皆さん、しぶり腹という病気を聞いたことありますか?これは便意を催すにも関わらず、排便できなかったり、少しの量しか排出できない状態のことを言います。
初めは便秘に間違えることもありますが、何度も起こっている場合は病気である可能性が高いです。
ここではしぶり腹とは何かまた症状や原因、治療方法まで詳しくご紹介します。
しぶり腹について
しぶり腹は様々な原因で引き起こされます。しぶり腹が起こる原因の前に排便の仕組みについて知っておくと理解が深めることができます。その為、ここではしぶり腹の概要と排便のメカニズムについてご紹介します。
しぶり腹とは?
しぶり腹とは便意があるにも関わらず、排便できなかったり出てもウサギの糞のようにわずかな量であったりする状態です。食べ物が腸を通ると直腸が刺激され排便反射が起こり、繰り返し腹痛がでるにも関わらず、排便が出来ないのが特徴です。
大腸がん、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、感染性腸炎、赤痢などの病気などによく見られる症状の1つで、消化管にズキズキした痛みが伴い、肛門括約筋が痙攣して少し排便がされますが、すぐに便意を催します。
頻繁な便意の切迫があり肛門以外にも強い痛みを伴うといわれています。しぶり腹とは医学用語ではテネスムス、裏急後重 (りきゅうこうじゅう)とも呼ばれています。
排便のメカニズム
しぶり腹がなぜ起こるかを理解するには、正常の排便のしくみについて知っておく必要があります。食べ物は口から肛門まで消化管を通って進み、食べ物の栄養はこの消化管により吸収されます。この消化管は食道、胃、十二指腸と続き、その次に5メートルほどある小腸、2mほどある大腸へ続きます。
食べ物は食道を通り抜けた後に胃の中に留まり胃液により食べたものがドロドロに溶かされます。そして十二指腸では消化液と混ざり合い、膵臓からでた消化酵素により栄養素に分解されていきます。
この分解された液体が小腸を通り、大腸まで辿り付きます。大腸の主な働きは水分と電解質の吸収と排便です。水分を吸収することにより便がほどよく硬く変化していきます。ほどよく硬い便塊(べんかい)が直腸に入ってくると腸の内圧が高くなって排便反射が働き便意を催すようになります。
このように排便反射は通常直腸の刺激により生じています。しかし、しぶり腹の場合は便塊ではないものの別の刺激により排便が催される為、その為、便が出ないのにもかかわらず便意を催すという状態が生じます。
しぶり腹の症状と検査方法、予防対策
しぶり腹が起こるのには、疾患である可能性も高いです。その為、長く続くようであれば医療機関(消化器内科、消化器科 、胃腸科など)を受診して原因を追求しましょう。ここでは、しぶり腹の症状と検査、予防対策法についてご紹介します。
しぶり腹の症状
しぶり腹の症状は腹痛と残便感です。便を催すサインがあるにも関わらず便が少量しか出なかったり、出ないという事が起こります。その為、便がまだ体内に残っているような感覚があります。腹痛と排便反射が繰り返して起こる為、腹痛とともにお腹がゴロゴロと鳴ったりすることもあります。
検査方法
しぶり腹の原因となる疾患を探すには大腸内視鏡検査が有効的です。長いスコープを肛門から挿入し、大腸カメラ情報を通じて中を観察することが出来ます。大腸は曲がりくねっている為、挿入するのが多少複雑ですが、小腸の前まで挿入することができます。
大腸内視鏡の鉗子口(かんしこう)などの器具を用いれば、大腸内の組織を採取したりポリープの切除なども行うことができます。検査を受ける方は、前日は消化のいいものを食べて量を減らし、早めに就寝します。検査当日は基本的には飲食や常備薬の服用は禁止です。常備薬を持っている方は医師に相談しましょう。
予防・対策方法
人の腸の内部には腸内細菌という細菌が生息しており、人の場合は約3万種類いると言われています。この腸内細菌は宿主である人と共生関係にあり、人が摂取した栄養素で発酵して増殖して様々な代謝物を生み出します。
