サルコイドーシスと言う言葉を聞いたことはありますか。医学が進んだ現在でも、未だ原因がよくわかっていない病気のひとつです。日本人の発症例はとても少なく、まれな病気であり、そのほとんどが自然に治るものなのですが、何割かは重症化して死亡に至る危険もある病気なのです。
世の中には、「難病」と指定されている、原因もよくわかっておらず、治療法も確立されていない病気があります。このサルコイドーシスという病気は、およそ8割は早期発見によって治癒、または自然治癒して良くなるものなのですが、2割ほどは重症化して治療困難となるため、厚生省が難病と指定しています。難病指定されている病気には、パーキンソン病やシェーグレン症候群、重症筋無力症など、現在時点で306種あります。
難病は世間にあまり知られていないことが多く、本人も気づきにくく治療開始が遅れてしまうこともあります。今回は聞き慣れないサルコイドーシスの症状を知ることで、万が一の重症化を未然に防ぐ方法もみてみましょう。
こんなことが起きたらサルコイドーシスかもしれません
サルコイドーシスとは
サルコイドーシスとは、ラテン語で「肉のかたまりのようなものが出来る病気」という意味です。肉眼で見える大きさから、顕微鏡でないとみられないくらい小さなものまで、様々な肉芽腫(にくげしゅ)と呼ばれる瘤のようなものが出来る病気なのですが、腫といっても、癌とは違い、悪性の疾患ではありませんし、他人に感染するようなこともありません。
また、体のいろいろな部分にできるため、症状はその部位によって様々です。自然治癒する可能性も高い病気ですが、治療をやめると再発することも多い病気でもあります。
出来る場所による症状のいろいろ(臓器特異的症状)
サルコイドーシスの症状は、大きくわけて、影響した臓器それぞれごとに出る「臓器特異的症状」と、臓器とは関係なくおきる「非特異的全身症状」とがあります。まずは「臓器特異的症状」から見てゆきましょう。
肺や胸部リンパ腺にできた場合(肺サルコイドーシス)
他の肺の病気と違い、咳が出る、息切れがするということはあまりないのですが、肺の両側の肺門リンパ節膨張が起きている場合には、咳が出ます。初期には自覚症状が少ないため、レントゲン検査などで偶然発見されることが多いようです。
眼サルコイドーシス
サルコイドーシスのうち約半数が眼に病変が起こるといわれています。そのほとんどがぶどう膜炎と呼ばれる、眼の炎症の疾患です。また、他の眼の病気にかかっていることも多く、眼サルコイドーシスにかかることにより長期にわたって慢性化した眼の内部の炎症が、他の眼の病気、白内障や緑内障など視力低下につながる病気や合併症をおこすこともあります。特に、白内障はサルコイドーシス患者の半数に認められるものです。
神経サルコイドーシス
サルコイドーシスの中では、かなり少ない発症なのですが、この神経サルコイドーシスの多くが、初期症状は神経症状からはじまるため、初期で判断できない場合が多いのです。
詳しいことはわかっていませんが、体の中に出来た肉芽腫が血管周囲腔に侵入してしまい、血管周囲腔に沿って脳のほうへゆき、影響すると考えられています。血管周囲腔は、脳の底部で大きくなっているため、そのあたりにある視床下部や第3脳室、視神経、脳幹から出る脳神経(特に顔面神経)に障害が出やすいとされています。場合によっては、血管が肉芽で傷つけられ炎症を起こしてしまい、虚血性の変化が起きたり、梗塞も起こるとされています。
表に出る症状で一番多いのが神経麻痺で、中でも顔面神経麻痺と、聴覚麻痺が多く報告されています。
心サルコイドーシス
サルコイドーシスの中では10%を占めるといわれる心サルコイドーシスは、心臓や心筋にサルコイドーシスが影響するものです。欧米ではサルコイドーシスの死因で最も多いのは肺の病気によるものなのですが、日本ではこの心臓病変によるものが一番多くなっています。
症状が軽いうちは、心電図に異常が出る程度で済みますが、重症化すると、脈の異常、不整脈などが起こり、最悪の場合には突然心臓麻痺を起すケースもあります。そのため、心サルコイドーシスと診断されたら、症状が落ち着いていても、定期的に心臓の検査が必要です。
筋サルコイドーシス
サルコイドーシスが筋肉を侵す場合です。ほとんどの場合、瘤ができることで発症がわかります。ふくらはぎに出ることが一番多いのですが、まれに腕や太ももなどに出ることもあります。
