胃ろうとは自分で食べ物を食べることができなくなった人がお腹に直接養分を入れることで延命を図る処置です。2014年の診療報酬の削減で話題になっています。
一時的な処置で使われることもなくはないので特別介護に限った処置ではありませんが、PEG一度取り付けると処置が簡単なため、お年寄りの介護によく使われます。そのため尊厳死の問題に関係してよく「胃ろうは無駄な延命ではないか」取り沙汰されるワードです。寿命が延びるだけ医療的な負担も増えてしまうことが家族にとっても複雑なところです。
医療費の負担は大変ですが、しかし介護保険など知っていると保険が適用されたり、あまりにも負担が多い場合は補助が出る場合があります。独りで悩まず役所の制度の確認をしましょう。
こちらのページでも胃ろうの保険適用の負担額、胃ろうでどのくらい寿命が延びるのか、胃ろうのリスク、施設の受け入れができない場合はどうなるのか、本人や家族の負担や現実はどうなのかなど、胃ろうと介護にまつわる実態を詳しくまとめます。
胃ろうとは
胃ろうとは自分の力で食事を自分で取れない方などがお腹に穴をあけて直接食料を注入して延命する方法です。PEGとも呼ばれます。
条件によっては胃ろうが不可能な場合がありますが、基本的に手術が負担が少なくリハビリも可能で延命処置としては優秀です。
胃ろうの手術
手術にしては感染症のリスクは低く、比較的簡単な手術で済みます。ガスで胃を膨らまして手術しやすくし口から内視鏡をいれて取り付け位置を確認しながらチューブを通します。穴の大きさは5~6mmと小さく、術後は痛みがあってもほとんどの場合はその後痛みがなくなります。著しく免疫力や再生力が低いお年寄りは感染症を起こしてただれる場合もあります。所要時間は15分ほどですみます。
胃は自己再生能力が非常に高く、穴が塞がりやすいので体力の低いお年寄りですら手術の成功率も高いです。
胃ろうカテーテルには種類があり2つに分けてバルーンとバンパーが存在します。またチューブ型、ボタン型の種類もあり、外にチューブがでるか、ボタン式でスマートかの違いがあります。
PEGは他の嚥下障害がある人の養分補給よりチューブが抜けにくいので介護スタッフにも人気があります。
バルーンとバンパー、チューブとボタンどっちが良い?
一長一短です。バルーンは抜けにくいですが、交換が2カ月と短く、バンパーは4,6カ月ごとに交換です。
チューブは接続が簡単ですが、チューブがぶらぶらするのでどこかに引っかかったりすることもあります。ボタンはその点へそにボタンがついているように見えるほど目立ちませんが、その分接続するのが難しいです。
バルーン型なら在宅で自分1人、あるいは介護者によってでも交換もできます。どれが良いかはかかりつけ医に相談しましょう。
口からものを食べるリハビリも可能
一度手術すれば食事を注入することも楽になり、またリハビリで咀嚼する力が回復して自分で食べ物を食べられるようになれば取り外して穴を縫うこともできます。
お風呂にも入れる
栄養剤を流していないときは穴はふさがっており、よほど引っかいたり汚物を擦りつけたりしなければ、なにも気にせずにお風呂にはいれます。ボタン式は特に目立ちません。湯船につかることも可能です。
どういう状態の人が胃ろうをするのか?
口内のガンで口内を切除したり、加齢や脳卒中、筋萎縮性側索硬化症などで口の筋肉を動かすことができず、物を飲み込む力がなくなる嚥下障害を持つ人が胃ろうをします。
ある程度噛む力があっても食事を誤嚥してしまうと、気管支に食べ物が入って肺炎を起こす危険もあります。そのためあまりにも肺炎を繰り返す場合、胃ろうを奨められることもあるようです。
胃ろうができない人もいる?
消化器に問題がある方、手術に耐えうる体力がない方は胃ろうを断られることがあります。
胃ろう以外の食事が取れなくなった人の延命方法
胃ろう他には鎖骨や首の静脈に養分を注入する中心静脈栄養法や、鼻から胃にチューブを入れて養分を流す経鼻胃管という方法がありますが、臨床、介護の場面ではあまり推奨されません。点滴もありますが、この場合長くはもちません。
何故これらの処置がとられないかというと医師でないと処置が難しいからです。胃ろうであれば対応できる老人ホームがあるので介護の必要なお年寄りには胃ろうが進められることが多いのです。
中心静脈栄養法とは
中心静脈栄養法の場合は本来は一時的に消化器を休める必要がある人向けの栄養供給方法です。心臓付近にカテーテルを挿入するのは感染症が起きたときのリスクが高いです。
認知症の方への処置ですと管を触ったりして管が抜けてしまいやすいのも欠点です。血管に管を深く突っ込むわけにはいきませんので、胃ろうのようにお腹の中にしっかりと管を固定する方法より断然管が抜けやすいようです。
また消化器が使われないために胃腸などが弱ってしまい感染症になったり敗血症になるリスクもあります。
経鼻胃管とは
鼻から胃までつながるチューブを入れて水や食料を注入します。チューブが入っている間は取らない限り食事もできません。鼻に管が入ると普通は不快感が強いことも難点です。気分も悪くなるので寝ぼけてついつい鼻のチューブを引き抜いてしまうこともあります。認知症の方であればなおさらです。
喉に食料が詰まったり、誤飲して肺炎になるリスクもあり、チューブが取れて食料がベッドに散乱すると悲惨でスタッフも辛いようです。よくミトンのようなものを手に付けざるを得なくなってしまうのですが、多くの人は不自由がったり、蒸れてかゆがったりして取ってほしそうにするので、家族から「なんだか拘束されているようでかわいそうだ」と理解が得られず苦情が入ってしまうこともあるようで医療スタッフの間でも人気がありません。
ただし胃ろうでもチューブを自分で抜こうとする人は手を縛られることもあるのでその点は一緒です。
胃ろうで在宅介護は可能?
