ほとんどの人が、ある日突然顔や背中にプチッと現れる憎いヤツに心当たりがあると思います。
ニキビなら、清潔にしてアクネケアを続けていれば1週間位でおさまるかと思います。食事、生活習慣の見直しでも大分改善されますよね。
しかしニキビだと思ってしっかりケアしているはずなのに、
- “治ったと思ったらまた何度も同じ場所に出来る”
- “むしろ周りに増えてきている”
- “炎症を繰り返しすぎて、肌が黒っぽくなってきている”
こんな症状に悩まされていたら、それはニキビではなく膿皮症(のうひしょう)の可能性があります!
ここでは膿皮症という症例について知ってほしい原因、症状、治療法などをお話していきます。
ニキビとは違う細菌性疾患
膿皮症なんて疾患名、初めて聞いた!という人もいるかと思います。最初は白くプチっと出来てしまったニキビと双子のようにそっくりな症状なんです。
まず、この章ではニキビとの違いについて詳しくお話いたします。
炎症の原因となる菌が違う
ニキビが出来てしまう原因となるのは“アクネ菌”の繁殖であるのは一般に浸透してきました。
一方膿皮症は“ブドウ球菌”や“化膿レンサ球菌”の繁殖が原因となります。これらの菌の繁殖、侵入から体を守ろうと白血球などが免疫反応を起こした結果、膿がニキビができた時の様に皮膚に浮いてきます。
菌の種類から考察する炎症の原因
先に紹介した3つの菌は全て、健康な人の表皮に存在する常在菌です。普段は他の病原菌から体を守ってくれています。
表皮になんらかの変化が起きたとき、それをエサにして繁殖して炎症の原因菌に変身してしまうのです。
- アクネ菌=毛穴に皮脂が溜まり、角栓になって空気の出入り口が塞がったところに繁殖するとニキビの原因菌になってしまいます。
- ブドウ球菌=皮膚に何らかの傷があり侵入してしまうと化膿性の疾患や皮膚の悪臭の原因菌になってしまいます。
- 化膿レンサ球菌=ブドウ球菌による膿皮症の原因とセットす。これらの菌が原因で炎症を起こした部位をむやみにさわったり掻いて細かい傷をつくってしまうと、増殖して炎症をひろげてしまう原因菌になってしまいます。
ニキビを潰して膿皮症になってしまうことも・・・
ニキビの白い脂肪を出したくて、爪やピンセットで潰してしまう人もいるかと思います。これは色素沈着などのニキビ跡を作る原因の他に、膿皮症になる原因の小さな傷を作ってしまうことになります。
「ニキビを潰しちゃダメ!」とよく言われる理由に納得できる事例です。潰すのがクセになってしまっている人は気をつけましょう。
膿皮症の詳しい症例
これまでニキビと似たような症例を元にお話しました。ここからは、膿皮症ならではの症状をお話していきます。
膿皮症の種類
膿皮症は細菌が入り込んだ場所によって、大きく分けて2つの呼び名があります。
- 毛嚢性膿皮症(もうほうせいのうひしょう)=毛穴に細菌が入り、発症してしまいます。
- 汗腺性膿皮症(かんせんせいのうひしょう)=汗のでるところに細菌が入り、発症してしまいます。
上記2つ以外の場所で発症してしまう膿皮症は、そのままその他の膿皮症と呼ばれます。
症状が出来やすいところ
膿皮症で多くの症例が確認されている場所が臀部(肛門、おしり周り)です。思春期以降の年齢の男性に多いことも特徴に挙げられます。
はじめは、座っていて吹き出物が有るような違和感があり気づくかと思います。
人は毎日座ります。そしてデスクワークをしている方なら数時間立てない状況にもなります。この状況が膿皮症を広げてしまう原因にもなるのです。
症状の広がり方
座ったときに患部を圧迫することがあります。その時に表皮の下で膿が広がり、原因菌が更に繁殖してまた膿を増やしてしまいます。そして皮下組織の深部まで感染してしまうこともあります。
中には表皮がやぶけて膿が出てきて感染を広げてしまう症例もあります。
これを繰り返して、皮膚が黒ずんできたり、硬くなってきてしまうと、臀部慢性膿皮症という病名になります。
繰り返す膿皮症は皮膚ガンの原因にも・・・
しっかり処置をしていなかったり、気づかないまま炎症をくりかえしてしまうと、有棘細胞がん(ゆうきょくさいぼうがん)という皮膚ガンの元になる可能性があります。
有棘細胞がんは、先にお話した臀部慢性膿皮症や、寝たきりになってしまい自力で動けない人に現れる“床ずれ”等、患部を圧迫して悪化させてしまう炎症が原因で生まれてしまう可能性が高いガンなのです。
膿皮症の治療方法
膿皮症は発生箇所、症状の度合いが人それぞれです。その人によって治療法が変わります。
ここでは、症状に合わせた治療法をお話いたします。
共通事項:内服治療
膿皮症の原因となる細菌繁殖を止めるには、まず抗生物質の内服が必要です。
抗生物質を数回服用して症状が治ったと思っても、処方された量、期間を守って全て服用しないといけません。完全に死滅していない細菌がまた活動、繁殖してしまいます。
そして、内服だけでは完治とはいえません。外科手術で完全に膿を取らなければ再発してしまいます。
症状が軽く、範囲が狭い場合
