食べ物を飲み込んだときに、予想外の熱さにびっくりした事はありませんか?しかも、その後1~2日は、水を飲んだり食事の度にやけどした喉が痛みます。誰でもうっかりすることはありますが、喉のやけどを繰り返すことによって思わぬ病気に罹ってしまうことがあります。
まずは「やけど」とはどういうケガなのか?をおさらいしてから、喉のやけどについて詳しく見ていきましょう。
やけどの分類とその治療法
やけどは皮膚が損傷を負った深さと面積によって分類されます。治療法はやけどの深さによって変わりますが、重症度は(特殊部位を除いて)やけどの面積で判断されます。
やけどの深さ(熱傷深達度)による分類
皮膚は大きく2層、表皮(約0.2mm)と真皮(約2mm)から構成されています。真皮の下には皮下組織があり、その下に筋肉組織があります。
Ⅰ度熱傷
表皮までの損傷で、皮膚が赤くなり、ヒリヒリとした痛みを伴います。3~4日程度で治癒する比較的軽度なやけどです。
Ⅱ度熱傷
損傷が真皮にまで達して、水泡ができ、激しい痛みを伴う重度のやけどです。真皮は厚さのある組織で、表皮に近く薄い乳頭層と大部分を占める厚い網状層に分けられます。
真皮浅層までの損傷で、赤色の水泡ができる「浅達性Ⅱ度熱傷」と真皮深層までの損傷で白色の水泡ができる「深達性Ⅱ度熱傷」に分類されます。
Ⅲ度熱傷
皮膚の全層に渡って損傷していて、さらに神経も損傷しているため痛みを感じません。皮膚は壊死しているため、少し白っぽく見えるだけで変化がないように見えますが、神経まで損傷している危険な状態です。
皮膚が燃焼すると、炭化して黒くなることもありますが、分類上はⅢ度となります。
やけどの面積による重症度の分類
体表の皮膚全体を100%として、Ⅱ度とⅢ度のやけどを足した面積が熱傷面積となります。Ⅰ度熱傷は(治療が必須ではないため)熱傷面積には含まれません。
重症熱傷
Ⅱ度熱傷が30%以上、もしくはⅢ度熱傷が10%以上ある場合
顔、手足、会陰部(生殖器、肛門周囲)、気道、臓器、などの特殊部位に熱傷がある場合
骨折を伴った熱傷の場合
化学薬品や電気によるやけどの場合
中等症熱傷
特殊部位を含まず、Ⅱ度熱傷が15~30%、もしくはⅢ度熱傷が2~10%ある場合
軽症熱傷
特殊部位を含まず、Ⅱ度熱傷が15%以下、もしくはⅢ度熱傷が2%以下の場合
やけどの深さによる治療法の違い
Ⅰ度熱傷の場合
そのままでも自然治癒しますが、炎症を抑える成分や痛みを抑える成分が配合された軟膏またはクリームを使用すると痕も残りにくく効果的です。
Ⅱ度熱傷の場合
熱傷部分の湿潤を保ちながら、感染を防ぐための消毒とⅠ度熱傷と同様の軟膏やクリームで治療を行います。深達性Ⅱ度では、場合によって植皮(Ⅲ度熱傷の場合参照)も行われます。
「浅達性Ⅱ度熱傷」は2~3週間で治癒し、痕も残りにくいです。
「深達性Ⅱ度熱傷」は、治療に3~5週を必要とし、痕や後遺障害が残る可能性があります。
Ⅲ度熱傷の場合
皮膚組織が壊死しているため、治癒することはありません。痕も残り、後遺障害が残る可能性が大きくなります。
狭い範囲であれば、壊死した組織を除去して表皮が作られるのを待つ治療法をとることもあります。しかし、表皮が再生するまでには長い期間が必要となるため、多くは植皮術という表皮を損傷部分に植皮する手術での治療になります。植皮術のためには、健康な皮膚が必要になるため、熱傷部位以外にも傷を付けることになります。これでは患者の肉体的・精神的な負担が大きくなってしまうため、体外で自分の皮膚を培養して植皮する技術が開発されました。
2007年に厚生労働省に承認され、保険収載された「ジェイス」が自家培養表皮です。保険償還価格は306,000円となっており高額ですが、重症のやけどを負った方への新たな治療法として注目されています。
喉の熱傷の原因とは?
