穿孔(せんこう/perforation)とは、「孔(あな)が開いている」という状態を指します。消化器疾患や心疾患、泌尿器疾患、気管支疾患や血管系疾患で見られます。各管腔臓器の中の壁の全層に何らかの原因で孔(あな)が開き、管腔内のもの(血液等)が管腔外に漏れて炎症を引き起こす疾患が穿孔になります。
血を吐いたり、激しい腹痛にみまわれた際には、穿孔が疑われるため、早急に手術をしなければ生命に関わるケースもあります。この穿孔について、どういった病気なのか、どう予防すると良いか、原因や症状、治療などについてまとめて説明をしていきます。
穿孔の原因
穿孔の原因は様々であり、外傷、潰瘍、炎症、虚血(きょけつ)、壊死(えし)、解離(かいり)などがあります。虚血は血が減る状態です。壊死は細胞組織が死滅することであり、簡単に言うと細胞が死んで腐っている状態を言います。
解離は血管の壁が裂けるという意味です。では、穿孔の多い部位と、詳しい原因について述べていきます。
穿孔はどの部位に多い?
記事の文頭で述べたように、穿孔は食道や胃、小腸、大腸、十二指腸といった消化器、心臓や気管・気管支、血管や尿管といったあらゆる管状の管腔で形成されている臓器に発症します。
この中でも発症率が高い場所は胃、十二指腸、大腸になります。特に、管腔の壁が薄い十二指腸は穿孔を生じやすく、穿孔を生じた方の全体の約70%が十二指腸潰瘍を呈しています。その他に発症率が高いものでは、胃潰瘍による穿孔が挙げられます。消化管以外の管腔臓器での発症は稀です。
ここでは、特に発症率が高いとされる消化管の穿孔について詳しく説明をしていきます。
内因性の疾患が原因
潰瘍の重篤化が原因であることが多いです。代表的なものでは、胃や十二指腸、大腸といった消化管の穿孔です。
また、癌により穿孔が引き起こされることがありますが、穿孔を引き起こすほどまでに悪化する前に発覚することが多いと言われています。
外傷性の疾患を原因とする場合
挫傷の中でも圧挫、内圧の上昇、虚血の後の組織壊死などが原因で生じます。交通事故やスポーツによる外傷などが想定されます。外傷が原因で穿孔を生じることは少ないです。
内視鏡が原因の場合
内因性が原因である場合、つまり、内科疾患を患ったことで穿孔に繋がるといった流れや、通常、想像される事故などによる外傷性の疾患以外にも意外な原因があります。
それは、健康診断時の内視鏡検査や、手術前の内視鏡検査、他疾患の治療のための内視鏡検査により、医師の操作ミスにて発症する場合があります。不安な方は検査時や治療時には、愛護的に丁寧に、慎重に行ってもらうようにすると精神的な不安が軽減するのではないでしょうか。
ピロリ菌
日本人の40歳以上の方の内、約70%が感染していると言われています。
胃潰瘍と慢性胃炎の原因として挙げられ、人体の胃の中に生息している細菌の一種です。なぜ、ピロリ菌が原因になるかを説明します。ピロリ菌が生成するタンパク質が胃の粘膜に入ることで、胃粘液の分泌量が減少し、胃内の壁の層が障害を受けやすくなります。これにより、慢性胃炎や胃潰瘍を発症し、進行して穿孔を発症します。
ピロリ菌を保有している全ての方が必ずしも消化器疾患を引き起こすわけではありません。しかし、ピロリ菌が陽性の場合は胃の粘膜が障害を受けやすいため、少なからず消化器疾患を発症する可能性はあります。
詳しくは、ピロリ菌の症状って?悪化すると発生する病気や改善方法も紹介!を参考にしてください!
