「最近、視界が良くないなあ・・・」とか「黒い点のような、あるいは、蚊のようなものが飛んでいるのが見えるなあ・・・」なんて経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
特に痛みを感じなかったので、そんな症状に気づいていても、そのまま放置してはいませんか?
実は、そんな兆候、目からあなたへの危険信号かもしれません。そんな方のために、これから網膜剥離についてお話ししたいと思います。
これって、網膜剥離⁈
ふと気がつくと、視野の中に蚊のような黒く、小さな点が見えたりしたことはありませんか?
目を動かすと、その黒い点も目の動きに合わせて、同じようにちらちらと動いたりしてはいませんか?
ときに、突然、視野の中に、光が入ってきたりしていませんか?
その症状、もしかすると、飛蚊症(ひぶんしょう)や光視症(こうししょう)といった症状かもしれず、網膜剥離の前兆となる可能性のあるかもしれないのです。
・飛蚊症
飛蚊症とは、視界の中に小さな点や蚊のようなものが見える症状です。
目を動かすと、その目の動きに呼応するかのように、小さな点や蚊のようなものが視界の中で動きます。あたかも、目の中で小さな蚊が飛んでいるかのように動いて見えることから、この名前がつけられたようです。
・光視症
光視症は、視野の中で閃光のような光が見える症状があります。
いずれにしても、痛みがないからといって、治療を受けずにそのまま放置していると、症状が悪化していくこともあります。ある日、突然、視界にカーテンで覆いをかぶせるかのように、目が見えにくくなる視野欠損や視力の低下などの症状を招いてしまうこともあるのです。
網膜が剥離しているかどうかを調べるためには、瞳孔を開く眼薬を点眼して、眼底検査を行います。そのほか、超音波などで検査する方法もあるようです。
目のしくみ
網膜剥離のお話しをする前に、「どのようにして目が見えるのか」ということを知っておく必要があるので、まずは目のしくみについてお話ししましょう。
目のしくみは、カメラにたとえると理解しやすくなります。網膜は、さしずめカメラのフィルムにあたり、角膜や水晶体がレンズに相当します。
外界から、角膜や水晶体を通って入ってきた光が網膜に届くと、網膜はその情報を電気信号に変換し、視神経を通じて脳にその情報を伝達します。
その結果、私たちは「視覚を認知する」つまり、「目が見える」ようになるのです。
目はなにでできてるの?
目は、眼球や視神経、それから瞼(まぶた)や涙腺といった眼球付属器でできています。
眼球は、眼窩(がんか)という骨のくぼみの中にあり、視神経を通して脳へと通じています。その大きさは、成人で直径約24mmほどで、ほぼ球形になっています。
目のなりたち
- 眼球
- 眼球付属器
眼球
眼球は、外側の外壁部分と眼球の内部に分けることができます。
眼球の外壁には三つの層があり、その内部には、強膜や眼房水、水晶体、硝子体といった組織があります。
強膜ー眼球の外壁その①
強膜は、眼球の外側にあり、約1mmほどの厚みがあります。強膜のほとんどは、白い不透明なかたい膜でできており、白眼の部分がこれに相当します。
強膜の前方には、透明になっている部分があり、この透明な部分を角膜と呼んでいます。
ブドウ膜ー眼球の外壁その②
強膜の内側の中間部分はブドウ膜と呼ばれています。ブドウ膜は、虹彩、毛様体、脈絡膜でできています。
外界から入ってきた光は、中心にある瞳孔で光をとらえ、虹彩が光の量を調整します。その際、脈絡膜との間にある毛様体から伸びている毛様小帯という細い繊維で、目のレンズである水晶を支えて、虹彩を調整します。
毛様体の奥にある脈絡膜は、写真にたとえると「暗幕」の役割を果たしており、黒色で眼球内に栄養素を運んでいる血管が多くあります。
網膜ー眼球の外壁③
目の外側から見て、強膜、ブドウ膜の内側にあるのが、網膜です。網膜には、光を感知し、強度や色彩、形状などを識別する視細胞があります。
視細胞には、錐体(すいたい)と桿帯(かんたい)があります。錐体の多くは、眼底の中心部にあり、明るいところで色素を感知します。それに対して、桿帯は、眼底の周辺部に多く、暗いところで弱い光を感知することもできますが、色素を識別することはできません。
眼球の内部
眼球の内部には、外側から、角膜、眼房水、水晶体、硝子体といった組織があります。外から入ってくる光は、この順序で、網膜に達することになります。
角膜ー眼球の内部①
角膜は、窓の役割を果たしており、表面は、涙で覆われています。角膜の代謝は、外側の涙と内側の房水などによって維持されています。
角膜には、眼球を保護するだけでなく、外から入ってくる光線を屈折するレンズの役割もあり、目で屈折する光全体のうち、屈折の約7割は角膜が占めていると言われています。
眼房水ー眼球の内部②
眼房は、角膜と水晶体の間にあり、眼房水で満ちています。
この眼房水は、毛様体で生成され、水晶体と毛様体の間にある後眼房から前眼房に流れ出ます。そして、角膜や水晶体に栄養分を運び、周辺の血管へと吸収されていきます。
水晶体ー眼球の内部③
