シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)とは?症状・原因・種類・検査方法・治療法を紹介!

シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)という病気をご存知ですか? CMTは、末梢神経が損傷される病気で、日本では2015年1月1日より医療費助成対象疾病(指定難病)となりました。

末梢神経である運動神経と感覚神経の両方の神経細胞が壊れていく病気ですが、ゆっくり進行するために、病気に気づかず、「よく転ぶ不器用な人」「立っているだけで直ぐに疲れる体力のない人」と周りの人も本人も思っていることがあります。

ここでは、CMTの症状、診断方法、原因、医療支援サービスなどについて情報を集めましたので、一緒に見ていただけたらと思います。

 シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)とは

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68年間誰も気づかなかった

上の絵は、アメリカ合衆国の画家アンドリュー・ワイエスが1948年に描いた「クリスティーナの世界」で、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の初代館長アルフレッド・バー氏が買い取り、MoMAの目玉です。作者であるワイエスは、草原を這って渡っていくクリスティーナに衝撃的な感動をうけてこの絵を描いたと言われています。1948年にこの絵が描かれた時には、クリスティーナはポリオによる小児麻痺によって歩けなくなったと説明されていました。

しかし、2016年5月6日に行われた「第23回 歴史臨床病理カンファレンス(The 23rd Historical Clinicopathological Conference)」で、彼女の症状は小児麻痺の症状とは全く異なり、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)であったはずだと報告されました。この絵はとても有名で、絵が描かれた背景も広く知られていたのに、彼女の症状がCMTに一致することを、68年間、誰も指摘する人がいなかったのです。

最も多い遺伝性の進行性末梢神経障害

シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は1867年、シャルコー、マリー、およびトゥースの3人によって報告された主に遺伝性の末梢神経疾病です。

末梢神経は、体の運動・知覚に関わる体性神経と、自律神経系とに分けられます。体性神経には運動神経(筋肉を動かす)と、感覚神経(温痛覚や触覚などの表面感覚と、振動覚や位置覚などの深部感覚を伝える)があり、CMTではこの体性神経の運動神経と感覚神経の両方がゆっくりと変性していきます。

以前はとても稀な病気だと思われてきましたが、遺伝性の末梢神経疾病では最も多く、欧米の疫学調査では2,500人に1人がこの病気だということがわかっています。日本の調査では10万人に10.8人(1万人に1人)とも言われていますが、CMT様の症状が出ていても医療機関を受診しなかったり、受診していても専門医のいる医療機関ではなかったため別の病気と診断されたりして、この病気だと知らずに過ごす人もいると推定され、実際の有病率はもっと高いのではないかと言われています。

主な症状は遠位筋の萎縮と手袋靴下型の感覚障害

CMTは末梢神経の進行性変性疾患です。末梢神経の神経細胞がゆっくりと変性し、症状が出現します。

最初の症状は、手や足など体幹から遠い部分(遠位)の筋力低下です。感覚も同様に、手や足など遠位部から感覚障害が始まります。まるで手袋と靴下を履いているような形で感覚障害が起こるので、手袋靴下型の感覚障害と呼ぶこともあります。ただし、感覚障害は自分では気づかないことがあり、自覚症状があったとしても「痛み」として感じることもあるようです。

CMTの人の体の典型的な特徴として、凹型の足(コウノトリの足)や内反尖足、逆シャンペンボトルの下腿が挙げられます。この身体的特徴も、足指や足の内在筋など、より遠位の筋肉から症状が始まり、次に下腿、最後に大腿という順序で症状が進むために起こりやすくなります。CMTでは、筋肉そのものが変性するわけではありませんが、運動神経からの信号が筋肉に伝わりません。筋肉を動かす信号が来なくなると、筋肉自体は正常でも、筋肉は低下しますし、使わない(動かない)筋肉は萎縮します。

CMTの症状が、このように遠位部から進む理由は、末梢神経では、手や足など遠位の軸索の長い神経細胞の方が、太ももや上腕など体幹に近い部分(近位)の軸索の短い神経細胞よりも損傷を受けやすいためです。

