なんの前触れもなく突然「ハンマーで殴られたような」頭痛に襲われ、意識を失って救急搬送されて、死亡するか、または重い後遺症をわずらう――これが脳出血の最悪のケースです。しかし本当に「なんの前触れもなく」なのでしょうか。
いえ、実は「前兆」はあります。それは「長年の高血圧」です。
しかし「長年の高血圧」は痛みもかゆみもないため、「ハンマーで殴られた頭痛」とは、関係ないように感じてしまうのです。脳出血の「前兆」と真剣に向き合い、「最悪のケース」を回避することを目指しましょう。
脳出血の基礎知識
脳出血の前兆をみる前に、脳出血の基礎知識を身に付けておきましょう。そうすることで、「前兆」がより鮮明に理解できるようになります。
脳卒中のひとつ
脳の病気の名前は頻繁に耳にすると思います。ここで取り上げる「脳出血」のほか、「脳梗塞や「脳腫瘍」そして「脳卒中」。これらを分類すると、次のようになります。
- 脳卒中:脳出血と脳梗塞
- 脳腫瘍
つまり、「脳卒中」と「脳腫瘍」は「大きな名前」です。「脳出血」と「脳梗塞」はいずれも「脳卒中」に分類されます。
脳と血管
脳は「大飯食らいだ」と聞いたことはないでしょうか。脳は、ほかの臓器や器官と比べて、かなり多くの栄養と酸素を必要とします。脳にそれだけの栄養と酸素を運ぶためには、多くの血管が必要です。しかし、脳が入っている「容器」である「頭蓋骨」は、直径50センチ程度です。
ですの脳の周囲は血管がひしめき合っています。つまり「脳の病気」とは、「脳という最も重要な臓器の問題」であり、「大量の血管の問題」でもあるのです。
脳梗塞との違い
脳出血を理解するには、脳梗塞の発生メカニズムと比較すると分かりやすいかもしれません。脳梗塞は、脳の血管が詰まる病気です。血管が詰まると、その先に血液が行きません。血液が「その先に行かない」ということは、「その先にある細胞」に栄養と酸素が届かないということです。その細胞は死んでしまいます。これが脳梗塞です。
一方、脳出血は、脳の血管が破れて出血した状態です。血管が破れても「その先」には血液が届かないので、「その先にある細胞」に栄養と酸素が届きません。それでやはり、細胞は死にます。
脳出血も脳梗塞も、脳細胞の一部が死んでしまう病気という点で同じです。両者の違いは「詰まる」か「破れる」かという、血管の壊れ方にあります。
死亡原因の上位にランク
脳出血や脳梗塞を含めた脳卒中は、日本人の死亡原因ランキングで常に上位にあります。そして死亡を免れても、重い障害が残ることが多いのです。
脳出血の症状
脳出血の症状は2タイプあります。ひとつは一般によく知られている「激しい頭痛」です。もうひとつは「自覚症状がない」タイプです。脳出血の症状は、両極端に分かれるのです。
まず「自覚症状がないタイプ」をみてみましょう。
手足の麻痺
脳内で出血しているのに、無自覚ということもあります。そして「無自覚」の次に現れる症状は、手足の麻痺や、言葉を発しにくくなることです。しかしこれすら「気のせい」「年のせい」と考えてしまう人が多いのです。それでこれも「自覚症状がない」にカウントされてしまうのです。
めまいと吐き気
めまいと吐き気も同様です。めまいも吐き気も、あらゆる病気で出ます。これくらいでは「あの恐ろしい脳出血の前兆」と考える人は少ないでしょう。
しかしこうした「とらえ方」は、良くありません。本当は、長年にわたって高血圧の治療を続けている人は、「手足の麻痺」「言葉を発しにくい」「めまい」「吐き気」を、「明らかな脳出血の前兆」としてとらえ、すぐに病院に駆け込んでほしいのですが。
症状と神経
どうしてこうした症状が出るのでしょうか。それは、脳が「神経」の出発点だからです。あらゆる機能を持つ神経が脳に集まっているです。
例えば、手足の動きをつかさどる神経が脳内で障害されると、運動麻痺が起きます。このように、脳出血によって起きる症状と、神経の働きは見事に一致します。以下に「神経の種類」と、その神経が脳出血によって障害されたときに起きる「症状」を箇条書きしました。
- 話す内容を考える神経:言葉を発することができなくなる
- 覚醒する神経:目覚めることができなくなる
- 手足の感覚を脳に伝える神経:手足のしびれ
- 見た内容を脳に伝える神経:視界が狭くなる
- 体のバランスに関する神経:めまい、吐き気、歩けない
- 意識をする神経、心臓の動きをつかさどる神経:命の危険
いままで経験したことのない頭痛
そして上記に示した「症状」を無視し続けると、突然とてつもない頭痛に襲われます。発症した患者は「いままでに経験したことのない痛み」「バットで殴られたよう」と表現します。
これだけの痛みですから、意識を失うことがあります。呼吸ができなくなり、亡くなることも珍しくありません。重症の脳出血の死亡率は50%といわれています。すぐに救急搬送して治療する必要があります。
脳出血の原因
