「音響外傷」とは、内耳が許容する音量域を超えた大音量に一定以上の時間さらされる、あるいは不意に強烈な爆音を受けるなどの事態に遭遇し、その大音量によって内耳の蝸牛が衝撃を受けて、聴覚調整のバランスを半永久的に失う、あるいは一時的に失うことで発症する難聴のことを言います。
つまり、「音響外傷」は内耳に起こる機能的損傷のことをいい、爆音あるいは90デシベル以上の音に一瞬あるいは内耳の対応限界時間以上曝されることで発生します。
また「音響外傷」は、頭部の損傷を負った時に、鼓膜が破裂してしまった場合や、内耳を損傷するほどの深い怪我を負った場合にも「音響外傷」が起こることもあります。
音響外傷のリスク?自分では防げない原因とは?
音響外傷の中には、ご本人の生活習慣あるいは生活環境とは一切関わりなく、以下のような状況に遭遇したために、その後遺症として「音響外傷」であると診断される場合があります。
音響外傷になるのはどういう時?
- 事故による爆発やテロによる爆発事故に遭遇し、鼓膜を含めて内耳の蝸牛が激烈な衝撃を受けた場合。
- 事故によって頭部を損傷し、同時に内耳まで到達する深い傷を負った場合。
- 銃撃戦の真只中にいたために聴覚調整のバランスを一時的に失ってしまった場合。
- 音響機器設備の近くで作業中に、偶発的事故として、大音響に晒されてしまい聴覚バランスを一時的に失ってしまった場合。
音響外傷のリスク?自分で防げるの?
音響外傷を患ってしまうリスクは日常生活の中にあふれていると言っても過言ではありません。とはいえ、それは日々の生活の中で怪我をする可能性が五万とあるのと同じことで、何も特別なことではありません。
包丁やハサミ、カッターナイフ、あるいは割れたグラスや鋭利な角をもった物体などを扱う時に、けがをしないように気を付けるように、あなたの耳、特に聴力に影響を与えてしまい可能性のある仕事や趣味を行う時には、耳栓や防護機能のあるヘッドフォンなどを必ず用いて、音響外傷を負うリスクをできるだけ避けてください。
日本では、業務上、大きな音がする環境下で従事する人には(耳栓)あるいは保護機能のある(ヘッドホン)の装着が労働基準法で定められ、事業所にも従業員にも順守が義務付けられています。
とはいえ、残念なことに、職場の環境や聴力に障害が発生することの真のリスクを考えない個人の無知によって、全ての人が耳栓などを使った防護策をとっているとは言い難いのが、日本を含んだアジアの現状です。
どうですか?あなたはきちんと(耳栓)をしてご自分の聴力を守っていらっしゃいますか?ご家族はいかがでしょうか?また、以下のような環境下で行う業務に従事する人は、どのような理由があろうとも、適切な保護策を講じて音響外傷を負うリスクを避けて頂きたいと思います。
適切な対策で防げる音響外傷のリスク (職場やイベント編)
① 大きな音を発する、あるいは大きな音が出る工場の機械がある環境で長時間働く人
対策 —– 耳栓あるいは防護用ヘッドフォンの着用
② 長期にわたって大きな音が続く場所に居住する人あるいは勤務する人
対策 —– 事業者による適切な防音対策
③ 大きな音が鳴るコンサート、その他のイベントに頻繁に参加する人
対策 —— スピーカーの近くにいない。参加頻度を下げる。耳を休ませる時間を作る
④ 射撃場を利用する人(警察官、軍人、競技選手、趣味などの理由)
対策 —— 防護用ヘッドフォンや耳栓の着用
音響外傷まっしぐらの危険な遊びとは?
