一般的に喉が痛い、咳や痰が出る、声がれがするなどの症状が出たら風邪だと思い、病院に行く方が多いのではないでしょうか。中には仕事などで忙しかったり初期の軽い症状だと病院まで行かず市販薬で済ませる方もいらっしゃるかと思います。
しかし、喉の痛みが続いたり悪化したりとなかなか治らない場合は喉頭蓋炎という危険な病気の初期症状かもしれません。喉頭蓋炎はあまり知られていない病名のうえに風邪の症状ととても似ているため気付かない場合が多い病気なのです。気付いた時には、喉の激しい痛みや呼吸困難、最悪な場合は死に至るケースがあります。
今回の記事では喉頭蓋炎の詳しい症状と、その治療法をご紹介します。
喉頭蓋炎とは
喉頭蓋炎は子どもから大人まで老若男女発症する可能性のある病気です。特に小さい子どもだとまだ免疫力が低いため早期発見と早期治療が大切になってきます。
初期症状は風邪に似ていると解説しましたが、風邪と喉頭蓋炎の違いは何なのでしょうか?症状にどのような特徴があるのか、また原因は何か調べてみました。
喉頭蓋炎の症状について
喉頭蓋炎とは「喉頭蓋」と呼ばれる喉頭口の前上方にあり、食べ物を飲み込むとき蓋をするように喉頭口をふさいで気管に入るのを防ぐ働きをする軟骨を支柱とする舌状の突起物のことで、その喉頭蓋が何らかの原因で炎症することによって喉頭蓋が腫れ喉の痛みや呼吸困難を引き起こし、最悪な場合死亡することもある危険な病気です。
初期症状として喉の痛みや咳や痰、発熱、声がれ、しゃがれ声、含み声、よだれなどが長期間続くことがあり、息苦しく感じる方もいます。ひどくなると喉頭蓋の腫れによって気道が狭くなり「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴をしたり呼吸困難を引き起こすこともあります。
特に子どもは大人に比べ気道が狭くまだ発達していないので、そのまま放置しておくと命に関わる恐れがあるので注意が必要です。
また喉頭蓋炎には急性喉頭蓋炎と慢性喉頭蓋炎の2種類があり、急性喉頭蓋炎は症状が急性的に起こり喉頭蓋が急激に腫れあがることによって喉の激痛や呼吸困難を引き起こします。慢性喉頭蓋炎は喉頭蓋の軽い炎症が長く続くことで、声がれ、咳、痰などを生じます。
喉頭蓋炎の原因
喉頭蓋炎は喉頭蓋の細菌感染症でその原因はヘモフィルスーインフルエンザB型菌によって引き起こるものとされています。「インフルエンザ」と言ってもヒブ感染によって発症するものなので、インフルエンザの病原体ではありません。特に喫煙者、糖尿病、免疫抑制剤の治療を受けている方は危険性が高くなります。また、細菌感染によるものなので他人にうつる可能性があります。
発症すると、髄膜、喉頭蓋、肺などに炎症が起こりひどくなると急性喉頭蓋炎や敗血症、細菌性髄膜炎、結膜炎、関節炎などの原因となります。重症になると髄膜炎の後遺症として発達、知能、運動障害、聴力障害が起こることがあり、喉頭蓋炎では呼吸困難から死亡するケースもあります。
発症率
喉頭蓋炎の原因とされるヘモフィルスーインフルエンザB型菌は誰もが発症する可能性のある危険なウイルスですが全体の約85%が子どもに発症しており、子ども全体の66%は0歳から1歳児、34%は2歳から4歳児と主に生後間もない赤子から幼児に発症するケースが多いと調査結果にあるようです。特に集団保育の子どもは2~3倍かかりやすいといわれています。
また、致死率の高いウイルスのため抵抗力の低い赤子や幼児は死亡する場合が多く、毎年世界で約40万人の子どもが亡くなっているとされています。
ワクチンで予防
喉頭蓋炎はHIBワクチンで予防が出来ます。HIBワクチン導入前は年間約600人がヘモフィルスーインフルエンザB型菌に感染してたとされていますが、1980年代に欧米で小さな子どもにも有効なワクチンが開発され、定期摂取に組み込まれたことにより発症が99%減少したとされています。
日本でも2008年にHIBワクチンが発売され2013年度から定期摂取として取り入れています。生後6カ月以降からかかる赤子が増えるのため、生後2カ月から6カ月までに初回接種受けるようにしましょう。合計4回摂取しますが、ヘモフィルスーインフルエンザB型菌になりやすい生後6カ月までに初回3回の摂取を済ませておくようにするとよいです。追加摂取は1歳以降に受けましょう。
喉頭蓋炎の診断方法と治療方法
上記では急性的に起こる急性喉頭蓋炎と長期で持続する慢性喉頭蓋炎があると紹介しました。その緊急性によって診断方法や治療法などが異なるようです。
ここでは、さまざまな診断方法と治療法を紹介します。
喉頭蓋炎の診断方法
喉頭蓋炎は風邪にも似た症状なので、気付かないまま悪化するケースの多い病気です。また、短時間に急速に症状が進む場合があるので病院で風邪と診断されて家に戻ったら急変し、呼吸困難から窒息死してしまった方もいるようです。
喉の痛みや咳、痰が出たら風邪メインの内科よりも耳鼻咽喉科を受診するのがおすすめです。喉頭蓋炎の診断方法には以下があります。
・頚部側面X線検査(高圧X線撮影)