たいていの場合、痛みもないために、自然治癒を待つのですが、痛みがひどい場合にはステロイド剤などで治療をするほか、慢性化してサルコイドーシス筋炎となった場合には、筋力低下をひきおこすこともまれにあるため、経過をみる必要があります。
骨サルコイドーシス
骨に影響が出るものをいいます。骨髄の中に肉芽腫が形成されるため、骨が腫れる、破壊されるなどの症状が出ます。手指の骨や、足の指の骨がかかりやすく、痛みを伴うことが多いのが特徴ですが、たまに痛みのない場合もあります。
痛みのない場合では、握手をしたときに骨が折れてはじめて気がつくという場合もあるようです。サルコイドーシスの場合、体内のカルシウムのバランスが崩れてしまうことがあるため、骨が弱くなったり、腎結石ができる原因となることもあり、腎臓を傷めてしまうこともあります。
リンパ節サルコイドーシス
体の表面に近いリンパ節に影響します。首や脇の下、足の付け根などのリンパ腺が、痛まないのに腫れてくることがあれば、リンパ節サルコイドーシスの可能性があります。生検ですぐに診断できます。痛みもないので、そのまま自然治癒を待つことが多いものです。
皮膚サルコイドーシス
皮膚が赤くなったり、ふくれたりします。痛みも痒みもない場合が多いのですが、顔に出来た場合には美容的な問題がありますので、医師と相談するのがよいでしょう。
その他内臓サルコイドーシス
肝臓・腎臓・脾臓などにも影響します。肝臓の場合、病変が広範囲になっても、肝機能が低下したり黄疸が出るなどの肝臓病の症状が出ることはまずありません。
腹部CTなどで転移性肝臓がんと間違われることもあります。脾臓の場合も、CTで形態異常をしめすことはありますが、特に問題はありません。また、腎臓に影響が出た場合で、サルコイドーシスの活動が活発な場合、腎臓の機能が低下することもあります。
そのほか、少ない症例として、移調、乳房、精巣、上気道(鼻腔内)、歯肉なども報告があります。
サルコイドーシスの原因は?
結核菌、ウィルスなどの菌説
難病ということだけあって、原因がはっきりしていません。原因がはっきりわかれば、おそらく効果的な治療方も見つかるかもしれませんが、未だに特定できる原因も、これといった効果的な治癒法も見つからないというのが現状です。
これまでのところでは、結核菌、ウィルスなどの菌の影響という説が強いようです。これらの菌がリンパ球へ影響を及ぼし、肉の塊という専門用語で肉芽腫というものが出来てしまうということです。ただそれだけが原因ではないような気もします。
ニキビの原因となる菌説
最近ではある大学の研究班が、ニキビの原因となる菌の影響ではないかとの論文発表がありましたが、その辺もはっきりしていません。
現代の医学は何か菌とかに決めつけようとする傾向があるようで、実際にはその回りで影響を与えているものが見逃されがちの傾向があることを否めないと思います。
確かに菌などが身体のいろいろな所へ影響を与えているのかもしれませんが、それが外へ排出されれば問題ない訳です。というようなことを考えると、何か排出機能が衰える要素が強いのではないかとも思われます。
サルコイドーシスの恐ろしさ
前述したサルコイドーシスの症状は、冒頭に述べたとおり、サルコイドーシスがいろいろな臓器やリンパ節に影響を及ぼすことでその臓器が侵され、それぞれの臓器ごと症状が出るというものです。これらを「臓器特異的症状」と言います。
しかし、サルコイドーシスには、忘れてはならない、臓器とは関係なく起こる症状、「非特異的な全身症状」というものがあります。これらは、医師でもわからないこともあるため、患者本人が症状を強く訴える必要があるのです。
サルコイドーシスは診断されにくい
たとえば、眼がかすむようになり、眼科に行ったところ、眼のぶどう膜炎と診断され、治療をうけることになったとします。そのころ、皮膚も部分的に腫れていて別の皮膚科に言ったら原因不明の皮膚病とされ、このまま置いておいて大丈夫でしょう、また痛くなったりしたら病院へ来てください、と診断されてしまうかもしれません。
このままでは、サルコイドーシスという診断は得られないかも知れません。その結果、他の臓器への影響の発見が遅れるかもしれません。考えてみるとおそろしいことです。
非特異的全身症状は患者自身が訴えたほうが良い
また、たとえば、上記の両方の症状を病院へ訴え、検査をしてもらったとしましょう。これらのそれぞれの症状を総合的に見て、医師がサルコイドーシスと診断したとします。そして、他の臓器に影響がないかなどの検査もしてもらえたとします。医師と相談し、治療法も決めてゆきます。これはとても安心ですね。しかし、ここにも、もうひとつ、危険が潜んでいるのです。
