「顎(あご)のガクガク」「口を開けたときの痛み」それは、顎関節症(がくかんせつしょう)かもしれません。多くは「噛み合わせの悪さ」が引き起こすのですが、意外な原因もあります。
この記事に後半に、自宅で簡単にできる予防法を紹介していますが、痛みがひどくなる前に、治療を受けることをおすすめします。顎関節症を診てくれるのは、大学の歯科や、口腔外科のある歯科です。
顎関節症の症状
顎関節症の症状で特徴的なのは、口を開け閉めした時の「顎の痛み」と「顎の音」です。音は、ほとんど本人にしか聞こえないのですが、本人にはしっかり聞こえる音です。その音とは、「ガクガク」「カクカク」「ガックン」「ジャリジャリ」「ミシミシ」です。
それでは、音以外の症状をみてみましょう。
チェック表
日本顎関節学会が公表しているチェック表は、とてもシンプルで分かりやすいです。8.6点以上で「顎関節症の危険あり」と判定されます。
★口を開けて、人差し指、中指、薬指を、縦に並べて入るか
- すっと入る(1点)
- 問題ない(2点)
- どちらでもない(3点)
- 困難(4点)
- 入らない(5点)
★口を大きく開け閉めしたとき、顎が痛むか
- ない(1点)
- たまに痛む(2点)
- どちらでもない(3点)
- しばしば痛む(4点)
- いつも痛む(5点)
★口を開けたとき、まっすぐ開くか
- いつもまっすぐ(1点)
- たまに曲がる(2点)
- どちらでもない(3点)
- しばしば曲がる(4点)
- いつも曲がる(5点)
★硬いものを食べると顎や顔が痛むか
- 痛まない(1点)
- たまに痛む(2点)
- どちらでもない(3点)
- しばしば痛む(4点)
- いつも痛む(5点)
いかがでしょうか。8.6点以下でも、「★口を大きく開け閉めしたとき、顎が痛むか」の質問で、「しばしば痛む」「いつも痛む」と回答した人は、リスクが高いので口腔外科にかかった方がよいでしょう。
痛み
顎だけでなく、頬やこめかみが痛むことがあります。ただ、顎を動かしていないときに痛むときは、顎関節症以外の病気が疑われます。
口が開かない
顎関節症では、徐々に口が開かなくなったり、または、徐々に開くことができる範囲が狭まったりすることが多いです。しかし、ある日突然、口が開かないということもあります。
噛み合わせが悪くなる
顎関節症は、顎の筋肉の異常で発症することがあります。そうなると、噛み合わせが悪くなります。顎の動きが変わってしまうからです。
口を閉じることができない
噛み合わせが悪化すると、自分では「口を閉じている」つもりでも、完全に閉じきっていないことがあります。ただこの症状はまれです。
全身の違和感
顎の症状にとどまらないことがあります。耳の痛みやめまいが生じます。目にも影響が出て、充血や涙目を発症します。
首、肩、腰など、全身のこりの原因にもなっています。「腰痛の治療を続けてもまったく改善しない。念のため口腔外科を受診したら顎関節症だった」ということも起きているのです。
顎の構造
次に顎の構造について知っておきましょう。
特徴は凸凹
顎関節症の原因を知るには、顎の構造を知っておく必要があります。
顎関節の、関節としての特徴は「凸と凹」です。顎は、頭の骨と下顎の骨が連結してできています。その「連結」方法は、頭の骨に「くぼみ」すなわち「凹」があり、下顎の骨に「出っ張り」すなわち「凸」があり、その凸凹が「カチッ」とはまっているのです。
しかし骨と骨が直接連結すると、骨が削れてしまいます。その衝撃を和らげるために、「関節円板」というクッションが、2つの骨の間に挟まっています。
関節円板は、コラーゲンでできていて、神経も血管も通っていません。
関節円板の働き
顎を自由に動かしてみてください。上下前後左右、かなり自由に動きますよね。しかも、下顎を下に移動させた状態から、前後に動かすことも、左右に動かすこともできます。これは、ほかの部位の関節にはない機能です。
この機能があるので、食べ物を「噛む」「噛み切る」「すり潰す」ことができるわけです。
どうして顎がこのような動きができるのかというと、下顎が「くぼみ」から外れるからです。しかし、「外れた」といっても「外れっぱなし」にはなりません。関節円板と、関節円板につながるじん帯が、外れても外れっぱなしにしないようにしているのです。
顎関節症の原因
顎関節症はどういった原因で起きるのでしょうか?
