風邪などで病院に行った際、一晩抗生物質の点滴をしましょう、といわれた経験がある人は多いかと思います。病原菌を素早く殺菌する抗生剤は症状を早急に改善するために役立ち、広く使われています。しかし、抗生剤には副作用が存在することとをご存知でしたか?
病院で処方されるからと言って安心していては、思わぬ症状に悩まされてしまう事になるかもしれません。医療のプロが行う処方にも、万が一は必ず存在します。抗生剤について正しい知識を学び、進んで自衛出来るようになりましょう。
抗生剤とはどんなもの?
抗生物質とは、細菌によって作られた、細菌の発育を阻害する物質です。細菌が細菌を殺してしまう、どことなく共食いのようなイメージのあるものです。
抗生物質の代表として有名なものに、ペニシリンというものがあります。ペニシリンはアレキサンダー・フレミングによって世界で初めて発見された抗生物質で、アオカビから作られる殺菌作用のある物質です。
ペニシリンの殺菌作用により、菌が原因の様々な感染症から人々を救うことが出来ました。日本では特に結核の治療に効果を発揮しています。
これ以降、さまざまな種類の抗生物質が発見され、系統別に分かれて抗生剤として使用されています。
なお、抗生物質に晒された菌は、抗生物質に対する耐性をつけることがあります。菌は太古から存在する生き物ですので、抗生剤を使いすぎることで耐性を持ったより悪性の菌に進化することがあります。
抗生剤の役割は?
病院などで抗生剤という言葉を聞いたことはあるかと思いますが、そもそも抗生剤や抗生物質と言われるものにどのようなものがあり、どのような効果があるかご存知ですか?
主に病院で良く処方される抗生剤では、細菌を殺すための方法が3種類に分類されます。種類別に抗生剤の効果を見ていきましょう。
細菌本体を破壊する
抗生剤の効果の一つは、細菌を直接破壊することです。
細菌には細胞壁が存在し、それが細胞の形を保つ役割を持っています。抗生剤はその細胞壁を破壊し、細菌の体を壊してしまう効果があります。菌にとって、細胞壁を破壊されることは、人間から皮膚組織や皮下脂肪をすべて取り除いてしまう事に等しく、形を存続させる点において致命的です。
これらの効果を持つ抗生物質は「ペニシリン系」と「セフェム系」です。投与してからの効果は非常に速やかで、即効性の殺菌が期待できます。
タンパク質合成を阻害する
細菌はタンパク質を合成することで成長して悪性を放ち、増殖していきます。そこで、そのたんぱく質を合成できないようにしてやると、細菌は栄養を取ることが出来ずに弱っていき、最終的には死滅します。人間に置き換えると、食事が与えられずに飢餓が続くことと等しい状態です。
これらの効果を持つ抗生物質は「マクロライド系」と「テトラサイクリン系」です。投与してからの効果はゆっくりです。
DNAの合成を阻害する
地球上のあらゆる生き物にはDNAが存在します。DNAはその生き物がその生き物である証であり、生き物を表す式のようなものです。人間には人間のDNAがあり、その情報をもとに形成されていくのです。このDNA情報が読み取れなくすることで、細菌の形成を保てなくするという効果のある抗生物質があります。
「ニューノキロン系」と呼ばれる抗生物質がそれに当てはまります。DNA合成の邪魔をすることで、細菌の存在を破壊します。
抗生剤の副作用
細菌を殺すことに効果のある抗生物質ですが、良い事ばかりではありません。抗生物質はある程度ターゲットの細菌を決めることが出来ますが、本来は細菌に対して幅広く効果を発揮する物質であり、細かくターゲットを絞ることが難しい物質です。つまり、本来殺してはいけない菌まで殺してしまうことがあるのです。
それにより、以下のような副作用を引き起こすことがあります。
腹痛
人間の腸内には様々な菌が住んでいます。それらは善玉菌と呼ばれ、消化を司ったり、体調を管理したりと、それぞれの役割を持っており、腸内細菌が適切に作用することで日々の健康を維持しています。
ところが、抗生物質を使用することで、本来殺菌したい菌以外に、腸内に存在する、体の調子を整える善玉菌まで殺してしまうことがあるのです。
そうして腸内環境が悪くなるとおなかがゆるくなり、下痢や腹痛などの症状に見舞われることがあります。
下痢や腹痛は、投与直後から1週間くらいの間に起こることが多いようです。
めまい・耳鳴り
抗生物質を服用することで、めまいや耳鳴りが起こることがあります。これは抗生物質の代表的な副作用の一つで、服用後10年たっても発生することがあります。
耳鳴りはきーんと意識が遠くなるようなものから、雨音のように周りの音を遮断する大きさのものまで、程度は様々です。
アナフィラキーショック
アナフィラキーショックとは、アレルギー物質に対する体の免疫の過剰反応のことで、動悸、息切れ、呼吸困難、痙攣、重篤な場合には意識混濁を生じ、最悪死に至るショック症状です。
