下痢や軽い腹痛が起こるけれども、1日程度で治ってしまったなど経験されたことはありませんか?もしかしたら、このウェルシュ菌による食中毒かもしれません。ウェルシュ菌は私たちの生活している場所や食べ物どこにでも存在する菌です。
熱に強く酸素のない場所を好む為、長時間煮込むようなカレーや煮物などの食べ物の中でも生き残る可能性が高く、食中毒を引き起こします。特に一度に大量の調理を行うような給食施設などで発生することが多く、集団食中毒を引き起こしやすいことから、別名「給食病」とも呼ばれています。
食中毒は原因となる菌と、その菌が生存しやすい環境、増殖してしまう条件を作ってしまうことで、夏場だけでなく年中発生します。ここでは、この菌の特徴と食中毒にならない為の防止策をご紹介します。
ウェルシュ菌について
ここでは、ウェルシュ菌の概要と特徴をご紹介します。
ウェルシュ菌とは?
ウェルシュ菌は人や豚、牛、鶏、魚などの動物の腸内や、土、水中など、どこにでも存在する菌です。豚、牛、鶏、魚は家庭料理でも使う頻度が高く、どれかの素材を毎日のように口にしている方も多いと思います。
食中毒の原因と考えられている菌は、どれも熱に弱いものばかりですが、ウェルシュ菌は1時間以上100度以上の熱で加熱調理しても死滅しないとも言われているほど、熱に強いのが特徴です。また、43度~47度の比較的に高い温度帯で発育、増殖します。カレーなどの煮込んだ食べ物を放置して常温になると、菌がカレーの中で増殖します。
加熱調理しても、なかなか菌を死滅できずに、食べ物を常温で放置すると、体内の中に菌が入り込んでしまう可能性が高いです。
ウェルシュ菌の特徴は?
ウェルシュ菌の主な特徴をご紹介します。
1.ウェルシュ菌は空気が嫌い
ウェルシュ菌は酸素のない場所で増殖する特徴があります。その為、水中や土の中など酸素が比較的に通りにくい場所を好んで生活しています。酸素が多い場所や栄養の少ない場所など、ウェルシュ菌が嫌いな環境下にいる場合は、「芽胞」という呼ばれる、極めて高い耐久性をもつ細胞構造を作り出します。
この状態の時には、細菌は分裂することができずに、外側を外皮で覆うことで、嫌いな環境下で耐え忍びます。その為、他の菌が死滅する中でも、この状態で生き延び、好む環境に変化した際に、増殖を繰り返します。
2.熱に強い
ウェルシュ菌は1時間~6時間程度、100度以上の熱に絶えられる、熱に強い菌です。ほとんどの菌は加熱すると死滅しますが、ウェルシュ菌は加熱しても死滅しないことで、知られています。
また、ウェルシュ菌が好む温度は、43度~47度の比較的に高い温度帯です。この温度帯になると、分裂し増殖し始めます。その為、加熱して食べ物を放置して常温になると、増殖します。
例えば、カレーはウェルシュ菌食中毒になりやすい代表的な食べ物です。カレーは大量に煮込む可能性がある為、空気が通りずらく菌が繁殖しやすい環境を作り出します。また、カレーを高温で煮込んでいる間は、芽胞という状態で耐え忍び、カレーを放置して43度~47度の常温に変化した際、通常の状態に戻り一気に分裂を始め、菌が増殖しだします。
3.毒素を持ち食中毒を起こす細菌
ウェルシュ菌が体内に取り込まれると、腸内で増殖し、エンテロトキシンという毒素を出します。この毒素が食中毒の原因となり、腹痛や下痢を引き起こします。
ウェルシュ菌食中毒の症状と治療方法
ウェルシュ菌食中毒にかかった際の症状と治療方法をご紹介します。
ウェルシュ菌食中毒の症状は?
ウェルシュ菌がついた食べ物などを摂取すると、腸内でエンテロトキシンという毒素を作り出し、腹痛や下痢を引き起こします。ウェルシュ菌の潜伏時間は平均して10時間前後で、食べ物を摂取した当日に症状が出ます。発症してから1日に数回、腹痛と下痢を繰り返しますが、どちらの症状も1日~2日程度で自然と治ります。
1.腹痛が起こる
お腹の張りやガスが溜まってお腹が苦しいといった症状や、軽い腹痛症状がでます。食中毒といっても、絶えられない痛み、発熱、嘔吐は見られません。症状は比較的に軽いので、少しお腹の調子が悪いなと感じる程度です。
2.下痢が起こる
水分を多く含んだ下痢や軟便の症状が1日1回~3程度起こります。お腹が痛いなと感じた際に、トイレに行き便がでると腹痛の症状も一時的によくなります。その為、トイレに篭りっきりなどの重症状態にはなりません。
治療方法とは?
ウェルシュ菌による食中毒は、比較的に症状が軽いので、1日~2日で自然と回復傾向に向かいます。その為、特に薬を飲む必要はありませんが、安静にし脱水症状にならない為にも水分を多く取るのがおススメです。
ウェルシュ菌食中毒にかからない予防策とは?