食事に注意
唐辛子やコショウといった嗜好品は刺激物になります。こういった嗜好品やアルコール、カフェインの含まれるコーヒーは喉や食道、胃や腸といった消化器に強く刺激を与えます。カフェインに関しては、お茶や紅茶、ジュースにも含まれていますが、コーヒーに特に多く含まれているため、コーヒーの飲み過ぎには気を付けましょう。
これらを飲むことで、特に胃に大きな負担を与え、胃から分泌される胃酸の分泌量が増加します。胃酸は胃に入った食べ物を溶かして栄養を身体に取り入れるため、強力な酸性の胃液になります。強力な酸性なので、胃酸は胃の壁の粘膜を溶かすこともできます。よって、身体の恒常性を保持するために胃粘膜を保護する粘液も分泌しています。この、胃液と粘液の分泌量のバランスが保持されることで胃の正しいバランスを保っています。
しかし、この胃酸の分泌量が増加して、粘液の分泌量が減少してしまうと、胃酸が胃粘膜を溶かしてしまい、慢性胃炎や穿孔して胃潰瘍や胃癌へ重篤化します。
以上のことより、胃に入る食べ物や飲み物には注意が必要であることがわかります。
喫煙は控えましょう
タバコを吸う事でニコチンが身体に作用し、身体に悪影響を与える可能性があります。喫煙は控えましょう。喫煙も、胃酸の分泌量と粘液の分泌量を左右します。
ストレス
日本はストレス社会と言われる通り、ストレスを受けやすい環境にあります。身体的・精神的ストレスを身体へ与えることで、自律神経の作用が乱れます。
自律神経は交感神経と副交感神経という2つの神経で身体の働きに関わっており、心拍数や脈拍、血圧や呼吸機能、内臓の働きなどに関与しています。つまり、この自律神経の働きが障害されることで、胃酸の分泌量も増加したり減少したりします。胃酸が過剰に分泌され続ければ胃炎や胃に穿孔を生じるなど消化器疾患を引き起こします。
その他、胃の蠕動運動(ぜんどううんどう)も低下し、長期的に胃に入った食べ物が胃の中に蓄積され続け、胃にストレス負荷がかかります。簡単に言うと、長期間、便秘の状態になるということです。
内服薬の副作用
元々、消化器に炎症や潰瘍を発症していない場合であっても、穿孔を発症する可能性があます。それが薬の内服です。他の病気を理由に内服をすることがあった場合、薬の副作用に、胃炎や潰瘍が含まれていると、これらにより穿孔を発症し得ます。それは、薬の副作用で胃の粘膜を保護する作用を阻害する因子が含まれている薬になります。
特に、強力な鎮痛剤や解熱鎮痛剤、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)、高血圧の方が内服する降圧剤、脳や肺、内臓などの慢性疾患に対する薬は胃粘膜に負担をかけやすい薬です。長期間、内服すると吐血(血を吐く)可能性もあります。
鎮痛剤は生理痛や関節痛、頭痛時に使用するような一般的によく服用される薬です。こういった身近な薬にもこういった危険性があります。
穿孔の症状と診察
消化器の症状はとても辛いものになります。普通の人であれば、できることならば起きてほしくないようなものばかりになるでしょう。
診察も、楽なものではないですが、状態が悪化する前に早期に受診すると良いでしょう。
腹膜炎(ふくまくえん)
消化管の胃に何らかの原因で孔(あな)が開く(胃穿孔)ことで、我慢しきれないほどの激痛が走り、腸管内の血液などが管腔外の腹腔内に漏れ出てしまうことで重篤な炎症を引き起こします。この症状を引き起こすものを「腹膜炎」と言います。これは、穿孔を放置して悪化し、完全に孔が空いてしまった時、つまり、穿孔が重篤化した時に発症します。吐血などの明らかな症状がみられるため、この時にやっと自覚症状を覚えて病院へ駆け込む方が多いです。
腹膜炎は、24時間以内に手術を施行しなければならない非常に重篤な状態であり、病院に駆け込んだ後、緊急手術を受けてそのまま入院となるでしょう。
痛みや吐血
胃穿孔は胃壁に孔が開くことを指し、合併症として胃炎や胃潰瘍、胃癌を発症する恐れがあります。つまり、胃穿孔の前兆として胃潰瘍や胃癌の症状がみられるわけです。では、どういった症状が見られるかを述べます。胃壁に孔が開くわけですから、胃外の腹腔に内容物が出ていき、吐血や下血、嘔吐をします。吐く血は鮮やかな鮮血や黒色血です。また、消化不良を起こし、出てくる便は大量の出血により便が赤く黒くなり黒色便が出ます。
