妄想癖がどのようなものかご存知ですか?妄想癖というと、異性との夜の営みのようなことを想像するエッチ心理のようなもので、軽い意味で捉えられている方も多いと思います。
しかし、妄想癖は一種の精神疾患なのです。そして、妄想癖が行き過ぎると色々な弊害が現れてしまいます。
そこで、今回は妄想癖についての概要をまとめましたので、参考にしていただければ幸いです。
妄想癖とは?
そもそも妄想癖とは、どのようなことを言うのでしょうか?
妄想とは?
妄想とは精神医学用語で、根拠のない自分勝手な思いこみのことを言います。妄想を抱く本人は、その思いこみが妄想であるとは認識していないことが多いとされています。
妄想には、次のような3つの特徴があります。
- 根拠がない、あるいは根拠が薄弱にも関わらず、本人の確信が強固
- 証拠を示したり、説得によっても訂正が不能
- 思いこみの内容が非現実的
妄想の程度
このような妄想、その思いこみの内容、確信の程度などは個人差が大きいと言われています。つまり、生活に支障が無い程度の軽度の妄想から、生活に支障のある重度の妄想まで、個人差があります。
たとえば、本人が妄想であると認識していなかったり、自分の思いこみの非現実性をなんとなく理解している場合もあります。さらには、他人の前では妄想を隠して社会生活に適応している場合もあるのです。
妄想癖とは?
妄想癖は、このような妄想を無意識的に何度も繰り返す癖(くせ)のことです。妄想が無意識的に何度も繰り返されると、様々な弊害が生じるようになります。
つまり、妄想の世界と現実世界を混同してしまい周囲に様々な迷惑や混乱を引き起こしてしまうのです。このように弊害が周囲にも及ぶようになると、それは精神の障害であると言わざるを得ません。
それは空想?それとも妄想?
一般的に空想とは、非現実的な事柄を想像して、思いを巡らすこととされています。この空想は、妄想と違うのでしょうか?
空想とは?
空想は、内容的には非現実的な事柄ですので、妄想と似ています。
しかしながら、完全に非現実的とも言えず、現実にある理論や考え方をベースにしているので根拠が薄弱とまでは言えません。また、本人の確信が強固とまでは言えませんし、周囲の説得によっても訂正の余地がある場合がほとんどです。
誰しもが空想している
このような空想は、日常的に誰しもが行っているとされています。人が生きている間に、一度も空想をしたことが無いという方は、いないのではないでしょうか。
たとえば、女性が好きになった男性と、現実にはお付き合いをしているわけでもないのに、あたかも恋愛しているかのような想像をめぐらすことも空想と言えます。また、アイドルと言われる女性と自分が彼氏のようにクリスマスの日にデートをしている姿を想像することも空想と言えます。いずれも現実的には難しい事柄ですが、周囲の人に説得されれば空想であると受け入れる余地があるからです。
さらに、ロボットアニメの世界も、非現実的ではあるものの、現実にある考え方などをベースにしているので空想の世界と言えるでしょう。
空想が過剰になると
このような誰しもが日常的に行っている空想が、行き過ぎると妄想になってしまうと言えます。そして、空想や妄想は人の心の中の事象であるために、空想と妄想の境界は非常に曖昧です。
しかし、妄想や妄想癖にまで至ると、妄想の世界と現実世界の違いを認識できなくなってしまい、様々な問題が生じてしまうという点に空想と妄想の違いがあるのです。
妄想癖の内容
このような妄想癖ですが、どういった内容の妄想を抱くのでしょうか?
妄想の内容としては、主に次のような種類があるとされています。
- 被害妄想
- 誇大妄想
- 関係妄想
- 注察妄想
- 恋愛妄想
- 罪業妄想
- 心気妄想
- 貧困妄想
被害妄想
被害妄想は、他人の悪意によって自分の行動が害されたり、邪魔されたりしていると思いこむ内容の妄想です。被害妄想が、妄想の中でも最もメジャーな種類であると言って良いでしょう。
たとえば、自営業なり小さな会社を経営したりする人が、他人からの邪魔のせいで倒産したと思いこむような場合です。
また、自分の所有物が誰かに盗まれたのではないかと思いこむことも被害妄想の一例と言えます。この例は、被害妄想の中でも特に盗害妄想と呼ばれ、認知症患者などで良く見られます。
詳しくは、被害妄想になる原因とは?意味や特徴、治療法も知っておこう!を参考にしてください!
