「上皮内癌(じょうひないがん/carcinoma in situ)」という言葉を聞いて、悪性の難治的な癌と想像される方もいらっしゃるのではないでしょうか?
実は、そうではないのです。腫瘍にも様々な種類があります。また、保険の適応なども異なります。上皮内癌についての詳細と保険に関して今から述べていきたいと思います。
上皮内癌は悪性新生物(悪性腫瘍)ではない
癌には「悪性新生物」、「上皮内新生物」、「良性新生物」の3種類があり、上皮内癌は悪性新生物(悪性腫瘍)とは区別させることがほとんどだと言われています。上皮内癌はこれらの内の上皮内新生物(上皮内腫瘍)の中に含まれます。以下に、これらについて説明します。
「悪性新生物」とは
悪性腫瘍の事を指します。増殖が早く、周囲の正常な細胞を破壊して浸潤し、血管やリンパ管に入り込みます。症状が進行し続けて様々な部位や遠隔臓器、リンパ管やリンパ節、骨などに転移します。腫瘍細胞の増殖は無限であり、宿主を死に至らせるリスクが非常に高い腫瘍です。
転移の可能性が高い事が特徴であり、一般的に「癌」と言われた時に想像されるものです。状態としては、基本的に上皮、基底膜を越えて癌細胞が広がっていき、stageではstageⅠからの段階になります。よって、様々な場所へ転移がされやすく難治的な疾患になります。
「上皮内新生物」とは
上皮内腫瘍とも言い、上皮内良性腫瘍と上皮内悪性腫瘍の両方があります。腫瘍が上皮(粘膜の上層)内に止まり、それ以上浸潤していない状態です。上皮内腫瘍は良性と悪性がありますが、悪性新生物とは異なります。異なる特徴としては、「転移をしない」という事です。転移をしないので、「上皮内癌」と称されています。また、悪性新生物とは異なり、再発のリスクもほとんどなく、治療を施行するとほぼ完治します。「癌」と言われていますが、悪性新生物に比べると恐怖は感じられにくいものになります。
「良性新生物」とは
良性腫瘍とも言います。自律的に増殖や転移する能力をもたない腫瘍です。発生した部位(局所)に止まって増殖し、発育は緩徐なため転移や再発のリスクも低いです。
上皮内癌の病態と種類
さて、上皮内癌がまず治る可能性のある癌であるものと示したところで、病態に移ります。まず、「上皮内癌」という言葉は局所の進行程度を示しています。
進行程度には様々な表現が使われており、「上皮内癌」、「粘膜内癌」、「早期癌」、「潜在癌、不顕性癌、偶発性癌」が挙げられます。以下に詳しく述べていきます。進行の度合いを表すものであって、場所を表しているものではありません。
上皮内癌を理解するに当たって
最初に、各臓器の壁の構造について知っておきましょう。臓器の内部表面が「上皮」、上皮から少し中に「基底膜」、更に奥に「粘膜」が位置しています。また説明をしていきますが、この上皮内に癌細胞が蓄積されているものを上皮内癌と言います。
上皮内癌が示す進行程度
上皮内癌は、癌細胞の増生が上皮層(上皮細胞)内に止まっており、間質細胞(組織)を境界とする基底膜を破って浸潤(深く広がること)していない腫瘍(癌)を指します。
上皮基底膜上に発育基盤をもち、この基底膜を越える間質へは浸潤しないで、上皮組織内だけに平面的に増殖するため、主に子宮頸部(ゼロ期がこの状態)や皮膚などの扁平上皮癌のときに見られます。扁平上皮癌には良性と悪性があります。子宮頸がんの病気はⅠ期~Ⅳ期までありますが、ゼロ期(0期)が上皮内癌に当たります。子宮頸部の上皮が悪性腫瘍になると必ず上皮の下の組織へ浸潤していきます。ゼロ期はstage0とも言います。上皮内癌は、癌の進行stageで分けるとstage0です。
癌が基底膜を越えて間質にわずか3㎜以内に浸潤してしまうと微小浸潤癌と言います。初期浸潤癌とも言います。これは、浸潤してしまっているため悪性になります。
以上のことより、どの部位でも成り得る可能性があるとわかります。早期の癌であれば、この状態ならば他の部位への転移がされることがないと言われています。なぜ、転移がされにくいのか、上皮内は基底膜という膜に囲まれ、血管やリンパ管と接触していないため、癌細胞が転移するための経路が無いからです。中にはそのまま進行せず自然消失するものもあります。
上皮内癌の種類
上皮内癌には多くの種類があります。これを国際疾病分類のICD10を用いて記載します。国際疾病分類とは、WHO(世界保健機関)が、国際的に統一した疾病、傷害及び死因の統計を分類したものになります。各国が行政上の目的の諸統計に使用しています。様々な分類がされています。
口腔・食道及び胃(12種類):咽頭上皮内癌、口腔上皮内癌、口唇上皮内癌、口腔上皮内癌、歯肉上皮内癌、口蓋上皮内癌、舌上皮内癌、頬粘膜上皮内癌、舌下面上皮内癌、口腔底上皮内癌、口底上皮内癌、食道上皮内癌、胃上皮内癌。
その他及び部位不明の消化器の上皮内癌(8種類):結腸上皮内癌、直腸S状部上皮内癌、直腸上皮内癌、肛門管上皮内癌、肛門上皮内癌、十二指腸上皮内癌、小腸上皮内癌、消化器の上皮内癌。
中耳及び呼吸器系の上皮内癌(5種類):喉頭上皮内癌、気管上皮内癌、気管支上皮内癌、肺上皮内癌、上顎洞上皮内癌。
