お腹と背中が同時に痛むときありませんか?それは膵臓の疾患かもしれません。
膵臓に痛みが出るときどんな疾患が考えられるのか、まとめてみました。
この記事の目次
お腹と背中の痛みは何が原因?
お腹の痛みは日常生活の中でも割とよくある光景ですが、そのお腹の痛みの中でも、背中にかけて痛みが出たりみずおちの辺りから広範囲にかけて痛む場合は、膵臓の疾患かも知れません。
膵臓の役割
膵臓(すいぞう)は、胃の後ろ側のほうにある大きさ15センチから20センチ程度の細長い臓器です。膵臓の機能は2つあります。1つは膵液という消化液を分泌する機能と、2つ目はホルモンを分泌する機能です。
消化液を分泌する機能
通常私たちが食べ物を食べると、口から胃を通って消化された食べ物が十二指腸に送られます。
十二指腸に食べ物が入ると、ホルモンが分泌されます。その刺激によって膵臓から膵液が作られるのです。膵液は糖分を分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼなどの消化酵素や、核酸の分解酵素を含む弱アルカリ性の液体で、一日に800mlも分泌されているといわれています。
その膵液が十二指腸で様々な栄養分を分解したり、胃液によって酸性になった食物を中和する働きをします。
ホルモンを分泌する機能
膵臓の中には、ランゲルハンズ島という、細胞の集まりが存在します。その中では、グルカゴンとインスリンというホルモンが作られています。
・グルカゴン
グルカゴンは、血液中の糖分を増やす働きを持ちます。
脂肪組織の脂肪をブドウ糖に変えたり、肝臓に蓄えられたグリコーゲンをブドウ糖に戻したりする働きをします。
・インスリン
インスリンは、血液中の糖分を減らす働きを持ちます。
血液中のブドウ糖を細胞に取り込むようにしたり、余分なブドウ糖を脂肪に蓄えさせたり、ブドウ糖をグリコーゲンに変化し、筋肉や肝臓に貯蔵する働きをします。
このようなグルコガンとインスリンの絶妙なバランスによって、血液中の糖の値が一定に調節されています。つまり膵臓という臓器は、食べ物の消化やホルモンによって糖をエネルギーに変化させ、体内のエネルギー調節をするという役割を担っているのです。この機能がきちんと働かないと、各臓器や細胞などにきちんとエネルギーが行き渡らなくなり、身体に不調を引き起こすのです。
急性膵炎による膵臓の痛み
急性膵炎は、膵臓が突然炎症を起こす疾患です。軽度なものから死に至る重度なものまであります。
急性膵炎の原因
アルコールの過剰摂取と胆石が原因であることがほとんどです。
胆石による急性膵炎は女性に多く発症するといわれています。胆石が膵管に詰まって膵液の出口をふさぐことで膵臓細胞が炎症を起こします。胆石による膵炎は一時的なものが多いので、初期段階で発見できれば、早期回復できます。
アルコールも毎日多量に飲み続けることによって、膵管を詰まらせる原因になります。脂っこい食事も同様に考えられています。アルコールが原因の急性膵炎は男性に多いといわれています。
まれに薬剤による膵炎もありますが、原因が薬剤であると分かった時点で中止すると炎症は早く治まります。
急性膵炎の症状
腹部の上のほう、胸骨下の部分に急激に痛みが生じます。この痛みは背中まで痛くなるほどです。胆石によるものだと突然の激痛で、アルコールなどによるものだと数日かけて痛みが増すといわれています。体温も38度程度まで上がり、血圧も変動することがあります。さらに深呼吸や動きなどで痛みは悪化します。腹部の上部分が腫れる場合もあります。
ほとんどの場合が吐き気と嘔吐を伴うもので大変辛い思いをします。症状が重くなると、血圧や肺、腎臓などの臓器に障害を起こすことがあります。稀に重症の急性膵炎で、膵臓の一部が壊死し、血液と膵液が腹部に流れ込んで全身の血流を減少させ、血圧低下を起こしショック症状を引き起こすことがあります。重症の急性膵炎は命に関わる危険性があることを知っておくと良いでしょう。
さらに炎症を起こした膵臓には感染症を引き起こす可能性があり、経過観察が非常に大事になってきます。もし、症状が治まり始めたにも関わらず、発熱や白血球の数に異常が見られたら、感染症の可能性があります。
急性膵炎の診断
急な腹痛で上記のような特徴的な症状がある場合などは急性膵炎を疑います。診察は聴診器を当てることで分かります。腹部の音がほとんど聞こえないそうです。検査では、アミラーゼとリパーゼの血中濃度を測ることや、白血球の数を検査します。
