橈骨神経麻痺とは一体何なのか?
一見聞いたことがあるようで、ないようなこの病気について今回は詳細に触れてみたいと思います。この病気の原因は?治療法や後遺症など、具にご説明しましょう。
橈骨神経麻痺とは何か?
では、まず橈骨神経麻痺という病気がどういうものなのか、ということについてご説明しましょう。
橈骨神経の圧迫による麻痺症状
そのまんまですが、それが一番伝わりやすいのではないかと思います。神経というものは身体のいたるところに張り巡らされているもので、この神経が信号を伝達し手足を動かすことを始めとする運動的なことから自然に行われている呼吸まで様々なものに影響しているもの、それが神経です。
では、この神経が途中で途切れてしまったり、一部が圧迫されればどうなるのか、と言いますと、当然のことながら途切れた部分からその下、もしくは圧迫されている部分によってそこは動かなくなる、もしくは障害を来す、ということになります。
よく言われている例で言うと、背骨、つまり脊髄の中に通っている神経というものは太く、そしてとても重要な神経です。もし腰部分の脊髄損傷などになりそこの神経が圧迫、もしくは途切れてしまった場合、腰から下の部分は動かなくなってしまいます。つまり腰から下が一切運動機能しないということですね。下半身の麻痺とも言いますけれど、つまり神経とは身体を動かすにおいて、脳からの命令を伝達する上で欠かせないものというわけであり、とても重要なものであることがわかります。
原因となるものは事故や病気など様々ありますが、その何らかの原因によって橈骨神経が圧迫されることによって橈骨神経麻痺が起こるということになります。
橈骨とは?
では疑問に思う箇所を洗いましょう。まず橈骨というものについて疑問に思う方がほとんどだと思います。橈骨とは何なのか?という疑問ですね。
橈骨というものは前腕部、噛み砕いて言うと肘から手首までの部分に骨が二本あるのがわかると思います。その二本の骨の内の一本が橈骨という部分いあたります。もう一本を尺骨と言います。具体的にどちらが橈骨かというと、親指側、つまり内側の骨が橈骨にあたり、外側の骨が尺骨という骨にあたります。
英語で橈骨のことをRadiusと言います。これの意味についてはある一点の部分から放射されている光、それを転じて車輪のようなスポークのようであるという意味らしいです。これは橈骨という骨の形がスポークに酷似しているので、そのように命名されたということです。スポークとは何かと言いますと、自転車の車輪に例えると、真ん中の軸部分と外枠の部分の間に細い棒状のようなものが何本かつけられていると思いますが、あの部分をスポークと言います。考えてみると似ていますね。車のホイールの部分の細い棒状の方なものを想像して頂いてもいいかもしれません。命名の意味はそこからきているそうです。
さらに余談ですが、橈骨の「橈」という字はボートを漕ぐ時に使うオール、という意味があります。これも似ているのでおそらくそこから取られた字なのでしょう。
橈骨神経とは?
橈骨神経とは、橈骨を通る神経のことを言います。
噛み砕いて説明するのであれば、鎖骨の辺りから脇部分の下辺りを通って、橈骨を通り、そして最終的に親指まで繋がっています。この一連の流れの神経経路を橈骨神経と言います。また、その逆にあたる尺骨の部分を通る神経のことを尺骨神経と言います。この神経はいわゆる外側部分を通っており、肘の外側に出ている骨をぶつけるとジーンと痛みが走ると思います。これは尺骨神経が通っているからです。
この尺骨神経は最終的に小指まで伸びていまして、腕や指を動かすための神経はこの二本の神経を通って伝達されるというわけです。
橈骨神経麻痺の原因とは?
