医学は日進月歩の進化を遂げ、今やガンでさえ不治の病ではなくなりました。遺伝子レベルの解明も進み、冷凍卵子まで出現しました。身体の一部が事故などで欠損された方に、その方自身の細胞を使って復元することまで可能です。できないことを次々とクリアしてきた医学の挑戦は、人類の誇りと言っていいでしょう。
それなのに風邪という、数千年前のカルテにでてくるような症状を乗り越えることができません。風邪が長引いて命取りになるケースは古代から今に至るまで散見します。放っておけば治ると思われている風邪について考えてみましょう。
風邪が長引いたと勘違いする病気
お子さんに多い病気で風邪に似ていますが、咳と鼻水がないのが特徴です。こじれると合併症を起こす、恐ろしい病気です。
溶連菌
主に喉の痛みと発熱から始まります。熱は38~39度と高く出ますが、3歳未満では熱が上がらないこともあります。この病気は正式に溶血性連鎖球菌といって、放置すると後々大きな合併症につながるので要注意です。
喉の痛みが主な症状なので咽頭炎、扁桃炎が代表的ですが中耳炎や副鼻腔炎として現れることもあります。耳の痛み、頭痛がないかどうかも調べましょう。腹痛を訴える患者もいます。溶血性のウイルスなので身体の広範囲に様々な症状として出現します。
身体や手足に小さな赤い発疹が出ることもあります。舌に赤いプツプツができて、イチゴ舌というものができるので分かりやすいと思います。
喉に炎症があるので、食事は低刺激で軟らかいものを与えてください。水分はできるだけ多く飲んでほしいところですが、どうしても受け付けないようでしたらアイスでも結構です。ただし乳製品は避けてください、発熱中に乳製品を与えると吐き気をもよおして更に大事な水分を失いかねません。
何度も感染する
一度かかれば免疫ができて二度と感染しないものではなくて、何度でも感染するのがこの病気の問題点です。繰り返しかかるので家族の再感染には気を付けなくてはなりません。
溶連菌に感染したかどうかは病院で検査します。学校は治るまで休むように指示されますのでそれには従ってください。ご家族の方も一緒に検査した方が安心です。潜伏期間は2~4日ですので感染して発症していないだけかもしれません。
早く見つけて薬を飲めば楽に治るだけでなく感染の拡大を防げます。何度も感染する特質から、検査は家族に患者が出るたびにこまめにすることをお勧めします。
感染経路は飛沫感染です。くしゃみや唾液で感染しますが、唾液の付着したオモチャや感染した人が料理していて食べ物の近くでくしゃみをしても食べ物全体が汚染されます。潜伏期間にある主婦が調理していて起こす二次感染は家庭に大混乱をもたらせます。溶連菌患者を看病中の主婦は、まず自身も検査を受ける事、そしてマスク着用と手指消毒をして調理しましょう。
薬は必ず最後まで飲む
これは最も重要なところです。薬を飲み始めたら2~3日で熱は下がり、元気になります。しかし、薬だけは最後まで飲ませてあげてください。10日分くらいは抗生物質を処方されますが、こんなに元気なのに薬を飲ませたらかえって身体に悪いのではないかとか、お子さんがすごく嫌がるからとか親が不安になる理由はたくさんあると思います。
しかし、この薬はただ今の病気を治すためだけに飲むのではありません。重大な続発症を防ぐために飲まなくてはならないのです。
リウマチ、急性糸球体腎炎を発症して合併症を引き起こさないようにするには、この薬をしっかり最後まで飲んで検査をしましょう。溶連菌発症から3週間後に尿検査をします。これで異常なしであれば、今回の溶連菌については予後を心配しなくて大丈夫です。ただし、一人でも家庭内に患者がいれば再感染について、いつも考えておく必要があります。
風邪がきっかけになる病気
ちょっとした風邪がいつまでも長引いて咳だけがしつこい・・・女性に多いこの症状は喘息になる可能性があります。
咳喘息
風邪をきっかけに発症します。アレルギーを持っている方は特にアレルゲンとの接触に注意してください。微熱、鼻汁、喉の痛みなど一通りの風邪症状が過ぎたのに咳だけが止まらない、気が付いたら8週間も咳をしている、というのが主な訴えです。
喘息特有のゼイゼイという音がありません。気管支には問題ないと思われるのに、気管支拡張剤を与えると症状が改善する、というのが特徴です。病院に行くなら呼吸器科、耳鼻咽喉科、アレルギー科になります。アレルギー歴のない方も念のためにアレルギー検査を受けましょう。何歳でもアレルギーは発症しますし、アレルギー反応であればアレルゲンの特定なしに治りません。
レントゲンでの異常は認められません。タバコを吸っている人が近くにいる場合、遠ざけることが賢明でしょう。ご自身がタバコを吸っている場合、禁煙が必要です。環境の見直しの必要とされるので薬だけでは改善しないのです。
咳は夜間から明け方にひどくなります。眠れない夜が8週間も続くと免疫力が更に低下します。もともと風邪をひいて免疫力が落ちているのに、その後咳き込んで2か月近くも眠れないこと自体が様々な感染を容易にします。早く受診しないと次は何に感染するか分かりません。
うつらないけど注意したいこと
気管支拡張剤と吸入ステロイドを使用します。ステロイドを吸入?と怯える方もいますが充分な説明を医師に求めてください。納得のいく答えをもらえると思います。もし、どうしても不安なら薬剤師に聞いてください。どうしても、この薬が必要だからです。それでも改善が見られない場合、短期的にステロイドを服用することもあります。アレルゲンが原因であれば抗アレルギー剤の服用も必要になります。
他人にうつすことはないので感染対策は必要ありませんが、環境の見直しは重要です。体内環境としてアレルゲンに反応していないか血液検査してみる、ストレスが特定できていれば排除してみる、飲み会が続いていればアルコールを減らすためにスケジュールを変更してみる、などです。
環境の見直しで一番有効なのが、アレルギーが原因でなる咳喘息でしょう。抗アレルギー剤と共に重要なのがアレルゲン除去対策です。アレルゲンにのよりますが、接触しなくてすむ環境や工夫を考えましょう。
たとえば花粉であればマスク着用、ゴーグル着用、化繊の帽子や上着を身につける、などです。気温差に反応しやすい人は活動時間を変えてみるなど、原因に応じた様々な工夫は予後の良しあしを決定します。
風邪が長引く原因
あらゆるウイルス対策の基本として衛生・清潔が挙げられます。免疫力の低下が風邪を長引かせてしまう大きな原因です。感染の予防も大切ですが、もう一つ大切なのが少しぐらいのウイルスに負けない身体作りです。
なぜ風邪が治らない?