初期症状の人、まだ深部まで膿が到達していない人は切除縫合法という手術をします。言葉の通り、患部の皮膚を切除して縫合する方法です。
手術後一週間程度で抜糸をして、完全に傷跡が消えるまでは数ヶ月かかります。
膿が深部まで到達して、範囲が狭い場合
主に膿が皮下組織深部まで到達している場合にはくり抜き法という手術をします。
患部の硬くなった部分に複数回、円形状の穴をあけます。症状によりますが、深さは皮下組織から筋肉層手前5ミリ程度が限度といわれます。
そして皮膚の裏から膿を出し、周辺の皮下組織を綺麗にします。取り出したあとの皮膚は、膿がたまっていた部分が空になるのでメッシュ状になります。
元の状態に戻るまでは傷の範囲、その人の治癒能力によりますが1〜2ヶ月かかります。
術後、消毒はせず潤湿治療を用いて傷を治します。
潤湿治療について
傷口を消毒しない理由は、消毒によって感染症の原因となる細菌を殺すついでに、皮下組織の再生に必要なタンパク質まで破壊してしまう可能性を防ぐためです。
潤湿治療は、現在薬局で売っている「キズパワーパッド」や「ハイドロコロイド」等“かさぶたを作らないで傷を治す”絆創膏の仕組みのきっかけになった治療法です。消毒をしながらかさぶたが出来るまで待つ治療法より、早く安全に綺麗に治ります。
綺麗になった傷口に新たに細菌が繁殖しない様、白色ワセリン等を塗ってからラップ等で密閉します。その間に体内の分泌液、タンパク質の治癒力を高めます。
膿が深部まで到達して、範囲が広い場合
先の症例のように皮下組織深部まで膿が到達し、患部が大きかったり、複数の膿が近い、連なっている場合は、患部の膿や皮膚を切除後、皮膚移植をします。皮膚移植で使われる代わりの表皮は太ももが多いようです。
患部に皮膚が定着するのは1〜2ヶ月程度、使われたほうの皮膚の完全な再生は半年以上かかります。
傷跡を気にして外科手術を避けてはいけない
これまで3通りの外科手術の方法をお話しました。術後の傷跡が気になって内服だけで治療を済ませようとしてしまう人が居るのも事実です。
しかし、完全に膿が取りきれず膿皮症を再発させてしまっては、最悪一番傷跡が残りやすい皮膚移植を兼ねた手術を行うことになってしまいます。
もし膿皮症と診断され外科手術を薦められた方は、是非手術を受けてください。
診察を受けるタイミング
膿皮症は、早期発見で治療期間が短くなります。
ただ原因や症状がなんとなく分かったとしても、やっぱりニキビや吹き出物と区別が付きづらいからどうすればいいか分からない人も多いかと思います。
白い脂肪、膿のような物が表皮に透けている状態の炎症が長引いたり、何度も繰り返しできたりする状態が2週間〜1ヶ月続くようでしたら、皮膚科の受診をおすすめします。
再発防止に漢方薬
綺麗さっぱり膿を取り出せば、再発しづらいのが膿皮症です。
しかし、肥満体質、糖尿病である人、汗をかきやすく他にも皮膚科系の疾患にかかりやすい人等、その人の体質によって再発してしまう場合もあります。
再発を避けたい、体質改善をしたい、という方は漢方薬を処方されることもあります。
十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)という名前で、皮膚のかゆみ、発疹、化膿を起こしやすい人へ向けたものです。
膿皮症を防ぐ為に心がけたい事
膿皮症になってしまう主な原因を1章でお話しました。常在菌は、人間の体の変化に敏感です。いつ急に原因菌になってしまうか分かりません。
ここでは、普段の生活で心がけたいことをお話します。
手、指は清潔に保つ
ニキビ予防にも共通している項目です。
例えばちょっと顔がかゆくて引っ掻いたとします。自分の目では確認できていなくても、傷がついてしまっている可能性があります。
時間がたってから何か手づかみで食べたり公共の物を触ったりした後、また引っ掻いてしまったら、いろんな物を傷口に誘導してしまいます。
潔癖性にはならなくていいのです。手が汚れているような気がしたら洗いましょう。
怪我をしたら必ず応急処置をする
膿皮症に関わらずどの感染症予防にも共通しています。
怪我の放置は細菌繁殖、感染症の原因です。ちょっとした擦り傷もその後の行動次第で大きな病気の原因になりかねません。
水で洗って清潔にして、空気や異物に触れないようにしましょう。
免疫力をつける
大げさな言い方に聞こえますが、普段から健康に気をつけて元気でいましょう。
疲れがたまっていたりちょっと風邪をひいていると、体は回復しようと頑張りますが、怪我や傷に対する免疫力が下がり細菌の繁殖に負けやすくなってしまいます。
まとめ
ニキビとは見た目が似ていても、放っておくと症状が深刻になってしまう膿皮症についてのお話でした。
女性はもちろん、男性も肌トラブルで嫌な思いはしたくない人が多いと思います。
悩んでいる間に症状が治まっていたり悪化してしまったり、人それぞれかと思いますが、気になったらとりあえず専門の先生に見てもらうことが解決への一番の近道です。
皮膚科関係の疾患は内科、外科と比べて後回しにしやすいですが、風邪や怪我と同じように大事になる前に受診することをおすすめします!