そして、腸内細菌は自分の縄張りをつくり、侵入してきた新たな菌や病原菌に攻撃し病気や老化から人を守る働きがあります。その為、自分にあった腸内細菌を増やすことで腸内環境が整えられて様々な病気を予防することができるのです。
人によって腸内細菌叢が異なるので、様々な食物繊維を試して便やガスの状況を見ながら自分にあった食べ物を探していくのがオススメです。食物繊維には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があり、働きが異なります。一般的には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維のバランスは1:2が理想と言われています。
水溶性食物繊維
ネバネバした食材やサラサラした食材が特徴の水溶性食物繊維で、粘着性がありゆっくり胃腸の中を移動します。お腹が減りづらく食べすぎを予防します。また、糖質の吸収を緩やかに行うため、急激な血糖値の上昇を防ぎます。
他にも胆汁やコレステロールを吸着して体外に排出する働きもあり、更に大腸の中で発酵、分解されるとビフィズス菌などが増えて整腸効果が期待できます。
お腹の中でゲル状の柔らかい便を作る働きがあるので、便が硬くなりがちな方は水溶性食物繊維を意識して摂取しましょう。水溶性の食物繊維が多く含まれている食べ物は、アボカド、オクラ、山芋、あしたば、海藻類、ごぼう、納豆などがあります。
不溶性食物繊維
不溶性食物繊維は保水性が高く腸を刺激して腸の運動を活発にして便通を促します。水溶性食物繊維に比べると発酵性は低いですが、腸内で発酵、分解されるとビフィズス菌などの菌が増えて腸内環境が整えられます。
腸のぜん動運動が弱いために起こる弛緩性便秘や下痢の方は不溶性食物繊維を積極的に摂取するように心がけましょう。不溶性食物繊維が多く入っている食べ物は、いんげん豆、ひよこ豆、あずき、エリンギ、えのき、切り干し大根、干し柿、アーモンドなどがあります。
しぶり腹になる原因と治療方法
しぶり腹になる原因は、大腸がんや炎症性腸疾患などが原因となって腸内組織が変化をみせ、がんや炎症、潰瘍などにより直腸が刺激されることで排便反射が現れて便意が生じます。ここでは原因となる病気の症状について詳しくご紹介します。
潰瘍性大腸炎(クローン病)
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜の部分にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患のことです。主な症状は粘液便、血便、下痢、腹痛やしぶり腹などが起こります。多くの場合は直腸から発症して徐々に口側へと広がる傾向があり、ひどくなると直腸から結腸全体へと広がっていきます。
これは潰瘍性大腸炎の直腸炎型というタイプに分けられ、軽症な事が多いです。潰瘍性大腸炎の下痢は、続いても1日に2回~5回程度で比較的に軽度です。下血がでたり下痢が続くような場合は直腸、肛門の専門医の診察を受けるようにしましょう。
また、 潰瘍性大腸炎患者の直腸炎型にかかった人の10パーセントが悪化しているという報告もあるので、治療中は注意して観察することが重要です。
治療方法
比較的に軽症の場合が多いので手術ではなく、薬物療法を行う事が一般的です。潰瘍を修復するサラゾスルファピリジンや粘膜の炎症を鎮静するメサラジンという内服薬が使われることが多いです。また、これらの薬で回復しない場合は副腎皮質ホルモン薬(ステロイド)を使用します。
治療を始めると良くなったり悪くなったりを繰り返し、すぐには治りづらいものです。医師と相談して長期的に治療を続けるようにしましょう。過労や精神的なストレスがたまると症状が悪化しやすくなるので、日常生活を見直す事も重要です。
肉体的にも精神的にも負担がかかる仕事に関しては、休暇を使ってストレスを発散させたり、軽減できるように上手く工夫しましょう。
