ケロイドとは、いつまでも残る傷跡のことです。小さな切り傷は、しばらくすると完全に傷跡は消えますが、手術でお腹を切り開いたり、深い傷を負ったりすると、誰でも傷跡が残ります。これがケロイドです。大きな火傷でもケロイドができます。その傷跡はほぼ一生消えることはありませんが、痛みもかゆみも違和感すらありません。
こうした一般的なケロイドと異なり、「ケロイド体質の人のケロイド」というものがあります。これはいわば、ケロイドが暴走した状態で、傷跡部分がプックリ盛り上がり、かゆみや痛みも生じます。
ケロイド体質の症状
まずは、ケロイド体質の症状について知っておきましょう。
魚肉ソーセージのよう
ケロイド体質の人のケロイドについて、具体的な症例を紹介します。この方は40代前半の女性で、帝王切開によって出産しました。出産後10日目で抜糸しました。そこまでは通常通りだったのですが、それから2週間後、抜糸した場所の傷跡がどんどん広がっていきました。最終的には魚肉ソーセージが1本丸々乗ったようなケロイドに成長してしまいました。
かゆみも尋常ではありません。それに耐えられずひっかくようにかくようになり、出血するほどです。
周辺を巻き込む
一般の人に発生するケロイドは、肥厚性瘢痕(ひこうせい・はんこん)といいます。傷跡として残るのですが、盛り上がったり成長したりすることはありません。また、かゆみは生じません。
一方、ケロイド体質の人のケロイドは、真性ケロイドといいます。「真性」とは「確かにその病気である」という意味です。真性ケロイドは、周辺の皮膚を巻き込むことが特徴です。盛り上がったり、成長したりするための「原料」は、周辺の皮膚なのです。
扁平から半球へ
真性ケロイドが発生しやすい部位は、太もも、胸、方、顎、ひじ、ひざです。背中はケロイドになりにくい部位です。
真性ケロイドの部分と、そうではない普通の皮膚の境目は明確に分かれています。形は、最初は扁平隆起(へんぺいりゅうき)状です。平らなんだけどやや盛り上がっている、という意味です。アスファルトにこびりついたガムをイメージすると分かりやすいでしょうか。
扁平隆起の形は次第に、半球状隆起になります。先ほど魚肉ソーセージが丸々1本乗ったような形と解説しましたが、正確には半球状隆起といい、魚肉ソーセージを縦に切った状態で、断面は半円になります。ケロイドは必ず傷の後に生じますが、真性ケロイドは元の傷よりはるかに大きくなります。
真性ケロイドの色は、発症当初は鮮明な赤またはピンクです。次第に赤に黒味が混ざってきて、症状が落ち着くころには褐色に変っています。真性ケロイドの硬さは、焼きたての餅に例えられることが多いです。プニュプニュといったイメージです。時間の経過とともに硬くなっていきます。
痛みも特徴的です。真性ケロイドは、上から押しても痛まないことが多いです。ただ2本の指でケロイドをつまむように押すと痛みを発します。側面からの押さえによって痛みが生じることから「側圧痛(そくあつつう)」といいます。
ケロイド体質の原因
残念ながらケロイド体質になってしまう原因は分かっていません。医師は患者に「体質のせい」と説明するでしょう。ただケロイドが生じる条件は明確です。それは傷です。
ニキビやピアスでも
冒頭で、手術のメスによる傷や大きな切り傷、そして大火傷が、のちにケロイドに成長してしまうと説明しました。ただまれに、痛みもかゆみも生じない微小な傷がきっかけとなってケロイドが生じることがあります。
ケロイドを生む微小な傷の中には肉眼では確認できないものもありますが、ニキビもケロイドのきっかけになります。一般的にニキビは思春期を過ぎると跡は残りません。またケロイド体質の人でも、ニキビそれ自体は成長と共になくなります。しかしニキビが残した傷跡が長期間患者を苦しめることになるのです。
またピアスの穴開けでケロイドができることがあります。ケロイド体質の人が耳たぶに穴を開けると、耳たぶより大きなコブ状のケロイドが、キノコのように生えてきます。美容上、かなり大きなダメージがあります。
色素に関係?
