カリニ肺炎という名前をご存知でしょうか?知っている方はHIV(エイズ)に関するサイトで見たのではないでしょうか。知名度はあるような、ないような病気ですが診断を誤ったり、放置したりすると死亡率の高い病気です。
しかし、この病気を知って、検査をして予防薬を飲めば助かる可能性の高い病気でもあるのです。違いは、知っているか、知らないか、それだけです。ここではカリニ肺炎の正体から検査法、症状、治療法、予防法まで広く説明します。
カリニ肺炎とは
実は今はカリニ肺炎とは言いません。ニューモスチス肺炎というのが正式名称です。カリニ肺炎というのは旧称なのですが、
いまでもカリニ肺炎という名で知られているので、ここでもカリニ肺炎と書くことにします。ウイルスではなく、真菌(カビ)の一種です。この真菌は世界中に生息しているのです。
発症の条件
この真菌の新しい名前はカリニではなくニューモスチス・イロベチイという名前です。日和見感染するのが特徴です。日和見感染というのは、感染していても通常の免疫力を持っている間は発症しないが、免疫力が著しく低下すると暴れ出す性質を持っています。
カリニ肺炎になるような免疫力の低下は、健康な人間が過労やストレスで免疫力を損なうレベルではありません。たとえ過労で肺炎になってもカリニ肺炎ではないのです。
カリニ肺炎を発症するには、自分自身以外からの免疫力への干渉が発症の条件になります。HIV(エイズ)による免疫不全や薬剤(抗がん剤、ステロイド剤の長期服用)による副作用で免疫不全に陥った時にカリニ肺炎の可能性が出てきます。
実はこの真菌、2~4歳までにはぼ全員が感染して保菌者になっています。つまり、条件さえ満たせば誰でもカリニ肺炎になる可能性があるのです。HIV(エイズ)特有の症状とよくいわれていますが、それは間違いです。
HIV(エイズ)との関連
たしかにカリニ肺炎はHIV(エイズ)の発症を証明するものでもあります。HIV(エイズ)は突然、症状が出るのではないので血液検査するか大きな症状がない限り自覚できません。
抗がん剤やステロイド剤など薬剤の副作用であれば、投薬時に想定されるリスクなのでカリニ肺炎の可能性は把握できています。きわめて初期に、カリニ肺炎に対する治療が行われたり、予防したりできます。
カリニ肺炎は、発症時に適切な治療を受ければ助命率の高い病気です。しかし、放置すれば死亡率は40%以上と高いものになります。
そこで一番、発見が遅れるのがHIV(エイズ)関連のカリニ肺炎、ということになります。むしろカリニ肺炎になって初めてHIV(エイズ)の可能性が浮上するくらいです。早い段階で自分がHIV(エイズ)になっていると知っていれば話は別です。
自分がHIV(エイズ)であると、どの段階で知るかによってカリニ肺炎による余命率が変わります。その意味で、HIV(エイズ)啓蒙活動にカリニ肺炎はよく使われます。ただ、混同してはいけないこととして、カリニ肺炎はHIV(エイズ)だけの症状ではないということです。
そしてHIV(エイズ)の患者すべてがカリニ肺炎を発症するわけではありません。カリニ肺炎を発症するのはカリニ肺炎全体の約60%です。そしてHIV(エイズ)からカリニ肺炎になった場合の死亡率は10~20%といわれています。
HIV(エイズ)でもなくカリニ肺炎になった場合の予後は厳しい状態で、死亡率は35~50%という報告があります。
カリニ肺炎の症状
初期症状は、ありきたりな風邪です。薬剤使用で事前にリスクを把握できればいいんですが、そうでなければ見逃しがちです。
早ければ薬も効きますが、長引かせると命取りです。カリニ肺炎特有の症状についてよく知ることは、助命率を高めます。
カリニ肺炎の三大症状
発熱、乾燥咳嗽、呼吸困難、この3つが主な症状です。それに息切れ、倦怠感、と加わって長引きます。発症が緩やかなもので、警戒させません。
発熱は一気に高熱になるものなら即、受診になるのですが、だらだらと続いてすっきりしません。単に長引いただけ、になりかねません。
乾燥咳嗽、これは乾いた咳を意味します。ゴンゴンと鈍い音がするものでも、ゼロゼロ音のある音でもありません。軽いコンコンという、いわゆる空咳です。周りだけでなく、本人もあまり気にならないくらいです。体液が少ないので痰が少ないのが特徴ですが、長引く発熱の影響と受け止められ、これも見逃されかねません。
呼吸困難、これが一番厄介といえます。息苦しいという自覚症状があるにもかかわらず、呼吸音は正常です。画像検査をしてくれれば、まだ救われるのですが「もう少し様子をみましょう」などと言われて風邪薬でも渡されるとジワジワ死亡率が高くなります。
やがて体重が減少し、チアノーゼを引き起こして画像検査で肺炎を発見しても手遅れになる可能性が高いのです。その場合、呼吸器不全による心肺停止で亡くなります。
間質性肺炎
カリニ肺炎がどのようなタイプの肺炎として症状が出てくるかというと、間質性肺炎です。間質性肺炎というのは肺のどの部分が炎症を起こしているかを示す名称です。カリニ肺炎だけでなく、様々な病気が原因で間質性肺炎は起こります。
肺胞と肺胞の間のスペースを間質と言います。この肺胞間のスペースが広いからこそ、肺胞はのびのびと活動できます。呼吸のたびにゆったりと動けることは、ガス交換を有利にし、新鮮な酸素を毛細血管に届けることができるのです。
この間質が炎症を起こすと、スペースが狭くなります。すると肺胞と肺胞の可動域が損なわれて弾力性を失います。弾力性を失った間質は肺全体を硬いものにします。気管支や肺胞そのものに異常がないのに、スペース不足でガス交換機能が損なわれ、全身に行きわたる酸素量が不足します。このため肺活量が低下して低酸素状態をひき起こし、やがて心肺停止につながるのです。
この間質性肺炎が真菌の感染、発症によって発病するものをカリニ肺炎といいます。肺胞と肺胞の間が急に狭くなるわけではありません。急性の間質性肺炎もありますが、カリニ肺炎の場合はゆっくり進行して、早期発見が難しいのです。
詳しくは、間質性肺炎の予後について!種類で変わる症状を知っておこう!を参考にしてください!