大腸がん
大腸がんは大腸に発生する癌で日本で多い発症部位は、S状結腸、直腸などの場所です。大腸の粘膜の表面に発生したがんは、進行するにつれて他に転移します。早期に発見された癌は比較的におとなしい性質のがんと言われている為、早期に発見することがとても重要になります。
大腸がんは40歳を過ぎてからは早期発見のために毎年検査を受ける事を推奨されています。大腸がんの症状は早期の場合がほとんど症状が見られません。大腸がんで現れる症状では腹痛やお腹が張っているような感じ、嘔吐、腸閉塞、しぶり腹などが見られます。
また下行結腸、S状結腸、直腸、結腸に癌が発生した場合は、下血や便秘、下痢などの症状が見られます。上行結腸、盲腸、横行結腸の部分に癌が現れた場合は、貧血と腫瘤(しこり)、食欲低下、体重減少などの症状が見られます。
治療方法
大腸がんの治療法は主に手術(外科療法)、内視鏡による治療、抗がん剤(化学療法)、免疫細胞療法、放射線療法、陽子線治療、重粒子線治療などが挙げられます。出来た箇所や状態など様々な事が考慮されて適切な治療方法を主治医と相談して決めていきます。
急性大腸炎・胃腸炎
急性胃腸炎にはウイルス性のものと細菌性のものがありますが、ウイルス性のものが多く冬の時期に乳幼児がかかりやすい病気の1つです。突然の吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、しぶり腹などの消化器症状が現れます。
ウイルス性胃腸炎の下痢は粘液、膿、血液を含まない水のような便がでます。発熱を伴うこともありますが、1日程度で熱が下がります。子供の場合は脱水症状になりやすいのでこまめに水分補給をすることが重要です。また、元気がなくなりすぐに眠ってしまう状態の場合は、意識があるかどうか注意して観察する必要があります。
治療方法
脱水症状にならないように十分な水分補給と、食事療法が基本になります。嘔吐により水分摂取が困難になったり、脱水症状が見られる場合は、点滴治療をして入院する必要がでてきます。また、細菌を早く排除する必要がある場合は、抗生物質を用いる場合があります。
基本的に家庭で治療できることがほとんどですので、お茶や湯冷ましを少しずつ与え便の状態を見ながら少しずつ固形食物を与えるようにしていきましょう。また、急性胃腸炎の病原微生物は口から入るため、外から帰ってきた際には手洗いうがいを徹底しましょう。
過敏性腸症候群
お腹の痛み、下痢や便秘などが続く症状を過敏性腸症候群と言います。過敏性腸症候群を発症する原因は詳しく解明されていませんが、ストレスが加わるとストレスホルモンが放出されてその刺激により腸の働きに異変が生じます。その為、ストレスや生活習慣が大きく関係していると考えられています。
自分の感情を上手く伝えられない人、自分の感情が分からない人などが特になりやすいと言われています。男性の場合はお腹の痛みや下痢などの症状が見られやすく、女性の場合は便秘の症状が見られる傾向にあります。また、過度なストレスがかかると腸の機能が低下してしぶり腹の症状が起きます。緊張するだけでトイレに行きたくなるように、脳と腸は深い関係にあると言えます。
治療方法
過敏性腸症候群は薬物やストレスマネジメント、食事療法、生活習慣の改善と様々な角度から治療を行います。
■薬物療法
腸内環境を整えるのに薬や消化管の働きを改善し、胃の運動を整える薬などが用いられます。便秘型や混合型の方は、腸の働きを良くして便を柔らかくする作用のある下剤や便の形を整える薬など、患者の状況にあわせて使用します。また、ストレスが強くかかっている人の場合には抗不安薬を、また抑うつ状態が見られる場合は、抗うつ剤などを使用する可能性があります。
■ストレスマネジメント
過敏性腸症候群の患者さんは、内服薬により治療に励むことが多いのです。しかし、この病気の原因はストレスや生活習慣が大きく関係している為、ライフスタイルや思考が変わらなければ薬を飲んでも、また繰り返し起こってしまいます。
