声を出しすぎたり、喉を使いすぎたりして、声が嗄れてしまった経験をお持ちの方は多いかも知れません。しかし、「少し放っておけば大丈夫だろう」とか、「風邪かな?」と思って放置してしまうと、あとで困ったことになります。
その声嗄れの正体は、「声帯ポリープ」かも知れません。主に声を使う仕事をしている人に多いのですが、具体的にはどのような症状なのでしょうか?詳しくご紹介しましょう。
声帯ポリープとは
声帯ポリープとは、簡単に言うと、声帯にこぶのようなものができる病気です。
声を出す時、わたしたちは声帯を震わせています。その通り道にこぶがあって空気の邪魔をするために、しゃがれたような声になると言います。
声帯ポリープの原因
声帯ポリープは、喉の使いすぎによる炎症が原因と言われます。声を使いすぎると声帯の粘膜が充血し、その状態でさらに喉を酷使すると、粘膜の血管が破れて血腫(いわゆる血豆)ができて腫れ上がるというわけですね。
ただし、この時点ではまだできたばかりなので、喉を使わず安静にしておけば治る可能性はあります。無理に声を出し続けて声帯に負担をかけたり、血腫によって正しい発音ができなくなり、間違った発生方法を続けたりすると悪化し、ポリープになってしまうのです。
ポリープのでき方
ポリープは良性腫瘍で、こぶのようなものです。声を出す時、左右両側にある声帯がぴったりとくっつくことで振動し、声が出ますが、ポリープができると左右の声帯がきちんと合わなくなるため、声が出にくくなり、違和感を覚えます。
また、大抵のポリープは左右どちらか片側にしかできませんが、重症化するともう片側にもポリープができ、声帯がうまく閉まらなくなるため、声が出せなくなることもあるようです。
声帯ポリープの症状
では、声帯ポリープができるとどのような症状が現れるのでしょうか?代表的なものをご紹介します。
声嗄れ
専門的には嗄声(させい)と言い、声帯ポリープの主要な症状です。ポリープによって声帯がうまく閉まらないため、発生しにくくなり、またポリープ自体が声帯の振動を妨げることで起こります。
嗄声は、空気がもれる感じでやや低い音になります。無理に声を出そうとしても、途中で声が止まってしまい、普通に声を出すことが非常に困難になるようです。そのため、発声にたくさんのエネルギーを消費し、疲れてしまうのです。
また、これは男性に多いのですが、声帯ポリープが相当に大きくなると呼吸困難を起こすケースもあるようです。ただし、こちらは非常にまれです。
喉の違和感
声帯が炎症を起すことで、食べ物を飲み込む時に喉が痛んだり、ヒリヒリとした痛みを感じたりすることがあります。
また、痰がからみやすくなり、発熱することもあるようです。喉が痛んで熱が出るので、一見すると風邪の初期症状にも似ているのが厄介です。
声帯ポリープの検査と診断
声帯ポリープかどうかの診断は、間接喉頭鏡検査や喉頭ファイバースコープを使って検査します。声帯を観察し、ポリープがあるかどうかを確認する、という方法で、簡単に診断が可能です。
声帯ポリープは放っておくと悪化し、声が出なくなる場合もあるので、早目に対応するようにしましょう。
声帯ポリープの治療方法
声帯ポリープになってしまったら、一体どのように治療すればよいのでしょうか?その症状や状態によっても方法が異なるため、1つずつ詳しくご紹介します。
保存治療
いわゆる、声帯を休めることで治療する方法です。声帯への刺激によってポリープは悪化しますから、まずは刺激を遮断します。これは、症状の悪化の他、再発予防にも役立ちます。
治療方法としては、以下の項目があります。
- 喉を酷使することを禁止する(声帯を休める)
- 喉を乾燥させない
- お酒を飲まない
- たばこを絶つ
禁酒や禁煙は喉への刺激を絶つ意味で重要です。また、喉を乾燥させないために、マスクを着用することが有効となります。これらの方法は、声帯の手術を受けた後にも行われます。
沈黙療法
その名の通り、声を出すことを禁止する療法です。声帯を休ませるという意味では非常に有効ですが、3日~1週間ほど声を出すことを禁じられるので、やや我慢が必要になります。ただし、軽度の声帯ポリープに対しては非常に有効で、保存療法と同様に最もよく行われる治療法となります。
すべての声帯ポリープ患者に適応できます。他の治療法に比べて患者への負担も少ないため、軽度の声帯ポリープの場合には優先的に用いられます。ただし、1週間以上経っても症状が改善されない場合には、別の病気が疑われることもあるため、早目に医療機関を受診しましょう。
音声治療