上皮内黒色腫(8種類):口唇上皮内黒色腫、眼瞼上皮内黒色腫、肩の上皮内黒色腫、上肢の上皮内黒色腫、下肢の上皮内黒色腫、股関節部上皮内黒色腫、外陰表皮内黒色腫、上皮内黒色腫。
皮膚の上皮内癌(13種類):口唇皮膚上皮内癌、眼瞼皮膚上皮内癌、眼角皮膚上皮内癌、顔面皮膚上皮内癌、頚皮膚上皮内癌、頭皮上皮内癌、体幹上皮内癌、上肢上皮内癌、肩の皮膚上皮内癌、下肢上皮内癌、股関節部皮膚上皮内癌、ボーエン病、皮膚上皮内癌。
乳房の上皮内癌(2種類):乳管内上皮内癌、乳房の上皮内癌。
子宮頸部の上皮内癌(2種類):子宮頸上皮内癌、子宮頸上皮内腫瘍。
その他及び部位不明の生殖器の上皮内癌(6種類):子宮内膜上皮内癌、外陰部上皮内癌、膣上皮内癌、子宮上皮内癌、陰茎紅色肥厚症、前立腺上皮内癌。
その他及び部位不明の上皮内癌(3種類):膀胱上皮内癌、眼の上皮内癌、上皮内癌。
上皮内癌の発症率が高いもの
ICD10で記した通り、上皮内癌(上皮内新生物)の種類はたくさんありますが、その中でも発症率が高いものがあります。子宮癌(44.4%)、膀胱癌(33.7%)、大腸癌(18.5%)、乳癌(10.5%)、食道癌(6.5%)と、特に子宮頸癌と膀胱癌が約半数近くと多くなります。
胃癌や肺癌などは1%未満という報告もあります。これらは、「がん診療連携拠点病院院内がん登録2008年全国集計報告書」によるデータです。子宮頸癌は特に近年増加けいこうにあるため、定期健診は欠かさずに行うと良いでしょう。
上皮内癌の診断・検査方法
一般的な癌の診断とほとんど同じであると言われています。全身状態、精神状態、性格なども診て様々な検査を行い、総合して診て検査・診断・治療の処方を行っていきます。
定期検査を行っていれば早期発見・早期治療が可能です。
病理検査
病理検査は、細胞の一部を採取して研究室にて顕微鏡などを用いて詳しく検査を進めます。これにより上皮内癌の有無を確認します。この病理診断が最終診断です。
また、どの部位の癌であるかによって検査の種類や量が異なってきます。
画像所見
画像所見では、内視鏡検査、CT・MRI、超音波検査があります。内視鏡検査では一緒に体内の映像を自身も診ながら、また内視鏡検査を行っている医師とも会話をしながら診ていくことが可能です。リアルタイムにその場で確認することができる上、異常が見つかった場合にはその場で切除をすることも可能です。医師とよく相談して決めましょう。
CT・MRIではCTの方が検査費用は安く済みますが、MRIの方が立体的かつ細部まで診ることができます。両方検査をすることもあるかと思いますが、双方とも体へのストレス負荷がかかる検査になるので、よく検討しましょう。
上皮内癌の治療
上記でも述べた様に、難治されにくい癌ではないので放射線治療や強い抗がん剤治療などはありません。これより、身体や精神面への負担も他の癌に比べて比較的易しいです。
ここでは、2点上げますが、癌の部位によって治療の種類・量は様々です。治療費も保険適応から適応外があり、手術法によっても異なります。
レーザー治療
レーザーにて癌を切除する手術です。癌のある部位までレーザーをもっていき、照射することで切除と止血を同時に施行することが可能です。患者自身の負担も少なく、近年では施行されることが多いです。
内視鏡手術
上記でも示した通り、内視鏡検査を行いながらそのまま癌を切除する事ができる手術です。上皮内癌は、上皮層にのみ癌が存在している為、容易に切除ができると言われています。内視鏡は、そのまま切除ができる器具が入っており(全てではないです)、切除する際に電気メスを使用することが多いです。術後は、入院の必要性は低く、日帰り受診も可能です。
治療施行後の予後
上皮内新生物は適切な診断と治療が施行されていれば、3年間の生存率はほぼ100%と言われています。病変組織が完全に切除されていれば、100%完治することがほとんどであり、再発の可能性は低いです。
上皮内癌は保険が適応されるのか?
上皮内癌は死に至る可能性が低く、再発率も低く簡易な治療で完治しやすいため保険が適応する可能性は極めて低いです。
保険会社の内容によって異なることもあり、細かい文字で記載されていることもあるため、しっかり確認をしていくと良いでしょう。
保険適応のstageを確認
保険会社の保険内容によっては、stageⅡ以上のstageであれば保険が適応されることが多いです。しかし、stage0やstageⅠでは保険が適応されないことが多いです。特にstage0である上皮内癌では可能性が低いです。仮にstage0~Ⅰが保険適応内だったとしても給付金が少ない可能性があります。特に、女性の方は子宮頸癌のリスクも高いので、今加入している保険の内容をしっかり確認しましょう。
まとめ
さて、上皮内癌のことは理解することができたでしょうか?上皮内癌の押さえておくポイントは、悪性腫瘍ではないが放置して浸潤が進むと悪性腫瘍に進行すること、転移や再発のリスクは低いこと、早期発見できれば治療も簡単に終わることです。そして、保険の内容には注意をするということです。
癌だではなく、他の病気に関しても早期発見・早期治療を行えるように対応していきましょう。