薬で症状を抑えて元の原因を解決させないと、無理をしてしまい頭痛や胃痛などの別の症状を引き起こす可能性もあります。自分の症状や原因を理解してストレスマネジメントの方法を考えていくことが治療に効果的です。
■カウンセリング
治療に効果が見られない場合や、症状が繰り返し起こる場合は専門家によるカウンセリングを行う可能性もあります。カウンセリングは原因となるストレスを緩和するために、偏った行動思考を変える手助けをしたり、精神的に落ち着かせる事を目的としています。
■食事療法
食生活は腸の環境に深く関係している為、食事の見直しも重要です。まずは栄養バランスの取れた食事を3食規則正しくとりましょう。食物繊維が多い野菜や果物などを多く摂取して便の状態を整え腸内環境を改善することでしぶり腹を改善できる可能性もあります。
食物繊維は1日20g以上摂取するのがオススメされています。便秘の方の場合は便を柔らかくする為に1日1ℓ以上の水を飲むように心がけましょう。
■生活習慣の改善
食生活の改善だけでなく、質の高い睡眠を十分に取ることも重要です。質の高い睡眠とはノンレム睡眠とレム睡眠を交互に繰り返すことです。熟睡できるように寝室の環境を整えたり、寝る4時間前には食べ物を食べないなど工夫をして、深い睡眠に入れるように状態を整えましょう。質の高い睡眠を取ることでストレスが解消される場合もあります。
感染性腸炎
感染性腸炎とは細菌やウイルス、寄生虫などの病原体が腸内に感染して生じる疾患です。多くの場合は食品や汚染された水などが原因となって感染しますが稀にペットを接触したことにより感染する場合もあります。
夏場は食べ物が傷みやすいため細菌性腸炎が起こりやすくなり、冬から春にかけてはウイルス性腸炎が見られるようにあります。感染性腸炎の主な症状は下痢、発熱、腹痛、悪心、嘔吐、しぶり腹などで、この中でも下痢の症状は必ず起こります。また、細菌性腸炎の場合は血便がでる場合もあります。
治療方法
感染性腸炎は自然治癒できる傾向が強い為、治療のほとんどは対症療法で抗菌薬を用いない場合が多いです。下痢止めを使用すると病原菌が体内に留まる時間を増やして毒素を吸収する可能性があるので一般的には使用されず、下痢の症状がひどく脱水症状を起こしている場合は点滴治療を行います。
カンピロバクター腸炎、サルモネラ腸炎、腸管出血性大腸菌腸炎が原因の場合は抗菌薬を投与するかどうかが検討されます。
赤痢
赤痢とは大腸の感染症の1つで、赤痢菌による細菌性赤痢の事を指します。赤痢菌は人や猿のみを最終宿主とする腸内細菌の1種です。主な症状は下痢、発熱、血便、腹痛、しぶり腹などです。病原菌は1日~5日ほど潜伏し、発熱が始まり腹痛や下痢が続きます。
日本での背きり患者数は戦後は10万人を超えていましたが、1974年以降は1,000人前後で推移しています。糞尿などから食物や水を経由して感染し、最近ではアジア地域からの輸入例がほとんどです。一般的には衛生が行き届いていない発展途上国での発生が多いですが、先進国でも発生する可能性はあります。
治療方法
治療方法は、対症療法と抗菌薬療法があります。対症療法としては乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を整腸薬に用いて腸の環境を整えます。また、脱水症状が見られる場合は点滴治療も行います。
また、抗菌薬療法ではニューキノロン薬を5日間内服投与行います。治療後48時間以内に便の検査を行い2回連続で陰性であった場合は、菌がなくなったとみなされます。赤痢を防ぐには、汚染地域と考えられる国で生水や氷などを飲食しない事が大切です。
おわりに
腸はストレスを感じやすい臓器です。普段の生活習慣が崩れるだけでも、腸の環境が悪くなりその状態が続くと様々な病気を引き起こしやすくなります。
腸の疾患を発見するサインの1つとしてしぶり腹があります。このしぶり腹が長期間起こっているようであれば、医療機関で一度検査をしてもらい早期発見に繋げましょう。