誇大妄想
誇大妄想は、現実の状況を差し置いて、自分を過剰評価する思いこみを内容とした妄想です。
例えば、自分の過剰評価の内容として、実際の自分には存在しない高い地位や財産があると思いこんだりします。また、自分に甘く、他人に厳しい自分勝手な評価基準により、自分には優れた能力があると思いこむことも誇大妄想の一例です。
関係妄想
関係妄想は、周囲で起こった事実を常に自分に結び付けて解釈し、思いこむことを内容とした妄想です。いわば、世界は自分が中心に動いているというような思いこみが、関係妄想です。
例えば、近所の人同士が話している姿を見て、自分の噂をしていると思いこむような場合です。
注察妄想
注察妄想は、自分が他人に変な目で見られていると思いこんだり、監視されていると思いこむ内容の妄想です。いわば、病的に自意識が過剰になったような心理状態が、注察妄想です。注察妄想は、関係妄想を前提にしています。
たとえば、街に出ると誰かに見られていると気になったり、家で盗聴されていると思いこむような場合です。
恋愛妄想
恋愛妄想は、被愛妄想やエロトマニアとも呼ばれます。恋愛妄想は、ある特定の相手に実際は恋愛対象とされていないにも関わらず、自分は相手に愛されていると思いこむ内容の妄想です。
これは、誰しもが良く理解できる内容の妄想だと思います。しかし、空想でとどまっていれば問題ありませんが、行き過ぎて妄想となるとストーカーの原因となったりします。したがって、恋愛妄想という名称の割に、重い内容の妄想症状なのです。
罪業妄想
罪業妄想は、自分の行為や心の動きを極端に悪いものと捉え、自分自身を責めてしまう内容の妄想です。
例えば、他の人にとっては気に掛けるほどでもない自分の発言を、周囲の人に迷惑をかけた重大な失言だと思いこんで深く落ち込んだり、自分を責めたりする場合です。
心気妄想
心気妄想は、自分が病気に罹患したと思いこむ内容の妄想です。
実際には健康なのに、自分は癌になったのではないかと思いこむテレビドラマの1シーンのような内容です。また、実際は胃潰瘍なのに、自分は胃癌だと思いこむ場合も、心気妄想の一例になります。
貧困妄想
貧困妄想は、実際にはお金があるのに、自分は極貧状態にあると信じ込む内容の妄想です。
貧困妄想は、失業したからお金が心配というようなレベルではなく、家族が預金通帳を見せても、明日のお米が買えないと極度に心配や不安に陥るのです。そのために、処分する必要のない家財を売却してしまうようなことが発生します。
妄想癖の原因
それでは妄想癖は、どのような原因によって生じるのでしょうか?
妄想の原因
妄想の原因は、現実にある何らかのストレスに対して、その現実から心を逃避させることによって精神的なダメージを受けることを回避するものと考えられています。
人の心には、身体の免疫反応のように精神破壊をされないための無意識的な防御機構が存在すると考えられています。
つまり、人は誰しも現実に起こった事象に対して違和感や苦痛を感じることがあります。そのような違和感に対して、当初は我慢したりして違和感のある現実をやり過ごそうとします。しかし、その現実が変わらないことで、違和感や苦痛が増幅し心の安定が乱されて我慢ができなくなります。
そうなると、心を安定させるために無意識的に妄想をすることで、現実逃避して精神的なダメージを受けないようにするのです。
妄想癖の原因
このように妄想の原因は、心を安定させ精神的ダメージを回避するための現実逃避です。
人が違和感を感じる現実の事象は、なかなか劇的に変化・改善するものではありません。ですから、人は妄想を繰り返すことによって、現実逃避を繰り返します。
このような現実逃避を繰り返すことで、妄想が習慣化してしまいます。無意識的に妄想をして現実逃避をすることで心を安定させていることが、さらに無意識的に習慣してしまうのです。
この妄想の習慣化が、妄想癖の原因と言えるでしょう。
妄想癖に陥りやすい人の特徴
人は誰しもが空想を行います。しかし、全ての人が妄想癖にまで至るわけではありません。それでは、どのような人が妄想癖を持つに至るのでしょうか。妄想癖に陥りやすいタイプの人は、次のような特徴を持っています。
- 過去に何らかのトラウマを持っている
- 統合失調症やうつ病などの精神障害
- 薬物中毒
- アスペルガー症候群
過去のトラウマ
トラウマとは、外的要因や内的要因を問わず、その人にとってストレスとなる肉体的衝撃や精神的衝撃を受けたことで、長い間その衝撃の影響を受けることです。トラウマは、心的外傷とも呼ばれます。
このような過去のトラウマが、突然記憶によみがえることで、人は精神的に違和感を感じたり、苦痛を感じます。このような精神的な違和感や苦痛がストレスになり、トラウマを取り除いた理想的な事柄を空想します。そして、その空想がいつしか妄想に変わっていくと考えられています。
トラウマになり得るもの
人には個人差がありますから、同じ事実であっても人によってトラウマになることもあれば、トラウマにならないこともあります。
ただし、一般的に身に危険を感じるような出来事であれば、それはトラウマになり得るとされています。例えば、トラウマの代表的原因としては、次のようなものがあります。
- 児童虐待、性虐待、ドメスティックバイオレンス(DV)
- 戦争
- 犯罪による被害、事故による被害
- 大規模な自然災害
- いじめ、暴力
- 嫌がらせ(パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、モラルハラスメントなど)
統合失調症やうつ病などの精神障害
さまざまな精神障害に伴って妄想が生じ、その妄想を繰り返すことで妄想癖といえる状態になることもあります。
そして、妄想癖の原因となる精神障害の種類によって、現れる妄想の種類も異なる傾向があるとされています。たとえば、統合失調症では、被害妄想、関係妄想、誇大妄想などが現れやすいとされています。また、うつ病では、罪業妄想、心気妄想、貧困妄想などが現れやすいとされています。
ただし、このような傾向は、あくまでも傾向にすぎず、必ず当てはまるわけではないことには注意が必要です。
妄想癖の原因となる精神障害の種類
妄想癖の原因となる精神障害の種類には、次のようなものがあります。
- 統合失調症
- うつ病
- 妄想性障害
- 双極性障害
- 妄想性パーソナリティ障害(偏執病、パラノイア)
- 統合失調型パーソナリティ障害
- 境界性パーソナリティ障害
- 認知症
薬物中毒
薬物中毒や覚醒剤の乱用によっても、妄想癖に陥ることがあります。薬物中毒や覚醒剤の乱用の結果として、統合失調症と似たような症状が現れます。
アスペルガー症候群
アスペルガー症候群は、発達障害の一つです。アスペルガー症候群の人も、妄想癖に陥ることがあるとされています。
人によっては、アスペルガー症候群の診断基準に照らし合わせても統合失調症との鑑別が難しい場合もあり、被害妄想などが現れるとされています。
詳しくは、アスペルガー症候群が成人に現れた時の症状は?対処方法も紹介!を参考にしてください!
