あなたは人が倒れた現場に居合わせた事がありますか?人が倒れる時、その多くは意識を失っている事でしょう。そのような状態を意識障害といいます。
しかし、意識を失って倒れると言うのは、意識障害の中でも重度に分類されるものです。その様な状態に陥った場合、回復した後も後遺症が残る事もあります。倒れて取り返しがつかなくなる前知っておくべき、体に現れる予兆や原因、倒れた際の適切な対応を紹介します。
「意識がある」ということ
皆さんは意識がある、ということがどういう状態か意識した事はありますか?
意識があると判断されるには、まず、「覚醒」していること、つまり、眠っている状態では無い事が挙げられます。次に、周囲を認識できる状態であること、つまり、見える範囲に5人の人がいた場合、「5人の人がいる」と正しく認識できる事です。最後に、耳から聞こえる言葉、視界に映る相手の動作や五感で感じる外界からの刺激や情報に「反応」できる状態である必要があります。
これらの3つが揃っていると意識があると判断されます。倒れた人の頬を叩いて声をかけたり、瞼を開かせて目に光を当てたりするのは、これらの反応を確かめるためです。
このようにしっかりと意識がある状態を「意識清明」といいます。
意識障害とは、何らかの原因で、意識清明で無くなった状態の事を指します。上記の3つの要素が欠け、意識清明度が下がると、意識障害と呼ばれます。
意識障害の原因
意識障害の原因には大きく分けて以下の二つがあります。
頭蓋内疾患
頭蓋骨の内側、つまり脳幹部から大脳皮質に至る重要な神経がダメージを受け、機能的に破綻している状態です。
脳血管障害、脳腫瘍、脳梗塞などの病気が原因で、脳内にダメージを受けると、その病気に付随して意識障害が引き起こされます。意識が回復した後も脳にダメージが残っている場合、麻痺などの後遺症を引き起こします。
頭蓋外疾患
頭蓋骨の外で起こる病気が原因で、脳の代謝過程が阻害されると、意識障害を引き起こします。痛みや電気反応、アレルギーなどのショックや中毒症状、低酸素状態が続くなど、体に重大な危機が及んだ場合に意識障害が引き起こされます。
例を上げると、火事で煙にまかれて気が遠くなったり、強い痛みに気絶したり、蜂に刺されて昏睡したりといった状態です。病気による高体温状態で意識が朦朧としたり、雪山で遭難した際に眠くなったりするのもこのような意識障害のひとつです。
また、精神的に不安定な際に気が遠くなったり、所謂ヒステリーという錯乱状態になったりするのも頭蓋外疾患の症状です。
意識障害の種類
意識障害にも段階や種類があり、症状は意識障害の際の体の反応などで決定されます。どのような症状があるのか、紹介します。
生理的意識障害
生きている中で、生理的に意識が無くなる状態は睡眠と呼ばれます。所謂、うたた寝やねぼけといった症状は生理的に意識の清明度が失われる状態です。生命活動の維持のために生理的に生じるもので、心配は要りません。
しかし、余りにも頻度が多い場合や、正常に活動していたにも関わらず、急にすとんと意識が落ちるように眠りに入る場合は、何かの病気が潜んでいる可能性があるので、医師に相談した方が良いでしょう。
意識清明度の低下
意識清明度が低下した状態を意識障害と呼びますが、これらは軽度から重度まで、段階的にわけられています。また、一過性のものと持続性のものがあり、持続性の意識障害は重度になるにつれて後遺症が残る可能性が高くなるので注意が必要です。
一過性意識障害
一過性の意識障害を失神と呼びます。貧血や熱中症など、体内環境が急激に変わった時に置きやすい症状です。また、後頭部など、神経が密集した部分に衝撃を受けた場合や、強烈な痛みを感じた場合も発生します。
失神自体の危険性は低いですが、熱中症の場合は倒れた環境に長時間居ることで死に繋がったり、倒れた際の衝撃で頭を打って後遺症が残ったりするなど、副次的な要因で危険度が増す症状です。
持続性意識障害
持続性意識障害は意識清明度が低い状態が長時間続く症状で、症状が軽い順に「傾眠」「混迷」「半昏睡」「昏睡」と呼ばれます。病院からの連絡や報道などで昏睡状態と言われるのは、意識障害の中でも最も命の危険性が高い状態です。
これらの重症度は、近年では3-3-9度方式で判断されます。これは意識段階を数字で表す方法で、どの程度の意識レベルかを的確に伝えることができます。それに伴い、上記のような区分はあまり使われなくなってきています。
意識変化
覚醒はしているものの、周囲の状況が正常に認識できない場合を意識変化といいます。
精神的な要因や、薬などの副作用が原因である事が多く、他の人には見えないものが見える、思い込みで誤認するなどがあり、重度になると錯乱状態に陥る事もあります。意識変化には以下のものがあります。
せん妄