CMTの殆どが遺伝によるもので、発症は10歳〜20歳くらいのものが多いと言われています。生後間もなく発症するものや50歳すぎてから発症するものもあります。ただ、進行がとてもゆっくりなので、いつ発症したのか、はっきりと分からない例も多いです。

CMTの人に幼い頃の話を聞くと、「子どもの頃から人と比べて靴のサイズが小さかった」「箸が上手に持てなかった」「子どもの頃から走るのが苦手だった」などのエピソードを聞くことができます。その他、自覚症状には、「よくつまずいて転ぶ」「階段が登りにくい」「スリッパが脱げやすい」「すぐに疲れる」「ボタンをとめられない」「箸が使いにくい」「鉛筆が持てない」などがあります。

病気が進んでくると、足首が下に垂れ、つま先を持ち上げる筋肉がなくなってくるため、歩くときには膝を高く上げて歩くようになります。太ももや二の腕から腹筋背筋にも少しずつ筋力の低下が見られ、次第に立つのにも、支えが必要になってきます。

末梢神経の中には自律神経の繊維も含まれるので、体性神経だけでなく自律神経系の症状もみられることがあります。自律神経系の障害としては、排尿障害、手足の冷え、不整脈、下痢、低血圧などがあります。CMTでは、大脳などの中枢神経の神経細胞は侵されないので、認知症や言葉の障害などは現れないのが普通です。

生命予後は良く、この病気で亡くなることはありません。寿命が短くなることもありません。CMTの人の多くは仕事を続けています。また、厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業CMT研究班の調査では、「多くは杖は必要だが自力歩行可能」「車椅子使用は約20%」「寝たきりは1%」となっています。ただ、例外的に、重症例の中には呼吸不全を来たし、人工呼吸器を必要とするケースもあります。

典型的なCMTの症状は以上ですが、原因遺伝子の解明に伴って、以前はないと言われていた多様な症状もみられることがわかってきました。例えば、まれですが、遠位部ではなくて、近位部優位の筋力低下・筋萎縮を示すケースがあります。体性神経の障害ではなく、自律神経障害が前面に出るタイプもあります。さらに、遺伝子によっては網膜の異常や難聴などを認めるタイプがあることも知られてきました。

CMTの分類と遺伝の種類

CMTは、髄鞘(ミエリン鞘)または神経軸索の構造や働き関係するタンパク質を産生する遺伝子の異常で起こる病気です。CMTのタイプによって異常になるタンパク質も異なりますが、どの異常でも末梢神経の正常な構造や機能がゆっくりと変性し、運動神経は筋肉を動かせなくなりますし、感覚神経は感覚を伝えることができなくなってしまいます。

CMTの分類は、

  • 1)末梢神経障害の障害のタイプ(脱髄型、軸索型、中間型)
  • 2)遺伝形式(常染色体優性、常染色体劣性、X染色体性)、
  • 3)原因遺伝子によりなされます。

脱髄型で常染色体優性遺伝のものをCMT1、軸索型で常染色体優性遺伝のものをCMT2、軸索型で常染色体優性遺伝のものをAR-CMT2、脱髄型で常染色体劣性遺伝のものをCMT4、X染色体性遺伝形式のものをCMTXと呼び、さらに、遺伝子異常の違いをアルファベットまたは数字で表現しています。

例えば、脱髄が主体で常染色体優性遺伝で最初に遺伝子座が同定されたものはCMT1A、脱髄が主体でX染色体性で最初に遺伝子座が同定されたものはCMTX1となります。

脱髄型のCMTでは、髄鞘が障害されます。髄鞘は軸索の周りを取り巻いており、末梢神経ではシュワン細胞から形成されています。髄鞘が障害されると、神経伝導速度が遅くなりますが、活動電位はほぼ正常です。髄鞘は軸索を保護しているため、髄鞘型のものが進行すると軸索そのものもダメージを受けます。

軸索型のCMTでは神経細胞の一部である神経軸索そのものが障害されます。軸索型CMTでは、神経伝導速度はほぼ正常ですが、活動電位は明らかに低下ます。さらに、どちらにも分けられない中間型CMTもあります。