風邪、とは東洋医学で邪気が風でやってくる、という意味です。外からやってくる体調不良の総称を風邪(ふうじゃ)と呼びました。邪とは、ウイルスもあれば気温や湿度の急激な変化も意味します。
それに対応する体力がないと、邪に負けてしまうのです。ここでは治す、というより日ごろの養生を問われてきます。睡眠不足ではないのか?栄養は足りているのか?疲れすぎているのではないか?心労があるのではないか?など日常の在り方に問題を探します。
風邪に効く有効な薬は未だに開発されていません。こじらせると死に至るのにも関わらず、です。風邪についてはひいてしまってから治療するよりも、ひかないようにする生活の方がはるかに有効だからです。
その意味で風邪は自己責任ですから医療の問題というより個人の問題、家庭の問題です。工夫次第で避けられるものに医療保険をできるだけ使わないという観点から、日頃の養生について考えてもましょう。
風邪を長引かせてしまったら・・・
すでに長引いてしまったものなら即効力のあるものを探すことを止めましょう。あきらめて、じっくり休養するのです。天から強制終了ボタンを押されて、休むよう命令されたと腹をくくりましょう。
温かく消化にいい食べ物と水分とビタミン、そして睡眠をたっぷり取りましょう。風邪が長引くという事は、疲労が長引いているということです。風邪を治すのに王道はありません。元気になったら風邪の予防について考えましょう。
まず日ごろから風邪に負けない日常生活が一番の予防になります。何回もこじらせると本当の病気になってしまいます。病気によっては、毎日の服薬、定期的な通院、時に入院を余儀なくされて社会生活も制限されてしまいます。
いくら保険適応とはいえ、生涯の医療費は相当なものです。そうならないために免疫力を向上させましょう。予防だけでなく健康という財産を得るためには欠かせない工夫です。
生活習慣の改善
日々の暮らしの中で体内環境が形成されます。これが体力の個人差を作り、同じ条件下でも全く違う結果になります。
例えばインフルエンザが流行している時、予防接種をしていたのにも関わらず感染してしまった人もいれば、全く予防接種したことがないのにうつらない人がいます。同じ食べ物を食べても食あたりになる人がいれば全くどうもない人もいます。
この違いが免疫力の差です。生まれ持った個人差も否定できませんが、生まれつきの条件だけで生涯を守るのは不可能です。先天性の免疫力をベースにしながらも、日常生活のクオリティを上げて免疫力を維持していると考えるのが妥当でしょう。
心身両面から検討します。まず、メンタル面で考えましょう。免疫力の高い方はクヨクヨしませんし、何かしら朗らかで活発です。声も明瞭で活気にあふれています。そんなの食べて大丈夫?と心配して聞いても「大丈夫!」と根拠のない自信に満ち溢れています。心配した人がそれを信じて食べ、その人だけが食あたりになったりします。クヨクヨする人にクヨクヨするなとは言えませんが、せめてニコニコとウソでも心がけてみてください。笑顔が免疫力を上げることは科学で証明されています。
食べ物は温かいものを食べてください。冷やすものは血流を鈍化させあらゆる機能が低下します。それがやがて粘膜から潤いを奪い、様々なウイルスの侵入を許します。乾燥を避けることも重要で、マスクは大きな戦力になります。外部からのウイルス遮断はどこまで望めるか疑問ですが、湿度は保てます。鼻粘膜と口腔内の粘膜を守ることが重要で定期的な水分補給を少量でもいいので摂取してください。
そして、これが王道。帰宅後の手洗い、うがいです。うがいにはコツがあります。口をゆすぐのではなく、上を向いて「おー」と言いながらぶくぶくうがいしてください。水道水で充分です。手は石鹸でよく洗えば安心です。
まとめ
風邪を長引かせない、長引く時は風邪以外の病気を考えることが大切です。素人判断を避けて、医師から指示されたことには大きな意味があるととらえて、確実に従ってください。不安があればどんどん質問しましょう。
ただ、それは全て事後対策です。一番楽なのは事前対応をしっかりすること、つまり免疫力を向上させることです。免疫力を上げておけば大きな病気をしても、治療中の経過や予後が全く違います。ぜひ、お試しください。
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