ウェルシュ菌による食中毒にかからない為の、予防方法を4つご紹介します。
圧力鍋やオーブンを用いて調理する
芽胞の状態では、極めて高温に強く、100度の熱にも1時間~6時間は耐えられるといわれています。熱処理を加えただけでは全てのウェルシュ菌を死滅させることが出来ない為、芽胞を高温で死滅させるには、オートクレーブ処理(約2気圧の飽和水蒸気中で121℃15分以上)または、乾熱処理(180℃30分あるいは160℃1時間以上)が必要になります。
オートクレーブ処理とは、内部を高圧力にすることが可能な装置を使って行う対処方法のことで、調理器具でいうと圧力鍋での調理方法が該当します。高い圧力下では、様々な化学反応が通常よりも早く起こり、通常とは違った化学反応も起きるといわれています。
水分を含んだ食べ物を、通常調理する場合は、100度付近になると水が水蒸気に変わり水分が蒸発していきますが、圧力鍋を使うと100度以上になっても水分を残したまま調理出来ます。圧力鍋を121℃15分以上処理することで、水分をのこしたまま菌の滅菌処理が可能です。
また、乾熱処理は、180℃30分あるいは160℃1時間以上で加熱することで、菌を死滅できるという滅菌方法の1つです。方法としては、電気や火をつかって直接加熱する方法やオーブンなどで加熱する方法があります。
圧力鍋やオーブンを用いて調理したり、また通常の方法でも温度に気をつけて調理することで、ウェルシュ菌以外の菌も含めて滅菌することが可能です。
室温に放置せずに、調理後は一気に冷却保存する
肉類・魚類には多くのウェルシュ菌がいます。その為、これらを調理する際には注意が必要です。冷凍保存などの作りおき調理をする場合には、室温に放置して温度が下がるのを待ってから冷凍保存するのではなく、調理後に一気に冷却保存するのが、菌を増殖させない方法です。
ポイントは出来るだけ鍋の温度を急激に下げることです。ウェルシュ菌が好む43度~47度の状態を長時間作ることが、菌を増殖させることに繋がります。保管する場合は、60度以上を保つか、冷却保存して、ウェルシュ菌の適温を作り出さないことが予防に繋がります。
カレーやスープなどはよくかき混ぜて調理する
ウェルシュ菌は酸素を好まない菌です。その為、かき混ぜながら調理することで、酸素を多く鍋の中に取り入れることができ、ウェルシュ菌の好まない環境を作りだすことが出来ます。
善玉菌を取り入れて腸内環境を整える
腸内環境を整えるのに、善玉菌はかかせません。腸内環境で善玉菌より悪玉菌が増えてしまうと、下痢や便秘、免疫力の低下などの引き起こします。悪玉菌は有毒物質を発生させる腸内細菌のことで、ウェルシュ菌も悪玉菌の1種です。
その為、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌を腸内に常に補充しておくことで、ウェルシュ菌が体内に取り込まれても、腸内環境を整えることが出来ます。ここでは善玉菌を増やす食べ物を、ご紹介します。
■食物繊維が多く含まれている食べ物
食物繊維は、悪玉菌が作り出す有害物質を外に排出する働きがあります。また、善玉菌の栄養素にもなり、摂取することで、腸内で善玉菌を増加させます。食物繊維が多く含まれている代表的な食べ物は、穀物や芋類、豆類、海草類やコンニャク、キノコ類です。
■大豆、バナナ、牛乳などオリゴ糖が多く含まれている食べ物
善玉菌の栄養素になる食べ物としてオリゴ糖が挙げられます。オリゴ糖は普段私たちが食べている食材に多く存在します。オリゴ糖が多く含まれている代表的な食べ物は、タマネギ、ゴボウ、アスパラガス、バナナ、牛乳、大豆、ハチミツです。
■ヨーグルトなどの発酵乳製品
ビフィズス菌や乳酸菌と聞くと、思いつくのがヨーグルトだと思います。市販のヨーグルトにはどんな菌がヨーグルトに入っているかパッケージに記載されています。BE80株、ビフィズス菌SP株、ガセリ菌SP株、乳酸菌シロタ株、LG21乳酸菌、ラブレ菌などさまざまあり、働きが違ったり、人それぞれ合う合わないがあります。その為、違う菌の入ったヨーグルトを毎日摂取して、自分に合った善玉菌を見つけてみてください。
外食が多くなると、つい不足しがちなこれらの食べ物ですが、日常生活にうまく取り入れ腸内環境を整えていきましょう。
まとめ
ウェルシュ菌が体内に取り込まれると、下痢や軽い腹痛などの症状を引き起こします。通常は1日~2日で自然と良くなる為、少しお腹の調子が悪いなと軽視しがちです。夏場は食中毒にかかりやすい時期でもあるので、ウェルシュ菌だけでなく、他の菌も一緒に滅菌させ、食中毒予防をすることが大切です。
今回、ご紹介した予防方法を日常生活に取り入れて、食中毒を引き起こさないようにしましょう。