水晶体は、角膜同様、透明で血管がないため、眼房水から栄養を受け取っています。水晶体の形状は、両凸レンズであり、毛様体筋が水晶体の厚さを自在に変化させて、網膜に映る像のピントを合わせています。
水晶体は、やわらかく、形状や厚さを自在に変化させることができるので、距離の遠近にかかわらず、映像をくっきりと映し出すことができます。
硝子体ー眼球の内部④
眼球内のほとんどは、硝子体が占めています。眼球の形状や弾性を維持するだけではなく、水晶体で屈折した光線を網膜に送り届ける役割もあります。
眼球付属器
目には、眼球や視神経のほか、眼瞼や結膜、涙器、眼筋といった眼球付属器があります。
眼瞼(がんけん)
眼瞼は、上眼瞼(じょうがんけんー上まぶた)と下眼瞼(かがんけんー下まぶた)で構成されています。眼瞼は、眼球を保護するだけではなく、まばたきすることによって、角膜の表面を涙でうるおす働きもしています。
また、まぶたの縁に生えているまつげは、目に異物が混入することを防ぐ役割があるので、根元の神経が非常に過敏です。さらに、上まぶたの上部に生えている眉毛は、顔から流れ出る汗が目に浸入することを防いでくれています。
結膜
結膜には、強膜の表面を覆っている眼球結膜とまぶたの裏側を覆っている眼瞼結膜があります。結膜は、眼球とまぶたをつないでいますが、粘液を分泌して眼球の表面をうるおす粘膜でもあります。
目のはたらき
目のはたらきには、視力、屈折と調節などがあり、これらは視機能と呼ばれています。
まずは、視力から始めましょう。
視力ってなに?
視力とは、視覚で認知しようとする対象物を感知できる能力のことをいいます。「視野が広い」という表現を良く耳にしますが、これは「見える範囲が広い」ことを意味します。
一般的に、視力とは「みえる力」つまり、中心視力のことを指します。では、どのようにして、人は「もの」を見ているのでしょう。
屈折と調節
目から入ってくる光は、角膜で内側に屈折し、そこから水晶体でさらに屈折します。そして、網膜にある黄斑中心窩で、光が感知されます。
感知された光は、視神経を通って頭蓋骨の中に入り、すぐに視神経交叉します。その後、ふたたび左右に分かれて、外側膝状体を通って、大脳の後部にある後頭葉の視覚中枢にまで伝達されます。この光の道は、視経路と呼ばれています。
そして、視覚中枢に達して、脳の学習や経験などによって正立像として、初めて「視覚が認知される」、つまり「目に見える」ようになります。
網膜剥離は、このような人の光と視覚神経にある過程で、なんらかの原因によって、映像を感知する網膜が、眼球の壁から剥離してしまうことによって発症します。
網膜剥離の原因
網膜剥離の原因は、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症しているようですが、整理すると以下のようになります。
- 近視による網膜への過負荷
- 物理的な衝撃
- 不摂生な食生活
- 不規則な生活習慣
近視による網膜への過負荷
本を読むときに、目と本の距離が短かったり、テレビを近くで観たりする習慣が、長期間にわたると、目の内部にある網膜などに負荷をかけ続けてしまいます。そうすると、近視となってしまい、目の中の網膜のピントが合わなくなります。
そのまま、ピントが合わない状態を放置しておくと、網膜剥離を発症することが多いようです。
最近は、パソコンや携帯電話などの画面を見る時間も多いので、目とパソコンや携帯電話の間で、一定の距離を保っておかないと、目に対して負荷がかかってしまいます。
デスクワークや仕事で携帯電話を使用するときは、なるべく一定の距離を保って画面を見るように心がけましょう。
物理的な衝撃
目の近辺や頭などに、強い衝撃を受けると、眼球や視神経などを損傷してしまう危険性もあります。
あたりのきついスポーツをするときには、頭部に気をつけて運動するようにしましょう。
不摂生な食生活
IT技術が急速に発展して、情報社会になりつつある現代では、24時間働き続けることも珍しくありません。ブラック企業と呼ばれる会社も数多く存在しており、人は長時間労働を強いられています。
すると、食生活も不規則になり、「朝食をとらない1日2食」の食生活や、深夜に食事を摂るような食生活になってしまいます。
その結果、人が本来、「目に栄養を供給するべき夜の時間に、仕事をしなければならない」または「深夜に食事をする」ことになり、十分な栄養が目に行き届かなくなります。
栄養不足に陥った目は、徐々にその力を失っていき、視力が衰えていきます。本来、人は年齢を重ねるとともに、視力が衰えていくのです。
不摂生な食生活は、「老い」というその衰えに、拍車をかけて、人の視力を奪っていきます。
不規則な生活習慣
不摂生な食生活同様、急速な社会の変化の中で、人は、不規則な生活習慣をも強いられています。
24時間365日営業しているコンビニエンスストアやオンライン銀行など、現代社会は、人が人らしく生きることを「是」としていない世の中です。
夕方から翌朝にかけて働く深夜勤務や、1日24時間ずっと仕事をしていると、自然と疲労が蓄積し、回復する間もなく、人はやがて力尽きてしまいます。
網膜剥離って、どういう病気なの?