これは、発声方法を直すことで、声帯への負担を減らし、症状の悪化を防ぐというものです。発生方法の指導項目としては、以下のようなものがあります。
- チューブ発声法
- 共鳴法
- アクセント法
これらの発声方法の指導を受け、3ヶ月後に治療効果を見ることで判定します。
こちらもすべての声帯ポリープ患者が対象となりますが、ポリープの小さい人がメインとなり、ポリープが大きい場合には手術を行うのが一般的です。また、この方法では正しい発声法を取得するまでは違和感があり、なかなか治療効果を実感しにくいのが難点です。焦らず、じっくりと行うように心掛けましょう。
ステロイド吸入療法
声帯の炎症による痛みなどの症状を緩和することを目的とした治療法です。粉末ステロイド剤(モメタゾンなど)を吸入する他、ボンベ内の薬を霧状にして噴射する治療法もあります。吸い込んだ薬が声帯に付着することにより炎症を抑える効果が高いとされています。
ただ喉に違和感がある、声帯ポリープがある、と言うより、声帯の炎症による痛みを感じている患者が対象となります。ただし、ステロイド吸入に関して、以下に該当する方は服用を避けてください。
- 深在性真菌症
- 結核性疾患
- 妊娠・授乳中
- 喘息による発作が重篤な場合
ただし、ステロイド吸入は本来、喘息治療のための薬ですので、保険適用外となっています。負担が大きいのと、使用する際には容量・使用方法などについて事前に医師に確認することが大切です。妊娠中の方は必要最小限の範囲で用いられる場合があります。また、授乳中の方の使用に関しても注意が必要な場合があります。
また、炎症による痛みの症状をおさえることができるとされていますが、ポリープそのものを治療する薬ではありません。
副作用
ただし、ステロイド吸入の場合は、副作用が起こる可能性も考慮しておく必要があります。
アナフィラキシーショック
アナフィラキシーショックとは、動悸や冷や汗、くしゃみなどの症状が現れるほか、重症化する意識障害や痙攣を起こすこともあると言います。また、最悪の場合は命の危険もあるため、個の症状が現れたらすぐに薬の使用を中止し、大至急医療機関を受診しましょう。
病院へ搬送されるまでの間に適切な処置をしておくことで、その後の結果が大きく変わってきますから、アナフィラキシーショックに対する正しい対処法を知っておくことも非常に大切です。
【アナフィラキシーショックを起こしたら】
- 急に動かさない
アナフィラキシーショックを起こしたら、まずは安静にさせましょう。無理に動かしてはいけません。また、嘔吐する場合があるので、顔を横に向け、履いたものを誤嚥しないようにしておきます。体勢は、足を高く上げ、仰向けで寝かせます。締め付けの強い服の場合は、ベルトを緩めるなどして、身体の締め付けを楽にしておきましょう。
また、一時的にアナフィラキシーの症状が収まっても、再び起こる可能性があるため、油断は禁物です。上記の対応をして、できる限り早く医療機関を受診(もしくは搬送)してください。
- アドレナリンを注射する
アナフィラキシーショックを起こしたら、アドレナリンの注射をするのが有効な手段です。これは基本的に自分で行いますが、失神などにより本人が撃てない場合には、緊急救命士や学校・幼稚園などの教職員が打つ場合もあります。上記のような特定の人以外は打つことができませんので注意が必要です。
また、アドレナリン注射はあくまでもショック症状を一時的に緩和するためのものです。応急処置に過ぎませんので、必ずきちんと医療機関を受診するようにしてくださいね。
喉の不快感
上記のようなショック症状以外にも、喉の不快感や圧迫感、違和感を感じることがあります。
具体的には、喉がイガイガするなどですが、このほかにも気になる症状がある場合には、薬の使用をやめ、医師に相談してください。無理に続けると副作用が悪化する可能性もありますから、早めの対処が大切です。
消炎薬(非ステロイド)を使ったもの
これは、声帯の炎症を抑える目的で行われる治療法です。声帯ポリープは声帯の炎症が原因で悪化しますから、これは非常に有効だと言えます。消炎鎮痛薬としては、ロキソプロフェンナトリウムなどが処方され、腫れや痛みを和らげるほか、解熱作用もあると言われています。
消炎薬による治療は、喉の痛みや炎症を伴う患者に行われる方法ですが、以下に当てはまる方は服用を避けた方がよいでしょう。
- 気管支喘息の方
- 感染症による喘息を持っている方
- 消化性潰瘍
- 重篤な血液・肝腎障害・心機能不全がある方
- 妊娠末期の方