意識混濁としては比較的軽度ですが、それに伴う精神的興奮が強く現れます。具体的には幻覚、誤認、不安感の増幅などがあり、攻撃的になったり激しく怯えたりします。高齢者が夜間に生じる事もあり、特に夜間せん妄と呼ばれています。
せん妄については、せん妄とは?症状・原因・治療法、認知症との違いを知ろう!を参考にしてください。
朦朧
こちらも意識混濁としては軽度で、意識が狭窄した状態を表します。朦朧とする、という言葉にもあるように、周りの状況の判断や認知、思考能力が低下する症状です。病気や熱中症、事故など、外的要因によって体の機能が害された際に発生することの多い症状です。
特殊な意識障害
上記のように意識障害のほかに、特に重篤な症状を紹介します。
無動性無言
脳幹や視床が病気によって損なわれることによって引き起こされる意識障害で、自発的に動いたり、言葉を発したりしない状態を指します。損なわれた部分によって神経麻痺の部分は変わります。
ただし、眼球は動いたり、視線で追ったりします。また、痛みに反応して逃げるような動作をみせ、眠る、起きるという睡眠リズムは繰り返します。植物状態と違い、回復の見込みがある症状です。
失外套症候群
大脳皮質の機能が完全に失われた状態で、今後の回復が見込まれない状態です。自発的な行動、発言はできませんが、眼球には動きが見られます。また、眠る、起きるという睡眠リズムは繰り返します。
遷延性植物状態
植物状態や、植物人間と呼ばれる症状です。脳幹機能は維持されていますが、自発的な行動、発言はできず、覚醒しているにも関わらず精神活動を全く行っていません。ただし、最低限の生命維持活動は行っており、消化、呼吸、代謝などは正常に機能しています。
遷延性植物状態に陥った場合回復は簡単ではありませんが、回復の事例は多数報告されています。また、声かけや刺激への反応は脳波レベルで存在し、脳波によってはい、いいえの回答が得られる場合もあります。
閉じ込め症候群
閉じ込め症候群とは、完全な四肢の麻痺と急麻痺のため、動作や会話で意思表示ができない状態の事を表します。意識は清明で開眼もしており、周囲の状況を確認できます。瞬きも可能で感覚も正常に機能しています。よって、意思の疎通は瞬きや視線で行う事が可能です。
この症状は主に脳幹が広範囲にわたってダメージを受けることで引き起こされ、意思表示に関してのみ「鍵を掛けられた状態」になるため、このように命名されています。
脳死
脳死とは、大脳や脳幹を含め、全ての脳機能が完全にストップし、回復の見込みが全くないほどに損なわれた状態を指します。自発的呼吸や脳波の乱れも無く、痛みなどに対する反射能力もありません。意識障害の中でも最も重篤で、呼吸や栄養補給の補助なしには生きる事はできません。
植物状態との違いを判断するには、意識の覚醒があるかどうかを長期的に観察し、判断する必要があります。大脳や脳幹の機能が不可逆的に欠損している事が確認された場合、脳死と判定されます。
脳死の状態でも補助があれば生命を維持する事は可能ですが、意識が回復する見込みは無く、脳死を人の死とするのかどうかは長年議論されています。
意識障害に出くわしたら
目の前で急に人が倒れ、意識を失った場合、あなたは応急対応ができますか?それが家族や友人であった場合、何もできなければ後の後悔になるかもしれません。意識障害を引き起こした人へは、以下のように措置を行います。
まずは、周囲の人に声を掛け、救急車の手配と介助の手助けを求めましょう。倒れた場所が道路の真ん中などの危険な場所の場合は、速やかに安全な場所に避難させます。その際、頭はできる限り動かさないようにします。
つぎに、倒れた人に声を掛け、肩を叩いて反応を促しましょう。それが知人の場合は、名前を呼びます。意識が戻らない場合は、呼吸の確認を行い、口の中に異物が詰まっていないことを確認して気道を確保します。異物が詰まっている場合や嘔吐がある場合は体を横にして異物を取り除きます。
呼吸が無い場合は心臓マッサージ、人工呼吸などの応急処置を行います。近くにAEDがある場合は積極的に使用しましょう。手順はすべて書かれているため心配はありません。AEDは、心臓への電気的ショックが必要かどうか機械自体が判断してくれますので、人が倒れた場合はとにかく使用することが大切です。
患者に外傷や出血がある場合は、止血や怪我の処置をできる範囲で行いましょう。近くに医師が居る場合は指示に従って処置を行います。
救急車が到着するまで、上記の応急処置を繰り返します。意識障害を伴う症状は、対処が早ければ早いほど生存率や回復率が上がります。おろおろせずに冷静に対処することが大切です。
まとめ
意識障害は脳に影響を及ぼす重大な症状です。もしもあなたが倒れた場合、意識が戻り普通に歩けたとしても必ず病院に行きましょう。何か重大な病気の前触れかもしれません。
また、人が倒れた現場に居合わせた場合は迅速に119番しましょう。素早い判断が命を救うことに繋がります。