口の中の下アゴの後ろの方(唾液が分泌される場所)に腫れ(はれ)や強い痛みが生じることはありませんか?更には、その場所に丸く固い石があるような異物感があることはありませんか?特に、食べ物を食べようとする時や、食べ物を食べている最中に生じます。
もし、そういったことがある場合は、唾石症(Salivary stone=Sialolithiasis)の可能性が考えられます。そういった症状が見られた際には、手遅れになる前に早急に病院へ受診するようにしましょう。
唾石症とは
唾石症はその文字の通り、石が体に詰まることを言っています。尿路結石や胆石は発症する事も多く、よく耳にするでしょう。唾石症はあまり耳にしないことが多いでしょうが、この尿路結石や胆石と同じような病気になります。実態をよく知る人は少ないでしょう。その唾石症について詳しく説明していきます。
まず、初めに唾石症はどういった人が発症しやすいのか、どういった原因で起きるのかについて説明しましょう。
唾石症の発症率・頻度
唾液腺の疾患の中では最も頻度の高い疾患になります。好発年齢は、成人や高齢者に発症することが多く、特に40歳前後に多いとされています。子供の発症は稀であると言われています。
一部の調査では、男女差はないと言われています。唾石症は顎下腺に多いとされており、全体の約80%を占めます。顎下腺の内、排泄管内に生じる事が多く、次いで腺管移行部に多いです。稀に、腺体内に生じます。
唾石症の原因
原因は不明です。しかし、治療により摘出された結石を検出した結果、沈着したカルシウムが年輪の様になっている物が発見されています。これにより、細菌や異物が唾液の排出管に侵入して、細菌等を核とし、唾液に含まれるカルシウムが沈着して唾石が生成されているとも考えられています。
その他、水分補給不足による脱水で唾液が濃縮し、唾石症に至るとも言われています。一部のデータでは、フランスの水が原因で発症している例もあります。国によって硬水・軟水の違いや水の質の違いもあるため、その影響も考えられます。長期間の飲水を継続していて唾石症になったという方もいるため、外国の水を長期間飲水することは避けると良いでしょう。
痛みなどの症状が生じる原因は、これらに加え、導管が炎症を生じることや、唾液が停滞すること、唾液の性状が変化することが原因と言われています。
唾石症の症状
唾石症は、簡単に一言で言うと「唾液腺の中に結石が生じて詰まる病気」です。出現し始めの結石は勿論、小さいですが、徐々に大きくなっていくと自然に排出がされにくくなっていくのが唾石症です。この唾石が生じるに当たって生じる症状は様々であり、経過と共に増える症状もあります。
ここでは症状の経過と共に変化する症状の把握を理解しやすいように、「初期」・「中期」・「後期」と分けて症状を説明していきます。この病状の経過の期間が特定して決まっているわけではなく、標準化されているわけでもないです。目安として記載します。
初期:舌を噛んでしまう
唾石症により、唾液腺が詰まって唾液が分泌されにくくなります。そうすると、口の中が乾燥しやすくなり、乾燥した状態が続く為、食べ物を食べる際に噛みにくくなったり舌を動かしにくくなります。これにより、舌を噛んでしまう回数が増え、唾液がないための飲みこみも悪くなります。
中期:舌の痺れ(しびれ)・異物不快感・違和感
症状が進行していくと、舌に不快感や違和感を感じるようになります。これは、個人差があります。この時点では大きな腫れや痛みは生じていませんが、右と左の唾液腺の大きさに違いが出てきます。
唾液腺の炎症により少し膨らんだような症状が出現するため、それが違和感や異物不快感として感じることがあります。また、これにより痺れが生じることもあります。
後期:腫れ、激しい痛み
症状が更に進行していくと、食事前・食事中・食後に喉(のど)に激烈な痛みが生じるようになります。更には、異常なまでの腫れがみられます。腫れは下アゴ(顎下腺)や耳下(耳下腺)に見られ、どの唾液腺に生じるかによって少し異なります。
こういった症状は、食事の際に唾液が大量に分泌されることに対し、唾液腺の出口を結石で塞いでしまうため、唾液腺内に唾液が大量に貯留し、導管内圧が急激に増してしまうことで生じます。
食後30分から1時間程経過すると、痛みと腫れは軽減し、消失します。これも個人差がありますので、大体の目安と捉えて下さい。
ちなみに、痛みが生じる場所は、顎下腺に唾石が生じた場合には左右のいずれか一側に生じます。一度に両側に痛みが生じることはほとんどありません。顎下腺では、腫れる場所は下アゴの下になります。耳下腺に唾石が生じた場合は、耳の前から耳の下へ痛みが生じます。腫れる部位も同様になります。
好発部位
