学校や職場などの健康診断で毎回実施される尿検査。尿は健康状態を反映し、また手軽に検査できることから、皆さんも尿検査を受けた経験があるかと思います。この尿検査を通して、腎臓に関する異常を発見することが多くあります。
腎臓の病気の中でも、IgA腎症(アイジーエーじんしょう)という呼ばれる病気があり、これも尿検査を通して見つかることが多いです。
ここでは、IgA腎症について症状、原因、検査方法や治療方法についてご紹介します。
IgA腎症について
ここでは、IgA腎症の概要、IgA腎症の関係の深い糸球体の働き、原因と症状について詳しくご紹介します。
IgA腎症とは?
体の中には、IgAと呼ばれる抗体を持っています。この抗体の働きは主に、体内に侵入してきた細菌やウイルスと結合して体の外に追い出すような役割をしています。このIgAが何らかの原因で腎臓の糸球体という部分に沈着して、糸球体の毛細血管が炎症を起こし始めます。このようなことが原因となって、慢性で起こる腎臓の炎症のことをIgA腎症と呼びます。
これらが原因となって、腎臓にある糸球体が破壊されてしまい、なくなっていきます。なくなった糸球体をカバーするかのように、他の糸球体の働きが過剰になると負担がかかり、糸球体がなくなる速度が速まります。この糸球体は一度破壊されると、増えることは無いため、この糸球体がなくなればなくなるほど、腎臓の機能が低下していきます。このようにして、IgAの病状が進行していくと腎臓の機能が低下、または腎不全になります。
IgA腎症が発症する原因については、未だに明らかにされていないことが多いので、国から難病指定されていますが、今は早期発見し適切な治療を受けることで、病状を治癒出来る希望があると言われています。
この病気にかかる患者さんは10代と40代以降の割合が高いと言われていますが、年齢に関係なくどの年代でも起こる病気です。また、1968年にフランスのベルジェらが発表したことから、別名ベルジェ病とも呼ばれています。
糸球体の働きとは?
IgAと呼ばれる抗体が糸球体の毛細血管に付着して、IgA腎症を引き起こします。ここでは、IgA腎症に関係の深い糸球体の働きについてご紹介します。この糸球体とは腎臓内にある毛細血管の塊です。糸球体は名前の通り糸のように絡まりあいボールのような球体状の形態をしています。
複雑に絡み合っている糸球体ですが、働きはとてもシンプルで、腎臓に送られてきた血液をろ過して老廃物を取り除く役割をしています。この糸球体がIgAの影響をうけて破壊されていくと、老廃物をろ過する働きが低下し、体内に老廃物が溜まり尿毒症などの症状を引き起こします。
IgA腎症の原因とは?
IgAは細菌やウイルスと結合する抗体であるので、何らかの細菌、ウイルスが感染して発症することは間違いないと言われています。しかし、原因となる細菌、ウイルスが特定できないことから、はっきりとした原因は残念ながら明らかにされていません。
よくあるケースでは、扁桃腺炎にかかった患者さんの喉から、細菌やウイルスが体内まで入ってしまい、IgAの抗体が作られて腎臓に沈着し始めることです。しかし、必ずしも扁桃腺炎にかかった患者さんがなる理由ではなく、ならない人の方が多いので、患者さんの一部の方のみ免疫抗体が過剰に働き発症する病気と考えられています。これらの事から、この病気は自己免疫疾患の1つだという見方がされています。
また、遺伝要因に関しても今のところは明らかにされていませんが、IgA腎症の患者さんの中で約10%の方が家族にも同じ病状が見られることから、遺伝や体質が関係しているのではないかという声が上がっています。
IgA腎症の症状とは?
IgA腎症を含む腎臓の病気というのは症状がなかなか現れないことが特徴です。自覚症状がでてから発見するのは、かなり病状が進んでいるということになります。初期の病状では、自覚症状はなくても、体ではたんぱく尿が出たり、眼に見えない程度の血尿が出始めています。その為、尿検査を受けた診断結果でIgA腎症が発見されるケースが多くあります。
しかし、気づかずに病気が進行すると、肉眼でもわかるほどの血尿が出たり、むくみ、高血圧などの症状がおこり、この頃には体の異変を感じます。
IgA腎症にかかった患者さんのうち30%~40%の方が20年後には腎臓の機能が低下して腎不全になるという報告もあり、油断のできない病状であることは確かです。
検査方法について
検査方法は2種類あり、尿検査と腎生検です。ここでは、どのようにして検査するか詳しくご紹介します。
尿検査
体から排出される尿は健康のパラメータとも呼ばれ、健康状態を表す重要なサインです。一般的に健康診断などで行われている尿検査では、出始めの尿は採取せずに中間の尿をカップに採取します。中間の尿をとる理由は、尿道付近にいる細菌を検査する尿に入れない為に行われていると言われています。
採取した尿に試験紙を適量入れて、試験紙の色の変化をみて健康状態を判断します。試験紙の色が変化しなければ陰性、わずかに変化した場合は疑いあり、はっきりと変化した場合は陽性の判断結果になります。
