「心臓肥大」という言葉を聞いたことはありますでしょうか。一般的にはあまり聞き慣れない言葉かも知れませんが、心臓が大きくなるといったイメージで、一見良いことのような気もしてしまいますよね。
しかし実は心臓肥大は心臓が弱ってしまう前兆なのです。
心臓が肥大するというのは一体どういうことなのか、肥大するとどうして心臓が弱るのか、想像がつきにくいかと思います。
そこで今回は、「心臓肥大」の原因や症状、そこから発展する病気や治療方法についてを詳しくまとめてみました。
心臓の役割
心臓肥大を説明する前に、まずは心臓の役割について知っておきましょう。
血液のポンプ
心臓は心筋と呼ばれる筋肉で出来ており、全身に血液を循環させるポンプの役割を担っています。
この血液には、食事等で摂取した栄養や水分は胃腸によって分解されたものと、肺から血液に取り込まれた酸素が含まれます。
私たちが生きる為に必要な栄養、水分、酸素が心臓のポンプによって体中の臓器、細胞に届けられるのです。
4つの部屋
これもご存知の方が多いかと思いますが、心臓は右心房、左心房、右心室、左心室の4つの部屋で構成されています。
この4つの部屋の中を血液が循環して、全身から戻ってきたり、送り届けたりを繰り返します。
ちなみにそれぞれの部屋の出口には弁があり、ちゃんと一方通行に血液が流れるように出来ています。
心臓肥大とは
それでは心臓が肥大するということは、どういうことなのでしょうか。
心筋の肥大
心臓肥大というと心臓そのものが大きくなってしまったような印象を受けますが、厳密に言うと心臓の4つの部屋の壁である筋肉、”心筋”が厚くなる(肥大する)ことを言います。
”心肥大”と言われることもあります。
4つの部屋どこでも起こりますが、最も多いのが左心室の肥大(左室肥大)です。
発見のきっかけ
心臓肥大は、健康診断等で行われる胸部レントゲンによって発見されることがほとんどですが、実はここで分かるのは心臓肥大ではなく「心拡大」です。どちらも同じ意味に見えますが、医学的には違うのです。
心臓肥大は心筋が厚くなることを先に説明しましたが、心拡大とは心臓そのものが大きくなること言います。
心臓の適切な大きさというのは、それぞれ人の体格が違うように、人によって異なります。
それを計るのは胸郭と心臓の幅を比較した“心胸郭比”です。心拡大は心胸郭比が50%以上(心臓の大きさが胸の大きさの半分以上)の場合を言います。
胸部レントゲンで心拡大の疑いがあり精密検査を行った結果、心臓肥大も見つかる場合があります。
一方で、心電図では心臓肥大を直接見つけることが出来ます。心電図は不整脈を見る為だけではなく、波形の振れ幅等で心臓の病気を見つけることが出来る為です。
正常値に近い範囲であっても疑わしい場合は、心臓の超音波検査(エコー)を受けて最終的に判断されます。
心臓肥大の原因
心臓肥大の最も大きな原因となるのは高血圧です。
高血圧になると、心臓に送られてくる血液の量が通常よりも多くなります。そして心臓はその量に負けじと更に全身に血液を送り届けなければいけません。
つまりその分の負担が心臓にかかってしまいますので、より大きなパワーが必要となり、心筋が厚くなっていくのです。
高血圧が健康に悪いと言われるのは、このように心臓に大きな負担をかけ、全身の様々な病気にまで発展してしまう恐れがあるからなのです。
症状
主な症状としては”心筋虚血”が見られます。心筋虚血とは簡単に言うと心筋の貧血状態です。
心臓肥大によって必要な血液量は増えるものの、心筋に血液を送る冠動脈は変わらない為、心筋が貧血となります。
また、心筋虚血と共に不整脈を起こすことがありますので、ハアハアと息切れをしやすくなったり、疲労しやすくなったりする人も少なくありません。
このように心臓肥大となっても最初のうちはあまり重大な症状は起こらないのですが、虚血状態が進むと命に関わる危険な状態を起こします。この件については後の「心配される病気」の項目でご説明します。
スポーツ心臓
心臓肥大と良く似ている状態として、スポーツ心臓というものがあります。
スポーツ心臓とは、長年激しい運動を続けてきたスポーツ選手等に見られる症状で、激しい運動による心臓への負荷に適応できるよう心臓が肥大し、心筋が分厚くなります。
主な特徴としては、安静時の心拍数が一般的な基準値よりも大きく下回ることです。
聞いたことがある方も多いと思いますが、一流マラソン選手は1分間の心拍数は30回程だと言われています。一般的な成人の平均値が60~70回なので、半分以下の数値ですね。
一見良いことのように思われますが、心臓への負担や、運動後の血圧の上昇を引き起こす心配もあります。
病気という訳ではない為、特に治療等は行わず、スポーツを止めれば大体1~3年以内に症状は無くなると言われていますが、スポーツ心臓を持っていると、他の心臓病とも似ていて区別がつきづらいということがあり、発見が遅れてしまう危険性もあります。
その為、定期的に心臓の検査を行う等をして注意していきましょう。
心臓肥大により心配される病気
心臓肥大の原因は高血圧であることを先に述べましたが、ここから引き起こされる心配のある心臓の病気をご紹介します。
心不全
心臓の肥大が起こると心筋虚血の状態となることは先に述べました。
この状態が進むと、次第に心臓の役割であるポンプ機能が低下し、全身に必要な血液、つまり栄養や酸素を届けることが出来なくなってしまいます。この状態を”心不全”と呼びます。