脳出血の原因は「分かっています」。これは、すごいことです。健康に甚大な悪影響を及ぼすのに、原因不明の病気はたくさんあります。脳出血はこれだけ致死率が高い病気なのに、原因が分かっているのです。ぜひその原因を取り除く生活を送ってください。
長年の高血圧
心臓の病気も足の病気も腎臓や肝臓の病気も、高血圧が関わることは多いです。なぜなら「高い血圧」は血管を傷つけるからです。血管がある臓器や器官は、必ず高血圧によって障害されるのです。そして、血管が通っていない臓器はないのです。
冒頭で説明した通り、脳は特に血管が多い臓器です。そして、脳の奥に行けば行くほど、血管は細くなります。細い血管はすぐに高血圧によって破壊されます。
脳の奥の血管
血管の破壊は、血管が固くなることから始まります。これが「動脈硬化」という現象です。想像してみてください。ゴムホースが劣化して「硬く」なると、軽く折り曲げただけで割けたり割れたりしてしまうでしょう。同じ現象が、脳の奥の細い血管で起きるのです。
もうひとつ想像してみてください。ゴムホースが簡単に割れるほど劣化するには、相当な時間が必要でしょう。これも、血管と似ているのです。脳の奥の血管が割れるには「長い期間、高血圧の状態でなければならない」のです。
逆に言うと、「高血圧を発症しても、すぐに治療に取り組み、短期間で改善すれば、そうやすやすとは血管は壊れない」ということです。
「痛くもかゆくもない高血圧の治療」は取り組む気になれなくても、「脳出血を起こさないための治療」であればすぐに取り掛かりたくなりませんか。高血圧は、高血圧としてとらえないでください。高血圧は、脳出血の前兆ととらえてください。
先天的な原因も
「長期間の高血圧」以外の原因もあります。それは先天的、つまり生まれつきもった病気によるものです。
「脳動静脈奇形(のう・どうじょうみゃく・きけい)」という病気です。「脳」の「動脈」と「静脈」が「奇形」のため、とても弱い状態にある病気です。血管が弱いので、少しの異変で脳出血を起こしてしまうのです。
脳梗塞の後に
脳梗塞は、脳の血管が詰まる病気です。これによっても脳出血が引き起こされることがあります。血管を詰まらせていた物質が、何らかの拍子に取れたときに、一気に血液が流れ、その「激流」を血管が受け止められず出血してしまうのです。これは非常にまれな病気です。
脳出血の治療
脳出血の治療は、大きく分けて薬によるものと手術によるものの2つあります。軽度の場合や手術に耐えられる体力がない人には薬で治療し、重度で薬で改善が見込まれないときには手術に踏み切ります。
薬物療法
まず、血圧を下げる薬を使います。そして、絶対安静にしてもらいます。それは、少しの血圧上昇や、少しの脈拍の上昇でも、脳出血を悪化させてしまうからです。
そして薬物療法を選択した場合、症状が落ち着いたら、なるべく早い段階でリハビリテーションを開始します。かつては「安静」を重視し、リハビリの時期をわざと遅らせていましたが、それでは後遺症が重くなることが分かってきました。それで現在では、入院後、なるべく早い段階でリハビリを開始するようになっています。脳出血の後遺症については、脳出血の後遺症について!リハビリで回復できる?の記事を読んでおきましょう。
脳の病気のリハビリは特殊なメニューが組まれます。かなり研究が進んでいる分野で、後遺症の軽減という実績を上げています。脳出血の治療に取り掛かるときの病院選びでは、「リハビリに強い」こともチェックポイントですよ。
手術
手術は重症の脳出血患者に適用されるのですが、それでも傷ついた脳を回復させることは難しいとされています。それは、脳出血は脳の奥の血管が破壊されていることが多いからです。それでも手術をするのは、出血後に血の塊ができてしまうからです。これを放置しておくと、さらに悪化してしまいます。
頭蓋骨に穴を開けて、その穴に針や内視鏡を挿入して行う手術もありますが、最終的には、頭蓋骨を大きく開いて出血した血や血の塊を取り除きます。
頭蓋骨を大きく開ける手術では、血の塊を摘出した後に、頭蓋骨を「閉じない」ことがあります。その状態で手術を終了し、そのまま入院ベッドに運ばれます。
これは脳が腫れていて、頭蓋骨という「ふた」をしてしまうと、脳が圧迫されてしまうからです。脳の腫れが治まってから、頭蓋骨という「ふた」を「閉じます」。
まとめ
脳出血の予防は、高血圧の治療にほかなりません。高血圧は「下が90以上、上が140以上」と覚えておいてください。とても重要な数字なので、語呂合わせで「急に逝く死ぬ」と覚えてください。「きゅう(9)にい(1)くし(4)ぬ」です。
治療に合わせて、食生活の改善、禁煙、肥満解消に取り組んでください。いずれも生活をがらりと変える必要がありますが、脳出血になるよりは苦労が少ないはずです。
また「高血圧かどうか分からない」という人は、すぐに定期的に血圧を測る習慣を付けてください。
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