高頻度で見られる部位は顎下腺(がっかせん)と言われています。その割合は打唾石症に中でほぼ9~10割に値します。他の約1割は耳下腺(じかせん)や舌下腺(ぜっかせん)に生じるとされています。小唾液腺ではほとんど発生する可能性はありません。
この唾石症にみられる唾石の発生部位を分類すると、導管開口部、導管中央部、腺体との移行部、腺体内に分かれます。この中でも導管中央部の発症例は顕著に多いです。
唾石の大きさ
腺管内の唾石が小さい時は気づくことが難しく、自覚症状もほとんど見られません。腺身体の中に生じた唾石は気づきやすいと言われています。なお、唾石が3mm以上の大きさまであると、ほとんどの場合には気づくことができます。
個人差があり、感覚に敏感な人であれば、唾石が小さくとも気づくことができるでしょう。しかし、痛みに対する感覚や触れることに対する感覚が非常に鈍い人の場合は、大きくなっていく唾石にも気づくことが遅れてしまう可能性は出てくるでしょう。
唾石症の検査・診断
唾石症は自覚症状がなかなか見られないため長期間、発見に遅れることがあります。少しでも口腔内に違和感を感じたり、異物を発見した際には病院に受診しましょう。
受診した際にどういった検査や診断が必要か、鑑別する必要のある疾患について述べていきます。
画像検査とその他の検査
受診時は、口腔内の視診・触診による診断が必要です。その他、血液検査、頚部(けいぶ/首)の超音波検査、単純CT検査、CT造影検査、レントゲン検査(X線検査)、MRI検査といった画像検査も行います。この中でも、レントゲン検査は唾石を映し出すためにも必須の検査になります。
CT造影検査は、造影剤を注入しながらのレントゲン検査になります。唾石の結石の数は通常1つですが、2つ3つと複数発症しているケースもあります。こういった場合に特に画像検査が必要となります。また、唾石以外の病気の可能性も検出するためにも施行されます。造影剤にアレルギーをもつ人もいるため、同意書を取る施設もあります。
類似疾患、鑑別すべき疾患
高齢者では、よく唾液が少なくなると舌下小丘部(舌の裏にある膨らみ)の開口部に細菌が侵入して感染症を引き起こすことがあります。これにより、唾石を生じずとも顎下腺の腫れと激痛を生じる場合があります。また、開口部から膿(のう/ウミ)を生じることがあります。これらの症状が生じるのは化膿性顎下腺炎になります。
最悪なケースでは、稀ではありますが、唾石と悪性腫瘍が併発する場合です。また、唾石を摘出しても痛みが軽減せず、検査の結果、悪性腫瘍であったということがあります。
唾石症の治療法
唾石症は唾液腺内に結石を有する病状になるため、除去手術をしなければ根治できません。一般的には外科的処置による摘出術が施されます。ほとんどの場合が感染症を併発しているため、最初に抗生物質で消炎し、口腔内を清潔に保ってから手術が施行されます。
手術のメインとなるものは口内法と口外法があります。その他にも治療法があるため、それも含めて説明をしていきます。
薬物療法
唾石症では、抗生物質で症状が落ち着くことがあります。これは、唾石症に感染症が伴うことが多いためです。抗菌剤の投与をするだけではなく、こまめに歯磨き・うがいをするなど、口腔内を清潔に保つことも大切になります。
唾液管内視鏡(Sialendoscope/シアロエンドスコープ)
治療術の中では比較的、最新の方法になります。唾液の主導管(導管の太い部分)の狭窄や拡張の検査、管内の結石の摘出術に適応しています。よって、唾石症に用いられることが多いです。
内視鏡は種類も様々であり、管の細さや機能面が多少異なります。施設によっても取り入れているものが異なります。その点を気になる方は事前に調べてから医師と相談して行うようにすると良いでしょう。
唾石症に使用される内視鏡のサイズは通常、直径1.6mmです。子供は管が細いため、1.1mmと更に細い内視鏡が使用されます。内視鏡には、カメラのレンズと生理食塩水が出る管と、唾石を掴むためのバスケット、鉗子(かんし)が入る管が入っています。生理食塩水は、体内に入っても害がなく、通りをよくするものです。薬剤を点滴する際に混入させて体内へ送る際にも使用されますため、体内に入っても問題となるものではないので安心して下さい。
口内法手術
口腔の出口付近(排泄管内:舌下小丘)に近い導管内に唾石がある場合は、口腔内で排出管を切開して唾石のみを摘出する容易な手術を施行することが可能です。
口内法では一度では除去しきれず、数回手術を繰り返される人もいます。それは、唾石を摘出した後も唾石が再燃して再発することがあり、再発すると再度手術が必要になるからです。数回の手術を繰り返す方は、全体のおおよそ2~3%に当たります。口内法では摘出が困難と判断される例は5%であり、そのほとんどが経過観察となります。これらの内、顎下腺を全摘出される方は1%いるかいないかぐらいであると言われています。