不自然な強い力
顎関節症が生じるのは、「顎の複雑な動き」と「複雑な構造」が原因です。下顎と関節円板は一緒に動くのですが、顎に何らかの不自然な強い力が加わると、下顎の動きに関節円板がついてこられなくなるのです。関節円板が下顎の動きについてこないということは、クッションがなくなり骨と骨が直接ぶつかることになり、炎症が起き、痛むのです。
「不自然な強い力」は複数あります。噛み合わせの悪さや、歯ぎしり、むち打ちなどです。噛み合わせは、1回1回は弱い力ですが、長年続く癖なので、エネルギーが蓄積されて、顎に違和感を与える「強い力」となるのです。
その他の原因
関節円板の異常は、顎関節症で最も多い原因です。しかしそれでも7割とされています。残りの3割は別の原因です。
顎の周囲の筋肉が緊張して硬くなり、血行が悪くなり痛みが生じることがあります。コリコリしたしこりが現れることがあります。
顎が「捻挫(ねんざ)」を起こすと、顎の骨を包む組織や、じん帯が炎症を起こすこともあります。これも顎関節症の一種です。
下顎の骨の形が変わってしまうこともあります。実はこれ、かなり頻繁に起きていますが、軽症の場合、症状が出ません。骨の変形が顎の動きに影響を与えるようになって初めて見つかることが多いのです。
肉体労働に従事している人は、仕事中に歯を食いしばることが多く、顎関節症になりやすいです。ストレスなどで眠っているときに歯ぎしりを起こす人も発症しやすいです。
顎関節症の治療
顎関節症の治療方法について紹介します。
口腔外科
顎関節症が疑われたときに受診する科は、歯科口腔外科になります。総合病院や大学病院に入っていることが多いです。クリニックでも、一般歯科と併設しているところがあります。
気を付けたいのは、クリニックの場合、「一般歯科のみ」のところが多いということです。いわゆる「削ったり詰めたり」の専門の歯科クリニックだと、顎関節症を扱っていないことがあります。受診する前に、ホームページを確認するか、できれば電話をして「虫歯ではなく、顎の不具合を診てもらえますか」と尋ねるとよいでしょう。
MRI検査
顎関節症が疑われると、まずMRI検査を行います。関節円板のずれを見るためです。
薬
顎関節症では、よほど悪化していないと、外科的治療は行いません。口腔外科の歯科医は、顎と口の使い方の改善を指導します。その上で、鎮痛薬を処方します。
積極的な治療
顎の使い方を改善しても症状が軽減しない場合、顔の皮膚の上から電気刺激を加える治療を行います。
それでも治らない場合、歯科医が手で関節円板のずれを戻します。さらに、注射器を使って顎関節を洗ったり、潤滑剤を注入したりする治療も行います。
病気が進行して、関節円板が骨にくっついてしまった場合、こうした治療でも治りません。ここまで悪化すると、外科手術が必要になります。関節円板を切り離す手術は、顎関節の外側に穴を開け、そこから内視鏡を挿入して行います。
自宅でできる予防法
また、患者自身が手で顎の筋肉をマッサージすることでも、効果が期待できます。血行を良くする目的で、温湿布を使うことも有効です。
顎関節症の患者
ある研究者の調査では、顎関節症の症状を持つ人は、成人の46%に及ぶそうです。また、厚生労働省の歯科疾患実態調査によると、「口を大きく開け閉めしたときに顎が痛む」と回答した人は、全体で5%、「東京在住の働く人」に限定すると、その割合は20%に跳ね上がります。
女性は2倍
顎関節症の患者は急増しています。十数年で10倍以上になっているというデータもあります。年齢層は、10代から高齢者まで幅広いのが特徴です。
20~30代が最も多いです。女性患者は男性の2倍以上とされています。
女性が多い理由はよくわかっていませんが、女性の方が、ストレスが筋肉に与える影響が大きいとされています。それが顎の筋肉に影響していると考えられます。また、女性の方が男性より筋肉やじん帯、骨格が弱いためではないか、という説もあります。
まとめ
顎は「食べる」に大きく関与しています。食べる行為は、私たちの生活の質に大きな影響を与えます。食生活を快適にするためにも、顎の不調はすぐに治療を開始しましょう。
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