網膜剥離は、大まかにいって二つに分けることができます。
- 裂孔原性網膜剥離
- 非裂孔原性網膜剥離
まずは、裂孔原性網膜剥離からお話ししましょう。
裂孔原性網膜剥離の症状
裂孔原性網膜剥離は、網膜剥離の中でも比較的多い症例です。
まず、網膜に網膜裂孔や網膜円孔などといった孔が開いてしまいます。その孔を通って、目の中にある液化硝子体という水が網膜の下に入り込んでしまうために発症します。
通常、小さな剥離した網膜から、次第に大きくなっていきます。孔が大きいときは、症状が急速に広がり、網膜がすべて剥がれてしまうことになります。
非裂孔性網膜剥離の症状
非裂孔網膜剥離には、大きく分けて二種類あります。
- 牽引性網膜剥離
- 滲出性網膜剥離
牽引性網膜剥離とは
牽引性網膜剥離は、目の中に形成された増殖膜、あるいは硝子体などが、網膜を牽引して剥離することによって発症します。
特に、重症の糖尿病網膜症の方に多く見られる症状です。糖尿病治療をされている方は、網膜剥離にもご注意ください。
滲出性網膜剥離とは
滲出性網膜剥離は、なんらかの原因により、網膜の中、あるいは網膜色素上皮側から滲出液が溢れ出てくるために、網膜が剥離して発症します。
ぶどう膜炎などの患者さんに多く見られるようです。
どうしたら網膜剥離を治せるの?
裂孔原性網膜剥離の治療は、その症状によって異なる治療方法がとられているようです。主に二つの方法で、網膜剥離の治療が行われています。
網膜裂孔・網膜円孔のとき
裂孔原性網膜剥離の治療は、網膜裂孔や網膜円孔などの症状しか見られないときには、レーザーによって網膜光凝固術、または網膜冷凍凝固術といった方法で網膜が剥離していくのを抑えることができるようです。
ただし、網膜がすでに剥離してしまったときは、やはり外科手術が必要となります。
網膜剥離のとき
網膜がすでに剥離してしまった場合は、そのまま放置していると失明する可能性も高いと言われています。したがって、網膜剥離の場合、外科手術となります。
網膜裂孔パッチ法
眼の外部から、網膜が裂孔している部分にパッチ(あてもの)をあてて、孔の周囲に熱凝固または冷凍凝固などを行って、剥離した網膜を剥がれないように処置します。
そして、必要に応じて、網膜の下にたまった水を抜きます。
また、パッチを眼球の裂孔部分にあてるだけではなく、眼球を輪状に縛る方法もあります。この方法では、剥離した網膜を目の中から圧迫するために、眼内に空気や特殊ガスなどを注入することもあり、術後は、うつぶせなどの体位に制限され、安静な状態が必要となります。
硝子体手術法
硝子体手術法は、眼の中に細長い手術器具を挿入して、眼の中から剥離している網膜を治療する方法です。硝子体手術法は、剥離した網膜を圧迫するため、ほとんどの場合、眼の中に空気や特殊ガス、またはシリコンオイルを注入することになります。
このため、硝子体手術法でも、術後に、うつぶせなどの体位に制限されることがあります。
まとめ
このように、網膜剥離は、メタボリックシンドロームや高脂血症などと同じく『現代病』と言っても過言ではないかもしれません。
網膜剥離とならないように、日常の生活の中で心がけておく必要があります。まずは、本やテレビ、パソコン、携帯電話などを見るときに、一定の距離を保つことです。
距離を保つことによって、網膜剥離の原因となる近視や飛蚊症になることを避けるとともに、ときには、遠くの景色などを眺めて、目を休めるようにしましょう。また、スポーツをするときには、なるべく頭部への衝撃を避けましょう。
さらに、栄養バランスのとれた食事を規則正しく摂るとともに、規則正しい生活習慣を身につけましょう。
「改むるに憚ることなかれ」という故事もあります。
健康な心身を取り戻すべく、改めてみてはいかがでしょうか?
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