口内法のメリットは、低侵襲で安全な方法というところにあります。口外法とは異なり、顎下腺の大部分を残すことが可能であり、合併症を併発するリスクも低いです。また、入院期間も短期間ですみ、術後の顔の皮膚表面の瘢痕もないため精神的なストレスも減ります。
デメリットは、摘出術時に舌神経を損傷する可能性があること、狭い切開であり比較的に深部の手術を施行するため、深部の出血が生じることです。舌神経が障害されると味覚障害や触覚障害、痺れといった感覚障害を引き起こす可能性があります。もちろん、これら以外の合併症を引き起こす可能性も考えられます。その他に、唾石を摘出した部位に粘液嚢胞(ねんえきのうほう/ウミ)が生じることが稀にあります。
口外法手術
腺に近い部位や腺内に唾石がある場合には腺と一緒に摘出する口外法が適応されます。例えば、最も発症しやすい部位である顎下腺で説明すると、顎下腺の奥にある場合は、唾石と共に顎下腺自体を摘出しなければなりません。そのため、口腔の外からの全摘出術が適応されます。これは顔の皮膚を外から切開する方法になります。この場合は、神経が多く緻密に密集しており、手術の慎重さが増すため麻酔は全身麻酔を使用されます。
メリットとしては、唾石を摘出するには根治する可能性が高いです。口内法とは異なり、術後は極めて再発するケースは少ない、というよりも、再発するケースは全くないに等しいと言える経過を追うことができます。
デメリットは、下アゴの皮膚に手術の瘢痕(はんこん/傷跡)が残る可能性や、顎下腺を全て摘出するというリスクがあることです。特に、若年の女性や子供には抵抗がでてくる手術法になるのではないでしょうか。高齢者の方の場合は、顎下部(がっかぶ/下アゴ)の手術の瘢痕は特に問題がないとされ、顎下腺の全摘出が適応される場合があります。また、切開する顎下部に顔面神経の下顎縁枝(かがくえんし)が分布しているため、顎下腺を摘出する際に手術の進行次第では、神経を損傷して神経麻痺の後遺症を残す可能性があります。
その他に、顎下腺の唾液腺自体を摘出してしまうため、長期的な予後をみると、ドライマウスや唾液の分泌量が減少する可能性が示唆されます。
手術が適応されないケース
唾石症を発症する大部分の人は唾石が数ミリ以内の大きさです。よって、唾液を多く分泌する食べ物(梅干しやレモン、グレープフルーツなどの酸っぱい物)を食べていると唾石が自然に流れてしまうことがあります。こういった場合は、手術は不要になります。
唾石が数ミリ以上と、ある程度の大きさがある場合には、自然に唾石が流れていくことは難しく、摘出手術が適応になります。
気を付ける食事
唾石症を発症後は、酸味の強い食べ物は、唾液が分泌されやすくなるため、特に症状が強く出やすいです。そういった食べ物は避けるようにしましょう。
唾石症の原因は不明とされているため、予防も難しいところですが、唾石症の発症後とは逆に、発症前に注意する点は、唾石が溜まらないように唾液が多く分泌されるような食生活を送ることです。唾液を多く分泌させるためには、アルカリ性食品の摂取をオススメします。1度の食事毎に梅干しを1粒摂取すると良いでしょう。食べ過ぎても逆効果なので、適量にしましょう。また、水分の摂取量が不十分であると、唾液が濃縮されやすく、これにより唾石が生じやすい状態を作ってしまいます。よく水分を摂ることをオススメします。
水分摂取も重要と言いますが、「原因」の項目でも述べたように、唾石の発症には外国の水が影響している場合があります。カルシウムの多い飲料水や硬水には特に気を付けましょう。
唾石症の予防
唾石症の原因は不明ですが、細菌の感染が原因ともされているため、予防方法の一つとして、oralcare(オーラルケア/歯磨き)が適応されます。また、義歯(ぎし/入れ歯)や差し歯を使用している場合は、特に細菌に汚れやすく、感染のリスクが高くなります。
こういった場合は、必ず入れ歯や差し歯を自分の歯から抜いて、入念に歯を磨き、洗浄剤などで清潔を保つようにする必要があります。口の中で入れ歯・差し歯が入っていた場所にも食べかすや菌が溜まりやすいため、そういった部位もきれいに磨いてうがいをしっかりしましょう。
まとめ
唾石は自然治癒する場合もあるとされていますが、自身の判断では本当に唾石なのかは判別が困難となります。腫瘍の可能性もあり、最悪の場合その腫瘍が悪性であるという場合があります。「食後に痛みや腫れが引くから大丈夫であろう」、「舌の裏に何かでき物ができているが、まぁいつか治るだろう」と安易に考えていると、後々に大変なことになりかねません。
症状がみられたら、もしくは口腔内に異物を発見した場合には早め早めに病院へ受診しましょう。受診する科は、耳鼻咽頭科または口腔外科を選びましょう。
もし、唾石症ではなく腫瘍であった場合には、耳鼻咽頭科や口腔外科の専門医の先生が整形外科の紹介状を用意してもらえるでしょう。