その他、食欲不振に陥り、体重が減少していきます。強い酸性の胃酸が上部へこみ上げることもあり、酸っぱいゲップや胸やけを引き起こします。また、胃の形に合わせて、みぞおち部から左方向へかけて鈍い痛みが生じます。また、胃は臓器の中でも背中側に位置するため、背中にも痛みが生じます。また、この疾患は胃酸の分泌が関与しているため、空腹時はほとんど痛みが生じませんが、食事中や食後には胃が活発に活動し、強い痛みが生じます。
診察
問診の他、X線(レントゲン)検査、CTやMRI検査にて腹部の所見を確認します。手術を施行する際には、緊急手術であっても内視鏡検査を実施して罹患疾患の質的な診断を行います。これらによる診断を元に、重症度や状態を判断し、どういった手術を施行するか、どういった服薬を投与するかを検討していきます。
問診の大切さを軽視する方がいますが、問診で患者自身の情報に不足があった場合、命に関わることもあります。生活歴や食生活、服薬している薬やこれまでになった病気などについて細かく自身の状態を知ってもらうようにしましょう、医師が患者の事を熟知できてしまうほどの情報を話すつもりで問診を受けると良いでしょう。
穿孔の治療
胃穿孔は胃潰瘍を超える疾患であり、非常に重篤な疾患なので、基本的には直ぐに外科的手術を施行する必要があります。身体に何らかの異変を感じた場合には、早急に外科のある医療機関へ受診するようにしましょう。
検査や処置を直ぐに受けることが想定されるため、最初は検査機器や手術などの治療を直ぐに受けることができ、直ぐに入院が可能な施設を選ぶと的確にスムーズに進めることができるでしょう。
保存的治療
以前は必ず手術療法を必要とされてきましたが、近年では、状態によっては適応症例に該当している場合にのみ保存的治療が可能となっています。
これは、胃・十二指腸潰瘍穿孔の場合に適応されます。適応条件は5つあり、発症から12時間以内であること、腹部の所見が上腹部に限局していること、腹水が多くないこと、高齢であり、重要臓器障害などのリスクがないこと、全身状態が良好であることが原則として挙げられます。
保存的治療の内容としては、絶飲食や輸液があります。また、鼻経管や胃経管を使用して胃の中の内容物を吸引します。その他にも、抗生物質や抗潰瘍剤といった薬物療法も行われます。
手術療法
症状が進行している場合や、保存的治療を施行しても改善されなかった場合、超音波検査にて腹水の増加が見られた場合や、白血球数やCRP値が上昇する場合に外科的手術が適応されます。腹水が増加した場合には直ちに排液する必要があります。白血球数やCRP値が平均値よりも上昇するということは、身体に何らかの炎症が生じていることを指します。
症状でも記したように、早期に手術を施さなければ胃液が漏れ続けて他の臓器おも障害を与えてしまい、重篤な腹膜炎も引き起こしかねません。これらを防ぐために、胃の孔が開いている部位を塞ぐ手術を施します。出てくる酸を減らすために、状態によっては、広範囲に胃を切除する手術に、穿孔部の閉鎖する手術、胃液分泌をコントロールする迷走神経の切離術の3つが施行されます。
近年では、穿孔部の単純縫合閉鎖術に大網被覆(だいもうひふく)術を加えた方法や、大網充填(だいもうじゅうてん)術が施行されます。大網充填術は、穿孔部に大網を埋め込んで穿孔を閉鎖させる方法です。十二指腸潰瘍穿孔では、大網充填術が施行されることが多いです。これは、十二指腸が狭窄していない場合に適用されます。
もし、穿孔の進行により腹膜炎に陥ってしまった場合は、生理食塩水を用いて洗浄し、ドレナージが施行されます。生理食塩水は、点滴で体内に薬を投与する際に薬と混ぜて入れるなど、身体に害のない食塩水になります。ドレナージとは、老廃物を排泄するという意味です。この場合は、側腹部に器具を挿入して留置し、胃内から漏れ出てきた血液などの物質を排液する、ということになります。