ケロイド体質の遺伝は「ないとはいえない」というのが専門家の意見です。つまり「ある」とも言い切れないし「ない」とも言えないということです。人種的には色素量が多い人種に発生しやすいそうです。つまり白人は少なく、黒人に多く、日本人などアジア人はその中間という位置づけです。
若い人に多い?
真性ケロイドの発生確率に男女差はありません。ただ30歳未満の人に多い傾向が見られます。
ケロイド体質の治療
現在の医療では、ケロイド体質そのものへの治療は行われていないようです。皮膚科での治療は、真性ケロイドの症状の軽減に力を注いでいます。というのも、ケロイドは、あたかもがんのように発生しているように見えますが、がんとはまったく異なります。
ケロイド自体が人の器官や臓器を傷つけたり死滅させたりすることはありません。つまりケロイドは、命の問題にかかわらないのです。しかしケロイドは、痛みやかゆみや見た目の悪さといった、生活の質を著しく落とします。ですので治療も、生活の質を取り戻すことが最終目標になります。
治りやすいケロイド
肥厚性瘢痕(ひこうせい・はんこん)という、ケロイド体質ではない人に生じるケロイドは治りやすいです。自然に治る人もいます。盛り上がった状態も徐々にしぼんできます。
数年かかるケロイド
一方で、ケロイド体質の人に発症する真性ケロイドは治療に数年かかることも珍しくありません。最もやっかいな真性ケロイドは、関節部分にできるものです。関節部分の皮膚は伸び縮みすることで関節の動きを邪魔しないようにしています。しかし真性ケロイドは周囲の皮膚を巻き込んで形を作ってしまうので、関節の動きを制限してしまいます。この状態は「皮膚が拘縮している」と表現します。
この場合の治療法は、皮膚の移植手術となります。皮膚移植後の状況は良好で、ケロイドの大きさは確実に小さくなることが期待できます。
ステロイド
皮膚の移植手術は感染のリスクがあります。さらに、皮膚移植の手術によって新たなケロイドができてしまうことがあります。ですので手術は、関節の上にできた拘縮を伴う真性ケロイド以外では採用されません。
真性ケロイドの治療で活躍するのがステロイドです。真性ケロイドの中でも比較的軽症の場合、ステロイドの軟膏やステロイドのクリームなど、塗るタイプのものが処方されます。
重症化すると塗り薬では追いつかないので、ケロイドの患部に注射で直接ステロイドを投与します。
ステロイドは劇薬ですが、投与によって期待できることは大きいです。まず、かゆみや痛みが軽減できます。盛り上がっている部分の高さが低くなることもあります。
レーザー治療
真性ケロイドの治療ではレーザーを使うこともあります。「内科医的レーザー治療(LLLT)」といいます。レーザー光線を患部に当てることで、次の効果が期待できます。
- 細胞の新陳代謝が活性化されて、ケロイドに置き換わる皮膚細胞が作られる
- 血行が改善され新しい血管が作られ皮膚細胞を活性化させる
- 神経に作用して痛みや炎症が治まる
ケロイドの予防
ケロイド体質を予防する方法はありませんが、ケロイド体質の人がケロイドを予防することは可能です。とにかく傷を作らないこと、その一言に尽きます。
肌のケア
ニキビがきっかけとなってケロイドができてしまうと、ニキビが治ってもケロイドは一生残ってしまいます。そこでケロイド体質の人は、若いうちから肌のケアをしっかり行いましょう。ネットで調べたり知人に聞いて取り組むのではなく、きちんと皮膚科に通い、ケア方法を学んでください。
ピアスは避ける
ケロイド体質が分かったら、ピアスは完全にあきらめてください。ピアスはファッション好きな人には欠かせないアイテムですが、ピアスの穴によって真性ケロイドができてしまっては、美容が大きく崩れてしまいます。
まとめ
ケロイド体質は、典型的な生活の質に関わる病気です。この病気の特徴は、命に関わらないだけに研究が遅れ、根治療法が確立されていないことです。ケロイド体質も例外ではありません。
しかし生活の質が落ちることは、人によっては命を失うのと同じくらい重要になります。また、顔に大きなケロイドが残ってしまうと、メンタルにも大きく影響してきます。
真性ケロイドやケロイド体質は、兆候が分かります。小さな傷なのに、傷跡が大きくなってしまったら、すぐに医者にかかってください。治療の目標は「大きくしないこと」です。