殆どのお年寄りは「家に帰りたい」という人が多いです。特に今胃ろうをする年代の人は長寿が幸せのバロメーターだと考える人や、嫁が親の介護をするのは当然だと思っている人も少なくありません。胃ろう在宅介護は可能なのでしょうか。
在宅介護は可能かというと可能です。ものが飲めないだけであれば、介護者なしで自分一人で栄養管理をする人もいます。バルーン型の胃ろうであれば自宅でチューブの交換までできます。介護費用も安く済みます。
しかし、普通の介護に加え、衛生面、チューブが外れてしまったときの対処などを考えると大変だと言わざるを得ません。
家に帰るか帰らないかで家族で問題になる場合もあります。自宅介護が可能なだけに家族の悩みは増していきます。家に帰りたいと泣く両親、絶対嫌だという家族、恩知らず、呪ってやると罵声をかける両親、介護の実態は知らないのに白い目で見る親戚、そんな光景も考えられます。
特に夫側の両親を夫側の家族の判断だけで胃ろうで延命させて介護はお嫁さんという場合はトラブルが多いです。下の世話をしてるのに不満ばかり浴びせられ、イライラしながらだんだん雑になってしまう介護、そして親戚からは「虐待してないか」と疑われて針の筵・・・なんてことも珍しくない話です。これで夫が妻の味方をしなければ最悪逃亡か自殺、虐待です。酷いときは遺産が介護者の手に渡るのを恐れて、認知症の患者に介護者の悪口を吹き込んだケースまであります。
介護者の負担と不満が激しく、精神を病んだり家庭が崩壊することもあります。介護は体力、精神共にすさまじい消耗をします。根性論の問題ではありません。保険制度や介護サービスなどを上手く利用して無理せず家庭を守りましょう。
胃ろう診療報酬の削減とは何を意味するのか?
2014年に厚生労働省が胃ろうに関する診療報酬の削減を制定してマスメディアでも話題になりました。
変更は以下の通りです。
引用:胃ろう造設前の嚥下機能評価の実施等の推進を図るため、胃瘻造設術の評価を見直すとともに、胃ろう造設時の適切な嚥下機能検査に係る評価を新設する。
変更前↓
胃ろう造設術 10070点
変更↓
胃ろう造設術 6070点(50件を超えると4856点) 胃ろう造設時嚥下機能評価加算 2500点
点数が下がった???つまりどういうこと?
診療報酬とは医療保険からお医者さんに支払われる治療費のことです。患者さんは全体の3割を支払うので医療費は安くなります。しかしお医者さんに払われる報酬が減ります。
報酬額は1点10円です。10070点だと、胃ろうを施すとお医者さんは100700円の報酬を医療保険組合から支払ってもらえていました。
これを減額して、お医者さんは胃ろうをしても保険組合から60700円しかもらえないようになったということです。
その代わり胃ろう造設時嚥下機能評価加算 2500点が加算されています。この処置を行うと60700円+25000円=857000円です。
この胃ろう造設時嚥下機能評価とは自分でものを食べられるかどうかを調べることです。これは「回復の見込みがあるかどうか調べなさい」「食べる機能があるのに認知症になった人などを安易に胃ろうにしないでください」という意味合いがあると考えられます。
また、患者さんに胃ろうを処置した件数が50件を超えると4856点に下がります。あまり胃ろうをし過ぎてもお医者さんが儲かることにはなりにくいのです。これは、お医者さんのお金儲けのために安易に誰でも胃ろうにされたら困りますよ、という改正なのです。
胃ろう造設時嚥下機能評価で点数をもらえるようにしたのは「患者の自立を助けることにつながる」ため評価が高いのですが、50件の制限は「50件を超えないように調節するお医者さんがでてくるのではないか?」という懸念をする人もいるようです。
改正から数年たって
あれから2年たちましたが、あまり胃ろう件数は減っていないようです。
胃ろうは普通の食事より簡単にとらせることもできるので効率面から言っても胃ろうが奨められるケースが多いとも言われます。お医者さんというよりスタッフの要望でもあるのです。介護の現場は人手不足で賃金も劣悪、1人1人に寄り添ってなんてやってられない、やってほしければもっと金払え!と言って続々とやめていく人が多いのが現実という話を聞けば、胃ろうの処置が減らないというのもいたしかたないのことなのかも知れません。
医療費や家族の負担の現実について
仕事を辞めなければならない、先の見えない介護、など重々しい問題もよく聞かれます。医療負担額や労働がどのくらいになるのかチェックしましょう。
家計を圧迫する介護費用ですが、制度を知っていると市役所に申請することで控除が受けられる場合があります。一人で悩まず、市役所の介護保険課や健康保険を発行する窓口などに相談しましょう。医療機関にケアマネージャーがいれば、そこでも詳しい情報が聞けるはずです。
胃ろうにかかるランニングコストは?