この尿検査を通して、ph、尿たんぱく、尿糖、尿潜血、尿ウロビリノーゲン、尿ケトン体、白血球、尿ビルビリンを確認し、体の異常を調べます。IgA腎症に関係している糸球体という器官の働きは主に老廃物のろ過を行っています。その為、この糸球体の数が減少して働きが悪くなると、健康状態の尿には見られないようなたんぱく質などが尿で発見されます。また、糸球体が破壊されることで尿に肉眼では確認できないほどの血液がでます。
尿検査でこのたんぱくや血尿の結果が陽性となり、IgAの病状が発見されることが多くあります。
尿検査は手軽にできる健康診断方法なので、定期的に受けて病気の早期発見につなげることが大事です。特に扁桃腺炎を起こした患者さんがIgA腎症を発症することがあるので、扁桃腺炎が治った後に尿検査を実施されることをおススメします。
腎生検
IgA腎症は症状が進行しないと自覚症状が現れないことから、問診や内科的検査では病状の判断がつかないことが多々あります。その場合は、腎生検という検査方法を用います。
腎生検の方法は、腎臓の一部の組織を採取して顕微鏡で確認する検査です。腎臓の組織を採取する方法は2つあり、1つは太い注射をさして腎臓の組織を吸い取る方法、2つめはメスを入れて開腹し、腎臓の組織を直接採取する方法です。
採取した組織を顕微鏡で確認して、糸球体にIgAが付着しているのが発見されれば、
IgA腎症という診断結果が下ります。
IgA腎症の治療方法について
治療には一般的に扁桃パルス治療という治療方法を用います。扁桃パルス治療と生活改善を行っても改善がみられず、腎臓の働きが低下した場合は、人工透析を行う可能性があります。
扁桃パルス治療
IgA腎症の治療方法の1つに扁桃パルス治療があります。これは、扁桃腺を取り出す摘出手術とステロイドパルスと呼ばれるステイロイドを一定期間の投与する方法を合わせた治療方法です。
腎臓に一見関係なさそうな扁桃腺ですが、扁桃腺や口腔内感染を起こすことで、細菌やウイルスが体内に入り、IgAの抗体が体内で生産されてIgA腎症を引き起こすと考えられています。その為、その原因となりうる扁桃腺を摘出することで、IgAが腎臓に沈着するのを防ぎます。
また、ステロイドパルスはステロイドを一定の期間投与する治療方法で、この治療方法を用いることで既に血液内に存在しているIgAや腎臓に沈着しているIgAの働きを低下させること、糸球体の炎症を抑える効果が期待出来ます。
扁桃腺摘出手術とステロイドパルスの間隔は1週間以上あける必要があります。摘出手術を先に行う場合もあれば、ステロイドパルスを先に行う場合もあり、どちらを優先的に行っても効果に違いはないと言われています。
具体的な治療内容は、扁桃腺の摘出手術を行った1週間以上後に、ステロイドの点滴注射(メチルプレドニゾロン500mg+ヘパリン2000単位+生食100ml)を2~3時間かけて投与し、これを3日連続で行います。また自宅でもステロイド内服役を飲むなどして治療期間は大量のステロイド投与を行い病状を緩和させます。
この扁桃パルスの治療方法は、IgA腎症の治癒が可能と言われており、現在注目されている治療方法です。しかし、中にはステロイドパルスのみで治癒された方もいるので、扁桃腺の摘出手術が本当に必要かどうかは、担当のお医者さんに確認してください。
生活改善
肥満傾向の方は、標準体重にするようにダイエットをする必要があったり、タバコを吸われている方は禁煙する必要が出てきます。
また、規則正しい食生活やバランスの良い食事に気をつけることは腎臓の治療にとても重要です。特に、たんぱく質や脂質の摂取量には注意が必要で、食事制限をかけられる人も多くいます。
人工透析
上記で紹介した治療方法で全く改善が見られない場合、もしくは腎臓の機能が低下している場合は、人工透析が必要になります。この人工透析とは、腎臓の機能を機械を通して人工的に行う方法です。
腎臓では下記のような5つの働きをしています。
- 必要な栄養素を体に吸収し、老廃物を尿として体の外に出す
- 電解質のバランスを保つ
- 血圧の調整を行う
- エリスロポエチンを分泌させ、赤血球を作る
- ビタミンDを作る
その為、腎臓の機能が低下してくると、老廃物が体に溜まり尿毒症や吐き気、頭痛、食欲不振などを起こしたり、高血圧や貧血、骨がもろくなるなどの症状が現れます。これらを防ぐ為に、人工透析を通じて血液中の老廃物を取り出し、必要なものを補ったキレイな血液を体に戻します。
人工透析を始めた場合、定期的に行う必要があります。1回につき4時間程度かけて血液をきれいにし、この作業を週に3回ほどする必要があります。この人工透析が必要になるのは、腎臓の働きが10~15%以下になった場合だと言われています。
まとめ
IgA腎症は尿検査で発見されることが多い慢性腎炎の1つの病気です。腎臓は機能が低下しても、なかなか自覚症状が現れることがありません。自覚症状が起きている際には、既に病状が進行している証拠になります。
どんな病気でもいえることですが、早期発見して早めに適切な治療を受けることで病気を治癒できる確立が高まります。IgA腎症は尿検査という簡単な健康診断の項目で発見できる病気です。その為、定期的な健康診断を受けることが重病へと進行しない重要なポイントになります。