喉は、消化器と呼吸器の2つがある重要な場所です。消化器側(食道)がやけどすると食道熱傷になり、呼吸器側(気管)がやけどすると上気道熱傷となります。場合によっては、両方同時にやけどすることもあります。気管は、上述の特殊部位に該当するため、Ⅱ度以上のやけどは全て重症熱傷として扱われます。
喉がやけどする原因は、主に3つに分類できます。
熱過ぎる飲食物の摂取(食道熱傷)
通常は、舌や口腔内をやけどする程度で吐き出しますので重症にはなりません。しかし、たこ焼き・春巻き・豆腐のような内側に高温の柔らかい部分があり、外側を冷ましただけでは内側の温度が下がらないような食べ物を食べた場合に重症化することがあります。
温度や食べた量にもよりますが、食道熱傷や喉をやけどしたりします。重症の場合には、経口で食事を取ることができないため、入院して点滴で栄養を取りながら治療することもあります。
熱過ぎる空気がある状況での呼吸(上気道熱傷)
火災や火山の噴火、ガスや爆弾などの爆発に巻き込まれた場合に起こります。高温の空気や水蒸気などが呼吸の際に体内に取り込まれると、一瞬でやけどを生じます。
高温のため、喉や肺、気管などが激しく損傷し、上気道熱傷などを起こします。
化学物質や医療事故など
農薬や漂白剤などの誤飲、歯科治療時における薬液の取り扱いミスなどで起こります。主に咽頭や食道が損傷します。表皮に付着した場合には、大量の水で洗い流すことによって重症化は避けられますが、喉では難しいため重症化しやすくなります。
喉をやけどしてしまった場合の対応
喉をやけどしてしまった場合、食道熱傷と気道熱傷では処置の仕方が異なります。しかし、まず患部を冷やすことがやけどの応急処置の基本となります。水を飲む、氷を口に含むなどして患部を冷やしましょう。その後、オリーブオイルやはちみつなど、保湿効果のある液体を飲むと治癒が早くなります。やけど治療の基本は、冷やすことと保湿です。
食道熱傷の場合
比較的緊急度は低いです。Ⅰ度の熱傷であれば、1~2日で痛みは治まります。Ⅱ度以上の熱傷の場合には治療が必要になりますが、命に関わることにはなりませんので、2日以上痛みが継続するようであれば専門機関で受診してください。
受診の際には、耳鼻咽喉科か消化器外科が安心です。通常の外科では治療できないこともあるので、事前に確認することをお勧めします。
上気道熱傷の場合
上気道熱傷では、同時に煙を吸い込んでいることがほとんどです。煙に含まれる一酸化炭素やシアン化合物などによって、呼吸困難になる場合があるので注意が必要です。
また、気道がやけどするくらいの高温の空気がある危険な場所では、全身やけど・倒れた際の骨折などの合併症が生じている可能性が高くなります。よって、早急な救命処置を行わないと命に関わります。まず、気管挿管して呼吸を確保します。その後適切な治療を行います。
鼻毛が焦げている、口腔内にすすが付いている、嗄声(させい/しわがれた声)、喘鳴(ぜんめい/ヒューヒューという呼吸音)が確認された場合には上気道熱傷は確定的です。そこまで症状がひどくないと感じても、ゆっくりと重症化していくことがありますので注意が必要です。受傷後24時間以内が最も危険で、気道が腫れあがって呼吸困難に陥ることもあります。自覚症状がなくても、高温の空気や煙を吸い込んだ場合には必ず専門機関で受診するようにしてください。気道が腫れてしまうと、気管挿管が困難になるため、窒息死する危険性があります。
喉をやけどした際の食事
損傷部位に刺激を与えないように、冷たい物・柔らかい物・刺激の少ない物を選んでください。固い物(せんべいなど)や刺激の強い物(唐辛子、胡椒、酢など)、熱い物(味噌汁、コーヒーなど)は避けてください。
喉や食道などは皮膚よりも回復が早いので、痛みや違和感を感じなくなったら通常の食事をしても問題ありません。
喉のやけどが原因となる病気
食道・胃の炎症
喉をやけどするほど熱い飲食物は、食道や胃にダメージを与えます。特に、食道や胃には熱さや痛みを感じる知覚神経が少ないため、気が付かないうちにダメージが蓄積されていることもあります。
炎症が悪化して、慢性化することで潰瘍となります。食道潰瘍・胃潰瘍の原因は様々ありますが、熱い飲食物の摂取も原因のひとつです。
食道がん、胃がん
熱い飲食物による刺激を受け続けることによって、正常な細胞が変異してがん化する可能性が高くなります。熱い食べ物は寒冷地で好まれますが、日本では東北から北海道にかけて食道がんが多いことが分かっていて、熱い飲食物との関連性が指摘されています。
漿膜は、内臓を守るための表面を覆う膜です。臓器どうしの摩擦を防いだり、内部で発生した炎症やがん細胞などが外に浸潤していくのを防いでいます。食道には、この漿膜がないため、食道がんになると、周囲の臓器へ転移しやすく悪性度の高いがんとなまります。
日本における胃がんの原因は、ピロリ菌を原因とするものが大部分を占めているとされています。なぜピロリ菌が原因となるのかというと、胃酸が分泌される胃の中で生きるため、アンモニアや様々な物質を産生して身を守っています。アンモニアを始めとする産生物質は、直接的・間接的に胃へダメージを与えます。ダメージが蓄積することで、慢性的な胃炎を引き起こします。この慢性胃炎が、胃がんの一番大きな原因となることが分かっています。
熱い飲食物による刺激で、食道や胃が炎症を起こすことによって、がんの原因となってしまうのです。
まとめ
「喉のやけどなんて大した事じゃない」と思っていた方も、今日からは喉を大切にしてあげてください。胃や食道は刺激に鈍感なので、喉がやけどするような熱い飲食物や刺激は避けましょう。
これは全ての病気に共通することですが、ひとつのケガや病気が次のケガや病気を起こす原因となります。これが連鎖していくことによって、次第に大きな病気へとなっていきます。きっかけとなる小さなケガや病気を甘く見ずに、しっかりと対策・治療することが重要です。