心臓の機能が低下しますので、様々な症状を起こします。主なものとしては息切れ、呼吸困難、倦怠感、むくみ等です。
また、横になると心臓から腎臓へ送られる血液量が急激に増える為、頻繁にトイレに行きたくなってしまうといった症状もあります。これにより夜間何度も目が覚めてしまい、睡眠不足となってしまうこともあります。
一見「それだけか」と思ってしまうかも知れませんが、安静時にも息苦しくなってしまうというのは非常に辛い状態です。そして進行によって心臓のあらゆる病気、症状の原因となり、最悪の場合突然死を招くことがあります。
狭心症
心臓肥大の原因である高血圧によって血管にコレステロールが溜まり、冠動脈の内部が狭くなります。それによって、一時的に血液の流れが止まってしまう状態を”狭心症”と呼びます。
血液の流れが止まってしまった時、胸を締め付けられるような圧迫感や痛みといった発作が起こります。
胸以外にも胃や背中、のどの痛みを感じる人もいます。
最初のうちはごく軽い発作のものが多いですが、放っておいてはいけません。悪化すると強い痛みを感じるようになり、心筋梗塞に発展する可能性があるからです。
発作が起こったら病院を必ず受診し、心筋梗塞にならないように治療を受けましょう。状態によりますが、主に薬物やバイパス手術によって治療をしていきます。
心筋梗塞
狭心症は血管が狭くなり一時的に血流がストップする状態ですが、血管に溜まったコレステロールの塊が破壊されて血栓ができ、完全に塞がれてしまった状態を”心筋梗塞”と呼びます。塞がった先には血液が流れなくなりますので、酸素不足となり最終的に心筋細胞が死んでしまいます。
症状は心不全や狭心症の比ではなく、冷や汗を伴うようなかなり激しい胸の痛みに襲われ、呼吸困難に陥ります。しかもそれが20分以上続きます。
病院では塞がった冠動脈を開通させる為のカテーテルを入れる手術が行われますが、心筋梗塞は死亡率は約40%と言われている非常に恐ろしい状態ですので、症状が出たらすぐに救急車を呼び、治療を受けなくてはなりません。症状が現れてから治療までの時間が短い程、生存率は上がります。
心筋梗塞については、心筋梗塞の前兆は?症状を知って適切な処置を!の記事を読んでおきましょう。
心臓肥大の治療
命に関わる病気へと発展する可能性のある心臓肥大。重篤な病気へと発展しない為に気を付けることや治療方法を幾つかご紹介します。
高血圧を治療すること
心臓肥大の原因となっている高血圧を治療することが、心臓肥大の進行を食い止める最も大きな方法です。
血圧を下げる方法は、大きく分けて3つあります。
- 食生活の改善
- 適度な運動
- 薬物療法
です。
それではそれぞれ具体的にご紹介していきます。
食生活の改善
高血圧を改善する為にまず言えるのは塩分を控えることです。
塩分の摂り過ぎは血圧を上げます。減塩を意識すると共に、余分な塩分を排出する働きのあるカリウムを摂りましょう。
カリウムはほうれん草や海藻、大豆食品、きのこ類に多く含まれます。
※ただし、腎臓病を患っている場合カリウム摂取には注意が必要な為、医師に相談をして下さい。
また、動脈硬化へと繋がるコレステロールを増やさない為に、動物性脂肪の食事も控えましょう。アルコールも控えた方が良いでしょう。
暴飲暴食を避け、バランスのとれた規則正しい食生活に改善することで、血圧は改善されていきます。
適度な運動
食生活の改善と共に大切なのが適度な運動です。特にウォーキングや水泳、サイクリングといった有酸素運動が血圧を下げる効果があります。
1回30分以上、週に3日以上は行えると良いでしょう。
逆に腕立て伏せやきつい筋トレ等の一瞬息を止めて力を入れるような無酸素運動は血圧をあげてしまう為危険です。
心不全や狭心症等の症状を持っている場合、運動によって発作が起こる場合がありますので、念の為運動を始める前に医師に相談してから行って下さい。
薬物療法
食生活の改善と適度な運動だけで血圧を下げることができますが、中にはこれらの生活習慣の改善では下がらないケースもあります。
そういった場合や、あるいは他の合併症がある場合は、最初から降圧剤による薬物療法をとることがあります。
降圧剤は血管を拡げて血圧を下げたり、利尿作用によって血中ナトリウム(塩分)を排出したりと様々な効果があります。
しかし、降圧剤にはリスクがあります。まず、降圧剤での治療を始めたら、ほとんどの場合は生涯飲み続けなければいけません。中止すると一気に血圧が上がり、脳卒中や心筋梗塞等を引き起こすことがある為です。
また、アルコールや入浴等によって降圧剤との相乗効果で血圧が下がり過ぎてしまうことがある為、生活上の注意も必要となります。
降圧剤での治療は安易に開始するのではなく、医師からよく説明を受けた上で行うようにしましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。心臓肥大は高血圧によって引き起こされ、心臓の壁が厚くなる状態を言うことが分かりました。
心臓肥大になるということは、その他の心疾患へと発展する可能性もあります。
しかし言い換えれば、心臓肥大が起きたからといってすぐに重篤な状態になる訳ではなく、気を付けなければならない病気が分かるということですから、事前にそれを食い止めることができるのです。
心臓肥大となってしまったことをきっかけに基本的な生活習慣を見直し、一生懸命働いてくれている心臓をケアしてあげましょう。
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