妄想癖による弊害
このような妄想癖ですが、どのような弊害が現れるのでしょうか?
妄想癖による弊害
妄想癖に陥ると、その妄想の内容によって様々な弊害が現れます。そして、その弊害は自分自身に及ぶものと、周囲の人に対しても及ぶものとに分類できます。
周囲の人に対して及ぶ弊害
被害妄想、誇大妄想、関係妄想、注察妄想などが繰り返されると、自分自身が根拠なく思いこんでいる内容について、その内容を認めない他人に対して攻撃的態度や攻撃的衝動性を示す場合があります。
このような攻撃的な衝動性は、周囲の人から見れば根拠がないものですから、周囲の人にとっては迷惑な異常行動にすぎません。
たとえば、妄想者が警察に盗聴されていると思いこみ、警察署へ抗議に乗り込んできても、盗聴の事実が無いのですから、警察官にしてみればいい迷惑です。
また、ストーカーによる殺人事件などは、攻撃的な衝動性が現れる最たる例と言えます。
自分自身に及ぶ弊害
このような妄想による行動は、周囲にしてみれば異常行動です。そして、このような異常行動が繰り返されれば、妄想者は社会的な逸脱者として周囲から相手にされなくなります。
そうなると、社会の構成員として社会生活を送ることが困難になります。また、仮に妄想癖を克服できたとしても、その後の社会復帰が困難になると言えます。
また、妄想が行き過ぎることで、自分が犯罪者になってしまうことも考えられます。
妄想癖の改善法
では、妄想癖を改善するには、どのようにすれば良いのでしょうか?
妄想癖の改善法
妄想癖の妄想の程度には個人差がありますから、妄想癖の改善法にも一律の方法があるわけではありません。とはいえ、妄想癖を改善するための一般的な改善法は存在します。そして、妄想癖の一般的な改善法には、次のような方法があります。
- 病院へ通う
- 友人や家族と過ごし、会話する
- 行動する
- 読書などで視野を広げる
病院へ通う
精神障害や薬物中毒によって妄想癖が現れている場合は、それぞれの治療をする為に病院にかかるより他はありません。精神科などの医師に診てもらいましょう。
友人や家族と過ごし、会話をする
妄想癖がある場合、一人で過ごしていると妄想をする可能性が高まります。ですから、友人や家族と過ごす時間を可能な限り増やすことが重要と考えられています。人と会話をすることで、脳が会話に集中するため会話をしている時間は妄想の可能性が低減します。
性格的に社交的ではなくても、まずは、近い関係の人と会話をするようにしてみて下さい。
行動する
とにかく行動してみることが、妄想癖の改善につながるとされています。単に散歩をすることでも、犯罪でなければ妄想したことを実現しようと行動することでも良いのです。
行動することで、脳は周囲の状況を把握したり、新たな環境に適応しようと働きますから、妄想の可能性も低減するのです。
読書などで視野を広げる
読書をしたり、映画を見ることにより視野を広げることも、妄想癖の改善につながります。
読書や映画は、妄想癖をさらに強化するようにも考えられますが、読書や映画によって自分の価値観に無い世界観に触れることで、逆に妄想が抑制されると考えられています。というのも、妄想は自分の狭い価値観の中で思いこみが生じるものだからです。
まとめ
いかがでしたか?妄想癖についての概要をご理解いただけたでしょうか?
たしかに、日常的に使われる軽い意味での妄想ならば、誰もが行っていることですし、問題になることはありません。
しかし、空想が妄想に転じて、さらに妄想が癖になってしまうと、いろいろな弊害が生じてしまいます。そして、トラウマなどによって、誰にでも妄想癖が生じる可能性があります。
ですから、妄想や妄想癖について知っておくことが、その後の対処などに肝要と言えるでしょう。
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