重症の急性膵炎の場合、CT検査では膵臓の炎症を発見することができます。また腹部のX線検査で胆石が見つかったり、胸部のX線で胸水が見つかることもあります。このように、いくつかの検査を複合してみることで診断されます。
急性膵炎の治療
急性膵炎の場合でも軽度の時は、短期間の入院と膵臓を休息させるために絶食します。通常の食事に戻るには3日程度かかるといわれます。痛みのひどい場合は鎮痛剤などが処方されます。
症状が重くなるにつれて、入院期間も長くなります。点滴などによる水分補給のほかは絶食になり、3日以上続きます。飲食が膵臓を刺激することになるからです。痛みや吐き気などは薬が処方されます。重症になると、集中治療室での治療になります。
繰り返しますが、急性膵炎は恐ろしい疾患です。軽症でも死亡率が5%程度、重症になると、死亡率が50%程度まであがります。楽観視できない疾患だということを理解しましょう。
慢性膵炎による膵臓の痛み
慢性膵炎は膵臓の炎症が長期にわたって続く疾患で、膵臓の機能を悪化させます。
慢性膵炎の症状
急性の膵炎と似たような症状ですが、大きく2つのタイプに分かれます。
①腹部中央の痛みが長く続くとき。
この場合、腫瘤やのう胞などの合併症、または膵臓がんの可能性もでてきます。
②膵炎が何度も再発するとき。
この場合の症状は、軽度の急性膵炎に似ていることが多く、痛みは何日も続くことがあります。
①や②のどちらの場合も、症状が進行し、消化酵素の数が減少すると食べた物がきちんと消化されなくなります。このような状態を膵臓の機能不全といいます。すると異臭便や油滴を含んだ脂肪便などが大量に出るようになります。消化不良による栄養不足で体重の減少も起こります。さらに進行すると膵臓のインスリン分泌細胞が壊れ、糖尿病を発症します。
気をつけたいのは、慢性膵炎の場合、軽症の時は痛みをあまり感じないことや、しばらく経つと痛みが治まることで胃や腸の不具合程度と勘違いして、市販の整腸剤などで済ませてしまうことです。確かに一時の痛み止めには効果的ですが、根本的な治療にならず、慢性膵炎を進行させてしまいます。少しの痛みでも早めに医療機関に受診しましょう。重症化を防ぐことができます。
慢性膵炎の診断
上記のような症状に加えて、今までの病歴やアルコールの多量摂取などの状況など総合的に判断して慢性膵炎を疑います。
診断にはアミラーゼやリパーゼの値やブドウ糖の値を検査するための血液検査のほか、CT検査、特殊なMRI検査なども行うことがあります。さらに慢性膵炎の場合は膵臓がんに進行することも多くあるので、場合によっては内視鏡検査なども合わせて行うこともあります
慢性膵炎の治療
基本的には急性膵炎と同様ですが、再発を繰り返す慢性膵炎は、アルコールが原因でない場合の慢性膵炎でも基本的にはアルコールは控えるように指示されます。食事も絶食になり、水分補給の点滴などになります。膵臓や腸を休息させることが第一になります。さらに痛み止めの薬などの処方になります。
回復傾向が出てきたら、脂肪分などの少ない食事を少量づつ摂取します。また合併症などの危険がないかどうか、経過観察をし、腫瘤などがある場合は手術などを行います。もし消化酵素の分泌が出来なくなるなどの障害が出た場合には、薬などで補います。すると便に油滴が混ざることも回数が多くなることもなくなります。
膵癌(すいがん)による膵臓の痛み
膵臓の悪性腫瘍の約95%が腺癌(せんがん)といわれています。腺癌は膵管の内側の腺細胞といわれるところに発症します。近年膵臓の腺癌は増えています。特に中高年の男性に多いといわれています。また喫煙者に発症率が高いことも特徴です。
この膵癌は慢性膵炎から発症することも多く、慢性膵炎にかかったことのある人は特に注意したい疾患です。
膵癌の症状
膵臓にできた腫瘍によって胆汁が小腸に流れることが出来なくなります。このため、黄疸になります。黄疸は全身にかゆみが出ます。また腫瘍によって小腸の閉塞が起こっている状態だと吐き気や嘔吐することもあります。
注意したいのは、癌が大きくならないと自覚症状の出ない、膵臓中央部と十二指腸から遠い部分にできた腺癌です。この部分に癌が出来ると、自覚症状が出るまでに癌が進行してしまい、発見されたときにはすでに他の臓器へ転移していることもしばしば見受けられます。膵癌の初期症状は、痛みと体重減少、黄疸です。特に腹痛では腹部上部より背中にかけての痛みが必ず起こります。
膵癌の診断
膵臓の中央部や十二指腸から遠い部分の腫瘍は早期発見の難しいところだということが分かりましたが、どのような診断になるのでしょうか?