ハチに2度以上刺された際に起こるショック症状として有名ですが、実は抗生物質にも反応する可能性があります。
アナフィラキーショックはアレルギーに関連する副作用です。ハチ毒や食べ物のアレルギーなど、さまざまなアレルギー物質がありますが、どれも体が異物と判断して猛烈な攻撃を始めます。
本来、異物である細菌を攻撃しようとする抗生物質が逆に体に異物として判断され、攻撃されるのは皮肉ではありますが、一定の割合でこのショック症状は発生しています。
病院内で症状が出た場合は速やかに対処してもらえるでしょうが、自宅などで薬を服用した場合などに発生すると、致命傷になりかねない恐ろしい症状です。
抗生剤の点滴が効果を発揮する場合
副作用があっても抗生剤の点滴を勧められるのは何故でしょうか?それは菌に直接効果を発揮するためです。
抗生剤の投与の方法には点滴のほかに、内服薬として服用する場合や、塗り薬として処方される場合など、様々な活用方法があります。しかし、内服薬や塗り薬では、抗生物質の濃度を上げることが容易ではありません。あまりに高濃度の内服薬は胃腸を荒らすことにつながり、高濃度の塗り薬は傷口周辺に存在する、傷を修復するための菌まで殺してしまいます。
その点、点滴は血管に直接抗生物質を流し込むため、濃度をある程度自由に調整できるのです。
抗生剤には副作用が存在しますが、正しく使えば速やかに効果を発揮します。医療現場では、以下のような場合に抗生物質の使用で効果があると考えられています。
肺・内臓に細菌が入り込んだ場合
肺や内臓は外から遮断されているため、外科手術を行わなければ手が届かず、薬の服用によってしか菌を殺すすべがありません。特に重篤な症状が現れており、速やかに殺菌が必要な場合は、抗生物質の点滴が行われます。
感染症
細菌による感染症の場合、菌を長時間放置することは二次感染のリスクを高める事になります。そのような場合は抗生物質を投与し、速やかに菌を死滅させて、新たな患者を出さないようにします。血液で直接運べるため、抗生物質の点滴は特に即効性に優れています。
傷口が化膿した場合
空気中には様々な菌が繁殖しています。我々人間は皮膚によってそれらの菌から守られていますが、傷を負って中身が空気にさらされると、細菌の格好の餌食になります。体の抗体作用が追い付かない場合、抗生物質が投与され、細菌が体内に入り込むのを防ぐ手助けをします。
抗生剤を点滴する際の注意点
メリットもデメリットもある抗生剤ですが、投与する前に私たちにも注意できることがあります。
アレルギーがあるかどうかを伝える
抗生物質のアレルギーで恐ろしいのはアナフィラキーショックですが、それほど重篤にならずともアレルギー症状が出ることもあります。全身のかゆみやしびれ、嘔吐など、アレルギー症状は多岐に渡ります。
自分に食べ物やその他のアレルギー症状がある場合は早めに伝えておきましょう。医師に相談しておくことで、抗生物質によるアレルギーを回避する選択ができます。
短期間に何度も投薬しない
抗生物質の投与、服用のしすぎは、体内の細菌に抗体を作ってしまう恐れがあります。何度も同じ抗生物質を投与し続けると、次第に抗生物質が効かなくなってしまい、同じ病気にかかった際、重症化しやすくなります。安易に抗生物質を処方されないよう、今までの病歴や投与の有無を医師に伝えて確認しましょう。
副作用が出た際は医師に相談する
王性物質は点滴での投与のほかに、錠剤や塗り薬での投与もあります。服用や使用をしているうちに副作用と思われる症状が出た場合は、早めに医師に相談し、使用の継続が可能かどうかを確認しましょう。
アルコールの摂取はしない
抗生物質が投与されて暫くは、アルコールの摂取は控えましょう。抗生物質の効果によりアルコールの分解が阻害され、アルコールが体内に残りやすくなるためです。少量でも二日酔いや、酷い場合は意識混濁が起こる場合もあります。
用法、用量を守る
内服薬などで処方された場合は、用量や用法をしっかりと守りましょう。抗生剤は体内で悪さをする菌を殺すことが目的です。
しかし、体内に生き残りがいると、その菌が抗体を持ってパワーアップしてしまうことがあります。抗生物質はそれらの潜在している菌が死滅するまでの量を処方されています。体調がよくなったからと言って途中で服用をやめたり、早く効果を求めて分量以上を前倒して飲んだりすることはやめましょう。
まとめ
抗生剤や抗生物質は固有名詞のように頭に残る単語ですが、その効果や副作用については知らない人も多いのではないでしょうか。
薬というと難しく感じるかもしれませんが、少しの知識があるだけで、副作用を回避できたり、医師との意思疎通がスムーズに進んだりします。薬の副作用は思わぬところで現れたりしますので、何かおかしいと感じたら、躊躇せず医師や薬剤師に相談をしましょう。