喉頭蓋炎の症状が疑われる場合、軽い症状の時に行われることが多く首の側面部分にX線を当て喉頭蓋に腫れがあるかを見ます。実際診断されるのは「間接喉頭鏡検査」か「喉頭ファイバースコープ検査」が多いようです。
・間接喉頭鏡検査
喉頭と気管を拡大して見ることができるようにする検査方法です。患者は椅子に座り喉に麻酔スプレーをかけます。(麻酔薬の入った薬を飲む場合もあります)
舌で喉が隠れないようにしたをガーゼなどで覆い上から押さえ、医師は関節喉頭鏡と呼ばれる鏡を喉の中に入れ喉頭の写真を撮ります。
この検査によって喉頭の状態が鮮明に確認でき、喉頭蓋に腫れがあるか診察できます。
・喉頭ファイバースコープ検査
鼻から通常軟性(フレキシブル)の喉頭ファイバーと呼ばれる直径3mmから4mm程度の細い管のようなものを喉頭蓋部分に通し観察することで肉眼では見えにくい部位の病変や小さな病変、粘膜表面の異常などを見つけることができます。
この検査によって喉頭蓋が腫れているか調べることが出来ます。また、医師から画像やビデオ、写真を見せて説明してくれるので病状が分かりやすいのが特徴です。
喉頭蓋炎の重症度
喉頭蓋の形状や呼吸困難の有無、症状などから喉頭蓋炎の重症度が3つのレベルに分けられています。これは間接喉頭蓋鏡検査や喉頭ファイバースコープ検査後、喉頭蓋の腫れの状態を診断するために行われるとされています。
・正常
正常は喉頭蓋がピンク色で声帯の部分をはっきり確認することが出来ます。
・軽傷(Ⅰ期)
喉頭蓋の部分が腫れだし赤くなります。この段階では軽い喉の痛みや咳、痰などの風邪のような症状で適切な内服治療を行えば呼吸困難までに至ることはほぼ無いとされています。
・中傷(Ⅱ期)
軽傷(Ⅰ期)に比べ喉頭蓋の部分が更に赤く、形状も逆三角形のような形になりかなり腫れあがります。声帯や気道をふさぎ始め喉の痛みや息苦しさがひどくなります。点滴や経過観察、また入院が必要になります。
・重症(Ⅲ期)
重度(Ⅲ期)になると、喉頭蓋のひどい腫れによって気道がほぼふさがれるのでとても危険な状態です。窒息に備え気道確保の準備など早急の対応が必要です。
喉頭蓋炎の治療法
軽傷(Ⅰ期)、中傷(Ⅱ期)の場合、基本的に経静脈への抗生物質(セフェム系、ペニシリン系、クリンダマイシン)の投与により治療します。症状がひどい場合ステロイド薬を点滴し、入院することもあるようですが軽傷(Ⅰ期)であれば、適切な内服治療を行うことによって重症化することは少なく早くて4~5日で治るようです。
重症(Ⅲ期)になると、抗生物質とステロイド薬の投与とともに気道確保を行います。気道確保には、気管内挿管と気管切開、輪状甲状膜切開があり、呼吸困難になってしまった人に対して最初は気管内挿管を行います。窒息寸前なほど危険な状態の場合、緊急の気管切開を行うことがあります。これは、息が苦しい時にチューブを口から気管に入れる挿管が喉の腫れによって出来ないためです。
輪状甲状膜切開とは気管切開と同様、気管内挿管が出来ない場合、気道確保するための最終手段として行う処置です。輪状甲状膜と呼ばれる部分を切開し、専用の器具を取り付けることによって外から空気を取り込みます。
喉頭蓋炎は再発しやすい?またその予防策を紹介!
喉頭蓋炎は一度かかると免疫ができるとされています。一方、一度かかると再発しやすいなどと噂もありますが、医学的根拠は確認されていません。
また喉の乾燥を防ぐと、喉頭蓋炎の予防に期待ができるといわれています。空気やタバコによる乾燥に気をつけ日ごろからマスクを着用したり、室内を加湿するようにしましょう。
まとめ
●喉頭蓋炎とは
・喉頭蓋が炎症することによって喉頭蓋が腫れ、喉の痛みや呼吸困難を引き起こし、最悪な場合窒息死する可能性のある危険な病気
・症状は喉の痛みや咳、痰、発熱、声がれ、しゃがれ声、含み声、呼吸困難などがある
●喉頭蓋炎の原因と発症率
・喉頭蓋の細菌感染症でその原因はヘモフィルスーインフルエンザB型菌によるもの
・ウイルスによる細菌感染によるものなので他人にうつる可能性がある
・0歳から4歳にかけて発症するケースが多い
●喉頭蓋炎の予防法
・喉頭蓋炎の原因とされるヘモフィルスーインフルエンザB型菌のHIBワクチンで予防する
・HIBワクチンは日本でも定期摂取として取り入れており、2カ月から6カ月の間に受けるのがよいとされている
●喉頭蓋炎の診断方法と治療方法
・喉頭蓋炎が疑わしい場合、耳鼻咽喉科を受診する
・頚部側面X線検査(高圧X線撮影)、間接喉頭鏡検査、喉頭ファイバースコープ検査で診断する
・症状(軽傷、中傷、重症)によって治療法があり、軽傷、中傷だと抗生物質やステロイド薬の投与で治療し、重度になると更に気道確保(気管内挿管、気管切開、輪状甲状膜切開)によって症状の改善を図る
以上が今回のまとめになります。風邪だと思っていた赤ちゃんや幼児が夜間に突然悪化し、呼吸困難を引き起こし最悪な場合、死に至ることもある危険な病気です。
早期に発見し、適切な治療をすればほとんどが治るといわれています。軽い症状だと思って放置せず、必ず医師の診療を受けるようにしましょう。