あなたは『イヤホンガンガン伝言ゲーム』なるものをご存知でしょうか?どんなゲームであかは、そのママの呼び名でわかってしまうかもしれませんが、ここ最近、SNSのTwitterなどで流行り始めているようです。
イヤホンを使って大音量で音楽を聴きながら、伝言ゲームをする様子を動画で撮影してTwitterやYoutubeで流している若者が出始めています。残念なのは、所詮は他人事だからでしょうか?さらに過激なことをやらせるための、煽るコメントを書き込むウォチャーも少なくないのが現状です。
とはいえ、どうかあなたの身近にいるお子さんが真似をしないように、くれぐれも注意してあげてください。
音響外傷についての古い情報や誤った記事に注意!
携帯音楽機器が世に生まれて数十年が経過しました。普及当初は、大音量で音楽を聴く若年層の間に(イヤフォン難聴)の症状が多発する社会現象についての警鐘が鳴らされてから久しいですが、未だに個人単位での改善は見られないままです。
その発売当初に若者だった人たちは既に、若者の親の盛大をとっくに超えて、孫を持つ人も少なくない世代になったはずですが、自分たちが親や医者の言うことを聞かずに音量全開で音楽を聴いてきたからか?たまさか一時的な音響外傷にはなっても既にそれが当たり前の状態になったからなのか?彼らの子供も、彼らの孫も、同じように音響外傷の高いリスクを維持した生活を送っています。
音響外傷やヘッドフォン難聴などの記事がWEB上に未だにあふれ返っています。それだけご自身の聴力低下について不安を持つ方が多いということでしょうか?そうであるならば、皆さんは音響外傷についての正しい知識を得て頂きたいと思います。
間違っても、ネット検索をかけてヒットする多くの記事の中に『携帯音楽機器の普及で、若者の間で音響外傷が増加傾向にあります』などと言った、時代錯誤も甚だしい厚顔無恥なこをと書き散らすページの情報に惑わされることがないようにと祈ってやみません。
音響外傷リスクの限界デシベルと被曝限界時間を知りましょう!
短時間だから大丈夫だと思い込み、轟音のする場所に防護策を講じないままで居ることは賢明ではありません。なぜなら、人間の聴力はあなたが思う以上に脆弱なのです。
以下にデシベル数値と音響外傷のリスク限界時間を書いてみます。また、これはあくまでも半径1メートル以内で被曝した時の数値です。
- 音の大きさ(デシベルdB) 限界の時間 音の例として
- 85db 8時間で傷害 電話の呼び出し音
- 91db 2時間で傷害 耳元で出される人の大声
- 97db 30分で傷害 ヘッドフォンから流れる大音量の音楽など
- 100db 15分で傷害 電車の走る音
- 103db 7分で傷害 ロックコンサート(スピーカー付近)
- 109db 1分半で傷害 車のクラクション、道路工事のドリル
- 115db 25秒で傷害 ジェット機のエンジン音・警報
- 130db 一瞬で難聴 耳元での銃の爆発・爆竹の披裂
備考)小型エンジンの音量を約90デシベルと仮定して以下の音量デシベル数値を出しています。
また、労働安全基準法では85dbを超える大きさの音が発生する産業機器や職場環境に対しては法令に則った防音対策を行うことが義務付けられています。
音響外傷の主な症状とは?
聴覚からのSOSを見逃さないで!