前述の症状はすべて、「臓器特異的症状」だといいましたが、サイコイドーシスのおそろしさは、それだけではありません。別のところにも隠れています。それが「非特異的全身症状」とよばれる、サイコイドーシスと判断されにくい症状、医師も判断しづらい症状なのです。
非特異的全身症状とは
臓器特異的症状は検査での診断もつきやすく、治療が不要な場合や経過をみるだけでよいもの、適切な治療法のあるものなどが多いのです。けれども、非特異的全身症状は、とてもわかりにくいものなのです。非特異的全身症状は、以下の通りです。
わかりにくいサルコイドーシスの症状
非特異的全身症状は、このような自覚症状があります。
- 疲れと息切れを感じる
- 胸のあたりに痛みを覚える
- 骨に異常がないのに関節が痛む
- 頭痛がする
- 背中が痛い
- 筋肉痛が断続的にある
- ときどき微熱が出る、のぼせる
- 耳が聞こえにくい、耳鳴りがする
- 手足に痺れを感じる
- 排尿障害がある
- 末端神経での温度を感じる感覚がにぶくなった
などなどの症状を訴える患者さんが多いのです。原因は確かなことはわかっていないのですが、サイコイドーシスと診断されたときに、臓器ごとに出る症状である、臓器特異的症状が適切な治療で治っても、この非特異的全身症状は放っておかれてしまい、これらの痛みや障害に苦しむ人も少なくないのです。症状別に、わかっていることを記します。
疲れと息切れ
この二つは多くの場合、一緒に感じることが多いようです。臓器の病変としては肺の両側肺門部リンパ節腫脹と診断され、医師によっては、咳も痰もないから、放っておけば治るでしょうと診断されてしまうことがあります。
いつまでも、疲れと息切れがとれず、場合によっては休み休みでないと階段を登れないということも起きます。最近の研究では、サルコイドーシスの患者さんには、呼吸筋やそのまわりの筋力が低下している人が多いことがわかっています。それが疲れや息切れの原因なのではないかとされています。
胸の痛み
胸の痛みといっても、軽い、しめつけられるような痛みのみの場合もあれば、ひどい痛みで心臓の痛みと区別出来ない場合などさまざまです。
痛みが強い場合なら、患者さんは痛みを訴えるでしょうが、医師がサルコイドーシスには胸の痛みも起こりうるという事例を知らなければ、心臓が原因の臓器特異的症状と推察し、心臓の検査を行い、問題がなければ放っておかれてしまう場合もないとは言い切れません。あまりに激しい痛みが続く場合は、モルヒネなどの強力な鎮痛薬を使用しなければならない場合もあるのです。
関節痛
通常、関節の痛みがあるのは、関節炎や関節リウマチなどで、サルコイドーシスの関節痛もこれに良く似ています。左右対称の痛み等の場合は、骨サルコイドーシスとして、関節の変形や骨の異常など、レントゲンで発見することができますが、全身症状としてのサルコイドーシスの関節痛では、骨の異常などレントゲンにはあらわれず、痛みだけが続く場合が多いのです。
こういった場合は、ステロイド剤が有効なことが多いのですが、薬を減らすと再発することもあるので、長期にわたり、辛抱強くつきあってゆくしかないのです。
頭痛・その他
頭痛がある場合は、脳内にサルコイドーシスによる影響での病変や、髄膜炎がないかを検査する必要があります。背中が痛い場合には、脊髄に病変がないかどうか、筋肉痛の場合は筋肉内のサルコイドーシスによる病変がないかを検査する必要があります。しかし、これらの臓器特異的な影響がみられなくとも、全身症状としてこれらの痛みを訴える患者さんは多いのです。
サルコイドーシスの現在の治療方法
現時点では、治療薬としては副腎皮質ステロイドホルモン剤、いわゆるステロイド剤と、免疫抑制剤で治療をするのが一般的な療法となっています。もちろん、臓器に異変が出ている場合には、それらの治療も同時に行います。特に、心臓に病変があるときには、早期の治療と、継続した経過観察が必要となります。
また、眼サルコイドーシスは、眼科医にかかる必要があります。聴力などに異常を感じる場合は、耳鼻科に頼るほかありません。心臓の治療は、循環器内科と呼吸器内科で共同して治療を行う必要が出てきます。こういったことから、大学病院など大きな病院か、専門の病院へ行く際も、他の病院からの紹介状をもらい連携してもらう、という患者側の努力も必要かもしれません。
ステロイド剤
副腎皮質ホルモン、いわゆるステロイド剤の使用ということになります。かなり効果は高いという具合に認められているのですが、何分副作用が強いため、使用には躊躇する傾向はあります。