いずれも、手術後に内服での薬物療法を行い、経過観察をします。
切らない手術療法
近年では、腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術という、腹部を切らずにすむ手術療法があります。これは、お腹の中を腹腔鏡というお腹を診るための鏡を用いて切除・縫合する手術になります。
方法は、腹部の4~5カ所に約1~2cmの穴を開き、中で操作する器具が取り付けられている細い腹腔鏡を挿入していきます。この器具を用いて腹腔で切除や縫合を行います。
また、腹腔鏡下大網充填術も近年では適応されます。これは、腹腔鏡下に大網充填術を施行する方法です。低侵襲なので、身体的にも精神的にもストレス負荷が少ない方法になります。
ちなみに、この腹腔鏡下大網充填術には適応の条件が5つあります。それは、上腹部に開腹手術の既往がないこと、十二指腸潰瘍による狭窄がないこと、潰瘍からの出血がないこと、穿孔部が大きくない(径2cm以下)であること、血圧などのバイタルが安定していること、発症から24時間以内であることが挙げられます。
大腸穿孔の場合は人工肛門も必要
良性疾患による大腸穿孔の場合は、穿孔部の切除のほか、人工肛門の造設も必要となります。悪性疾患による大腸穿孔の手術は、全身状態と腹膜炎の程度、腫瘍の進行度により決められます。癌腫の穿孔は、全身状態が改善されて状態が落ち着いた後に切除術が行われます。
悪性なので、切除せざるを得なくなります。大腸の口側に穿孔を発症している場合は、全身状態が不良ならば穿孔部の人工肛門の造設のみですみます。どういったものが悪性なのか、それは、癌腫の潰瘍の底部分が穿孔するケースと、腫瘍によって狭窄し、虚血を起こして閉塞性大腸炎を引き起こすことで、大腸の口側の結腸が穿孔するケースが挙げられます。
予後
上部消化管である食道や胃に関しては、大腸といった下部消化管と比較すると予後は良好です。しかし、どういった病気も同じですが、発見が遅れると病気は重篤化し、腹膜炎を呈する可能性があります。予後を良いものにするには、早期の発見と治療が大切になります。
大腸穿孔の場合は、予後不良となるケースが多いです。これは、腹膜炎が重症化することが多いためです。できるだけ早期発見・早期治療をして徹底した全身管理をしていく必要があります。
予防
穿孔の原因となる大部分が潰瘍となります。よって、基本的には潰瘍の予防をすることで穿孔の予防にもなります。
原因因子となるものを見直して原因となる物事を避けるようにしましょう。
また、潰瘍は気づかない内に発症してしまったり、発症後も徐々に進行して悪化します。「いつの間にか手遅れになっていた!」といったことがない様に定期的に病院へ受診すると良いでしょう。
目安は、40歳を過ぎて年に1~2回の受診です。これは医師により異なります。目安は40歳過ぎとは言いますが、近年では、若年で飲酒を大量にする若者や、ストレス社会ということで若年層も強いストレスを抱えることが多いです。こういった時代の流れで20歳代の若年層にも潰瘍を発症する方が多いです。若年層の方も、「自分はまだ若いから大丈夫」と過信せずに定期的に診察を受けるようにしましょう。
薬をたくさん飲まれている方も同様です。薬の副作用が潰瘍に繋がることもあるため、定期的に診てもらうと良いでしょう。
定期的な健康診断は、基本的にはバリウム検査、X線検査、胃や大腸の内視鏡検査を施行します。
まとめ
以上のことから、穿孔は特に胃や十二指腸、大腸などの消化器に多く、放っておくと一大事になることがわかるでしょうか。胃の不快感や腹痛が日常茶飯事に生じる方も、たまにしかない、という方も臓器に穴が開いてしまう前に医師に診てもらうようにしましょう。
近年は、1人暮らしの高齢者も多数います。高齢者の場合は身体の痛みなどに対する感覚が鈍くなります。よって穿孔に対する自覚症状が中年層や若年層の方に比べ乏しくなり、発見が遅れることが多いです。
命に関わる事なので、少しの異変も逃さず、安易に捉えず、予防や対策といった意味で受診することをオススメします。手遅れになる前に対応することが大切です。