内服する必要があるのだそうです。

その場合、血液内に細菌が侵入するのを未然に防ぐために、歯科治療をはじめとするあらゆる医療行為において、事前に医師にマルファン症候群であることを伝えておく必要があります。

これらの医療以外において注意すべき点は、カフェインなどの刺激物は不整脈などを招く可能性があるため、控えておくことです。

骨格系について

骨格の異常が見られる場合、あまりにも極端な変形などによって、日常生活に支障が出る場合には、それぞれに適切な処置を行う必要があります。

漏斗胸の場合、呼吸器などに障害をもたらす可能性がある際には、NUSS方法という方法で、胸郭を前へ押し出すように、金属製の棒を埋め込む手術が行われるケースもあります。

さらに、側弯などの角度が極度の場合には、効果は低いものの、装具を用いて矯正したり、湾曲角度が40度以上の場合には、手術を行って矯正することもあります。

しかし、その場合、心臓手術を先に行っている際には、抗凝固剤服用によって出血量が多くなるという危険があり、背骨の矯正手術が行えないこともあります。命を優先させることを考えれば、心臓手術を先に行うというのは、やむを得ない判断であるため、難しい課題とも言えるでしょう。

眼科系について

マルファン症候群での視力低下は、軽度の場合は眼鏡で補うことが可能です。完全に水晶体亜脱臼をしている場合、あるいは水晶体に偏位が見られる場合には、成長期を過ぎた後であれば、手術によって人工水晶体にすることも可能です。

そのほかの緑内障や網膜剥離といった症状が起きるケースもあるので、眼の症状に関しても、循環器系と同様に、定期的に検診を受けることが大切です。

呼吸器系について

マルファン症候群患者は、自発性気胸を起こしやすいだけではなく、それを再発しやすいという問題も抱えています。これらを防ぐためには、胸膜癒着術や嚢胞切除術といった治療が行われることもあります。

また、呼吸器を駆使する管楽器の演奏や、スキューバダイビングなどの大きな負担がかかる、激しいスポーツなどは避けるといった心がけも大切です。

硬膜拡張について

硬膜拡張のみの段階では、症状が現れることはないため、特別な治療は必要ありませが、神経障害などで、痛みなどを生じた場合においては、脊髄バイパス療法や、薬物療法などを行う必要があるようです。

口腔内について

マルファン症候群患者は、顎が小さいという傾向があるため、歯並びが悪くなる可能性が非常に高くなります。歯並びの悪さは、様々な不調を招くため、歯の矯正が必要です。

しかし、心臓の手術を受けている場合には、先にも述べたように、必ず、事前に医師へ報告するようにしてください。

妊娠のリスク

マルファン症候群が遺伝子異常によって起こる病気であるということに加え、親から子への遺伝率は決して低いとは言えません。また、心血管系に異常が見られる場合、妊娠・出産によって、それらの症状が悪化する可能性も非常に高いと言われています。

妊娠を望む場合には、これから生まれてくる子供のことや、自身に起きるかもしれない様々なリスクについて、医師と相談しながら、パートナーともよく話し合って結論を出すことが大切です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。マルファン症候群は、大変難しい病気ではありますが、本人や周囲の人たちが、「できないこと」ではなく、「できること」にフォーカスして、治療や日常生活に取り組むことが大切です。

また、難病法施行の対象となっていますので、医療費を助成してもらうことも可能です。経済的な余裕は、気持ちの余裕にもつながりますので、ぜひ、それぞれの保健所などで相談してみることをおすすめします。

  
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