PTSDの症状
PTSDには特徴的な3つの症状があります。「再体験症状」「回避」「過覚醒」です。
再体験症状
再体験症状は、トラウマの原因となった体験を時間が経った後も思い出してしまったり、そのときの感覚やイメージが続いてしまう症状です。
その体験を激しく鮮明に思い出してしまうことをフラッシュバック現象ともいいます。そのときの体験をもう一度起こっているかのようなはっきりとしたイメージで追体験してしまう人もいます。トラウマの原因となった恐怖体験をもう一度体験するようなものですので、当時と同等の強い恐怖やストレス、不安、無力感を感じます。
また、トラウマとなった体験を思い起こさせるようなきっかけに触れた途端に、再体験症状を体験する場合もあります。
回避
トラウマの原因となった体験を思い出すことを回避する行動に出る症状です。当時の強いショックから自分の精神を守ろうとする心の反応といえるでしょう。
具体的で最も多いのは、その体験をした現場に行くことを避ける行動ですが、直接的に関係のない状況をも避けようとする場合があります。夜暗い道でトラウマとなる体験をした人の場合に、夜間の外出ができなくなるというような例です。
トラウマとなった体験を思い出すことを避けようとするあまりに、その体験の一部あるいはすべてを思い出せなくなる人もいます。さらには、つらい感情や恐怖感を持たないようにしようとするために、感情が鈍くなり、楽しさや心地よさ、他社への愛情なども感じられなくなってしまう場合もあります。感情の麻痺のために意欲が低下し、孤立感や無力感などを強めてしまいます。
過覚醒
イライラするようになる、寝つきが悪くなる、睡眠が十分に取れなくなる、怒りっぽくなる、物事に集中できなくなる、過剰な警戒心のためいつもびくびくするようになる、ちょっとしたことにも驚きやすくなるなどの、精神的変化がみられることがあります。これを過覚醒といいます。
これは、トラウマの原因となった被害のために、常に危険を感じるようになってしまっている状態です。実際には危険でない場所でも、その警戒心のために常にストレスに晒されます。
また、危険に対する反応のひとつであるフリーズ(凍りつき)が起こることもあります。フリーズはトラウマとなる恐怖の体験の最中に起こることもあります。
PTSDの原因
PTSDは主に自然災害や事故の体験から発症します。
PTSDを発症する原因になりうる体験
PTSDは生命の危険を脅かされたり、人間としての尊厳を激しく傷つけられるような体験になった場合に、その体験が原因となって時間が経った後にも症状が起こります。
症状の原因となる体験には、大震災や火災などの自然災害、レイプや児童虐待、暴力などの犯罪行為、また戦争などによる暴力の体験、交通事故や飛行機事故などの事故に遭遇した場合などがあたります。
そのような恐怖体験をした場合、誰もがそのトラウマ体験を思い出して恐怖を感じたりするものですが、時間とともに記憶と感情が薄れ、整理されて過去の記憶となっていきます。しかしそのトラウマ症状が何か月も変わらず継続し、生活に支障が出るほどの苦痛が伴う場合にPTSDと診断されます。
とくに、女性が男性から暴行を受けた体験の場合、被害を受けた女性は生命の危機に恐怖を感じ、また人間としての尊厳も踏みにじられる思いをするために、PTSDを発症する可能性が高くなります。
PTSDを発症しやすい人
PTSDを発症する原因になりうる体験をした場合でも、全員がPTSDと診断されるわけではありません。ではどんな人がPTSDになりやすいかというと、その傾向はわかっていません。
どんな人がなるかわからないということは、誰にでもPSTDを発症する可能性があるということがいえます。自分がPTSDを発症し、克服できないのは自分の心が弱いためだと責める必要はありません。
PTSDの事例
PTSDの症状は戦争が起こるたびに従軍兵士に発症してきました。
「Post Traumatic Stress Disorder」という病名が生まれた直接のきっかけはベトナム戦争です。ベトナム戦勝の帰還兵の約30%にPTSDの症状が見られたといわれています。とくにベトナム戦争でPTSD発症が多かったのは、戦争というショッキングな体験に加え、帰還後の母国では反戦運動が活発になっており、戦ったことを責められさらなるストレスに晒され続けたことが理由だといわれています。