医療費1割負担なら造設手術自体は1万円程度で済みます。しかし手術して終わり、というわけではありません。
例えば胃ろう手術後に毎日流動食を注入したり、リハビリやそのほかのケアが行われるわけです。寿命は人それぞれで胃ろう後3カ月で亡くなる方もいれば10年生き延びる方もいます。
チューブもつけっぱなしにできるわけではなく、交換が必要です。
- 経管栄養カテーテル交換法 700~2000円ほど
- バルーン型 1~2か月ごとに交換で一回8000円
- バンパー型 6か月ごとに交換で2万円
食費2万円~4万円
(条件によって細かく異なります。注入する流動食が「薬」扱いなら保険が効きますが、「食事」扱いなら保険が効かず食事代になります。介護施設によるようです。)
だいたい月6万円~ほどのランニングコストがかかります。
中には市営の介護サービスもあり、5万円に抑えることができますが、受け入れできる空きがあるとは限らないのが現状です。私立の老人ホームなどに滞在させると10万円、衣服やおむつなどその他もろもろ合わせて15万円ほどでしょうか。
公務員で20代ころから働いていた男性の年金であればギリギリ払えなくもない金額ですが、専業主婦の年金では赤字がでてもおかしくありません。夫に先立たれてしまった女性は遺族年金制度について市役所で相談してみましょう。健康保険関係の窓口で相談できます。
介護療養型医療施設は廃止予定でしたが2017年くらいまでまだ存続しているようです。入所できればそれもいいかも知れません。介護者の負担は大きいですが、在宅介護であれば1万5千円の介護保険費用です。
負担を軽くするために
国は低所得者に対して様々な補助をしてくれます。ただし市役所で相談しなければなりません。収入が少ない場合は入院費が安くなるケースがあります。
限度額認定証はその一つです。
市役所や医療機関のケアマネージャーなどに相談しましょう。
胃ろうを断るには
自分自身が意識を失ううちに「胃ろうは嫌だ」と事前指示書に明記して拒否しても遺族が「死んでほしくない、胃ろうしてほしい」と医師に告げれば胃ろう処置をされます。
また胃ろう以外にも養分を摂取する方法がありますから、それを奨められたときに家族が混乱するケースもあり得ます。延命はしない
事前に家族全員で万が一のときについてよく話しておく必要があります。
ただ、個人的には全く延命しないで自宅でなくなると、まず水が飲めないので干からびるように亡くなってしまいます。私の祖父がそうでした。苦しいかどうかは定かではないですが、ミイラのような姿は気の毒でした。
人の死はきれいごとではないので仕方ないことかも知れませんが、点滴くらいお医者さんにお願いしたらよかったかなと母や祖母がこぼすのを聞いたことがあります。
胃ろうは悪??
そういうわけではありません。胃ろうをした家族の約半数ほどは「胃ろうして生きてくれてよかった」といっています。
リハビリもしやすく、自分でものを食べられるようになる訓練も受けやすいので回復の見込みがある人は特に胃ろうは優れた処置です。
認知症の場合は回復の見込みほぼはなく介護も熾烈を極める大変さですが、それでも胃ろうをしてよかったという人はいます。胃ろうの延命をしたからと言って世間が勝手に白眼視することがないようにそれぞれの家族の選択を見守りましょう。
まとめ
胃ろうは即時を自分で取れない人のための処置です。お年寄りや用介護が必要な人のためだけの医療ではなく、自立に適した処置です。自分1人で自分の胃ろうに使われる栄養剤を流す人もいます。
しかし胃ろうの処置は延命、リハビリの面で非常に優秀なため、安易に処置されがちな手術でした。そのため2014年に診察報酬の改正がなされ、世間では胃ろうは良くないものというイメージがついています。
実際に認知症で要介護の病人など回復の見込みがほぼない方にとっての胃ろうや介護関係者、家族、家計の関係は倫理的、経済的な面で難しい問題を横たえています。
万一のことが起こる前に医療費と保険制度、市役所で受けられる介護関係の補助、介護者の負担の現実を良く調べ、それぞれの家族が自分たちの最後についてよく話し合うことが大切です。