苛酷な体験をされた方々は、現在物質的にも精神的にも非常につらい思いをされているのではないでしょうか?自然災害や戦争などを体験すると、精神的にストレスを抱えてしまい、PTSDを発症することも珍しくありません。
そんなつらい体験をされている方のために、ここではPTSDについてお話ししたいと思います。
PTSDってなに⁉︎
PTSDとは、日本語にすると「心的外傷後ストレス障害」と訳され、英語の病名である「Post-Traumatic Stress Disorder」の頭文字をとって、一般的に「PTSD」と呼ばれています。
自然災害や犯罪事件、事故などにより、苛酷な体験を強いられた結果、トラウマ (心的外傷ー強度の精神的ストレス)を受け続けると、PTSDを発症してしまうと言われています。
現在、熊本で起きている「熊本県地震」や2011年の「東日本大震災」、世界を見渡せば、「シリア空爆」や「難民問題」、ISによる「自爆テロ」などで犠牲になった方々の生き残った家族の方々などが、そのような苛酷な体験をして被害にあっているのではないでしょうか?
その結果、そのような経験がトラウマ(心的外傷)となって、多くの患者さん方を長期にわたって苦しめているのです。
そのような体験をされた方々は、突如として、恐怖体験を思い出したり、常に不安で緊張感が取れずに、時にはめまいを覚えたり、偏頭痛に苦しんだり、不眠症に悩まされることも少なくありません。
PTSDの定義
まず、PTSDの病名について、英語で定義を確認しておきましょう。
“Post-traumatic stress disorder(心的外傷後ストレス障害)
A medical condition in which a person suffers mental and emotional problems resulting from an experience that shocked them very much.
「苛酷な衝撃を受けた経験により、精神的および感情の問題に苦しんでいる人の医学的見地」 (筆者訳)
OXFORD Advanced Learner’s Dictionary
オックスフォード英英辞典
定義から類推すると、「ショックを受けた人」は、「その経験」により、「精神的ダメージ」や「感情の問題」でトラブルを抱えている・・・と解釈することができます。
では、そのような患者さんは、具体的にどのような苦痛を抱えているのでしょうか?
PTSDの原因
PTSDは、人それぞれ、さまざまな原因により発症します。
例えば、自然災害などの天災や人災などが挙げられます。
- 天災によるPTSD
- 人災によるPTSD
- 家庭内暴力によるPTSD
- 他の原因によるPTSD
天災によるPTSD
現在、九州で起きている地震などの震災や、中東シリアで起きているシリア空爆とそれに伴うEU域内への移民移動時の海難事故などは、現代におけるPTSDの原因となる典型例となるかもしれません。
熊本地震では、多くの方々が今なお被災しており、自宅が崩壊したり、ご家族が亡くなったり、車の中で止まっているために発症するエコノミー症候群に襲われたりと、本当に辛い思いをされています。
このような状況下では、人は、非常に辛い精神的苦痛に長期間にわたって耐えなければならず、PTSDの原因となるトラウマ(心的外傷)の要因ともなります。
想像してみてください。
朝まで一緒に生活していた家族が、突然発生した地震で亡くなってしまうのです。すぐそばにいた家族が、突然自分のそばから永遠にいなくなってしまうのです。その心痛いかばかりか・・・。そして、余震は未だに続き、いつ再発生するかも知れない恐怖感の中、被災地の避難所生活を余儀なくされています。
そんなこころの不安や葛藤、悲しみを抱えたまま、つらい避難生活を送っていれば、そのようなトラウマがこころの内に生じるのも無理はありません。
人災によるPTSD
世界では、シリアの空爆とシリア難民のニュースが、毎日のようにテレビや新聞をにぎわせています。シリアは、政府軍と反体制派、そしてISの三者が入り乱れた内戦状態下にあります。さらに、一般市民の居住区域にまで空爆が行われているのです。
当然、空爆の犠牲となるのは、軍人や武装勢力ではなく、一般市民なのです。お子さんを亡くした方もいらっしゃるでしょうし、親御さんを亡くした子供もたくさんいるでしょう。
そして、記憶に新しいシリア難民問題では、海辺に打ち上げられた赤ちゃんの映像が世界を駆け巡りました。本当に衝撃的な映像でした。
赤ちゃんの母親が存命されているのかどうか、筆者は存じ上げていませんが、ご存命ならば、「母親の心中、察するに余りある」状況です。
その心の傷はまさに「トラウマ」以外の何物でもないでしょう。
家庭内暴力(DV)
家庭内暴力もトラウマを生じる大きな要因の一つです。
良き伴侶に巡り会えて結婚し、幸せな生活を送る・・・はずが、ふたを開けたみたら「奴隷のような生活が待っていた・・・」とは、最近よく耳にする話です。
毎日のように、怒鳴られたり、殴られたり、蹴られたりされ、暴力をふるう相手に逆らうこともできず、そのストレスや心の痛みを打ち明けることも、助けを求めることもできずに悩み抜いた末、PTSDを患ってしまう。
そんなことも、決して少なくはない世の中なのです。
他の原因によるPTSD
その他にも、性犯罪や学校での陰湿ないじめ、パワーハラスメントなど、PTSDを発症する原因は、まだまだたくさんあります。
では、そのような患者さんは、どのような苦痛を抱えているのでしょうか?