東北の大震災でも多くのPTSD発症の事例が報告されました。「余震のたびに大震災時の恐怖がよみがえりパニックを起こす」、「津波の恐怖のために海へ漁へでることができなくなってしまった」、などの訴えがあげられます。
学生時代に受けたいじめ体験によってPTSDが発症するという事例もあります。
PTSDの治療
通常、トラウマ体験直後は誰もがPTSD症状を生じますが、数か月が経過しても症状が改善されない場合は、専門的な治療が必要になります。
持続エクスポージャー法(prolonged exposure therapy ;PE)
トラウマとなった体験の場面をあえてイメージし、避けていた記憶をあえて呼び起こす治療法です。トラウマの記憶のある中に身を置く体験をさせることによって、その体験を思い出してももう危険ではないということを実感してもらうことによって恐怖心を取っていきます。
このように言葉で書くと簡単なことに思えますが、知識が十分でない素人が「トラウマとなった体験を思い出せば治る」という単純な気持ちで無理に記憶を思い出させようとすると、不安が強まり症状を悪化させてしまうことになりかねません。
この治療方法は専門家のもとで、治療の場所が安全であるということを患者さんによく理解してもらった上で行う必要があるのです。
グループ療法
グループ療法では、似た体験をした人が数名集まって自分の症状や悩みを語り合います。
類似した体験をした人とであれば、自分の体験についてや症状について話をしやすくなり、「悩んでいるのは自分だけではない」「自分よりもつらい滝円をし重い悩みを抱えている人がいる」など、心が軽く前向きに考えられるようになっていくという治療法です。
グループ療法においても、専門家や医師のもとで行います。
その他の認知行動療法
トラウマについての考え方や視点を見直し別のとらえ方ができるように導く認知処理療法(cognitive processing therapy ;CPT)や、眼球運動をしながらトラウマとなった体験を思い出す眼球運動脱感作療法(Eye-Movement Desensitization and Reprocessing ;EMDR)などがあります。
薬物療法
PTSDのつらい症状(睡眠障害、不安症状、うつ症状など)をやわらげるための対症療法として、抗うつ剤や抗不安薬、精神安定剤などの薬物が処方されることもあります。
PTSD克服のために自分自身できること
PTSDを克服するためには専門的な治療がもちろん大切ですが、自分自身の「治りたい、克服したい」という医師もまた非常に重要です。自分自身でできることを心がけ、日常的に取り入れていきましょう。
自分を責めない
PTSDでは、被害に遭ったことそのものを、自分のせいと感じて自分を責めてしまうケースが多くあります。また、事故などの場合に、他の人を助けられなかったという後悔によって自分を責めるケースもあります。
自分を責める気持ちは症状の悪化に繋がるので、自分を責めないよう心がけることが大切です。
規則正しい生活
PTSDの発症した患者さんでは、生活のリズムが乱れてしまうケースが多くみられます。この場合には、できる限り普段通りの規則正しい生活を送るようにする努力が大切です。朝起きる時間、食事のバランス、適度な運動などを生活に取り入れていくことにより、睡眠障害なども和らぐ可能性もあります。
また、過剰な飲酒やカフェインの摂取、喫煙などは避けるようにします。
人間関係から孤立しない
家庭内暴力やレイプなどの体験をした場合、その体験の内容によっては人に話すことがはばかられ、苦しむことも珍しくありません。そのために人間関係から遠ざかってしまい、孤立してしまうと、さらなる症状の悪化を招きます。信頼できる家族や友人に助けをもとめ、一人で悩まないことが大切です。
また、患者さんの家族や周囲にいる人は、そんな患者さんの気持ちを慮って接してあげる必要があるでしょう。
まとめ
PTSDは強いショックを受けたり恐怖を感じる体験をした場合、誰にでも発症しうる症状です。人によって発症の有無、その程度にも差があることも、患者さんが苦しむ一因といえるでしょう。つらい症状で苦しんでいるのに、その苦しみを人に話せずに抱え込んでしまう人も多くいます。
PTSDはときにうつ病や摂食障害なども併発することもある怖い病気です。一人で悩まずに専門家の治療を受けることが大切です。周囲の人は患者さんが安心して過ごせる環境を整えてあげるようにし、温かく見守ってあげましょう。