最も頻度の高いCMTはCMT1Aと呼ばれる脱髄型CMTで、これだけで欧米のCMT全体の50%、脱髄型の70%を占め、神経伝導速度が著しく遅いのが特徴的です。常染色体優性遺伝であり、PMP22の異常(重複)がみられます。欧米の脱髄型の中で2番目に多いのは、CMTX1です。X染色体遺伝形式で、GJB1の変異によりCx32(コネキシン32)というタンパク質のコードが障害されます。

軸索型CMTは脱髄型CMTに比べると頻度は多くありませんが、軸索型の中ではMFN2やGJB1の異常によるCMT2が最も多いです。これは常染色体優性遺伝です。

CMTの診断と検査

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診断は、まずCMTを疑うことから

CMTの診断は、まず、「疑うこと」から始まります。CMTに特徴的な凹足、槌状足趾、逆シャンパンボトル型の下腿筋の萎縮、手袋靴下型の感覚低下がある場合、CMTを疑ってみることが必要です。

家族歴がない場合や、症状が左右非対称のケース、近位筋優位のケース、数ヶ月で悪化など経過が早い場合などは、CMTそのものを疑うことが難しくなります。さらには、日本人では原因不明の例が多く、CMTであったとしてもCMT原因遺伝子が見つかるとは限りませんが、まずは、疑わないことにはどうしようもありません。

CMT診断に必要な検査

神経伝導検査

CMTを疑ったら不可欠なのは、神経伝導検査です。末梢神経障害は、脱髄型と軸索型そして中間型で区別されることが多く、脱髄タイプは伝導速度が遅くなり、軸索型は活動電位が低くなります。

CMTでは、軸索型でなくても、神経の障害が進むと活動電位が低くなり、神経伝導検査をするのに、強い刺激を加えることになります。正常な人でも判読可能な電位を出すには少し痛い検査ですが、末梢神経の障害が重ければ重いほど、刺激を強くする必要があり、相当に痛い検査になることもあります。

遺伝子診断

CMTでは、症状にも神経伝導検査にもある程度の特徴があるものの、それだけで確定診断をつけるのは難しく、この病気の確定診断をつけるためには、遺伝子検査を行う必要があります。逆に症状と神経伝導検査が典型的なCMTのものではなくても、遺伝子検査で原因遺伝子が見つかった場合は、診断が確定します。

CMTの原因遺伝子は、既に40種類以上が報告されています。このうち、脱髄型CMTの原因遺伝子には、PMP22、GJB1、MPZなどがあり、軸索型CMTの原因遺伝子にはMFN2、GAN1、TDP1などが報告されており、更に、PMP22、GJB1、MPZ、MFN2の4つが遺伝子異常の90%を占めることがわかっています。なお、同じ遺伝子であっても、異なる症状や発症パターンを示す場合があります。

日本人のCMTでも、欧米と同じように、CMT1Aが最多ですが、欧米ではCMT1AがCMT全体の50%、脱髄型の70%を占めると分かっているのに対し、日本人で何%のCMTがこのタイプに属すかはわかっていません。また、日本ではでは脱髄型CMTの50%、軸索型CMTの80%は原因不明です。したがって、症状や神経伝導検査で、CMTがほぼ間違いない場合でも、遺伝子検査では原因遺伝子が見つからないケースも欧米に比べると多いです。

なお、症状のない人の遺伝子検査はその可否を慎重に検討します。一般に、症状のないCMT患者の家族の遺伝子検査を行う場合には、遺伝カウンセリング後に承諾を得た場合のみ検査を行い、症状のない小児では原則的に遺伝子検査は行いません。

間違われやすい病気

ほぼ全ての末梢神経障害が、CMTと間違われる可能性がありますが、特に間違われやすい病気として、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、MAG抗体関連末梢神経障害、糖尿病性の末梢神経障害、ビタミンB1欠乏症による末梢神経障害、などがあります。