もしあなたが、これまでに記載したような大きな音に長期的に晒される、あるいは突発的に被曝して以下のような症状が現れたとしたら、音響外傷の初期症状かもしれません。まずはあなたの聴覚から出されるSOSに耳を傾けてください。
<聴覚からのSOS> 日常の生活環境下で日常的に大きな音に晒されている人に起こりがちな音響外傷の兆候。
- 症状1 : 高音が聞き辛くなった —- 低い音は症状が悪化してから起こります。
- 症状2 : ブンブンという虫の羽音のような耳鳴りが聞こえる。
- 症状3 : ボアン、ボアンというような響く耳鳴りが聞こえる。
- 症状4 : 耳が詰まった感じがする。
- 症状5 : 自分の声が耳の中で木魂のように響いて聞こえる。
- 症状6 : 周りが静かになった時に、何かの音が微かに耳の中で聞こえる。
症状1~6は片耳だけそのような症状が出る場合は多いのですが、まれに両耳で聞こえるときもあります。
このような音響外傷の兆候は、一時的な現象として現れて、「音との付き合い方に基づく生活スタイルの改善」とともに自然に症状がなくなることもありますが、聴覚にリスクを与える生活を続ける限りは再発を繰り返し、最終的には治癒しない難聴となる場合があります。
上記の症状1~6の症状の何れかが、「音との付き合い方に基づく生活スタイルの改善」を実行して2週間程度経過した後も続く場合には、迷わずに、耳鼻咽喉科での診察を受けましょう。
また、以下のような症状が現れた場合には、一過性のものであると軽く考えることなく、耳鼻咽喉科で診察を受けましょう。
【急性の音響外傷を負った可能性を告げる身体のサイン】
- 爆発事故の半径100m以内にいて、耳の中で【キーン!】音が響いた。
- 大きな音を聞いた後にめまいがした。
- ロックコンサートやクラブにいる時に耳が痛いと感じ、翌日になっても音の聞こえが悪い。
- 大きな音に晒される出来事が起こった翌日に、<聴覚のSOS>の症状1~6の内どれか1つの症状が現れた。
音響外傷は耳の蝸牛内の有毛細胞が傷つけられて起こります。それが一過性のものであるのか、それとも自分で思うよりも深刻な状態であるのかは専門医の判断に任せる必要があります。
もちろん、専門医の指導の下に適切な治療を行えば治る場合もありますが、完全に機能が回復しない場合もあります。聴力は身体運動機能のバランスを調整するためにも大切な役割を持っています。普段と違った症状が現れた場合には軽く考えずに専門医に診てもらいましょう。
音響外傷を誘発する要因をしって予防しましょう!
爆発や爆竹、銃撃戦などの事態に巻き込まれることは日本にいる限りは非常にまれなことだと言えますが、ロックコンサートやクラブに行って爆音を発するスピーカーの近くにいる、あるいはイヤホンを使っていても常に大きな音量で音楽を長時間聴く、大きな音がする産業機器を使う職場で耳栓を使わないままに作業する人はいらっしゃると思います。
そして一時的に難聴のような症状が出たことがあるけれども、いつの間にか治ってしまったという方もいらっしゃるでしょう。しかしながら、他の生き物同様に人間も、生まれた日から日々年を取っていきますから、身体の回復能力や細胞の再生能力には限界が来る時が必ずやってきます。
あなたがまだ10代だとか、あるいは50代だとかに関わらず、身体の各機能によって、一度損傷すると再生しないもの、再生力の弱いもの、再生力の強いものがあります。また、その力も個人差があります。せっかく授かった聴力を音響外傷によって損なわないために、以下のことに注意していただければと思います。
【音響外傷の予防と対策】
1. お酒を飲みながらの爆音BGMは危ない!
鼓膜の奥には、大きな音の侵入を感知したら振動しないように調整する機能がついています。お酒を飲んでいるとその調整を行う筋肉にゆるみが出てしまい、大きな音に対する防御能力が低下してしまいます。
2. 周囲の音を消すためにヘッドフォンを使わないで!
ヘッドフォンやイヤホンで音楽を聴く時には、周囲の音が聞こえない音量にすることはとても危険です。周りの音から逃げたい!そんな気持ちで音楽を聴きたい気持ちになる時もあるでしょうが、その一時的な感情のためにご自分の聴力を犠牲にするのは本末転倒です。どうか自分を大切にしてください。
3. 指をこすり合す音が聞こえない?
慢性の難聴は高音域の音が聞こえ難くなるだけでなく、低音域の音も聞こえにくくなります。指をこすり合わせる音や時計の秒針が動く音が、耳を近づけても聞こえにくい場合には、難聴が進んでいる場合があります。早めに専門医に診てもらいましょう!
