私たちの生活の中で火事や地震といった災害が突如として起きるということは十分あり得ます。昨今の日本をはじめとした世界の地震などのニュースを聞くと尚更です。テレビでは非常食や水を備蓄するといったことは口を酸っぱくして報道していますが、火事などの際に起きうるある病気についてあまり報道していないかもしれません。
今回は火事などの災害時起きうる病期、気道熱傷について説明していきたいと思います。この記事を読んで、災害などの際により自分の身を守るということを意識して頂けたらなと思います。
この記事の目次
気道熱傷とはいったい何なのか
気道熱傷は火事などの災害時に発生した熱や煙を吸入することで起きる呼吸器系の障害のことを言います。
煙に含まれている有毒物質が気道などに付着し、咽頭や喉頭だけでなく、気管、気管支、肺といった所にも障害が起きるのです。
上気道型気道熱傷
咽頭や声門を損傷したことによる気道熱傷。熱による気道熱傷はこちらに当たります。
肺実質型気道熱傷
気管や気管支を熱傷したことで起きる気道熱傷。有毒物質による気道熱傷はこちらに当たります。
気道熱傷の症状について
気道熱傷の症状について移ります。
メインとなる症状
主な症状として、すすの混じった痰、嗄声(かすれ声)、喘鳴(ヒューヒューという呼吸音)が見られます。これらが見られると、気道熱傷は確定的です。
口や鼻の周囲など顔面に熱傷がある、鼻毛が焦げている、口腔や鼻腔内にすすが見られたりします。場合によっては肺水腫などを引き起こし、重篤になる場合もあるのです。
上気道型気道熱傷の場合
咽頭・喉頭浮腫により上気道の閉塞が起こりやすいです。場合によっては窒息による呼吸停止の可能性も十分あり得ます。受傷後24時間以内は注意が必要です。皮膚熱傷がなくても、気道熱傷が起きていると考えてもいいと思われます。
下気道型気道熱傷の場合
下気道、肺胞の炎症が起こり、進行性に酸素化障害を引き起こすのです。
場合によっては
一酸化中毒を合併し、意識障害を引き起こすので、早期発見と早期治療が必要と言っても過言ではありません。
つまり
気道熱傷は顔面などに目に見える傷がある無しに関わらず、火事などの際には気道熱傷があるかもしれないと疑うことが大事です。
最悪の場合、呼吸停止や意識障害などにより死亡する恐れもあるので、早期発見と早期治療と早めの対策を取ることが求められる恐ろしい病気であると言えます。
気道熱傷の検査・診断について
気道熱傷の有無を知るための検査・診断について移ります。
結局、検査・診断でポイントになってくるものって一体何なの?
気道熱傷の検査・診断でポイントになってくるものは気道の状態は一体どうなっているのか、一酸化中毒になっていないか、肺の状態はどうなっているのかの3つに帰結されます。
気管支鏡
気管支鏡では、気管にすすの付着の有無、粘膜の発赤、腫脹、壊死といった所見を見ていくことになります。受傷当初は粘膜の傷害が見られない場合もあります。
気道熱傷の検査の中でもポピュラーなものと言っても過言ではありません。
AIScriteriaに基づいた気管支ファイバースコープ所見のグレード分類などを元に診断していくことになると思われます。
血液検査
血液検査では、PaO2(動脈血酸素分圧)などを調べ、一酸化炭素中毒になっていないかなどを調べていきます。気道熱傷の際、一酸化炭素中毒に合併してないかどうかを把握することは重要です。これにより、死亡したり、後遺症により今後の生活にも支障をきたす恐れも無くはないからです。
胸部レントゲン
肺炎や肺水腫などの有無を調べるために胸部レントゲンを行います。
実際の災害時の現場ではどういう風にして気道熱傷かどうかを判断するのか?