中でも、CIDPとCMTとは似たような検査結果を呈することがあって、鑑別が難しいことがあります。CMTにあまり効果のある治療法がないのに対し、CIDPには血漿交換や免疫グロブリン投与など効果の著しい治療法があるため、鑑別をつけるのは重要です。

CMTの治療と利用できる医療支援サービス

薬物療法

CMTの治療

CMTの治療法はまだ確立していませんが、薬物療法、理学療法、手術療法などがあります。

薬物療法

ビタミンC(アスコルビン酸)

CMT1Aに対するビタミンC投与試験が日本と欧米で行わていますが、今の所、CMT1Aに対するビタミンCの有効性は証明されていません。ただ、本当は有効性はあっても、症例数が充分でなければ、統計学的に有効とは言えず、無効である証明がされているわけでもありません。

神経栄養因子(Nerve Growth Factor (NGF) )

NGFは現在までに5種類発見されており、それぞれ、Neurotrophin 1(NT-1)、NT-2、NT-3、NT-4、NT-5 と名付けられていますが、このうちNT-3に効果があると期待されています。

クルクミン

クルクミンは、ウコン(ターメリック)などに含まれる黄色のポリフェノール化合物で、抗酸化作用、抗炎症作用があるとされています。

PTX3003

バクロフェン(GABA作動薬の1つ)、ナルトレソン(免疫を正常化する作用があるとされる)、ソルビトールからなる合剤です。実験動物では効果があったと報告されています。

プロゲステロン受容体拮抗薬

プロゲステロンは軸索を取り巻いて髄鞘を形成するシュワン細胞上にある、PMP22遺伝子を活性化するため、PMP22が重複するCMT1Aでは過剰に活性化させるとされています。プロゲステロン受容体拮抗薬は、この過剰な活性を抑えます。

理学療法

ストレッチ

CMTでは筋力低下と筋萎縮などにより、足首の関節はつま先が下がったままの状態になりやすく、手の指は曲がったままの状態になりやすくなります。ストレッチは、これらの予防や軽減に有効です。筋萎縮がおこる前から行うのが理想です。

運動療法

以前は、「過用」による回復不能な筋肉への障害がおこるとして、恐れられていましたが、最近は、筋力と筋の耐性を維持するために、積極的に推奨されています。CMTの人は、中等度の有酸素運動でも疲労しやすく、筋肉が少ないために関節に負担をかけることも多いので、水泳やサイクリングなど、衝撃の少ない運動が良いとされています。

装具

足の下垂で転倒しやすい場合は短下肢装具、更に症状が進めば長下肢装具を用います。装具は関節の変形を予防するにも有用ですが、しびれや痛みなどの感覚障害の強い人には苦痛に場合もあり、また、装具に頼りすぎて筋力低下を進行させてしまうこともあるので、充分な調節と定期的な追跡支援が必要です。

手術

下垂足や、凹足などの変形が装具を使っても適切に調節できなくなり、痛みや歩きづらさが前面に出た場合には、機能改善のための手術を検討することもあります。

CMT友の会

CMT友の会は、CMTの当事者だけでなく、医療関係者、研究者、家族など、CMTに関わるすべての人の情報共有と交流の場になっています。特に、実際の治療や検査の進め方、医療サービスなど、すぐに役に立つ最新情報が、CMTer(CMT関係者)の目線で集められています。

また、CMT友の会では、この疾患に関する情報も積極的に発信しており、CMTの症状に苦しみながらも病気の存在を知らなかった人が、一人でも多く正しい情報にたどりつけることを目指しています。

医療費助成対象疾病(指定難病)

2015年から医療費助成対象疾病(指定難病)になっており、CMTとそれに付随しておこる変形や障害などに対しての診察、治療、投薬などの医療が助成されます。

まとめ

CMTは遺伝性の末梢神経の病気です。難病ですが、初期の頃の症状があまり劇的でないため、本人も周りの人も気づないまま、病気が進行してしまう可能性があります。日本での有病率は欧米の1/4ですが、自分が病気だということを知らずに一生を終えている方も多いのかもしれません。

ご自身や周りの方にCMTの疑いがある場合は、ためらわずに医療機関を受診し、ご相談なさることをお勧めします。

  
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