さまざまなPTSDの症状
さまざまなPTSDの症状がありますが、主な症状を4つご紹介いたします。
- フラッシュバックによる恐怖体験のリマインド
- 苛酷な体験への回避
- 情緒不安定による身体への影響
- 感情の異変
フラッシュバックによる恐怖体験のリマインド
フラッシュバックとは、過去の体験が、突然記憶によみがえることを指します。突如として、過去にあった恐怖体験がよみがえり、その恐怖に恐れおののくのです。
ときにそれは、戦争などでの家族との死別体験であったり、無差別殺人などの生命の危機、DVなどの圧倒的他者による恐怖支配、性犯罪などの恐怖であったりします。「リマインド」とは、そのフラッシュバックのきっかけとなるような出来事のことを指します。
患者さん自身の意思に関わらず、突然ふと心のうちにその恐怖が湧いてくるので、患者さんには如何ともしがたい症状です。
その結果、理由もなく突然泣き出したり、精神的不安な状態が続くとともに、その恐怖に対する緊張感が持続して情緒不安定な状態に陥ります。
本当にささいなことで、驚愕の表情を見せたり、繊細な警戒心を抱くようになります。
苛酷な体験への回避
患者さんの日常生活の中には、過去の苛酷な体験を思い出させるトリガー(きっかけ)がたくさんあります。患者さんは、ふとしたことでその体験を思い出してしまい、そのとき体験した苦痛を何度も繰り返し体験します。
そのような体験を何度も経験していくと、患者さんは経験的に「このパターンは過去の苦痛を思い出させる」と学習するのです。
その結果、患者さんは、自然とそのようなきっかけとなる行動を避けるようになります。
これが、PTSDにおける「回避行動」と呼ばれる症状です。
情緒不安定による身体への影響
このように、精神的に情緒不安定な状態が続くと、めまいを覚えたり、偏頭痛や頭痛など、人体にも影響を及ぼします。すると、夜になっても不安定な状態は続くので、自然と眠れなくなり、不眠症になることも多いのです。
たとえ、眠れたとしても、浅い眠りで意識が覚醒している「レムの状態」であったり、悪夢にうなされるようになります。
その結果として、朝の起床時には、眠ったのか眠っていないのかわからないような、睡眠に対する充足感が得られない状態となったり、身体がだるいなどの倦怠感を覚えるようになります。
また、次第に食欲が低下していき、食べ物が喉を通らなくなります。ときには、吐き気を催したり、腹痛を伴うことも少なくありません。
結果的に、不眠症だけではなく、摂食障害までをも引き起こしてしまうことも多々あるのです。
感情の異変
このように、心身喪失とも言える状態に陥ると、情緒不安定となり、常にいらいらしてしまう焦燥感に駆られます。
すると、落ち着いて物事を行動することができなくなります。
例えば、「ゆっくり本を読むことができない」、「思考が停止して物事をじっくりと考えることができない」、「突発的、あるいは衝動的な行動に走る」などなど、さまざまな症状に陥ります。
過去の苛酷な体験や不眠症、情緒不安定な行動が続くと、徐々に感情や感覚が麻痺してきます。喜怒哀楽が極端に少なくなり、物事に対して素直に喜ぶことができなくなったり、楽しむこともできなくなります。
まるで、「感情が凍てつく」ような感覚ですね。
さらには、他人に対して興味・関心を持つことができなくなるようになることもあります。場合にもよりますが、さまざまな辛い経験の結果、他人のことに氣を配ることなどできなくなってしまうのです。
PTSDの治療法
PTSDには、特効薬や手術療法はありません。患者さんのこころの痛みをゆっくりと時間をかけて解きほぐして、少しずつ和らげていき、癒してあげるしかないのが現状です。
PTSDには、主に以下の2つの治療方法がとられています。
- 苛酷な体験に苦しんでいるこころの傷の回復
- こころの傷に伴う精神的症状の軽減
苛酷な体験に苦しんでいるこころの傷の回復
苛酷な体験から生じたトラウマを、ゆっくりと時間をかけて解きほぐしていく方法です。定期的なカウンセリングを通じて、患者さんのトラウマの原因が何であるのかを突き止めて、その原因を少しずつ少しずつ和らげていくのです。
患者さんの苛酷な体験の記憶を呼び覚ますことになるので、倫理的にも非常に難しい治療です。
患者さんのトラウマを軽減していく過程で、もちろん、患者さんは、突発的な苦痛に思い悩むことも少なくありません。過去の体験と直面した患者さんは、投げやりな気持ちになったり、自傷行為のような衝動にかられることもよくあるからです。
大切なことは、患者さん自身が、「いかに自分の苛酷な体験と向き合い、それを受け入れて将来を生きていくことができるようになるか」ということです。
心の傷に伴う精神的症状の軽減
PTSDを発症すると、さらに不安感に苛(さい)まれ、不眠症やうつ病、さらには自殺などを考えるようにまでなってしまうこともあります。そのような場合は、睡眠薬や睡眠導入剤、抗うつ薬、抗不安薬などを服用して、患者さんのつらいこころの苦しみを和らげるような方法がとられています。
薬剤治療には、 不安感もなくゆっくりと睡眠をとることができても、副作用があるなど、功罪両方があります。したがって、薬の服用には、細心の注意が必要です。
まとめ
このように、一度傷ついてしまったこころは、容易に治癒することはできません。ゆっくりと時間をかけて少しずつ少しずつその苦しみを和らげていくしか方法はないのです。
患者さんの周囲にいらっしゃる方は、「すぐに症状が改善する」などといった安易な考えは捨てて、温かい目で見守ってあげてください。
ただ、こころを病んでしまっている患者さんは、アルコール依存症や薬物依存症などに陥りやすいと言われています。また、患者さんご自身も、その依存症に気づかずに続けていることも少なくないようです。
そのため、治療するときには、お酒や薬物などの嗜癖行動を改善することも多いようですので、その点にはご注意ください。