気道熱傷かどうかを病院で診断を受けた際、どういう所を見ていくのかは理解できたと思います。
では、実際の災害現場ではどういった所で判断するのかと疑問に感じた方も少なくないはずです。ここでは災害時に気道熱傷の恐れがあるかどうかを判断するのかを紹介していきます。それは災害時によく用いられているトリアージというものを用います。
トリアージとはいったい何なのか
トリアージは患者の重症度から治療の優先度を決定して選別することです。救急事故現場では患者の治療順位などを決定して行きます。
判定基準となるもの
トリアージを決めていく基準となるものには、総傷病者数、医療機関の許容量、搬送能力、重症度や予後、現場での応急処置はどうなのか、治療における時間はどのくらいかといった所があります。
START法
判定基準を簡素化したものです。歩けるかどうか、呼吸の有無は、呼吸数はどうなのか、脈拍は、意識状態はどうなのかといった所からトリアージを判定していきます。
クラッシュ症候群の疑いがある場合は2時間以上挟まれていたかも見ていくことになります。
トリアージの判定分類
トリアージの判定分類について移ります。4色の判定結果があり、処置の優先度を見ていくことになります。
- 黒は死亡、救命の見込みがないものを指します。
- 赤は重篤な状態で一刻も早い処置が必要となります。
- 黄色は早期に処置が必要となります。場合によっては赤になる可能性がありますので、油断ならないです。
- 緑は今すぐ処置や搬送が必要ないもので完全な治療が不要な場合です。
気道熱傷に関するものとして
この記事では気道熱傷のことに関して紹介しています。トリアージで気道熱傷の恐れがあるかどうかをどういった所で見ていけばいいのか説明させて頂きます。
赤は意識障害、呼吸困難、15%以上の熱傷や顔面気道熱傷を合併しているかどうかを見ていくことになります。
黄色の場合は異常温度環境になっていないか、有毒ガスが発生していないかという所を見ていくことになります。
つまり、ただ単に気道熱傷だけという場合は緑になってしまうということになってしまうのです。そのため、周辺の環境の温度はどうなのか、ガスや煙の発生の有無はどうなのかという所で気道熱傷を想定しかなければならないということです。いくら緑でも気道熱傷は大丈夫だろうという考えは甘いと考えた方がいいと思われます。
気道熱傷の治療法について
気道熱傷の治療法に移ります。
酸素マスク
酸素マスクで100%の酸素を吸入します。これにより、一酸化炭素の排出と低酸素状態の組織に酸素供給を兼ねて行っていくことになります。
気管挿管と人工呼吸器
上気道閉塞の際に気道確保などのために行われるのです。1回の換気量を少なくして行うと良い。高頻度パーカッション換気法を行うと肺炎や死亡のリスクを回避できる確率が上がります。
輸液による治療
初期はほぼ等張の電解質輸液を使用していくことになります。乳児の場合は糖質補給も配慮していかなければなりません。
膠質浸透圧の維持や腎不全の合併の恐れはないか、呼吸機能の改善はどうなのかといった所を見て輸液を行っていきます。
コロイド輸液や高張乳酸食塩水、高用量ビタミンC、ハプトグロビンなどが用途によって使用されます。
軟膏による火傷の治療
気道熱傷の際、火傷を負っている場合が往々にしてあります。火傷に対してはワセリン軟膏やソルコセリル軟膏、ブロメライン軟膏などを用いて火傷の治療を行っていきます。
その際、創部の観察などを行い、感染の可能性などはないかということを配慮しなければなりません。火傷が血管などに及んでいると、壊死している可能性といったことも十分あり得るので皮膚の状態などを観察していかなければなりません。
手術
広範囲に及ぶ熱傷に対し、壊死した組織を切除したりするために行われます。受傷後72時間~96時間の手術で死亡率の低下と入院期間の短縮も認められたとの報告もあります。
壊死した組織の切除だけでなく、植皮なども行ったりします。
気道熱傷の予防はどうなのか
気道熱傷の治療法をいくつか紹介していきましたが、そもそも気道熱傷を起こさせないためにはどうすればいいのかというのも必要となってきます。気道熱傷は暖房器具の不具合で起きる可能性もあります。火災を起こさせないために火の危険性のあるものはなるべく置かない、乾燥に注意するといったことが必要となります。
何がともあれ、日頃から火の管理をしっかり行い、火事を起こさせないというのが大事になります。コンセントの周りはどうなのか、料理で油を使う際などは特に気を付けないといけません。
もしも火事が起きた際、タオルやハンカチで口を覆って煙を吸わないようにする、出来る限り姿勢を低くして移動する、燃えている部屋のドアを閉める、一度避難したら引き返さない、鼻から吸って口から吐いて呼吸を行う、壁に手を当てて移動して逃げるといったことが重要になってきます。
気道熱傷の疑いがあるとどこを受診したらいいの?
気道熱傷の疑いがある場合は救急科と耳鼻科を受診することなります。
病気の性質上、全身に火傷を負っている可能性も十分あり得ます。そのため、高度救命救急センターや熱傷センターでの治療が必要となってきます。命の危険性も十分あるため、ICUのような集中治療室での治療を行うケースもあります。
また、救急でやっている病院があるかどうかも病院選びを行っていく上で欠かせないのを忘れてはいけません。夜間はスタッフが少ないということもあるので、病院の規模や評判などを把握するといったことも普段から行わなければならないと言えるでしょう。
まとめ
今回、気道熱傷はどのようなものなのかから症状や治療など様々なことについて紹介させて頂きました。この記事を読んで、火事などの災害時に気道熱傷になるかもしれないという危機感を持ち、自分の身は自分で守るという意識を高めて頂けたら幸いです。
また、気道熱傷は一度発症すると、死亡する恐れのある恐ろしい病気です。もしもすすのまじった痰などが見られたら一度病院に受診してもらい、適切な治療を受けて下さい.