10代の男子を悩ます股間の病気、通称「いんきんたむし」。正式名称は「股部白癬(こぶ・はくせん)」といいます。猛烈なかゆみを発して、血が出るまで皮膚をかきむしらないと気が済みません。
「いんきんたむし」は「水虫」の仲間です。どちらにも「むし」が付きますが、虫が住みついているわけではありません。かゆみを引き起こしているのは「真菌(しんきん)」という菌です。
いんきんたむしは大人になると治癒することが多いので、「青春の1ページ」のように懐かしむ人もいると思います。
しかし、性器の周辺がかゆくなることから、思春期の子供には心の痛手になりかねません。いんきんたむし経験した大人は、悩める若者に「性病ではない」ことをそっと教えてあげてください。
また、女性も発症することがありますので注意してください。
いんきんたむしの症状
いんきんたむしの代表的な症状は、猛烈なかゆみです。病気が進行すると皮膚に赤みが帯びるため肉眼でも確認できますが、当初は皮膚が少し盛り上がっているだけなので、病気とは気付かないでしょう。
皮膚の腫れからうろこ状へ
皮膚が少し盛り上がっている状態でも、かゆみはあります。それをかいてしまうと、うろこ上のかさつきが生じます。
この状態になると、かゆみは1つ上のステージにあがります。
陰嚢やペニスには及ばず
男性のいんきんたむしが生じる場所は、性器の付け根から太ももの上部あたりです。陰嚢やペニスといった性器それ自体にはかゆみが生じません。
血尿や膿が出たら、それはいんきんたむしではなく、別の感染症が疑われます。
左右に拡大
いんきんたむしは菌による感染によって生じます。ですので、いんきんたむしが発症した部位を手でかいて、その手を洗わずに別の場所をかくと、菌がその場所に移動します。
こうして感染が拡大するのです。多くの患者は、左右の足の付け根に発症します。
1日中続く
菌がなくなるまでかゆみは続きます。患者は1日中かゆみと闘います。若い人は「かゆみはかくと悪化する」ことを認識していないことが多いので、闘いに負けて1日中かき続けます。うろこ状のかさつきがはがれ落ち、皮膚が大きく傷つきます。血が出ることもあります。体液だけが滲み出てくることもあります。ジュクジュク状態になり、パンツを汚すことになります。
いんきんたむしがやっかいなのは、かゆみが頂点に達すると一時症状がやわらぐことです。それで快方に向かっていると勘違いして、本格的な治療に取り組む機会を逃してしまうのです。
その結果、患部の皮膚が硬くなっていきます。皮膚が硬くなると感度が鈍るので、これまで通りのかき方ではかゆみを解消できなくなります。それで強くかくと、再び、皮膚がうろこ状にはがれ落ちる→傷つく→出血または体液の滲出→パンツを汚す→皮膚がさらに硬くなる、というサイクルに突入してしまいます。
いんきんたむしの原因
いんきんたむしの正式名称「股部白癬(こぶ・はくせん)」の「白癬」とは、数種類の真菌(しんきん)による症状の総称のことです。
足の指にできると「足白癬」、頭にできると「頭部白癬」といいます。ちなみに足白癬の通称は「水虫」、頭部白癬は「しらくも」です。
真菌とは
菌は動物でも植物でもありません。キノコも菌です。白癬を引き起こす真菌も菌です。真菌は空気中にも土壌にも存在する、なんでもない菌です。
真菌は、人が呼吸したり接触したりすることで人に取りつきます。なので、最初に感染するのは肺と皮膚になります。また真菌を飲み込むことにより、腸内に住みつくこともあります。真菌が好む体内の部位は、爪、性器、口の中、鼻の奥、腸です。爪以外は、湿り気があって温度が30度以上あって密閉度が高い場所です。こうした性質もキノコと似ています。
ゆっくり進行
「菌が健康をむしばむ」と聞くと、とても恐ろしいイーメージを持たれるかもしれませんが、真菌は「普通にしていれば恐くない」菌です。ですので、健康状態を維持している人は、真菌に感染しても症状が現れることはまれです。
真菌が暴れるのは、健康が崩れたときです。「抵抗力が落ちた」「免疫が落ちた」といった言葉を聞いたことがあると思います。具体的には、風邪を引いたり、花粉症の症状に苦しめられたり、糖尿病やがんを発症すると、抵抗力や免疫力は落ちます。わざと免疫を落として病気を治す薬があり、こうした薬を飲んでいる人も、真菌による不快症状が起きることもあります。
真菌は、人が弱っているスキを逃さず活動を活発化させるのです。真菌はゆっくり人を攻めていくのです。
いんきんたむしの治療
いんきんたむしには良い治療薬があります。
かなりの効果が期待できます。ただ、真菌を完全に殺すのはとても困難です。完全に治すには根気が必要です。
塗る抗真菌薬
いんきんたむしを含む白癬の薬は「抗真菌薬」といいます。塗り薬と飲み薬があります。塗り薬のことを「局所用抗真菌薬」といい、こんなに種類があります。
「アモロルフィン」「ブテナフィン」「シクロピロクス」「クロトリマゾール」「エコナゾール」「ハロプロジン」「ケトコナゾール」「ミコナゾール」「ナフチフィン」「ナイスタチン」「オキシコナゾール」「硫化セレン」「スルコナゾール」「テルビナフィン」「テルコナゾール」「チオコナゾール」「トルナフテート」「ウンデシレン酸」
こうした薬は、クリーム状、ローション状、ゲル状になっています。薬の成分を患部にとどまらせた方が良いのか、患部に浸透させた方が良いのかによって使い分けています。ちなみに「硫化セレン」はシャンプーの成分に含まれます。「テルビナフィン」はドラッグストアで買うこともできます。
飲む抗真菌薬
抗真菌薬には飲み薬もあり「経口抗真菌薬」といいます。軽症の場合は塗り薬で対応し、重症化すると飲み薬を使うのが一般的です。
白癬の治療に使われる飲み薬は次の通りです。
「アムホテリシンB」「アニデュラファンギン」「カスポファンギン」「ミカファンギン」「フルコナゾール」「フルシトシン」「イトラコナゾール」「ケトコナゾール」「ポサコナゾール」「ボリコナゾール」
飲み薬が、塗り薬の後に使われるのは、副作用が強いからです。例えば、真菌の万能薬的な存在の「アムホテリシンB」は、発熱、頭痛、嘔吐といった苦しい症状の他に、腎臓障害や低カリウム血症といった、命を危険にさらす副作用もあります。「ボリコナゾール」は視覚障害を引き起こす可能性があることが知られています。
真菌に対応するこれらの薬は、点滴で投与することもあります。点滴の方が飲み薬より早く効果が現れるからです。
女性のいんいきんたむし
いんきんたむしは男性の病気という認識が変わりつつあります。女性でも発症する人が増えているという報告があります。
新しい下着やズボン
女性のいんきんたむしが増加している要因のひとつに、肌着や下着の変化が挙げられます。伸縮性がある素材が次々開発され、密着性の高い肌着や下着が作られています。いくら通気性が良い素材を使っていても、長時間肌に密着することで「真菌の巣」ができてしまうのです。
また、以前よりスカートをはく女性が少なくなったことが、女性患者の増加の原因になっていると指摘する医師もいます。つまり、スカートより通気性が悪いズボンがインキンたむしの原因であるとする説です。
まとめ
いんきんたむしは性器周辺にできることと、命に関わらないという2つの理由から、軽く考えがちです。性交渉でも容易に感染するので、発症させないうつさないの精神で治療に臨んでください。