薬によって炎症を抑えることにより痛みを抑えることができますが、投薬中も、症状がある程度落ち着くまでは声を出さないように心がけましょう。極力声を出さずに過ごし、声帯を安静にしておくことが何より大切です。
また、消炎薬は声帯の炎症を抑える効果はありますが、ポリープそのものを治す薬ではありませんので、そこのところを誤解しないように注意してください。
副作用
こちらも、ステロイド吸入法同様、副作用への注意が必要です。副作用としては以下のものが考えられます。
腸閉塞
腸閉塞とは、小腸や大腸が塞がることで食べ物などの内容物が詰まるというものです。そのために腸が膨らみ、突然激しい腹痛や吐き気、嘔吐などの症状に襲われることがあります。このような症状が現れたら、食事と水分補給を絶ち、安静にすることが必要です。
ただし、それでも症状の改善が見られない場合には、開腹手術を行うことがあります。
蕁麻疹(じんましん)
これは非常にまれですが、人によっては蕁麻疹や、全身発赤など、皮膚に異常が現れることがあります。皮膚が痒くなったり、何らかの異常が見られる場合には、早めに医師の判断を仰いでください。
また、治療をしても回復までにはしばらく時間がかかることもあるので、念頭に入れておきましょう。
手術による治療とリスク
ポリープが大きくなると、保存療法や消炎薬では治療が難しくなります。その場合には、手術によってポリープそのものを取り除くことが必要になります。
喉頭顕微鏡下手術
顕微鏡を使い、喉の奥を確認しながらポリープを切除する方法です。こちらは全身麻酔で行われるため、全身麻酔に不適合な方は手術を受けることができません。
この手術は比較的安全性が高く、重症化していても有効な治療だと言われています。保存療法で改善が見られない場合に行いますので、回復傾向がある方は避けましょう。
注意点
手術に当たり、1週間ほどの入院が必要だとされます。また、退院後も1ヵ月ほどは声を出さないよう心がけましょう。全身麻酔で行うため、高齢の方・高血圧症の方は適応できない場合があります。
副作用
咽頭鏡を口に入れるため、咽頭に機械が当たって痛みを感じることがあります。この症状は時間と共になくなりますが、3週間以上経っても症状がある場合には、医師に相談してください。
また、手術中は舌を圧迫することになるため、一時的ですが味が分かりにくくなることがあるようです。こちらも時間と共に症状は消えますが、いつまでも残るようなら医師に相談しましょう。無理して我慢をしないことが大切です。
内視鏡によるポリープ切除術
内視鏡で喉の奥を見ながら、ポリープを取り除く手術をします。局所麻酔をし、ファイバースコープを使って声帯を直接見ながら行うものとなります。
保存療法などで改善が見られず、ポリープの大きな重度患者の方に対して行いますが、保存療法での改善が見込まれる場合や、全身麻酔による手術に身体が適応できない方、咽頭の反射が強いなどは避けた方がよいでしょう。事前によく相談することが重要です。
メリット
- 全身麻酔による手術が適応できない人でも、局所麻酔による手術なら受けられることがあります。ただし、事前の確認が大切ですので、きちんと話し合って決めましょう。
- 手術中の発声が可能なため、声帯の状態を見ながら手術を進めることができます。
注意点
声帯に機械が触れた時に、咽頭反射が起こる場合があります。そのため、咽頭反射の強い方は不向きだとされているのです。
また、手術後は3~1週間、声帯を休ませる必要があります。こちらも事前に説明をきちんと受け、納得の上で行いましょう。
手術後によるリスク
ただし、手術したとしても声帯の形が元通りになるとは限りません。発声方法によって声自体は戻っても、声帯の変形により声質が変わるリスクがあるそうです。
特に声を使った仕事の方、歌手などにとっては非常に大きなリスクとなりますので、手術を受ける際には必ずきちんと説明を受け、納得した上で受けるようにしましょう。
手術後に後悔してしまっては意味がありませんからね。
その他の病気のリスク
喉が枯れたり声が出にくくなったりした場合、上記のように声帯ポリープである可能性が非常に高いと言えます。
声帯ポリープならば、すでにご紹介したような治療を施すことで回復することもありますが、もしも2週間以上経っても症状に改善が見られない場合、他の病気の可能性もあります。
声帯ポリープとガンの違い
考えられるガンとしては喉頭ガンがあるのですが、どちらも初期症状は嗄声です。それでは、一体どのようにしてポリープとガンを見分けるのでしょうか?