耳の役割を知りましょう!
聞こえることだけが耳の機能じゃない?
外から見える耳たぶだけが耳ではなく、耳は耳の奥までが耳なのですが、その構造と機能は非常に複雑かつ精巧にできています。ですから、耳の器官の一部分に異常が発生すると、耳全体の機能に狂いが生じて、それが耳鳴りや聴力障害などの事象となって現れてきます。
耳は自分の周りに起こる異常を音によってとらえて危険を察知したり、他の人とのコミュニケーションをとったりして自分を取り巻く状況を正しく認識したり学んだりするためにあります。さらに、身体の平衡感覚を司る重要な感覚器官でもあるのです。
聴覚を持って生まれてきた人が、何かの事故や病気などで聴覚を突然失うと、真っ直ぐ立っていられない、あるいは真っ直ぐ歩くことが困難になるといった障害を負うことがあるのはそのためです。
内耳にある三半規管や卵形嚢と球形嚢で構成される前庭感覚器の中はリンパ液で満たされていて、身体の傾きに合わせてリンパ液が揺れ、三半規管の根元にある有毛細胞を刺激します。そして、刺激された有毛細胞が身体の傾きを感知して、脳にその情報を伝達するのです。
ですから、突然にあるいは徐々に有毛細胞が傷つき、「音響外傷」をなった人は、その症状としてめまいや吐き気などを覚える人がいるのは、こういった理由によるものです。
音響外傷の治療法とは?
治療法は難聴の治療法と同じ?
音響外傷の疑いで受診をして、医師がその外傷は軽度であると判断した場合には、薬は使わずにしばらく様子観察ということにもなりますが、そのような状況に至った聴力に悪影響のある原因は積極的に取り除くよう指導を受けます。
その様子観察では済まない程度に進んだ音響外傷に対しては、薬物治療と星状神経節ブロック療法のどちらか、あるいは両方の治療を行います。薬物治療で使われるのは、ステロイド剤、循環改善薬、ビタミン剤などで、医師が処方される限り、継続して服用します。自己判断で勝手に服用を止めてはいけません。
ちなみに、星状神経節ブロック療法とはレーザーを用いる治療法で、人体にある星状神経節と呼ばれる交感神経を司る神経節をブロックすることで、交感神経の機能を麻痺させて副交感神経を活性化させて症状を改善していきます。
音響外傷には、単に有毛細胞の損傷が起こった状態だけでなく、交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまった為に、様々な症状が出てきたものもあります。一般的に行われる投薬治療で改善しない場合には、星状神経節ブロック活性化させることで症状の改善を目指します。
レーザー治療と言っても危険なものではありませんし、健康保険が適用されるため費用もそれほど高額となることはありません。もし、既存の治療方法を実施しても改善が見られないようであれば、医師と相談して星状神経節ブロック療法を行なってもらうのも良いでしょう。
ちなみに、この星状神経節ブロック療法は健康保険が適用される治療ですから高額医療の分類には含まれません。
音響外傷は再発防止と予後が鍵です
音響外傷は予防と再発防止が鍵となる疾病です。大きな音に晒される生活を改め、耳栓や防護ヘッドフォンなどを使う防護策や、事業者が防音壁などを整備することも大切ですが、同時に、過労や睡眠不足を避け、体調不良を長引かせない健康的な生活を心がけることも大切です。
あなたが起きて活動している限り、聴覚は休みなく働き続けていますので、眠るときには静かな環境で十分に睡眠をとるようにしましょう。
また、身体を動かしたり、自分の好きなことをしたりして、気分転換をはかり、心の疲れをため込まないようにすることも大切です。
音響外傷は完治しないと書いている記事も見かけますが、それは誤っています。とはいえ、再発しやすい疾病ですので、耳に優しい生活態度が大切です。