検査方法
カリニ肺炎であるかどうかの検査は主に4種あります。喀痰検査、気管支肺胞洗浄、経皮肺吸引、画像検査です。
喀痰検査は乾燥咳嗽でなかなか痰を採取することが難しいので、痰誘発剤を使います。それで痰の状態を調べて診断の材料にします。
気管支肺胞洗浄は真菌の状態を観察するために行い、経皮肺吸引は肺組織を採取して調べる方法です。これらは喀痰検査と同じように、真菌そのものの数や勢力を把握するために有効な方法です。
画像検査はレントゲンが主です。一般の肺炎のように白っぽい影ではなくて、すりガラス状にキラキラしたような画像が決め手になります。
これらの客観的な検査結果と、問診とはいちがいに同じ傾向にありませんが、真菌の活動状態が確認されたらカリニ肺炎と診断されます。
副作用に留意した投薬治療
カリニ肺炎と診断されたらすぐに精密検査で余病の有無を調べます。HIV(エイズ)を併発しているなら、その治療も同時に行いますし、カリニ肺炎だけならカリニ肺炎単独の治療をします。気を付けたいのは入院時の環境です。
できるだけ個室で二次、三次感染を防いでください。労作時に発作がおきやすいので安静に努めるよう指導し、歩き回らないなど患者の理解も必要です。
治療上の注意点
有効な治療も予防も、共通している注意点は同じことです。それは早くカリニ肺炎の可能性を把握しておくこと、これに尽きます。それほど早期発見が難しいといわれているからです。HIV(エイズ)と知っていようと薬剤の副作用と想定していようと、初期症状が軽い風邪に似ているので、本当の風邪をひくたびに喀痰検査やレントゲン検査をする訳にはいかないからです。
カリニ肺炎は薬物治療しかありません。服薬であれ注入であれ、治療薬の投与と感染予防、そして安静が重要です。
用いる薬剤はそう多くの種類があるわけではありません。ただ、どれも副作用が強いのが共通点で、慎重に24時間、経過観察する必要があります。一番穏やかな薬から投薬を開始し、思わしくなければ次に強い薬にステップアップします。
カリニ肺炎なら誰もがすぐに治療してもらえるわけではありません。元々、禁忌の方もいます。血液疾患、アレルギー疾患、妊婦は対象外としています。これは薬効成分がきわめて強力なためで、治療される患者の容態や体調をしっかりと見極めなくてはなりません。
21日間、連続して飲む服薬で始まり、肝障害や腎障害という副作用が出たら、静脈注射に切り替えて21日間、様子を看ます。そこで低血圧・低血糖・腎症などの副作用がでた時は投薬方法を吸入に切り替えます。
吸入時に気をつける事
吸入前にしておくべき検査があります。まず、結核菌や非定型抗酸菌の保菌者であるかないか、これは吸入薬と適合するかどうかです。次に気道過敏症ではないかどうかを確認します。吸入中に痰がからんだり吐き気がするので、過敏であるなら予め、気管支拡張剤を投与します。
吸入中は肺全体に吸入薬がまんべんなく行きわたるよう、定期的に体位を変えます。座位から横向きに寝て左右、そして座位と5分おきに変えていきます。
吸入後は口に苦みが残るので、うがいや甘いものを口にいれるよう、勧めて不快感の軽減に努めます。この間、気管支痙攣、強い咳、味覚異常などの副作用がないかどうか観察します。
まとめ
カリニ肺炎にいつの間にかなる可能性として、HIV(エイズ)に罹ることがあります。今では個人情報に配慮した形でHIV(エイズ)の検査が受けられるようになりました。
ネットからでも気軽に申し込め、結果も他人に分からないよう家族にも知られない形でもらえるようになっています。自分の隠れた病気を発症前にしること、これが本当のリスク管理です。
また、アレルギーや持病をお持ちの方は、治療薬を選ぶ時に必要な情報ですので「お薬手帳」をすぐ提出できるよう心がけましょう。これで、あなたの生存率は大きくアップします。