基本的には初診で分かる
喉に違和感があったり、痛みや声嗄れがあった場合、素人でも声帯に何か異常があるのではないか?と心配になりますよね。
しかし、その原因が声帯ポリープなのかガンなのか、という事までは当然、判断することができません。だからこそ耳鼻科で診てもらうわけですが、基本的には初診で声を聞いただけで判断できると言います。
呼吸困難
声帯ポリープでもかなりまれに呼吸困難を起こすことがありますが、喉頭ガンの場合にはもっと起こりやすいです。放っておけばどんどん腫瘍が大きくなっていくためですね。
もちろんそうなれば患者自身もおかしいと感じ、病院を受診するでしょうが、喉頭ガンの場合、そこまで進行してしまうとすでに手遅れか、一命をとりとめても声帯を摘出することになってしまいます。
ですので、まずは声嗄れを感じたら、早めに耳鼻科を受診しましょう。そこでポリープなのかガンなのか診断してもらえれば、早期治療が可能になります。
発症しやすい人の違い
声帯ポリープの場合
まず、声帯ポリープの場合、その原因は声帯の炎症ですから、声を使う仕事の人がほとんどです。政治家や学校・幼稚園の先生、または歌手・アナウンサーなどがそうですね。この他にも、声帯に負担をかけるような発声の仕方をしている人はかかりやすいそうです。
喉頭ガンの場合
一方の喉頭ガンは、ガンですから声の仕事は関係ありません。年齢に関係なく声を使う人がかかりやすい声帯ポリープとは違い、中高年男性が非常に多いと言われます。また、そのほとんどが喫煙者であるようです。
検査による診断
検査は喉頭ファイバーというものを使って行いますが、これは胃カメラが非常に小さくなったものを想像していただければ分かりやすいでしょう。直径3〜4mmの管を喉に入れ、奥にある声帯を直接見ることで診断します。これで大抵はポリープなのか喉頭ガンなのか区別がつきますが、それでも分からない場合には、禁煙や消炎薬などで様子を見ることになります。
それでも判断がつかない場合、病変部の組織の一部を採取し、顕微鏡で確認する組織検査を行います。ここまで行えば、ほぼ確実にポリープかガンが区別がつくそうです。
まとめ
声帯ポリープは、声を使う仕事の人にとっては切っても切れない関係です。発声方法を間違えたり、声帯に負担をかけすぎたりしてしまえば、いつ、誰がなってもおかしくないのです。そして、声帯ポリープになるのはプロの人ばかりとは限りません。特に多いのはカラオケで、声を使い過ぎたり、無理な発声をしている場合です。長時間の一人カラオケなどもリスクがあると言います。ストレス発散方法としてカラオケは非常に有効ですが、あまり無理をしすぎないよう、正しい発声方法を心がけることが大切ですね。
また、喫煙や飲酒も声帯に負担をかけるのでリスクがあります。飲酒はほどほどに、喫煙は1百害あって一利なしと言われますから、できることならやめた方がよいでしょう。
そして忘れてはいけないのが、手術はあくまでできてしまったポリープの治療法にすぎない、ということです。1度ポリープを取り除いたからと言って、2度とポリープができない保証はありません。発声方法や声帯への負担など、条件が揃えば再発することは十分に考えられるので、日頃から正しい発声と、喉のケアを忘れないことが何より大切なのです。
声は一生付き合っていくものですから、大切にしましょうね。