では、橈骨神経麻痺に至る原因について触れていこうと思います。
別名「Saturday night palsy」や「ハネムーン症候群」
橈骨神経麻痺の原因とは簡潔に言うと、橈骨神経の圧迫による神経伝達の途絶が原因によって生じる麻痺のことを言います。様々な原因が挙げられますが、まず有名なものがこの「Saturday night palsy」というものや「ハネムーン症候群」というものです。
Saturday night palsyとは土曜の夜の麻痺という意味です。古い言い回しではありますが、土曜の夜とは休みの前日であり、恋人などと一緒に寝る機会が増えるという意味で、これをさらに詳しく説明しますと、腕枕などで長い時間、橈骨神経を圧迫するような行為を行うと後日や次の日などに麻痺のような症状が現れるという意味から取られています。またハネムーン症候群も内容的には同じようなもので、つまり簡単に言ってしまえば腕枕が原因であるということですね。
現在では休みもまちまちになってきている世の中ですので一概に土曜の夜がどうという話にくくれるものではないのですが、昔の言い回しでそういう別名が付いているということです。
腕枕による神経の圧迫は今では多いのか少ないのかはわかりませんが、別名がつくほど多いようなので今でも原因としてはかなり高いものであるといえるでしょう。
事故や外傷による神経圧迫、もしくは損傷
同じく多いものがこの事故や外傷による神経の圧迫や損傷があげられます。単純に交通事故だけでなく転倒や運動による外傷なども含まれます。つまり怪我によるもので、神経圧迫までに至るには骨折、もしくは複雑骨折、粉砕骨折などが挙げられます。
橈骨部分の骨折により麻痺が起こる部分は主に親指から中指にかけてになります。損傷し完全に神経が途絶してしまった場合は指が動かなくなってしまいます。粉砕骨折などで細い骨が神経に刺さってしまったり損傷してしまった場合はかなり重症であることがいえるでしょう。
橈骨神経麻痺の症状について
では、ここで橈骨神経麻痺によって起こる症状についてご説明します。
神経圧迫によるしびれ
実際にどういう症状が現れるかと言いますと、まず最初に挙げられるものは、神経の圧迫によるしびれになります。
朝起きたら腕がピリピリと痺れていたりすることが特徴的であると言えます。決して重症であるわけではありません。ただ痺れているだけということですね。これも橈骨神経麻痺の部類に属しています。特に治療や手術などを必要とするわけではなく、ある程度の時間が経てば自然に治るものです。
これは原因の一つで挙げた腕枕や、腕を下にしていて寝ていた場合などに言えることです。ずっと神経を圧迫されている状態でいたので伝達が途切れていて、痺れが発生したということですね。
神経圧迫による下垂手
橈骨神経麻痺の代表的な症状に下垂手というものが挙げられます。これも橈骨神経麻痺の特徴的な症状の一つであると言えるでしょう。
橈骨神経とは手の動き、具体的に言うのであれば、手の甲を裏返したり、指を動かす動作というものに密接に関わってくる神経であるので、この神経が圧迫され麻痺すると手首が下がったままのような状態、つまり手首が動かせない状態になってしまうのです。これを俗に下垂手と言います。だらんと、力が入っていないように見れるのが特徴的でもあります。
また、親指側の手に痺れや断続的な麻痺症状が現れることもあります。これも神経の圧迫によるものが原因で起こる症状の一つです。手首を曲げた状態から、指を握ろうとしても中指や薬指が浮いてしまい握れないような状態になったり、その状態をキープした上で、手首を持ち上げるような動作が困難になってしまうこともあります。また、手を広げようとしても指の間隔を空けるのが困難な状態になり、その状態から手首を持ち上げることもまた困難であることが言えます。この症状は神経圧迫の部類、つまり橈骨神経麻痺の部類でも重度の部類にあたります。
ただの痺れや朝起きた時に感じる痺れなどはすぐに治ることが多いですが、この下垂手は事故など骨の損傷から見られることが多い症状にあたります。
猿手という症状は橈骨神経麻痺の部類には含まれない
手の神経麻痺にあたる症状の中で、似たような症状があります。それが猿手というもので、これは橈骨神経麻痺の症状には含まれません。
具体的に言うと橈骨神経麻痺は橈骨神経の圧迫や損傷が原因で起こるものであり、猿手というものは中枢神経が原因で起こるものであるという違いがあります。症状的には似ている部分が多く、特に指に関する症状は酷似していると言っても過言ではありません。
猿手の場合は手のひらにある親指側の膨らんでいるあたりの筋肉が萎縮し、痩せてしまうというものが大きな症状として挙げられます。それにより猿のような手になることから猿手と呼ばれるようになりました。猿手も似た症状ではありますが、この橈骨神経麻痺とは別物です。
橈骨神経麻痺の治療法について
では、橈骨神経麻痺の治療法について触れていこうと思います。
装具の着用
橈骨神経麻痺と言っても手術を要する療法はありません。そこまでして治すものでもないものであるともいえるでしょう。この「橈骨神経麻痺」という部類に関して言えば、手術を要することはありません。ですが、重度の麻痺や下垂手に至った場合の対処法や治療法などは一応存在しております。
下垂手は事故などの重傷を負った場合に生じるものでもあり、また長時間の圧迫などで神経を損傷してしまった場合などに起きるものなので、その場合の治療法と治療の期間について説明しようと思います。
まず、手首が下がったような状態になり、指に力が入らないことや、指が広げられないなどの症状が出る下垂手という症状の治療についてなのですが、主に装具と着用するというのが主な治療法であると言えます。手首が下がった状態のままであると、麻痺を起こしていない筋肉までもが悪影響を及ぼす恐れがあるので、その場合は装具を用いいて通常の動きを取り戻させるように支える必要があります。
骨折や軟座などの場合は固定というものが目的というわけではなく、あくまでも筋肉の動きを正常な状態へ補助する、という役割を果たすのが目的です。
治療期間はどのくらい?