他の薬
最近ではステロイド剤に変わる有効な薬も使用されているようです。この薬は、ステロイド剤に比べて副作用も少ないとのこともあり、効き目もかなりあるということで普及されているようです。今後の研究で更なる改善が加わり、よりよい効き目のある薬もできてくることでしょう。
医師との関わり方
サルコイドーシスのように余り知られていない病気の場合、患者側でも知識が必要になる場合があります。決して、医師よりも詳しく知り、医師を糾弾せよというわけではありません。ひとことでいえば、患者側は「臆病であっていい」ということなのです。
わたしは痛みを感じにくい体質なため、腹痛がひどくとも、腰がぼんやり痛いくらいにしか感じません。しかし、あるときどうしても下腹に疝痛を覚え、脂汗も出るほどだったので、ホームドクターへ行く前に、自己判断で胃腸科へゆきました。触診と問診で、胃腸炎かもしれないからと薬を処方されました。しかし、半日たっても痛みはやわらぎません。そこで、ホームドクターへゆき、他の病院での診断結果と処方を出し、現状の痛みを訴えました。あまりの痛みに、洗面所で倒れて立ち上がれなくなったのですが、そこの看護婦は「人によっては痛みを感じやすいひととそうでない人がいるのよね。●●さんは痛みを強く感じるタイプだと思うのよ」と、わたしが大げさに痛がっているとでも言いたげでした。しかし、わたしは自身の体のことを良く知っています。痛みに鈍い体質であることを告げましたが、けんもほろろに笑い飛ばされました。医師はわたしの体質を知っているはずでしたが、看護婦の前情報が邪魔したのでしょうか、ただの痛みで、腸炎の可能性はあるが、ガスがたまってて痛いのではないか、との診断でした。その夜、自宅でどうしても耐えきれなくなり、病院へタクシーでゆきました。2件の医師にそういわれては、救急車を呼ぶのは申し訳ない、と思ってしまったのです。
しかし、今思えば、救急車を呼ぶべきでした。夜間だったため、病院へついてから、6時間待合室でまたされ、内科の医師が診たときには点滴が必要な状態でした。専門医は留守だったため、痛み止めの点滴で痛みを抑え、明け方帰宅したとたん、出勤してきた胃腸科の専門医から電話がありました。「すみません、エコー写真をみたら、盲腸でした!」
幸い、いただいていた薬が盲腸を散らす効果もある薬でしたので、2日服薬したのち、また通院しました。
最初の病院のいうとおり5日間我慢して服薬していたら、盲腸は手術しなければいけなくなったかもしれません。ホームドクターの診察だけを頼っていたら、腹膜炎を起こしていたかもしれません。このときは、サードドクターのそのまたさらなる専門医でやっとわかったのです。
医師は皆、盲腸なら痛みで歩けないだろうと思っていたため、痛みに鈍いわたしはお腹をおさえながらも歩いていたため、正確な診断が遅れました。患者は、病気に対して臆病で、心配なことをすべて医師に言うべきだと思うのです。
まとめ
サルコイドーシスは、自然治癒する可能性も高い病気です。その一方で、病変した部位によっては、発見や治療が遅れることで死亡する可能性もある病気です。なにより、まだこの病気に対する研究が日本ではあまり進んでおらず、欧米にくらべてかなり遅れをとっているのも事実です。医者まかせにばかりしていられないのは悲しいことではありますが、どんな病気も症例があり、治癒例があり、そして治療法が確立してゆくものです。
中には、医者に行っても、本当のことを言いにくいという方もおられます。医師は、検査をする前に、その人の生活環境、食べ物、訴えている症状などから、可能性のある病気を絞り込んでゆくのです。
くりかえしますが、難病は発見されづらい病気ですし、治療法が確立していない病気です。だからこそ、おかしいと思ったら、すべてを医師や病院に話す覚悟で病院へ行っていただきたいと思います。そして、医師に相談する前に、「このくらいの頭痛はよくあるから」「仕事が忙しいから疲れ気味だけど、あえて言うほどのことはない」という自己判断はせず、医師に正直に、話してみてください。
患者側から、「心配なので血液検査をしてほしいのですが」と言っても、かまわないのです。けれども、毎回違う医者に行って何度も説明するのも大変なことです。こういった面からも、ホームドクターを決めておくことも肝要です。健康診断などを他でしたときには、その結果をホームドクターに報告するといった、ドクターと患者の二人三脚も必要なのではないでしょうか。