まず腹部や背中にかけての痛みが出た場合には早めに医療機関に受診しましょう。診断の中で血液検査や問診などでは見つからない場合も多いので、不安なときはCT検査をしてもらうと良いでしょう。発見の確立があがります。
そのほかに内視鏡や超音波検査、MRI検査なども発見には有効です。少しでも可能性がある場合は、膵臓組織のサンプルを採取して顕微鏡検査やかなりの確立で癌との疑いがあるときは試験開腹をすることもあります。
膵癌の治療法
膵臓の腺癌については、発見が遅くなりがちで、その多くがすでに他の臓器に癌が転移していることもあります。そのような状況から癌における5年生存率は2%未満といわれています。
完治への一番の近道は手術ですが、転移していない場合に行われますので、出来る患者さんの数が限られるそうです。術後には化学療法や放射線治療などが行われますが、なかなか生存率が上がらないのが現状です。
痛みには鎮痛剤などの薬剤療法になります。あまりに強い痛みにはモルヒネなどの強い鎮痛剤を投与することになります。
膵臓の腺癌は、死亡率の高い疾患です。発症が分かった時点で医療機関やお医者さん、家族など周囲との連携や本人の覚悟も必要になります。万が一の時のこともありますので、家族で十分に話し合っておく必要があります。
急な症状で受診するときに注意すること
急激な腹部の痛みで医療機関を受診するときに気をつけたほうがよいことはあるのでしょうか?
特に腹部の痛みに関しては、様々な疾患の可能性が考えられます。そのために出来るだけ症状を詳しく的確に医師に伝えることが、疾患の早期発見になります。その際には腹部を場所で大きく9箇所にわけて伝えることで、より確実に伝わります。
- おへそを中心としてその真ん中部分
- みぞおちを中心とした腹部の上のほう
- 肋骨の真下右側
- 腰骨下の右側
- 恥骨とおへその中間より下
- 腰骨下左側
- 肋骨の真下左側
- 腹部全体
- 腹部と背中
腹痛の場合はこのうちのどれかに当てはまると思います。自分の痛みがどの部分なのかきちんと伝えることで、正確な診断もしてもらえます。
また、痛みの状況や程度についても、痛みの出る前までの状況のほかに、
- 痛みがずーっと続いているか
- 強烈な痛みが突然始まったのか
- 痛くなったり痛みがひいたりを繰り返しているのか
- 痛みを感じる場所が一定なのか、移動しているのか
- 便秘や下痢、血便や嘔吐などの痛み以外の症状はあるか
- アレルギー症状をもっているか
- 女性の場合は妊娠しているか
- 今処方されている薬があるか
- 既往症の有無
- 大きな手術後であるか
このような条件がわかることで、より正確な診断ができます。
まとめ
腹痛はとても辛いものです。重大な疾患で手遅れにならないようにきちんと診断してもらいましょう。
膵臓は、普段あまり気にしない部分ではありますが、見逃してしまうと大事に至ることも多くあります。症状が長引くときや、痛みが激しい時はすぐに病院へ行くようにしましょう。
関連記事として、
これらの記事も合わせてお読みください!