では治療期間についてなのですが、装具を装着しての橈骨神経麻痺の治療期間は主に一ヶ月から二ヶ月程度というのが一般的です。ですが、ほとんどの場合、一ヶ月も経たないうちに回復することが多く、装具の着用もしなくて良くなることがほとんどであるのが今の現状です。これはあくまでも橈骨神経麻痺の治療期間というわけであって、骨折などの治療期間はその症状によって変わってきます。
ちなみに個人差があるのも特徴ではあります。早く治る人もいれば一ヶ月から二ヶ月程度の期間痺れが取れない方もいらっしゃいますので一概にそれまでに完治するとは言い難いのですが、ほとんどの場合一ヶ月程度かそれまでに回復することが多いということです。
橈骨神経麻痺の場合は、神経が完全に切れてしまっているわけではないので、各々の症状によって変わっていきますが、平均としては5週間から8週間程度というのがこの病気の治療期間に設定されているものです。
保存療法による治療(整形外科の場合)
橈骨神経麻痺の場合は大体が整形外科に行くことが多いです。まず整形外科に診察してもらうことが第一であるとも言えるでしょう。
この整形外科の治療法の中に、橈骨神経麻痺の治療法として、メチコバールといったようなビタミンB12の薬剤を処方されることもあります。これを一般的に保存療法というものです。内服薬治療とも言いますね。これは軽度の場合に処方されることが多いものです。軽い固定とメチコバールの内服薬で改善が見られるという程度のものは軽度の場合のみの治療法として挙げられます。
軽い事故などのものであればこのビタミンB12の内服薬だけでの治療もありえます。痺れの緩和や回復を促してくれるので、ある程度の期間服用するだけで回復が望めるでしょう。
リハビリに関して
大体のものが最高でも二ヶ月程度での回復が望めますが、それはちゃんとした病院で治療を行った場合に限って言えることです。放っておいて二ヶ月程度で治るということではありませんのでそこはしっかりと理解をしておいてください。
重要になるのが初期段階の治療を怠らないことです。事故などの場合は病院での処置をしますので大丈夫でしょうが、軽い打ち身などの場合は放置することが多いでしょう。ただの打ち身程度で済めばいいのですが、これに痺れなどの症状が出ているなら話は別です。痺れがある場合は確実に橈骨神経麻痺の可能性があります。
なので、その場合に放置していると後々に重大な後遺症を患ってしまう可能性があります。初期段階の治療は怠らず、少しでも痺れなどの違和感を感じた場合はすぐに病院へ行くように心がけましょう。
その場合、ある程度の神経回路の回復が見られたらリハビリへと入ります。
リハビリ方法については、注意が必要な部分があります。「代謝性運動」という言葉があるのですが、これは力が入るところだけで見られることがある運動で、その状態でのリハビリは効果が期待できないのです。その場合は、まず神経麻痺がある程度回復してからリハビリを行うということが大事になってきます。神経麻痺が回復しないうちにリハビリを行っても意味がないということですね。
橈骨神経麻痺が治らないというケースもある?
上記でも述べたのですが、初期段階の治療が必要不可欠となっています。二ヶ月程度で治るというのは初期段階の治療を的確に行っているかいないかというのが含まれてきますので、放置していた場合はこれには含まれません。
時間さえ経てば治る病気、ではありませんのでそこはしっかりと理解した上での二ヶ月程度と思ってください。なぜなら放置していた場合には危険な症状に至ったり後遺症が残ったりすることがあるからです。つまり治らないということも視野に入れておいてください。
少しでも違和感を感じるようなことがあればすぐに病院へと行くようにしましょう。初期段階での治療を怠ると後遺症だけでなく、治らなくなってしまうこともあります。これは危険以前にずっと手の痺れや下垂手が治らないということになります。日常生活に支障を来すレベルの後遺症も危惧されますので、初期治療はしっかりと行うようにして、自己判断をせずにするようにしましょう。
何科の受診?
一般的に言えば、まずは整形外科の受診をするようにしましょう。橈骨神経麻痺の場合の一般的な治療は整形外科で行ってくれます。
ただ、整形外科での治療を行い回復が見られない場合や、痺れが取れないなどのことが二ヶ月以上続くのであれば、整形外科ではなく別の科を受診しましょう。
稀に病院によっては適当に見て薬だけの処方をするようなところもあるので、ネット上での口コミなどを利用するのも良い手の一つです。今は病院も山ほどありますので、悪徳な医者もいるでしょう。ろくに診察もせずに薬だけ処方する場合はセカンドオピニオン、総合診療などを受診すると良いでしょう。
まとめ
では総括に入ります。
初期治療を怠らないように
この病気は各々の度合いにもよりますが、自己判断で放置をしないように気をつけましょう。ただの打ち身であっても痺れなどが2・3日続くのであればそれは神経麻痺の可能性を疑いましょう。初期治療がものをいう病気でもありますので、早期に病院を受診するように心がけてください。